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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと裏切りの十六番
141/154

第二話

 迷宮一階層になるのだろうか。

 視界が悪い。辺りは暗く一点の光もない。

「<(ライト)>」

 明かりを付けた途端、周囲に蔓延っていた人形が躍りかかる。軟体動物のように手足を動かし、手に持った鎌が鈍色に光った。

 銃声が響き、障壁に複数の攻撃が当たる。相手も銃を使っているのだ。

「先に言っておく。我々はゴーンに回収されたが最後、自由意志は消えるのだ。見失ったら敵と思え」

「それは当分先の話になるけどね」

 けれど暗がりは、吸血鬼の領分である。

 閃いた剣が人形の首を絶つと、灰が舞う。砂のように崩れ倒れた。消えるまでに見えたのは、彼女達と同じ刺し印の手袋。派手な黒装束だった。

 襲撃者を全て倒しきると、不気味な空間と静寂が残った。

「常世変わらぬと思っていた。我々は滅ぼせぬと。感謝する」

 残った手袋を拾ったビーは数を数える。十六枚の手袋は、彼らの存在していた証だった。懐に収めたビーが顔を上げるが涙の痕はなく、無表情のまま。

 出口を確かめたが、完全に塞がっていた。無理をすれば出られるだろうが、【遊び頃(タドミー)】に邪魔をされればことだ。

「最初に改造狼を出したってことは、あちらも総力戦のようだ。まぁ順当だ。目眩ましに使おうとした【遊び頃(タドミー)】はハーバルラ海底迷宮で滅び、アグノス迷宮は避けられ、仕掛けた罠のことごとくに引っかかったのは禁軍。ケヒヒッ! 他迷宮は公爵が潰しにかかっている。あのヤブが悔しがる姿が目に浮かぶようじゃぁないか」

「蛇目」

「はいはい。リーダーはどうするかね?」

「僕がやる。報酬は」

「貴公らの助力を得た」

 懐をなでる。仲間達の遺品をしまい込んだばかりの場所だ。

 シャリオスが頷くと、一行は静かに進み始めた。海底迷宮で作った『水中ゴーグル』は暗がりでもよく見えるので装着する。

「食事も休眠もいらないのです。楽しみがないのです……」

 蛇目の妹が言う。

 改めて見ると、迷宮内部は建物の中のようだった。廊下の床板がキシキシと音を立て、埃の匂いがする。暗かった入り口付近と違い、ポツポツと壁に置かれたランタンの明かりがある。

「いまさらですが大丈夫なのでしょうか」

「蛇目達はわからないけど、ビーは真面目そうだし一度助けてくれたから。それに冥き懇請の導きがあった」

 重々しく頷くシャリオスに続き、ミルもまた深く肯定を示した。


 かつてゴーンの使っていた研究所と似ていると呟いたのは蛇目の妹だった。

「ここは迷宮なのでしょうか」

 目の前に出された課題を見てミルは考え込む。明らかに様子が違う。罠はあるが人間が仕掛けたものによく似ている。地雷や閃光弾などまさにそうだ。出てくるモンスターはいない。【遊び頃(タドミー)】ばかりが出てくる。

 使い捨てのような彼らを切り捨てれば、先へ進むために開く扉には謎かけがある。なにかの解除キー、扉を開くための鍵などなど。それは部屋の中に隠してあったり、別の通路から侵入できる通路があった。西の狼達がいなければ困難を極めただろう探索は、順調すぎるほど進んでいく。

「ゴーンにとって、我々は敵ではない」

「攫って人形にしてるって言ってたけど、もしかして回収してるつもりなの?」

「ああ。故に、仲間達は自我を失うが滅びはしない。ゴーンはそれを、禊ぎと言った」

 虫唾が走る。と言外に告げたビーの顔は冷めていた。ただその瞳だけが静かな怒りを滲ませていた。

 床下に隠れていた【遊び頃(タドミー)】の額を貫いたシャリオスが足を止める。

「君達は前々から、この場所が【遊び頃(タドミー)】の隠れ家だと知っていたんじゃないのか」

「ああ。ここはもともと、ゴーンの研究所もかねていた。彼は腕のいい軍医だった」

 違和感を覚え立ち止まった。

 会話に覚えがあった。だが二人は初めて話しているとでも言うように続ける。

「軍医……君達は軍人だってってこと? どういうことだ。前にも連れて来た人はいたの?」

「ああ。皆、精霊の地へ旅立った。多くの犠牲が出た。とても多くの。だから我々は招待客を選別することにした。【遊び頃(タドミー)】を滅ぼすことのできる人物に限定して。ゴーンは戦争に勝つことを使命としている。救世主となるために、色々な研究をしているから……」

 いやに口数が多い。かわりに蛇目は一切口を開かないどころか、無言で周囲を見ている。

 なんとなく目をこらした。すると、目眩のようなものがする。思わず額を押さえると、足下に何かが落ちているのを見つけた。飴細工のように光沢のあるオレンジ色の石が表面についた鉱物だ。凝視するうちに違和感が酷くなり、ミルは光の角度がおかしいのだと気づく。

 あらゆるものの影が歪んでいる。本来はそうならないだろう方向に伸びている。

 さっと背筋を這う悪寒に答え得たのはビーだ――いや、彼女の形をとった別の誰か。

「……まいったな。同時並行はやはり精度が落ちる。君は運がいい。会話などするものじゃないが、一切無言というのも違和感があるだろう。ちょうどいい案配というのが難しいんだが」

 ビーが苦笑いした瞬間、ミルは周囲に障壁を張り巡らせた。シャリオスの持つ聖剣が叩きつけられる。

 瞬間、唱えた。

「<浄化(ソーンメス・ルクス)>」

 光に飲み込まれた景色が泡となって消える。


「戦闘中!」

 はっと目を覚ましたミルは一瞬で障壁を展開した。

 気づかない間に地面に横たわっていたようだ。頬の冷たさから察するに時間が経っていないようだが、入り口付近から動いていない。

 周囲では狼達が応戦し、聖剣をぬいたシャリオスが【遊び頃(タドミー)】を灰へ変えている。禁術を切っているのだ。しかし剣一本で殺しきるほど敵の数は甘くない。

「<移動補助魔法(ラピド)>、<攻撃力増加魔法(アタックアップ)>、<星のねむり(ハルト・アステール)>! 何があったのですか」

 スールも倒れ、サシュラが守っている。頬にいくつもの切り傷を作り、流れる血が顎を伝い襟首に染みていた。

「なんかの魔法だ! 入った瞬間眠っちまった。戦闘開始で三分も経ってねぇが、猊下が目覚めねぇ」

 夢の中身は恐ろしいほど精巧だった。現実と思うほどに。

「偽物の皆さんと迷宮を探索していたのです。魔法を使った本人がいて、浄化魔法をかけたら目が覚めました。こちらで発動しましたか?」

「ねえな。だが一回試してくれっ、とりゃ!」

「<浄化(ソーンメス・ルクス)>」

 スールに向かって浄化魔法を使うが、ぴくりとも動かない。夢の中で使った魔法は現実で発動しないなら、別の方法が必要なのかもしれない。

 【遊び頃(タドミー)】を蹴り飛ばしながらサシュラが舌打ちする。

「なんだってんだ」

「夢、惑わしの類いはナイトメアの領域だ」

 本物のビーが銃を撃ち、近づく人形を牽制しながら続ける。

「正体を見破れば脆い」

「だから抜け出せたのですね」

 逆に言えば、看破しない限りスールは目覚めない。

 ナイトメアは悪夢を見せる魔物の名称だが、おそらく同じ魔法を使う人形だ。夢で出会った人形とは会話ができた。

 眠っているのはスールだけだが、回復役が倒れてしまっている。ミルはポーションを投げながら、暗い周囲を窺った。バッグから『水中ゴーグル』を取り出して付けると、よく見える。

「サシュラさん、魔導具を付けてください。それまで私が応戦します!」

「頼むわ」

 マジックバッグから取り出した剣を障壁で動かしながら牽制する。浄化魔法をかければ、明らかに動きが鈍くなった。【遊び頃(タドミー)】の数は六十体ほどだろうか。町娘から兵士まで様々にいるが意思を感じられない。

「【遊び頃(タドミー)】にも色々あるのさ。長生きするほど人格が削れて、または制作時に消し飛ぶ。他の連中の駒になるのがお似合いな連中さ」

 言いながら、蛇目も引き金を引く。手の平サイズの小銃だ。接近してきた人形には、片手斧で応戦している。よく見るとクルーセ迷宮の最下層で見つけた斧の魔剣だった。無言で半目になっている。不服そうであった。

「君さ、魔剣なんだから凄いパワーとかないの。【遊び頃(タドミー)】一匹滅ぼせない魔剣とか意味ないんじゃないか」

「不服なら返せ。魔剣くんは僕のお願いを聞いてくれてるんだ」

 顔を引きつらせたシャリオスが影に潜った。一瞬で三体の【遊び頃(タドミー)】を灰へと還す。警戒しているのか、人形達はシャリオスの攻撃だけは避けている。

「じゃぁ交代しておくれよ。その聖剣と魔剣くんをさ。それがあれば僕ぁ救世主になれそうだ」

 早々に秘密がバレている。

「無理! ……思えば二本とも僕が持ち主を決める方向になってる」

 衝撃の事実に気づいてしまったシャリオスは一瞬呆け、魔剣がちょっぴり悲しそうだったのを見逃してしまった。

「なんか増えてんぞ!」

 入り口の奥には通路があり、そこからゴミでも投げ入れるかのように人形達が現れる。倒すよりも多く、そして引き返す入り口は閉じていた。

 視界を確保したサシュラと再び交代し、ミルは浄化魔法を連発する。

(浄化……だめ、一度にたくさん倒せなければ意味がないわ)

 ふ、と息を吐く。肺の中で熱くなった空気が冷たいものと入れ替わる。同時に頭が冷え、視界が鮮明に見えた。意思のない人形達が作業のように侵入者へ襲いかかるのが、いやにゆっくり見える。

「シャリオスさん、聖剣を私に!」

「――いくぞ!」

 飛んできた聖剣を障壁で握ったミルは、奥歯を噛みしめながら杖を振る。剣の姿が消え、かと思えば一番手前の人形の額を貫いていた。再び消え、次に現れたのは二体の首を飛ばした後。

 人形は視界を使って移動している。

 ならば急所を切り離すことに専念しよう。

 縦横無尽に回転する聖剣が人形へ襲いかかり灰が吹き上がる。剣技もなにもない、ただ飛来するだけの攻撃だが、それでも聖剣の能力は絶対だ。なすすべ無く倒れ、灰の山が積み上がっていく。応戦しようとした個体は胴体が泣き別れた。

「これで終わりです!」

 最後の一体を灰燼へ変えるころ、汗だくになったミルは杖に縋り付きながら、ずるずると尻もちをつく。魔力を使いすぎて貧血に似た症状を起こしていた。すぐにポーションを飲むと、頭の奥のじんとした痛みを残し、緩やかに回復していく。

「助かったよ。でも大丈夫?」

「平気です。聖剣をお返ししますね」

「ん。……完全に閉じ込められたみたいだ」

 周囲は相変わらず真っ暗だ。出入り口も塞がったまま、これからどうするか悩む。

「猊下はまだ目が覚めねえな」

 頬を引っ張っていたサシュラが首を振る。スールを背負ったところで、奥からビーが戻ってきた。

「謎解きだ」

 首をかしげた面々に続ける。

「扉があったが解除コードが必要だ。三千年前の古代文字、解読できなければ朽ちるしかあるまい」

「一番得意そうなエルフが起きねえ」

「とりあえず見てみよう。見張りよろしく」

 スールは夢を見ているが、それを破らなければ目覚めることはできない。誘った【遊び頃(タドミー)】は複数だと制度が落ちると言っていた。より厳しい条件下にある。綻びに期待するのは無理そうだ。

 大本の【遊び頃(タドミー)】を探すしかない。

「そういえば、ミルちゃんはどんな夢を見ていたの?」

「この先へ進む夢です。そこと同じように謎かけがたくさんありました」

「ふぅむ? なんだったか言うのです!」

 蛇目の妹がビシッと人差し指を突き出し、ビーに後頭部を叩かれ痛がった。

「タランチュラは何種類以上いるかというやつでした。タランチュラがなにかわからないですけれど、八百匹がどうとかおっしゃってました」

「開いたです!」

 一瞬沈黙した一行は、目を輝かせる蛇目の妹からミルへ視線を移す。

「ナイトメアは馬鹿なのかな。それとも招き入れようとしてるのかな」

「……偶然かもしれません」

「試してみようじゃないか。――おっと、一日経ったようだ」

 にたにた笑う蛇目が、瞬きの間に姿を変えた。すらりとした長身の男性で、髪や目の色はそのままだ。目尻に深い皺があった。

 偶然かも知れないが空いたのは事実。もとより先に進むしかないのだから偶然に感謝しよう。

 ミルは目配せをし、覚えている限りを伝えた。できれば進んでいる途中でスールが目覚めますようにと願いながら。

 軋む床板を踏みながら奥へ向かうと、モンスターは一匹も出てこなかった。かわりに人形達が不意打ちするように襲いかかってくる。どれも自我が希薄で、会話もできない有様だ。

「高機能な人形が一体もいない。おやおや罠のつも――」

 不意に言葉を止めた蛇目が止まった。見ている先は何の変哲もない壁。それを背筋が寒くなるような集中力で眺めている。

 話しかけたら皮膚が切れるような緊張に冷や汗を流すと、彼は周囲を見回し手を打った。

「魔力の濁り、怪しい人攫いの匂い。揺らぐ世界は不正解。素晴らしい(エシャンティック)! 我らみな夢の中!! 寝汚いのは神官ではなく、我々と言うことだ。二重の夢に惑わされていた!」

 再び世界が暗転し、ミルは夢の中で目を覚ます。


 目が覚めて起きたと思ったらまだ夢の中だった――のだろう。

 ミルは迷宮の入り口に再び倒れていた。

 なんて罠だろう。眠っている間の自分の体が心配だ。

「聖下」

 差し伸べられた手の先をはっと見るとスールだった。足下に影があり、本物そっくりに見える。

「ここは夢の中でしょうか。精巧にできておりますが」

 助け起こされる。

 ゆっくり周囲を見回すスールに、これまであったことを伝えると顎に手を当てて考える。

「わたくしの装備は特別製。とくに精神支配系統の魔法防御力が高いので、皆様が眠っても起きておりました。目も人よりよく見えるようになっておりますゆえ、ここが【遊び頃(タドミー)】の支配下であることがわかります。……しかし、次に起きたのが蛇目でしたら、不味いことになりました」

「不味いことですか?」

「敵はスリープと名乗りました。他者を夢へ誘い無力化する攻撃を使います。ナイトメアと同じように見破れば起きることができますが、それは仲間内の一人だけ。【遊び頃(タドミー)】特有の体は魔法攻撃を全ていなし、物理も効きません。唯一光系統の魔法に効果があるのです。わたくしは星魔法が使えますが、彼に素養があるように見えませんでしたので」

「でしたら早く目覚めないと……でも、私達はもう夢だとわかっているのに、どうして起きられないのでしょうか」

 一刻も早く起きなければ。

 はやるミルを抑えるように肩を掴んだスールは首を振る。理由が判らないのだ。

「空間の揺らぎは常に見えております。なにか仕掛けがあるのでしょう」

「仕掛けですか……」

 通路の仕掛け。蛇目が壁の一点を見つめて告げた言葉。

「二重の夢……そうです! 私は一度夢と見破ったあと、皆さんのいる夢へ合流していました。そのときも同じように倒れていました。もしかしたら自分でもわからないくらい速く、現実と夢を行き来しているのかもしれません」

 あの冷たい床の感触が本物だとしたら。

 ならば使える方法がある。

「私が呪文を唱えたら、シャリオスさんに回復魔法をかけてください」

「うけたまわりました」

「行きます――<浄化(ソーンメス・ルクス)>!」

 閃光が正しく現実に現象を及ぼし、一行は目を開けた。

 入り口前、倒れている。

 素早く起きて『水中ゴーグル』を付けたミルは早口で唱える。

「<浄化(ソーンメス・ルクス)>」

 悲鳴が聞こえた。

 奥では黒い液体になりかけの【遊び頃(タドミー)】が蠢いている。

 浄化魔法で焦げたシャリオスが「痛いっ! なにこれ凄く痛いっ」と呻く。回復魔法で傷は塞がるが、しゅうしゅうと肌が焼けた匂いが残った。

 三度目の正直だ。

「敵は前方、聖剣で貫いてください!」

 見れば半分灰になった人形が転がって藻掻いている。スールがやったのだろう。

 シャリオスは腰に吊していた魔剣が消えていることに気づく。見れば蛇目の手の中で青白く発光していた。不服だが緊急時なので手を貸してやろう、とでも言うように刀身の目玉が半目になっている。

 現実の境が曖昧になるほど、よくできた夢だったというわけだ。

「やぁ、遅いお目覚めだ。君のマジックバッグ開けられるようにできないかい? 僕ぁそいつがなくて困ったことになったのさ」

「申し訳ないけど自分じゃどうにもできない。できるのは錬金術師だけだ」

 そう言うと蛇目は残念そうな顔をする。

 聖剣を握ったシャリオスは半死状態の人形を近くから狩っていく。

 灰の山と変わる人形達を見て、舌打ちしたのはスリープだ。藍色の髪で左目が隠れ、青白い顔は焦りで歪んでいる。パジャマにガウン姿の三十代頃の男性だ。

「テメェっ! 黙ってねんねしてればいい夢みせてやったのにヨォ! 人の夢見を邪魔する奴は悪夢に飲まれて死んじまええええええ!!」

 黒い気泡を吐き出しながら獣のように背中を丸めると飛びかかってくる。くらりと目眩がし、浄化魔法を唱え続ける。スリープは度重なる攻撃で深手を負っていた。ススルより魔力量が低く、素体が特別製でも光魔法にも、聖剣にも敵わない。剣先がかすった場所から徐々に灰へと変わり、恐怖に絶叫した。

「いやだいやだいやだいやだいやだ! 行きたくない、助けて、だれかたすけて! 第三章に行きたくないんだよぉおおおおお!」

 泣きじゃくる子供のようにわめきながら、そうして灰となって消えた。

「第三章か」

 灰の山を見つめるのをやめたビーが奥へ足を向ける。

「滅ぼそう」

「の前に、その聖剣の欠片でもあれば、僕らでも【遊び頃(タドミー)】を滅ぼせそうだ。そうだろう?」

 にじり寄る蛇目を睨み、シャリオスは「できない」という。

「僕も色々試したけど折れなかった……」

「折ろうとしたのですか!?」

 驚愕に目を丸くするミルに何を勘違いしたのか「不甲斐なくてごめん」と悔しそうにしている。そういうことではないのだが、思い切りのよさに言葉を失ってしまう。

「たくさんあれば楽になると思ったけど無理っぽくて」

「もとより精霊が錬成した剣。只人が壊せるわけもありません。無駄なことはやめ、堅実に進んでいただきたいと存じます」

 呆れたスールが言う。普通は聖剣を割ろうなどとしないので呆れられてもしかたない。

「星魔法を使える人も他にいないし、ミルちゃんとスールでダメージを負わせて、僕が禁術を切る。後の人は牽制でよろしく。仲良くいこう」

 仲良く、に力を込めていう。こんなところで仲間割れはごめんだ。

 肩を竦めた蛇目はビーの後に続く。

 夢で見た通りの謎かけがあったが、古代文字ではなかった。眺めたスールが石版を押し、【遊び頃(タドミー)】の残骸を漁って正方形の板をとりだした。

「これが解除キーでしょう」

 壁の隙間に潜り込ませると、音もなく扉がスライドし道が開く。

 ここまで苦労して、未だ入り口。始まったばかりだ。

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