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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと赤服の生徒

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第一話

「ていう結果にですね! なったのですが、シャリオスさんどう思います!?」

「わかる、わかるよ! 良い雰囲気になったと思ったら肩すかし食らうの辛いよね? 期待させて落とすのかよっていうねっ」

「わかりますか~!」

 揃って突っ伏して泣いているのは、冒険者になってそろそろ殻が取れそうな新米冒険者ミル・サンレガシ。反対側に突っ伏して泣いているのは、一級冒険者で妖しげな美貌の持ち主、吸血鬼のシャリオス・アウリール。よく食べるので、彼の横には本日のメニューであるオムライス特盛り皿が八枚積み上がっていた。これからも増える予定である。

「レベル三十になったのに、どこのパーティもふふーん? て感じですし!」

「つらい」

「三十ってけっこう頑張ってると思いませんか!?」

「つらすぎる」

「ソロで二十三階層まで行けるって言ってもアルブムがいるからでしょ? 使い魔が優秀なんでしょ? って感じなんです! アルブムは凄いですけれども!」

「キューキュッキュッキュ」

 アルブムは尻尾を振って、くねくねした。喜んでいる。このぉ、と膝に乗せたミルは、ふわふわな毛並みを撫でさすった。

「そういえば、シャリオスさんは最近どうなんですか?」

「僕は……臨時パーティすら断られ始めたんだ」

「こっちは臨時にもかすりもしないのですが。あっても緊急とか切羽詰まって誰でも良い時じゃないとかすらないのですが。ちょっとそこ座り直してもらってもいいでしょうか」

 しかしシャリオスは聞いていなかった。

「なんだか皆、喧嘩始めちゃうし、その後解散するパーティは出るし、つきまとわれたかと思ったら逃げてくし! 意味がわからないよぉ。なんでつきまとってたのに、じゃあパーティ組んでって言うと逃げるの? なんで逃げるの? 一緒に潜ってくれてもいいと思わない?」

「あ……。それはそれは……それはそれは」

「なんか納得してる? ねえねえミルちゃん」

 顔を上げたシャリオス。ミルは目を泳がせた。どう考えても顔面偏差値の問題だろう。迷宮内でぽーっとなったら命が危ない。なのでミルも「パーティ組んで下さい!」といい辛い。レベル差が凄いのもあるが。

 シャリオスはなんとなく悟っているのか、ちらちら見てきても魔導具の話はするがパーティの話にならない。

「やっぱり吸血鬼だから駄目なのかな……」

「そこじゃないと思いますよ」

 しょぼんとしてしまったシャリオスは、空になった皿をスプーンでつついた。

 最近、週に一回は一緒に食事を取りながら、愚痴大会が開かれる。殆ど客のいない宿は意外と賑やかだ。

「やっぱりソロで四十階層突破するって言うのが駄目なのかなぁ」

「え、凄い! とうとう三十九階層突破したのですか!」

「うん。……ますます遠巻き感がする」

「あーえっと。ははっ! おかわりください!」

 どん、とテーブルに置かれたオムライス。ミルは、そっとシャリオスの方へ押し出した。礼を言って口に詰め込み始めるシャリオス。食べ方は綺麗だが、一口が大きい。

「ミルちゃん、ぜんぜん体重増えないよね」

「私の浮き方で重量を測るの、止めましょう?」

「身長も伸びないよね。やっぱりパーティ組まないとまずいよ」

「足の長さも思い出さないでください!」

 ブーツの履き口を二回も折りたたまれるという残酷な仕打ちを受けたミルは、やけくそのように牛乳を飲み干した。

「にしても――」

「もう思い出してはいけません!」

「いや、凄く運がないなと思って。ドロップアイテム出ないよね? 半年も潜ってれば百個や二百個、普通に出てくるのにね」

「そうなんですよね。なんで一つも出てこないんでしょうか? 呪われてるかもしれません」

 今度はミルが落ち込んでしまう。

 苦笑いしたシャリオスは、デミグラスソースでベタベタになった口元を拭く。

「真面目な話、調べた方が良いと思う。噂も下火にならないなんておかしいし、猫人族の女性も見つかってないでしょう?」

「はい……」

 ユグド領に来て早々、見知らぬ冒険者に絡まれたミルは、悪い噂をばらまかれている。根も葉もない噂だが、どうしてか納まらない。

「阿婆擦れに見えます?」

「全然見えない。とにかくギルドに相談した方がいいよ」

 女の子なんだしと言われ、明日相談してみることにした。



「というわけでして」

 ミルはいつもの担当ギルド員のスプラに事のあらましを話す。彼女は和やかな表情を曇らせながら、胸にとめておくと言う。

「通報されているので見つからないとなると、ギルドで出来ることは限られます。パーティご紹介時に、相手方へ事情を話してみますね」

「よろしくお願いします」

 いえいえこちらこそ、とお互い頭を下げあったあと、スプラがクエストファイルを開いた。

「それで、本日のご依頼はいかがされますか? 採集物が溜まっているので、ご予定がないようでしたら、お願いしたいのですが」

 困ったような顔をしたスプラは、三枚の用紙を差し出した。

「どれも期限が明後日となっておりまして」

「ヨモギリ草十束に、ピロロキリンの毛、イトカシの糸が三つ……」

「どれも十二階層で採取できますので、是非ともお願いします」

「前二つはいいんですけど、イトカシの糸は無理です」

「そ、そこを何とかなりませんでしょうか?」

「出れば持ってきますが……私、ドロップアイテム出ないタイプなので」

「え」

「出ないんです」

 闇深い目で用紙を見下ろし、全然出てこないドロップアイテムのことを思った。すれ違ったパーティがきゃっきゃとモンスターを倒して出てきたドロップアイテムに喜ぶのを妄想し、ぐぬぬと下唇を噛む。

「さ、サンレガシ様!?」

「はっ! あ、いえ、とにかくイトカシの糸は別の人に頼んでください。行きましょうアルブム! 迷宮が私達を呼んでいます!」

「キュキューン」

「そうですね。今日こそやってやりますよ!」

「キュキュキュ!」

「確かに多いですよね。ヨモギリ草って一束二十本ですし。もしも駄目だったら、明日のお夕飯が遅くなりますね……」

「ギュ!?」

 一人と一匹を見送ったスプラは、ぽつりと呟く。

「サンレガシ様はテイマーの方が向いてるんじゃないかしら?」

 まるで言葉が通じているかのようなやり取りだった。



 十二階層は、出現モンスターが岩と森に生息するものが入り交じっている。

 土蜂(ランド・ビー)は土魔法を使うようになり、より手強くなる。しかしお尻の針を飛ばすと絶命するのは一緒だ。

 もの悲しい顔をしたミルは、逃げる女王蜂を放置して、無残にも散った土蜂(ランド・ビー)を回収する。

「アルブムー、こちら終わりました」

「キュー」

 レベル三十を超えると、防御力の低い魔法使いでも十階層代では致命傷を負うほうが難しい。アルブムが見つけたヨモギリ草の生息地でせっせとミルは採集作業にいそしむ。手袋とマスクは必須だ。ヨモギリ草の香りを吸い過ぎると、情緒不安定になってしまうのである。周囲をアルブムが警戒するので、三時間ほどでヨモギリ草が十束集まった。

「ふぅ、少し休憩しませんか? え、次はピロロキリン探すんですか? えー」

 ゴリゴリいう腰を伸ばすが、だめだめと鼻先で背中を押される。アルブムは明日の夕飯が遅くなるのが嫌なようだ。

 ピロロキリンは首の長いモンスターで、草食動物のように大人しい。背中をブラッシングして麻袋一杯になるまで採取して終了となった。

 ギルドに戻ると、買い取りカウンターはすいていた。おやつの時間が終わった頃なので、これから混み出すのだ。すっかり迷宮ギルドにも馴れたミルは、丸眼鏡の担当ギルド員に依頼書と一緒にアイテムを提出する。

「いつもありがとうございます。検品しますので少々お待ち下さい」

 顔なじみになったのでやり取りも気安くなっている。ミルはぼーっと待ちつつ、小さくなったアルブムを撫でさすりモフリさすって時間を潰す。

 そして今日の探索は終わりにし、魔法の練習をしようと練兵場に足を向けたときだった。背後から飛んできた何かに押しつぶされた。

「ぷぎゃ」

「何をする!」

「ええっ! ぶつかってきたのはそっちが――」

 驚いた顔のまま振り返って固まった。

 深い赤色の制服の少女が尻餅をついている。睨んでいるのは、同じ制服の少年達だ。彼らに押されて少女はミルにぶつかったのだ。

 少年達は鼻を鳴らすと、こう言った。

「お前みたいな足手まといと、誰がパーティを組むって? 冗談は止めろ」

「約束と違うじゃないか!」

「まさか俺達の話を本気にするとは思ってなかったぜ。お前はせいぜい荷運びくらいしかできないだろ」

「馬鹿、荷運びだってできやしねぇよ。こんなに力がないんじゃな!」

「さっさと止めちまえば良いんじゃねぇの? 才能無いんだし」

「うっ」

 話を聞いていたミルは自分のことのように傷つき、胸の痛みに蹲る。

「課題はパーティで行うはずだ。お前達だって三人じゃ最低人数に満たないだろう!」

「俺達は現地調達。お前より冒険者の方がずっと役に立つだろ?」

「貧乏人のお前じゃ一人だって雇えないだろうけどな」

「何年経っても雑魚は雑魚なんだよ。せいぜいそこで這いつくばってるのがお似合いだ」

「ひっ、酷いです!」

 目から涙が盛り上がる。口がわななき、ぐずりと鼻を啜った音で、彼らはようやく突き飛ばした少女の下敷きになっているミルに気付いた。

「あなた達はなんの権利があって、そこまで人を傷つけるんですか! 私だって、私だってがんばって生きてるのに!」

「な、なんだこいつは」

「え? あ、えっ。泣いた!?」

「おおお俺は知らないぞっ。誰だこの女性は!?」

 動揺した少年達は後ずさる。なんだなんだと冒険者達が集まりだした。

「何で泣いてるのあの子?」

「あれってビッチじゃない?」

「役立たずって聞こえたけど、捨てたのか?」

「あの歳でやるなぁ」

「な、な、なんだと! その女とはまるで面識が無いぞ! 捨ててもない!」

「じゃあなんでガチ泣きしてんのよ。坊主達、嘘はもっとマシなのつきな」

「捨てられてませんよー! 噂は全部嘘ですー! 領地の兵士さんだって犯人捜索してるんですからー! 私は阿婆擦れでもビッチでもないですからー!」

「グルル!」

 ぽかんとした冒険者は、ピャーと泣いているミルを見て、よく見れば阿婆擦れには見えないぞと冷汗を垂らす。それに兵士が犯人を捜しているということは、それなりの身分か後ろ盾があるかのどちらかだ。どちらも末場の冒険者では相手が悪い。

「おい貴様ら! よってたかって何をしている!」

「うわ、逃げろっ」

 ギルド内にいた職員が雷を落とすと、冒険者達は慌てて散っていく。

 中心にいた少年達も逃げだした。残ったのは、おろおろする突き飛ばされた少女とミル。アルブムはひたすら唸り続けている。

「一体何があったのですか?」

「この子が突然泣き出してだな……」

 じろりと睨まれて、少女は背筋を伸ばす。腕組みした職員はふとミルから漂ってくる草の香りに気付いて、溜め息をついた。

「先ほどヨモギリ草を納品いただいたサンレガシ様ですよね? 部屋をお貸ししますので落ち着くまで使ってください。君も一緒にどうぞ」

「え、いや私はだな……」

「ヨモギリ草の香りを吸い過ぎると、情緒不安定になってしまうのですよ。今回納品いただいた物は、大変品質が良く、依頼主は喜ばれるでしょうね」

 そう言って鼻に皺を寄せたままのアルブムを拾い上げると、ギルド員はミルを引っ張って個室へ案内した。少女も困惑顔でついて行った。

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