表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナログプラネット  作者: 千歳もも
✞零  始まる
5/7

第 Ⅰ 話 始まりは唐突に Ⅲ

 はぁ? こんなに降るなんて聞いてないんですけど。

 授業が終わり帰ろうと廊下へ出ると、空はどんより真っ黒だった。

 ゴロゴロと雷の音がする。雨の音も凄まじい。

 数学の教師、無駄に声でかいからなぁ……。そりゃ気付かない訳だ。

 傘は持ってないし、傘に入れてくれる友達なんて居る訳もない。仕方無い、暫く空き教室で待ってるか。


 適当に空いてる教室に入った私は、何故かそのまま寝てしまった。


「はっ!? えっ!?」

 間抜けな声を上げながら飛び起きると、外はもう真っ暗だった。

 慌てて壁に掛けてある時計を見ると、六時を回っていた。

 あっぶな、最終下校時刻ギリギリじゃん! 早く帰らなきゃ。

 教室の電気を消して廊下に出ると、相変わらず雨は降っていたけど、大分小降りになっていた。これなら走って帰れそうだ。

「……ん?」

 何となく脚が攣っているような気がするけど、気のせいか?

 まあいいや。取り敢えず帰ろ。



『彼奴を殺したのはお前だろ? 何故裏切った!』

 刑事ドラマを垂れ流しながら宿題をしていると、また雨が強くなってきた。風の音がテレビに負けないくらいの大音量で聞こえてくる。

 あーあ。明日学校休みになんないかな。


 ドンッ!!


「!?」

 何かが窓ガラスにぶち当たる音がした。

「な、なに!?」

 驚いて音がした方を見ると、

「え、マジで?」

 カーテンの隙間から、崩れた屋根瓦が積み重なっているのが見えた。段ボールのような物がガラスにべったりとくっ付いている。

 え、え、え? これちょっとヤバくない? 何処かの家の屋根が壊れるくらい台風ヤバいの?

 雨が地面を叩き付ける音は尋常じゃない。風も吹き止まないし、時折稲妻も走る。


 これ、避難した方がいいパターン?


「ま、まあ、大丈夫だよね。もう寝よ」

 嵐の夜を一人の家で過ごすなんてしたくない。風の音で眠れないかもしれないけど、起きてても煩いだけだし。

 私の身に大した被害は出ない、と自分に言い聞かせながら、私は電気とテレビを消して、宿題を食卓に広げたまま自分の部屋に入っていった。

 布団に潜り込む。なかなか眠れない。


 布団を頭まで被りながら、ごろりと寝返りを打つ。

 昔、母親が言っていた。

 父親がまだ一緒に暮らしていた頃。その日は、今日みたいな酷い嵐だった。まだ幼稚園児だった私は、仕事で帰りの遅い父親を心配して、「お父さんが死んじゃうよ〜」って泣き喚いてたんだって。それで、何事も無く帰ってきた父親に飛び付いたんだとか。

 今じゃ考えられないな、あんな人に触るなんて。

 勝手に私と母親を捨てて、勝手に出て行ったあの人を、私は許せない。

 今、どうしてるんだろう。何して生きてるんだろう。誰を愛して生きているんだろう。

 きっと私達の事なんて忘れて、――


 急な睡魔に襲われ、私は眠りに就いた。



 ガラガラガラガラ!

 凄まじい音で私は目を覚ました。

 一階から、何かが崩れるような音がした!

 掛け布団を跳ね除けて、駆け足で一階に降りる。

「え…………」

 カーテンを開けて外を見てみると、そこは荒れ狂っていた。

 屋根瓦も、どっかの店の看板も、木の枝も、葉っぱも、誰かが捨てたお菓子のゴミも。ゴミ箱をひっくり返したみたいに、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

「これ、ヤバいじゃん……」

 非常事態だ。早く避難しなくちゃ!

 でも、こんな状態じゃ、外に出るのは逆に危険なんじゃ?

 いや、でもここで夜が開けるのを待っていたら、家ごと吹き飛ばされるんじゃないか?


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理……」

 恐怖感が襲ってきて、私は逃げようと決心した。

 今は風はそこまで強くない。避難所に指定されている近所の小学校に避難するなら今しかない!

 よし、逃げよう。


 外に出られる格好なのを確認し、スマホとモバイルバッテリーを握り締め、ドアへ向かう。

 が、そこで事件は起こる。

「は? 開かない……」

 鍵を開けてドアを押し開けようとするけど、ビクともしない!

「は? は? はぁ?」

 何度もガチャガチャと押し引きするけど、開いてくれない。

 やっぱり逃げないべきなのか? どうすればいいんだよ!

 ドアを思いっ切り蹴り飛ばす。刹那脚に猛烈な痛みが走る。

「いっつ!」

 痛い。


「はぁ……」

 玄関の前で蹲る。


 ああ、私今日死ぬんだ。家の屋根が剥がれ落ちて、それに潰されて死ぬんだ。もしくは屋根がどっかに飛んでって、中身が剥き出しになった家の中で死ぬんだ。

 あれ、何か暑くなってきた。まだ夏じゃないのに……。

 頭もぼーっとする。何でだろう、眠いからかな?


 バン! ドアに硬いものが当たる音がする。

 廊下に寝転びながら、不規則に鳴る衝突音をBGMに、私の意識はほぼ夢の中に移っていた。



「待たせたな! 松野蓮華!」



 その時、ドアが開け放たれた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ