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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと約束のオルゴール
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第三話

「モンスター! はいないけど、どうしたの!? え、何これ」

 素早く戦闘態勢を取ったシャリオスがミルを抱き上げる。

 顔面にくわえ後頭部を打ち付けた際にできたたんこぶが痛む。

「血は出てないけど大丈夫?」

「この迷宮では転んでばかりです……。それよりここは?」

 恥ずかしさに顔を赤くしながら聞くと、床を調べていたスールがタイルをつつく。

「ふむ、どうやら足下のくぼみを踏みながら壁を押すタイプの隠し扉だったようです」

「――君達、彼女は頭をぶつけたんだぞ。喋ってないで回復したらどうなんだ」

 はたと顔を上げたミルは、見知らぬ男性に気付く。

 灰色の髪を編んで垂らしている彼は、顔を顰めていた。古めかしい長衣には銀糸で天秤の刺繍がある。足首まであるマントに、星をかたどった長杖を持っていた。

 その後ろ、隠し扉の中には家具が置かれていた。暖かそうなマットに明かりのないランタンが置かれたテーブル。それから座り心地のよさそうなソファ。

 彼はソファ近くの床に立っているが、足下が薄ぼんやりと透けている。

 つまりオバケだ。

 ミルはへっぴり腰になりそうになった。

「仰る通りですね。<回復魔法(ミナス)>」

 痛みが引く。

 スールはそれで、と続ける。

「失礼ですが、どちら様でしょうか。我々は見たとおり冒険者ですが……」

「ボクも見たとおりの幽霊だ」

「額に星の痣のある?」

 はっとすれば、確かにあった。

 十二芒星の痣。

「それよりもお前達、なぜこの場所に入れた」

「このネジ巻きを見つけたから。何か【遊び頃(タドミー)】の情報が得られないかと思ってるんだけど、心当たりある?」

 近づいた男は、慌てた様子でネジ巻きに手を伸ばす。

 しかし指先はシャリオスの手をすり抜けてしまう。

 悔しそうな顔をしながら、彼は一行を奥の部屋へ手招き、杖を振って明かりを付けた。

「どこで見つけた。それはクレルが持っていたものだろう。彼は僕の事を何か言っていなかったか」

 クレルとは禁術を調べたときに出てきた、裏切り者の名だ。

「そういえば質問されていたな。【遊び頃(タドミー)】というのは聞いたことがない。なにか関係あるのか」

「あるというか……僕らは【遊び頃(タドミー)】を操っている人形使いを探すために『誘惑の手』という魔導具を探してるんだ。ネジ巻きはハーバルラ海底迷宮の最下層で幽霊船からドロップしたもので、貰ったわけじゃない」

「これを迷宮で……。どうやら、君達には光の導きがあるようだ。運命が君達に渡したのだろう。このネジ巻きは、ボクとクレルの友情の証だった」

「失礼ですが、いつ頃お亡くなりに?」

 彼は考え込む。

 それほど昔なのだろうかと思いながら待っていると、小さく首を振る。

「申し訳ないが一族の暦しか知らないんだ。君達が知っているとは到底思えないが、星歴六千八百年の碧慶春寿(へきれきしゅんじゅ)二十六日の真夜中だった」

「……わかった?」

 振り返ったシャリオスが聞くが、全員が首を振る。

「やはりそうか。知っている事を話せ。長いこと出ていないから、外の様子などまったくだ。ボクが判断したほうが速い」

 ミルは十六人の魔法使いが世界を改変する魔法を創り出そうとしたとき最後の一人が裏切り魔法を奪われたこと、奪われた魔法が禁術と呼ばれ、裏切り者が便宜上クレルと呼ばれていることを話す。クレルが行った蛮行をとある一族が止め、封印したことも。

 顔を顰めながら黙って聞いていた彼は、話が終わるとため息を吐く。

「間違いない、その禁術とやらはボクが死んだ原因だ。さて、少々長い話になるが時間は大丈夫か」

「もともと手がかりを探しに来たんだから、願ってもないよ」

「そうか……では禁術とやらの元の魔法を作ろうとした理由を語ろう。技術的進歩が頂点に達したが、人々の精神性は共に成長せず、とうとう世界が壊れたことはしっているか」

「古代文明の崩壊がそうだったっていうのなら聞いたことある」

「そうか。壊れた世界の調整のため、ボクら星の民は故郷を立ち世界へ散ったんだ」

 修復は少しずつ進んでいたが、膨大な魔力と新しい魔法が必要だった。彼も集った仲間達と共に魔法を作ろうとしていた。

「その魔法には名を付けなかった。つければ人々の持つ心や魔力の色が乗ってしまうからな。魔法には十六の魂を注ぐ事になっていて、まあ、つまり死ぬんだ。注がれた者は調律師として役目を果たすそのときまで、調和を保つことになる。死にながら生きる――素質がなければ到底こなせないというのはお判りいただけるだろう。ボクらは候補を集うことに苦辛した。君達が言うクレルとは、その中の一名だった」

 ようやく集まった十六名の候補が、順番に魂を注ぐ。

 彼は十五番目に魂を注ぐ事になっていた。

「クレルはいい人だった。類い希なる魔法と剣の腕を持つ、理想的な魔法剣士。皆、彼のことが大好きだった……クレルが裏切るわけがない」

「でも」

「スシェンではないのか? 奴は狡猾だ。何度も駄目だと言ったのに、クレルは資格者が足りないからとあんな奴を入れた。他の奴らも口先に騙されアレを信用など……ボクはスシェンに殺されたんだ! 六番目のあいつが他の同士も殺し、皆のために創った魔法でボクを――!」

 掻きむしるように胸を押さえた彼が、悔しそうに涙を浮かべる。

「どんな人だった?」

「そんなもの、あの濁りきった魂を見ればわかる。汚らわしい短命種だった!」

 怒りが淡い光となって巻き上がる。触れると肌が痺れた。

「クレルは美しい男だった。彼がそんなことをするわけがない、何かの間違いだ。君達は誰かと間違えてるに決まっている!」

「伝え聞くことに齟齬があるのは間々あること。落ち着いてください。あなたの仇とわたくし達の目的が同じ人物ならば、協力しあえることでしょう」

 彼は顔を顰めたが、光は収まる。

「だといいが」

「質問いいかな。負けたのにどうやってここへ?」

「理由も何も――ああそうか、途中で切ってしまったな。スシェンに囚われる直前に魂だけで逃げ出したんだ。そのとき、あいつの肉体を粉微塵に砕いてやった。もともと吹けば飛ぶような惰弱な魔法使い。あの状態で生き延びられるわけがないが、十三人分の魂が注がれた魔法を奪っていたからな。用心するに超したことないだろう?」

 最後の一人だったクレルは争いの痕を目にしたはずだし、魂の数が足りないこともすぐ気付くはず。しかしスシェンが大人しく死んだのを確認する暇がなかったため、クレルと落ち合ってから戻ろうと考えたという。

「クレルの安否がわからないってことだよね。彼がスシェンに殺された可能性があるけど」

 フン、と彼は鼻で笑う。

「生きている。ボクにはわかる。そうでなければ、とっくにここから出て、新しい資格者と共に奴へ挑んでいただろう。来ないということは何かあったのだ」

「途中で逃げたとかない?」

「ない。ボクとクレルが交わした約束は破られていない」

「わかるの?」

 肩を竦めた。答える気はないのだろう。

「……。もしよかったら、一緒に来ていただけないでしょうか。私達は相手の顔も知りません」

 思い切って尋ねたミルはブルブルと震えていた。

「共に行ければいいが、クレルの無事を確かめるまで動くわけにはいかない。すまないな、美しい人。あと、ボクはハーベルディだ。そう呼んでくれ」

「え!? は、はい……」

 ちょっとぽーっとなったミルだが、シャリオスにジト目で見られて背筋を伸ばす。

「なら特徴とか、覚えている事とかを教えてくれる? 出身地とか顔立ちとか、クレルとスシェンだっけ、その二人以外の事も」

「いいだろう。ボクの故郷は海を渡った先にある。すまないが死んでからずっとここにいるので、どれくらい時間が経っているかも世界がどうなったかも知らないんだ。君達の話す様子から聞くに、人々はモンスターの脅威から逃れることができたんだろう?」

「今も地上に闊歩してるよ」

「絶滅を危惧するほどじゃない。違うか」

 顔を見合わせた一行は、考えつつも頷く。

 たしかにモンスターは脅威だが、絶滅するかと言われれば違う。最近お伽噺のような凶悪なモンスターを何度も相手にしたが、それでも力を合わせれば倒せたのだ。

 ハーベルディは嬉しそうに笑う。

「魔法が上手くいったか、別の誰かがなんとかしたのかもしれないな。そうなると、どうしてクレルが来ないかが気になるが……」

 ちらりとネジ巻きを見る。

「君達、彼に言づてをしてくれないか。ボクがここでずっと待っていると」

「待って、こっちは人形使いに用事があるんだ。関係ないなら時間を無駄にできない」

「彼と渡りがつけば君達の探し人もわかるだろう」

「本当? 適当に言ってない?」

「もちろんだ。人形使いに関係する禁術と、ボクらの創った魔法は同じだろう。情報が一部間違っているが、星をかたどった長杖を持っていたならば封じた者達は同胞。つまり人形使いはボクが知っている人物に相違ない」

 得意げな顔をしたハーベルディが振る杖は、確かに同じ星をかたどった長杖だ。

「滅ぼせなかった理由は書いてなかったのだろう」

「そうだけど」

「倒すには相手の真実の名を知るか対の魔力で対抗すればいいのだが、封印したと言う事は対の魔力持ちがおらず、知り得た名前も違ったのだろう。つまりクレルではなかったのだ。――君達に『誘惑の手』という道具を聖剣で貫けと教えた者がいたな。聖剣はどこにある」

 マジックバッグから取り出すと「ずいぶん便利な物があるな」とハーベルディは感心する。

「……なるほどな。これは太陽の魔力を扱うことに長けた剣だ。ボクら星の民は、名の通り星の魔力を扱うことに長けた一族だ。星では太陽の魔力には届かない。そのせいで封じることしかできなかったとしたら……『誘惑の手』はずいぶん汚らわしい魔力を帯びているようだ。太陽の魔力とは本来、強すぎて毒なんだがな」

 ミルは首を捻る。

「太陽の魔力と、星の魔力……それは魔法で言うと光属性なのでしょうか?」

「そのくくりはわからないが、ボクらは二つの属性を確認していた。この中では星が弱く、太陽が強い。その点、君の魔力は不思議だ。ボクらとも、そこの聖剣とも違う間のような力をしている。昔より人も増えて発見も多いだろうが――まいったな。君達、突然大地が消えたことはないか?」

「聞いたことはないけど、昔はあったの?」

「度々。それがボクらが魔法を創ろうとした理由の一つでもある。調和が不安定だったんだが、細かい話はよしておこう。大地が消失しないなら、この剣を使っても大丈夫だ。敵は太陽と対となる魔力を帯びているに違いない」

 不安定になれば消えてしまうのだろうか。

 なんだか背筋が寒くなる話である。

「太陽の対となると……闇?」

「だと思うが、こればかりは見てみないと判断できない。昔と今は違うと言ったろう? ボクが知らない事象も魔力もたくさんでていそうだ」

「もし闇だったら?」

「君達が探している『誘惑の手』は他人を弄ぶ道具に使うにはうってつけということになる。吐き気がする」

 気持ち悪そうな顔していた。本当に嫌いなのだろう。

 シャリオスは微妙な顔をする。

「失礼、話を戻そう。ようは効けばなんであろうと関係ない。その剣なら対処するにじゅうぶんだ」

「禁術をも切れると考えてよろしいのでしょうか。切った場合、世界の安定に如何様な揺らぎがあると推察されますか」

 黙っていたスールが小さく尋ねる。指を組んでいるのだが、手袋に皺が寄っている。もしかしたら力を込めているのかもしれない。

 緊張した様子が見て取れ、シャリオスとミルはこっそり視線を交わす。

 どうしたのだろうか。

「……止めてくれ。ただでさえ不完全なんだ、どうなるかわからない」

 熟考した果ての回答に深く息を吐き、スールは膝に肘を乗せ、組んだ手に額を当てる。

「そもそも必要な魂が注がれていない以上、不完全な状態で魔法が留まっていると考える方が自然だ。ボクはクレルが生きているし、君達の言う非道なことを彼がしたとは思えない。だから犯人はスシェンだと思う。その上でもう一度言うが、クレルを探してほしい。ボクより詳しい事を知ってるはずだし、ネジ巻きを君達が持っているからには、ここへ入る事ができない。魔法の状態がわかれば対処のしようもある」

「話はわかったよ。じゃあ、今度は手がかりのためにクレルの足取りを追うことになるけど、彼の出身地とか、他の仲間の情報とか教えてくれる?」

 昔すぎてわからない可能性もあるが、無いよりましだ。

「クレルは……確か呪いの街の出身だ。そこに手がかりがあるかもしれない。訪れそうな場所に心当たりはないな。他の仲間はスシェンを除くと、ラーク、ウェヌス、マズナブ、ベリエ、カンデラ、ユソン、ズヌイ、ユディウ、ストラール、アウローラ、マリューム、アクト、フォムリアだ」

「クレル、スシェン、ハーベルディで十六人、と……。資格が必要だったらしいけど、条件は?」

「星か太陽の魔力に長けた者だった。一族で占めるには数が多すぎたし手が足りなかった。君がいれば、矮小で低知性のスシェンを間違いなくお払い箱にしていたのだが……悔しい」

 もともと光属性持ちは少ないので、資格者が少ないことが容易に想像できた。十六人集めるために探し回ったのだろう。だからといって恨めしそうに見られても困るのだが。

(……。やっぱり需要は昔に終わったのね)

 かといって生贄みたいになるのは嫌なのだが、複雑な思いを抱く。

「すまないね、少し疲れてしまった。他に質問がないなら意識を閉じようと思うけれど」

「わかった。僕達はもう行くよ。何かわかったらまた来るし」

「そうしてくれ」

 頭を振ると、ハーベルディが更に薄くなる。

「光の導きを持つ者達よ、君達に創世の星々が瞬きますように」

 そう挨拶して見えなくなった。

 明かりが消え、一行は迷宮の外へ帰還することとなった。



 開口一番、シャリオスは言い放った。

「怪しすぎてビックリした。あと辛くて美味しい」

「限度があるだろこれ! 俺は欠伸を噛み殺すのに必死だった」

「サシュラ最悪。もぐもぐ」

 宿に帰って荷物を整理し、ドロップ品などの諸々を売り払って落ち着いたあと、すっかり寛いだ様子で食事を取っていた。

 本日のメニューはカレーである。大きな肉がごろごろと入っていて、付け合わせはカボチャのスープ。厨房は客の人数より多い皿数を頼まれてんやわんやである。カレーなのに。

「どこが怪しかったのですか?」

 辛すぎてミルクをがぶ飲みしていたミルは、驚いたように手を止める。すると三方向から生ぬるい視線を注がれてしまう。

「明らかに何か隠してただろ」

「何かって、何でしょう?」

「知らん」

 無責任発言に、思わずシャリオスを見る。

「まず禁術とハーベルディの魔法が同じだとわかる理由を話してない」

 昔話では、クレルは次々と贄を注いで誰も敵わないくらい強くなった。が、ハーベルディは「必要な魂が注がれていない」と断言している。この理由を言わなかった。

「光属性持ちがいなかったのではないでしょうか」

「当時の規模はわからないけど、一人もいないとは思えなかった。あと先に注いだ十五人の命……魂か。魂を使い果たして補充した話もある。ハーベルディが封印した謎の一族と同じなのは信憑性があるけれど、その人達が虚偽を書く理由は? 同じ一族なのにおかしくないかな」

 言われてみればそうだ。

 ハーベルディの言葉を全て信じるなら、同じ一族の者達が問題の人物を封じられなかったのは、名前を知らず対の魔力を持つ者がいなかったと言う。しかしクレルが生きているならば、封じるときに判らなかった理由がない。

「何かあった、の何かが問題になるのですね……。それに【遊び頃(タドミー)】がいるという事は、封印が解けている可能性もあります」

「それな。あとは星の民が封じた、なんて話がはなっから大嘘の場合な。クレルが人形使いで、討伐隊を組まれたから面倒になって逃げたふり、という線もある。なにせ星の民なんざ聞いたことがねぇ」

「星の民については、わたくしの方で情報を精査してみます」

 シャリオスは唸る。

「ハーベルディには気をつけないと。ミルちゃん、美しいって言われたからって、ぼーっとしちゃ駄目だよ」

「う。でも、人生で一度も言われたことがなくて……。悪い人には見えませんでしたし」

 ちょっとくらい許してほしい。

 眉尻を下げたシャリオスはため息を吐く。

「何言ってるの? 髪はキラキラしてるし、目も宝石みたいな綺麗な色をしてるくせに。肌だってツルツルして柔らかいし、ミルちゃんは凄く可愛いし、綺麗な所だらけじゃないか」

 口の回りがカレーのルーだらけじゃなければやられていたかもしれない。思わぬ褒め殺しに真っ赤になる。

「僕は毎日綺麗だな、可愛いなって思ってるのに言われ慣れてないはずないだろ。そうだよね、アルブム」

「キュ!」

「えへ、えへへへへ!」

 アルブムにもいい感じの毛並みだぜ、というように鳴かれ照れてしまう。

 溶けそうになっているミルから視線を外し、シャリオスは顎に手を当てて考える。横で「なんか背中が痒いんすけど」「おだまりなさい。……とてもいいお顔です」「誰か仕事変わってくれ」という会話があったが、耳を素通りした。

「わかってないことが多すぎて、何を信じればいいかわからないね。魔法塔の本に虚偽が混じってるならサシュラが言う線が考えられるし、僕が思うよりもずっと昔の話になる。それこそ、勇者と魔王の話よりずっとね」

「エルフでも死んでるな」

「でしょ? あと可能性があるのは魔族だけど……僕達に光魔法の使い手は生まれないよ」

 ミルはふと、心当たりを思い出し顔を上げる。

「リッチさんみたいに別の種族に生まれ変わった人はどうなのでしょうか。触れると存在が変質するという魔法でしたし、そう言う方がいらっしゃる可能性はあると思います」

 シャリオスはぽんと手を打つ。

 短い間だが、以前より情報が集まってきた。

「おかわり下さい! じゃあどうする? ハーベルディの言うとおり、呪いの街を探す?」

 ミルはギクリとする。

 最近もしやと考えていた疑惑がある。それは、この件にはオバケが深く関わってくるのではないかという事だ。【遊び頃(タドミー)】と関わってから縁がありすぎる。

 気まずそうに視線をそらしたシャリオスは、口いっぱいにカレーを詰め込んで誤魔化そうと思ったが、背筋を伸ばしたミルが冷や汗を拭うのを見て観念する。

「そもそも【遊び頃(タドミー)】がそっち系だから……たぶん。元気出して」

「い、いえ自分で決めた事ですし。呪いの街を探しましょう」

 もしかしたら情報の他に、記憶を消す魔導具が売っているかもしれない。それを探しに行くと思えば頑張れる気がするような。

 わずかな希望に縋りながら自分を奮い立たせる。光魔法活躍の期待など、とうの昔に捨てている。たまに役に立っても、すぐ使えない子になってしまうのも体験済みだ。

「でしたらトルガでしょう。この世で最も呪術が浸透した土地は、解けぬ呪いと共存する方法を知っています。なにかヒントがあるやもしれません」

 ネジ巻きを見ながらスールが呟く。

「それってどんなところ?」

「この土地と少し似ています。呪いと芸術に溢れた場所でした」

 ふと、手元のネジ巻きを眺める。

「芸術……」

 これは扉を開けるだけの物だったのだろうか。

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