第 Ⅰ 話 始まりは唐突に Ⅱ
学校に着くと、校門の前に女子生徒の人集りが出来ていた。毎朝毎朝よく飽きないよなぁ。
「おはようございます、先輩!」
「先輩が好きって言ってた梅しそジュース買ってきたので、良かったら飲んでください!」
「先輩!」
「先輩!」
「せんぱーい!」
あー、煩い!
耳を塞ぎたくなる気持ちをぐっと押し殺して、集団の横をすり抜けて、校舎の中に入る。
すると、集団の中心に居た人物が、
「おはよう」
にやりと不敵な笑みを浮かべながら、すれ違いざまにそう言った。
「…………」
私はそいつを睨み付ける。挨拶は返さなかった。
私は、あの人が嫌いだ。
高校に入学してからずっと、あの人はいつも女子生徒と一緒に居る。と言うか、いつも女子生徒達に囲まれている。
整っていて中性的な顔だし、声も低いがどこか甘い感じだから、男子にも人気があるらしい。私のクラスでも、「先輩って本当にかっこいいよね」なんて会話が毎日と言っていい程耳に入ってくる
そして何故か、毎朝私に話し掛けてくるのだ。
先に言っておくけど、自意識過剰じゃないから。私がその人を取り囲む集団の前を通る度に、女子生徒達を押し退けて挨拶しようとしてくるのだ。
最近はずっと無視していたから諦めたのか、そこまで近付いてこない。でも挨拶してくる事には変わりない。これがうざったくてうざったくて仕方が無く、現在唯一不満な日課なのである。
はぁ。人気者は余裕があって良いですね。『除け者にされてる哀れな不良少女に話し掛けちゃう俺は、何て優しくてかっこいいんだ!』とか思っちゃってるのかな。
余計なお世話だよ。イライラするなぁ。
廊下を歩きながら窓の外を眺めているとぽつりと雫が落ちてきた。
そういえば、今日は朝から空が灰色だった。ニュースでも台風が来るって言ってたっけ。
傘持ってきてないや。もし帰る時に降ってたら、走って帰ろう。