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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと想望の勇者
132/154

第九話

 頭が痛い。

 額に浮いた汗を拭われる感触に瞼を開ける。

「気がつきましたか。なにか口にしましょう」

 スプーンを差し出される。スープだ。嚥下すると、カラカラになっていた喉の痛みが薄れる。

「あれから、どれくらい経ちましたか」

「丸一日君は眠っていた。扉は開けてない。食料は奥のものを拝借したが、よかったでしょうか」

「樽は、毒抜き中なので開けないでください」

「わかった、触らないようにする」

 共同の保管庫にある食料だ。ミルのバッグは本人しか開けられないので、触れなかったのだろう。

「イデアさんは、どちらに」

「ミノタウロスの血を飲めないかやっている。水が殆どなくて……。荷物持ち(ポーター)に全て持たせていて――待って、まだ起きないほうがいい」

 寝かされていたのはシャリオスがいつも使っているベッドだった。

 起き上がったミルは、枕元にある自分のバッグを開くと『水差し魔導具(ジャグ)』を取り出す。

「水はこちらを使ってください。一度なら洗濯してかまいません」

「いいのか?」

「はい。なので血を飲むのはやめてください。それから、私は数日の間、何もすることができません。トリシャさんは私をおぶって、仲間達のところまで運んでください」

 『魔法の部屋(マギア・オーダ)』にかけた魔法が解けている。今は積み重なったミノタウロスの死体が隠してくれているが、急がなければ。

 手を伸ばし、トリシャの目元をなぞると、彼女はくすぐったそうな顔をした。痛々しく腫れているが、目の濁りは薄れていた。

「休んだほうがよくないか」

「私の仲間が一緒に落ちてきたので、探さないといけません。急がないと」

 今ならモンスターは減っている。再配置される前に上層へ行きたい。次の階層も同じ動きをするなら『魔法の部屋(マギア・オーダ)』を使えば安全に間引くことができる。

「落とし穴、槍の類いを使った罠はあるが、イデア様がいれば大丈夫。任せてくれ。地上へ向かおう」

 しっかりした声に目を瞑ると、もう起きていられなかった。


 イデアは歩く。深手にもかかわらず生き残ったことに疑問を抱きながら。

 トリシャはミルを背負っているため戦闘ができない。モンスターとの戦闘が少ないので何とかなっているが、危うい場面は多々あった。

「いたか」

「わかりません。少なくとも、見える範囲に気配がありません」

 彼女の仲間はどこにいるのだろうか。再配置の際に一人だったなら生存は絶望的だ。

 二人は物資も武器も失っており、この小さな魔法使いに会わなければ確実に死んでいた。『魔法の部屋(マギア・オーダ)』という魔導具も今は使えているが、彼女が死ねばどうなるかわからない。

 ミルは高熱と魔力不足で昏睡状態。一度起きてそれきりだ。ぐったりとしている顔は赤く、息が浅い。快癒する気配がなく不安が募った。

 重傷を負った途端パーティは瓦解した。イデアを置き去りに逃げ出した彼らがどうなったのかわからない。故郷から連れ立ってきた者達に裏切られたと思うと頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。

「そろそろ一日経つ。休憩しよう」

 痛む胸に気づかないふりをして提案する。心配そうな表情のトリシャから目をそらす。

 故郷を出てからずっと、人々のためにと思って歩いてきた。今の自分はどうだ。けっきょく何もできないまま、ボロボロの姿で迷宮を彷徨っている。


 薄いスープを口に入れられ、ミルは瞼を開けた。

「起きられるか? あれから二日経っている。三階層あがって、今は六十五階層。少し変な状況になってるんだ」

 引かない熱と倦怠感に顔を顰める。蘇生魔法の後遺症が残っていた。

(六十五階層……ウズル迷宮を超えているわ)

 暗がりの城(ドンクル)のような階層主(アートレータ)がいなくてよかった。

「イデアさんのお顔を拝見したいです」

「呼んでこよう」

 直ぐにやってきた彼は、やつれているが元気そうだった。

 蘇生魔法が成功した対象者と会うのは初めてなので、ミルは色々と聞いた。一度目は失敗し、二度目は追われる立場になったので、機会がなかったのだ。

 大量の血を失っていたが、魔力や体力、体の後遺症もない。

(よかったわ。魔法は成功している)

「もうけっこうです」

「君は平気なのか。ずいぶん弱っているが」

「一週間ほどしたらよくなります。それより、変な状況になってると聞きましたが、どうなさいましたか」

「それなんだが――」

 ミルと合流してから一日が経つと、奇妙な灰色狐(グリズリ)が周囲をうろつくようになったという。最初は唸っていたが攻撃してこず、縄張りから追い立てようとしていると思い、警戒しつつ様子見をしている。すばしっこく手が出せないそうだ。

「なんというか、こちらが残ったモンスターと鉢合わせると、それとなく手助けしてくるんだ。心当たりはあるか」

「外へ出してください!」

 ベッドから転がり落ちると、慌てたイデアが手を伸ばす。『魔法の部屋(マギア・オーダ)』から出ると、懐かしい声がした。

「キュー! キュアキュ、キュ!」

「アルブム、あるぶむっ」

 千切れんばかりに尻尾を振りながら近づいてくる。鳩尾に体当たりされる。うっと息をつめて転がると、止めを刺すかのように顔面を舐められた。息ができない。

「キュアアア! キュルクルクルクー!」

「うぷっ、すみません」

 大興奮で、なんですぐ来なかったのと言う感じに攻めたアルブムは、顔面を擦りつけてくる。ミノタウロスを食べていたのか、口の回りに肉片がついていた。

 どうもミルが置いたポーションに気付いて匂いを追ってきたという。途中でミノタウロスが再配置されたが、一列なのでブレスで凍り付けにし、踏み砕いたらしい。

「キュ?」

「上でも会いましたよね。イデアさんとトリシャさんです。――お二人とも、この子が私が探していた仲間で、使い魔のアルブムです。探しに来てくれたみたいです」

「そうだったのか」

「……キュ?」

 そう言えばお前はこの間あったやつ……かもしれない、と自信なさそうな様子で前足を上げる。挨拶するの姿は大変お利口さんだった。

「見つかりましたので、大休止を取りましょう」

「他の者はいいのか」

「はぐれたのは私達だけなので。水の心配がなくなったので、お風呂に入ってください。アルブム、用意をお願いします。石鹸と『温水石(カーダ)』とブラシと桶とタオルです」

 他に欲しいものがあったらアルブムがミルの荷物を漁るだろう。体の限界を感じたミルは、ふらふらと自分のベッドへ潜り込む。イデアとトリシャは入ってこられないが、アルブムがいるのでもう大丈夫だ。


 本格的に上層へ向かい始めたのは更に翌朝だった。全快とは言いがたいミルはアルブムの背中に乗って移動。手の空いたトリシャはイデアと共に前を歩く。

 装備品はミルの持っていたもので賄った。ハーバルラ海底迷宮で持って帰った海兵のもので、元出がかかっていないのもある。低品質だが無いよりマシだ。

 イデアは盾と剣を使う魔法剣士で、シャリオスとは違った戦い方をする。剣に魔法を纏わせるのだが武器類が耐えきれない。

「イデアさん、魔法の使い方を変えていただけませんか。これでは武器類が足りなくなってしまいます」

「迅速に進まなければ囲まれてしまうぞ」

「大きな音を立てるから集まってくるのです。戦闘途中に剣が壊れたら、それこそ命に関わります。本当に挽回できなくなってしまいますよ。もう少し経てば魔法が使えるようになりますから、進行速度を遅らせてください」

「俺は勇者だ。故郷の名を背負ってここに来てる。もっと人々が希望を持つような、そんなことをしてからじゃないと、絶対に死ねないんだ」

 食料の問題も低いし他の遭難者もいないなら、無理を通す必要はない。

 イデアは早く脱出したいのだろう。

 気分を害したように唇を歪める彼に、ミルは嫌な気持ちを隠せなかった。彼らのパーティが壊滅した原因の根本を見た気がしたのだ。仲間から見捨てられ動揺しているのだろうが、気持ちを引きずったあげく巻き込まれてはたまらない。

「迷宮では焦った人から死んでいきます。仲間を巻き込んで、全滅して……それを望むなら、共に行くことはできません」

 率いるパーティが瓦解したイデアにとって痛烈な言葉だった。

 この場が迷宮ではなかったら、仲間達がいたら、この言葉をミルは言わなかったろう。もしくはシャリオスが代わりに告げたかもしれない。

 プライドを刺激された彼はどう出るだろうか。

 魔法契約があるので襲うことはできないが、手をぬくことはできる。

 アルブムと合流して、ミルには選択肢ができた。上層を目指すために必要な攻撃力を得た。物資も安全な空間も確保できる。シャリオス達を待ってもいい。自分を探しに来るという確信があった。

 ひりつく空気にアルブムが耳を立てた。

 先に折れたのはイデアだった。

「わかった、方法を考える。すぐには無理だが……」

「小休止を取りましょう。いい案がないか私も考えてみます」

 奥歯を噛みながらイデアが小さく頷いた。


 『魔法の部屋(マギア・オーダ)』に入ったミル達は、洗濯物を眺めながら座り込んだ。日差しがぽかぽかと暖かい。

 隣には膝を抱えたイデアがいて、おどおどしているトリシャが、所在なさげに立っている。

「イデアさんの国では、武器に纏わせる方法は一般的なのでしょうか」

「俺達は魔剣を手にするほど財力がないから、そのように使えと指導された。一時的に魔剣レベルの攻撃力を持てるからと。ここでは違うのか」

 思わず今まで壊しただろう剣の総額を思い浮かべ、視線をあらぬ方向にそらす。

「申し上げにくいのですが、普通ではありません」

「なぜだ?」

「本物はもっと凄かったです……」

 魔剣ゼグラムは神速の技を変幻自在に繰り出す。気付けば鳥が啄むようにモンスターを絶命させていた。魔法を纏わせただけで、ゼグラムにとどくわけがない。

 迷宮に疎いのかもしれない。

 いくつ攻略したのか聞けば、今回が二度目の迷宮探索だったようだ。クビになった三人を含めると、人に恵まれなかったのだろう。他の経験豊富な冒険者は他の勇者に付いていったという。

 ミノタウロスの売値は安い。武器を使い捨てにするような相手ではないのだ。シャリオスでさえ魔剣を買わず、持ち前の剣技で対応している。本国から支援がなければイデアも現実を知っただろうか。

「俺は金銭関係のことが苦手なんだ」

「難しいですよね。私もこの間、別の迷宮に潜ったとき赤字が出て怖かったです」

 シャリオスもごめんねと謝っていた。

 最後は黒字になったが、迷宮は命をかけた博打なのだ。

「君はたくさんの迷宮を攻略しているのか?」

「ここで五つ目になります」

「そうか……。経験豊富な者がいうなら間違いないのだろう。俺の戦い方は一般的ではないんだな。この国ではどう戦う」

「普通はあつらえた武器防具は使えるだけ使います。イデアさんは魔法を使えますから、トリシャさんと連携すれば速くたおせるのではないですか?」

「一本道だぞ。速くしなければ次が来る」

「ミノタウロスは大きいので、足の間から後ろに回り込んで挟み撃ちにするのはどうでしょうか。もしくはイデアさんが下がって魔法で攻撃するとか、いろいろあると思います。トリシャさんは何の魔法が使えますか?」

「わ、私か? 水と風だが、魔法は上手くないんだ。魔力が少ないから数も撃てない。そっちこそどうなんだ」

「光属性、無属性、時空魔法です」

「光属性を持っていたのか」

 目を見張るイデアだが、トリシャは「攻撃魔法はからきしか」と呟く。

「時空魔法の<空間収納(バッグ)>は空間切断ができるので、ミノタウロスの首なら落とせます。無属性魔法の<障壁(ウォール)>なら足を引っかけて転ばせたり、叩いたりですね。この階層で一番役立つのは<沈黙魔法(サイレンス)>でしょうか。吠えなければ他のモンスターは来ませんし、時間がかかっても安全に倒せると思います」

「後続の心配が無くなるのはいいな!」

 ただし体調が治ってからだ。今魔法を使っても精度が悪い。

「イデアさんは八属性も使えるのですから、攻撃力ではなく、そういった方面の魔法を使うのも一つの手だと思います」

「この国では、みな君のように戦うのか?」

「他の方と組んだ事があまりないので、詳しくはわかりません。<障壁(ウォール)>は適性がないと動かせないようでした」

「なるほど、魔法が進んでいるんだな」

「待ってください! 勇者がそんなしみったれた戦いかたをしてはなりません」

 堅実に進めそうだと考えていたミルは唖然とした。

 イデアも驚いてトリシャを見た。

「ここは迷宮です。敵だらけの場所で見栄えを気にするなんて、仲間を殺したいのですか」

「そんなわけがあるか! イデア様は勇者なんだ、国の名を背負っている。普通の冒険者とはわけが――」

「よせ!」

 胸ぐらを掴もうとしたトリシャを抑えたのはイデアだ。

「なぜ邪魔をするのですか、イデア様! 舐められてしまいます」

「彼女が正しい。それに腹が立ったから掴みかかるとは、恥を知れ!」

 怯んだトリシャは、それでも納得いかない顔をしていた。

 反省しない様子にミルは目眩がした。

 イデアは死んだのだ。偶然ミルと出会わなければ二人とも。なのにトリシャは現実をわかっていない。

 イデアが死ぬ前からおかしかったのだと悟った。

「どの冒険者も命をかけて迷宮に挑みます。自分より弱いモンスターに殺される不運な方もいらっしゃいます。あなたは遊びに来たのですか」

「なんだと!」

「では制限をかけて戦えるほどイデアさんは強いのですか。それともトリシャさんは、どんなモンスターが来ても手を抜いて戦えるほど強いのですか。レベルはいくつです、二百超えですか。それとも三百? 四百ですか!」

 トリシャが歯がみする様子を見れば、百も超えていないことは明白だ。もしかしたら六十以下かもしれない。

「二百越えの冒険者でも、迷宮の罠にはまって十年間脱出できない例もありました。迷宮とはそういう場所です」

 これ以上言うべき言葉ではないものが、喉からせりあがってくる。懸命に飲み込んでいるのに、トリシャは睨むのをやめない。反省していないのだ。

「あなたや私のようなちっぽけな存在が、あなどって生き残れるほど優しい場所じゃありません。壊滅したのを忘れたのですか!」

「待ってくれ、トリシャが働いた無礼は謝る。これ以上は――」

「あなたは酷い怪我をしていました。他の人達が死んだと思って見捨てるのが、当然なほどの怪我です! 私は必ず戻ると約束をしました。自殺志願者に付き合うつもりはありません」

 二度杖を地面に打ち付け、苛立ち混じりのため息を吐く。

「今から私がリーダをやります。絶対に指示を守ってください。無理なら私達の冒険はこれまでです。一緒に地上へ行くことはできません」

「道はどうする。君は知らないでしょう」

「トリシャ、いい加減にしてくれ!」

「アルブムが匂いを追えます」

 敵愾心から反発する彼女に、イデアは頭を抱える。

「トリシャ、俺達は彼女とはぐれたら死ぬ。物資も何も足りないからな」

 口を開こうとしたトリシャに、イデアは手の平を見せる。

「頼むから現実を見てくれ! 俺はミノタウロスに敗れた、負けたんだ!」

 直情的なトリシャは、裏表がなく接しやすいとイデアは思っていた。だがここまで感情の制御ができないと思っていなかった。

 次に何を言うか、彼は勘付いていた。ミルの荷物を奪えと言うつもりだ。一度でも口に出したらどうなるか考えもせずに。

「私はイデア様を背負って歩きました、何日も。なのに彼女を優先するのですか」

「子供じみたことは止めてくれ!」

 頭を掻きむしりながら怒った彼は、疲れたようにしゃがみ、トリシャを眺めた。

「何が気にいらない、何を考えている! 助けてくれたことには礼を言うが、彼女は俺達の恩人だ。傲慢な振る舞いは許さないぞ」

「礼は返したではありませんか! 看病をし、背負って仲間の元へ連れて行きました。傲慢だなんて酷い。物資のことだって、我々は同じ場所を行くのですから持ち寄って当然ではありませんか」

 魔法の反動によって崩した体調だが、何も知らなければこう取られるのだと理解した。言い争う二人に頭を痛めながら嘆息する。地面を二度杖で叩くと、両者とも怒った様子で振り返った。

「おっしゃっていることは判りました。では一つずつ上げましょう」

 怪訝そうな二人に向かって人差し指を出す。

「百歩譲って礼を返され、平等な立場になったとします。ではお二人に貸し出している武器や防具類、食事、寝床といったものはどうお考えですか」

「労働で返しているじゃないか。君は後ろから付いてきてるだけだろう」

「では、私も戦闘に参加します。そろそろ魔力も戻りますから問題ありません。これで天秤が傾きましたね」

 何か言おうとしたイデアを目で制す。彼は腕を組んで沈黙する。

「今まで働いたぶんがあるでしょう」

「おかしなことを言わないでください。あなたが言ったのではないですか。労働で返したと。相殺されたのですよね。これからは私も働くのですから、私の負担が多くなります」

「同じく遭難しているんだぞ、それをごちゃごちゃと――」

「ごちゃごちゃ言っているのはあなたです! 労働だの何だの言いますが、戦っているのはイデアさんではないですか。これ以上我が儘を言うなら、転がしますよ!」

「なんだと、できるものならやってみべっ!」

 剣を抜くよりも早く障壁をずらして顔面に叩きつける。吹き飛んだトリシャを拘束し、ロープでぐるぐるまきにしていく。

 ミルはかんかんに怒っていた。

 トリシャは取り返しのつかない亀裂ができたことに気付いていない。地上へ戻ったらトリシャともイデアはパーティを解消するだろう。本人が言わないのは、迷宮内で揉め事を避けるためだ。

「もう一度聞きます。私がリーダーで異論ある人は!」

「むー!」

「ない。進めてくれ」

「二対一なので、今後の攻略方針を決めましょう。イデアさんは魔法の使い方を変更してください。モンスターが集まらないよう、私が沈黙魔法をかけます」

「できれば俺も覚えたい。あいつらは突進するだけだから当てる自信がある。別の援護してくれないか」

「沈黙魔法でも、頭と足にかけるのと、全体では消費魔力が違います。イデアさんは攻撃魔法が使えるので今回は諦めてください。援護はアルブムができます」

「キュキュ」

 ようやく出番だな、とトリシャを端に転がしていたアルブムが戻ってくる。

「アルブムは氷系統の魔法を使います。それでもというなら、もっとレベルの低いモンスターが出る迷宮で改めて練習してください。今は遭難中で命がかかっています」

「あいわかった。詮無いことをいった」

「扱える魔法の種類はこちらになります。解毒系は使えますが、回復は全てポーション頼りになるので、そのつもりでお願いします」

「君は聖属性は扱えないのか?」

 ならばどうやって自分の傷を治したのか、という言葉をイデアは飲み込む。

「いや、いい。とにかく脱出が最優先だ。不測の事態が起こったときの想定もしたいんだが、大量にモンスターが集まった場合はどうする」

「ミノタウロスなら<空間収納(バッグ)>で首を切ることができます。ですので挟み撃ちにされた場合は、私が障壁で通路の片側を塞ぎ、もう片方を殲滅する方法で対処したいと思います」

「わかった。前後どちらか塞ぐときは合図を頼む。君のほうが迷宮での経験が豊富だ。いい手があるならそうしてくれ」

 イデアまでトリシャのようだったら、ミルは二人を置いて行った。道連れになって死ぬのはごめんだ。シャリオスに斬りかかったりとイデアにも懸念点があるが、迷宮内に持ち込むほど常識知らずではなさそうだ。

 オールドローズ国とヨズルカ王国では魔法の使い方が違う。これはヨズルカ王国に迷宮がたくさんあるのも関係している。イデアは魔法の呪文をあまり知らなかったので、手持ちの本を貸し出した。

 話し合ったおかげで攻略は順調に進み始めた。

 速くシャリオス達に会いたい。

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