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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと約束のオルゴール
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第四話

「キュー?」

「用事が済んだら、すぐにお暇しますよ」

 シャリオス達はそれぞれの部屋へ戻り、眠っている。ノックをしても返事が無かったので、ミルはアルブムを連れて迷宮へ赴いていた。

 眠たそうに口を開いて欠伸をしているのを起こしつつ、障壁に乗りながら移動する。もちろん、誰にも見られないよう宿から魔法で姿を消していた。

「あそこですよね」

 隠し通路のことはギルドには黙っておくことにした。

 ハーベルディが困った事になってしまうし、彼自体の信用が怪しいためだ。

「ごめんください」

 ネジ巻きで隠し扉を開けると、奥の空間がぼんやり光る。

「なんだ君か。驚かさないでくれ」

「夜分遅くにすみません。話し合った結果、明日ここを発つことになりました」

 おや、と目を丸くしたハーベルディはソファーへ座るよう手招いた。

「わざわざ挨拶に来てくれたのか。ボクの事を怖がってたのに、一人で来たのか?」

「キュー!」

 胸を張るアルブムの背中を撫でる。一人じゃないよ、と言いたいらしい。いつも大変お利口さんな様子だ。

「オバケは怖いですけれど、大切な用事があったものですから。お体の調子はどうですか」

「そう言う聞き方をされるのは新鮮だ。いきなり大人数と話したからね、気疲れのようなものだ。それで?」

 神妙な顔になる。

 思い出すのは帰宅後にした話だ。

「その表情からするに、君の仲間達はボクを胡散臭いと思っているようだ。実に賢明な判断だが……。なぜ来た。ボクが言うのもなんだが、危ないだろう」

「それでも聞きたい事があったのです。教えてもらいたいこともですね……それで、あのう」

「まてまて、わかった」

 仕方ないなとため息一つ吐いてハーベルディは苦笑いする。

「こういうと不思議に思うだろうが、星の民は普通の一族と違ってね。君達が認識するように他人を認識できないんだ。だからか、クレルを信用し、スシェンを疑う理由を告げても他の者には理解してもらえなかった。君達も同じだろうと思って言わなかった。わかるだろう? 余計な事は言わない方がいい」

 どう説明すれば伝わるかもわからないのだからと苦笑する。指先に毛先を巻いて弄びながら、どこか疲れたように続けた。

「ボクらには全てのものが天体のように見えているらしい。魂の色を見ているという説があったが、恐らくそれだ。穢れた忌まわしい者は臭く淀み、美しい者は輝かしく見える。わかるかな」

「なんとなくは。闇魔法の使い手は全て淀んで見えるのでしょうか」

「仲間に使い手がいたのか? だったら違うな。差こそあれ、忌まわしくはなかったよ。でなければ全員首を跳ねていたところだ」

「ひえ」

 冗談だと言われるがびくびくしてしまう。

 だが、ミルを美しいと言ったのは魂の話で外見ではなかったのだ。ちょっと残念なような気がした。

「では私達の中で一番綺麗だったのは、どなたですか?」

「君の連れている者かな」

「キュフフ」

 くねくねしたアルブムは、得意そうに胸をはる。

「それがどうかしたのか」

「星の民は心が綺麗な人がわかるのかもしれないと思いまして」

「ああ、そう言えばよかったのか……」

 外見ではわからないのに「あいつ臭いし汚いぞ!」とだけ言っても誰も納得しないだろう。自分ではわからないのだから。

「はぁ、つくづくボクが生きてるときに会いたかったよ。まあ、そういうわけだから君達がボクを疑っても、またかと思うだけだ。でもせっかくだから聞こう。今は気分がいい。知りたいこととは」

「魔法について教えていただきたいのです。普段使う魔法についてなのですが、よろしいでしょうか」

「禁術じゃないのか。君はつくづく変わっているな。まずは今の魔法について教えてくれ」

「現在の魔法形態は――」

 属性魔法以外にも、魔法の種類は多岐にわたる。さらに分類が追いつかないほど種類があり、今も発展を続けている最中だ。

 光属性は、属性魔法に分類される。他には聖、闇、火、水、土、風、無の八属性となっている。それ以外は闘気や属性魔法の派生形があり、その中に禁術も含まれる。系統不明なものや危険な魔法が多い。あとは学説が定まらず学会で紛糾しているタイプの物が未分類のまま残っていた。その点で言うと、無属性魔法は属性魔法から外れるんじゃないかという話も度々聞く。

 ハーベルディはだんだん呆れた表情になり、一通り話が終わるとこう言った。

「……君達、種族的にどこか狂ってないか。ボクが死ぬ前からこねくり回してるが、まだやってたとは」

「う、私に言われても……。それで、お聞きしたいのは光属性の事なのです。ハーベルディさんの使う星の魔力もここに分類されると思うのですが、光属性持ちは少ないし、魔王が消えてから廃れてしまったので、先生がいないのです」

 今は魔法書を写して勉強しているが、やはりきちんとした使い手に聞きたい。

「ハーベルディさんは魔法を作れるような凄い魔法使いなのですよね。私に役に立つ魔法を教えていただけないでしょうか。今持っている魔法書はこれなのですが」

 初級編、中級編、上級編の写しと、特上級魔法の魔法書を床に並べると、独りでに開き、ページが動く。ハーベルディの魔法だ。

「体系が整理されてわかりやすいが、回復系統や攻撃系統がごっそりと抜けている。他に使える魔法の種類はあるか」

 以前書き出したものを出すと、他の魔法書も見たがった。

 凄まじい速さで読み進めた後は難しい顔で特上級魔法書を眺めた。

「特上級魔法書は読めるものと、そうでないものがあるのです」

「だろうね。制作者はずいぶん用心しているようだ」

「といいますと?」

「初級編、中級編、上級編、これらは研鑽の果てに作り上げられたものだ。適性があれば誰でも一定以上の力を発揮できる。災いに対抗するための知恵と言ったところ。だが特上級魔法は違う。ボクらが使用していた魔法をそのまま分類したものだ。――そもそも魔法というものは、魔力によって奇跡の体現と言われる事象を引き出すことだった。長くなるので割愛するが、ようは理論がわからなくても扱える力だった」

「……代償を伴うからでしょうか」

 ハーベルディは静かに頷く。

 (ルーメン)の拘束魔法は攻撃魔法の制限が、蘇生魔法は時間制限と数日間の魔法使用制限がある。

 それに――

「推察通りだ。蘇生魔法は発現する原因となった人物を対象としない。一番に望んだ命を除外し、術者を傷つける……それが蘇生魔法の代償だ」

 ようやくはっきりした。

 アリアの体が完全に再生されたにもかかわらず、蘇生されなかった理由を。

「見たところ分類を細かくして代償の大きい物を省いている。そのせいで本来君が扱えるはずの魔法がわからなくなっている。時空魔法だったか。あれも生きていた頃は星魔法(ほしまほう)の一部だった。ボクらが扱っていた魔法だよ。君が使えるのも当然だ」

「では、時空魔法が使える人は光属性の魔法も使えるのでしょうか」

「おそらくは。だが、この凡人の平均値を上げるための魔法形態が広まった今、やり方を見つけるのは大変だろうね」

「呪文を唱えるだけでは駄目なのでしょうか」

「素質によるところがある。君は魔力が多いんじゃないか? そうなら、人より長けた使い手になれる」

「関係があるのは魔法の威力だけではないのですか?」

 そうじゃない、とハーベルディは首を振る。

「魔力が多ければ人より研鑚を積めるということだ。しかし恐ろしい。このままでは学術研究が進むにつれ、使える魔法が減っていくだろう。固定概念は発展の破壊者のようなものだ。いい機会だ。特上級魔法に分類される魔法を教えてあげよう。君は美しいし素直で正直な短命種だから、特別だ」

「キュフ!」

 もう一度ぽーっとなりかけたミルだが、アルブムにいい毛並みだぜ、という感じに鳴かれ正気に戻る。危ないところだった。普通に褒め殺すところがシャリオスそっくりで困ってしまう。

「いいのですか?」

「なに、手伝えないのだからそれくらいはな。ネジ巻きがなければ扉は繋がらないし、音も響かないだろう」

「……そういえばなのですが、このネジ巻きは扉の鍵だったのですか?」

「なんだ藪から棒に」

「いえ、何度も回したのに、扉が開くだけだったのが不思議で。似たような仕掛けでは、宝物とかモンスターが出てきますし」

「……。本当はオルゴールのネジ巻きなんだ」

 悲しそうに呟くと、ランタンを指さす。

「底に穴があるだろう? こじ開けると中に入ってるんだ。オルゴールがもう一つの入り口の鍵、ボクらの信頼の証だった。どちらかが約束を破れば、この空間は消える」

「それで、約束は破られてないとわかったのですね」

「言えばよかったのだろうが、ボクだって君達を警戒していたんだ。退廃の香りが纏わり付いていた」

 目を眇めたハーベルディはソファーに深く座り込むと、編んだ長い髪を払う。

「君がここに来たことでわかったけれど、別人の匂いだった。悪いものが君達に纏わり付こうとしている」

「悪いもの?」

「そうだ。魂に傷をつけるような……よくよく気をつけることだ。――話を戻そう。君が使えそうな魔法についてだったな」

「あ、そうです! よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げる。

 よろしい、と気持ちよく頷いたハーベルディはミルの鼻先を突く。本当に触れはせず、通り抜けたが。

「君は元気がいいな。まずは星魔法の呪文を教えよう。一日で全て覚えるのは大変だろうから、何かメモをしたほうがいいな。いろいろあるが、何がいいか」

「先ほど回復系統や攻撃系統がごっそりと抜けていると仰っていましたが、私が使えそうなものがあるなら知りたいです。回復魔法が使えなくて、シャリオスさん達にご苦労をかける事もあるので、挽回できるならしたいのです」

 これからもっと役に立てる可能性が出て、ミルの目が輝く。

「あるな。そうだ、彼らがボクとあったとわかれば君、叱られるのではないか。黙っておいた方がいいと思うが」

「帰ったら言おうと思ったのですが……」

「やめておきなさい」

 ハーベルディは悪い人に見えなかったし親切だ。だが、頑なに止めるように言われ頷く。

 白紙の本に呪文を書くよう促されたミルは、その表情がどこか曇っていたことに気付かなかった。

 特上級魔法については代償含めて教えてもらった。くれぐれも使うときは注意するように言われる。

 多くは魔力消費を代償とする魔法だが、危険なものもあった。使えるかどうかは試さないと判らないが。練習すれば使えるかもしれない魔法を知ることができて、ミルはほくほくで帰宅した。

 アルブムは飽きて途中で眠っていた。



「ご機嫌だね。目の下の隈が酷いけど」

「ふふ、そのうち私の飛躍に度肝を抜かれてしまいますよ」

「呪術?」

「光魔法です」

 目をギンギンにさせたミルが、そんなことを言う。夜中に何かあったことは一目瞭然だが、シャリオスは沈黙する。とても嬉しそうな顔をしていたからだ。

 呪術に夢中になるより健全だろうと思ってのことだが、実は要注意人物に会いに行っていたことは知らない。

 一行はファインアーツ迷宮を後にし、次の街へ足を向けた。

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