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アナログプラネット  作者: 千歳もも
✞零  始まる
2/7

プロローグ 神様見てますか? Ⅱ

 入学式の日。同じ幼稚園だった子もたくさん居るからかなり不安だった。それでもその子達は何も言ってなかったし、他の幼稚園から来た子達にはチラチラ見られたものの式は何事も無く終わってくれた。

 でも、問題は入学式の翌日の一時間目に起こった。


 その時間はクラスメイト達の顔と名前、特技や趣味等を覚えて仲良くなろうと言う目的で、自己紹介が行われた。

 私の苗字は『松野』なので、結構後ろの方だったから、適当に誰かと誰かのを組み合わせて言えばいーやって思ってた。

 でも。

「好きなことは絵を描くことです」

「特技はサッカーです」

「将来の夢は飛行機の運転手です」

 あれ?

 私、よく考えたら、趣味も特技も将来の夢も持ってないや……。

 着々と進んでいく中、私は重大な事に気付いてしまったのだ。

 もしかして、私には、何も無い……?

 絶望に浸っていると、いつの間にか私の番が来てしまっていた。


 取り敢えず立ち上がって、名前だけ先に言おうと思い、

「松野蓮華」

 慌てて口走ると、自分でも驚く程ぶっきらぼうな声になってしまった。

 あああ、どうしよう。全員の視線が私に集まってる……。

 幼稚園の入園式のトラウマが蘇る。あの日から、大人数の中で喋るのと、注目される事が苦手になってしまっていたのだ。

 頭の中がごちゃごちゃになって混乱してしまう。暫く黙り込んでいると、担任が心配してくれたのか声を掛けてくれた。

「松野さん、好きな色は何?」

 好きな色か! それがあったじゃん。

 そう思ったけど。

「好きな色……」

 パッと思い付く色が無かった。

 赤? 何か目がチカチカするしなぁ……。

 青? 何か不安になる。

 黄色? これも目がチカチカするし……。

 緑? なんか好きじゃない。

 紫? 毒の色だからイヤだ。

 白? 白って何も無いじゃん。

 黒? 黒って色なの?

 じゃあ――


 オレンジ?


「あ、有り得ない! 論外!」

 ふと浮かんできた忌まわしい色に、私は思わず叫んでしまった。

 私がこの世で一番嫌いな色! この色さえ無ければ、もっと違う風に生きられたのに……!

「ま、松野さん?」

 はっ。我に返ると、より一層私に視線が集まっていた。

「あ……」

 無意識に声に出してしまっていたんだ。

「じ、じゃあ好きな動物は?」

 気を取り直して担任が訊ねてくる。

「動物、見た事ないから分かりません」

 テレビでなら見た事あるけど、ペットは飼ってないし動物園にも行った事ない。強いて言うなら、幼稚園で飼ってたウサギだけど、可愛いと思った事は一度もない。

「じゃあ、んー、何だろう」

 何も無い私に担任も困ってしまった。必死に質問を捻り出そうとしている姿を見ていると、どんどん惨めな気持ちになってきた。

 まだ小学生になったばかりだったから、その気持ちに『惨め』なんて言葉が付いていると知らなかったもので、名も分からないマイナスな感情は、とても不愉快で気持ち悪かった。

「先生、もういいです。」

 もうこれ以上立っているのはしんどかったので、私はそれだけ言ってすとんと椅子に座った。

「そ、そう? じゃあ次は――」

 私の後ろの席の子は、話し方も態度もとてもハキハキしていて、自信に満ち溢れている雰囲気だった。

 ああ。消えたい。


「ねえ、蓮華ちゃんの髪って地毛?」

 二時間目も終わり、休み時間になると、後ろの席の子が話し掛けてきた。

 びっくりして固まっていると、その子は私の髪を撫でながら、

「綺麗な色だね! いいなぁ」

 なんて笑い出したのだ。


 き、気持ち悪い……!

 最初に浮かんできたのは、柔らかい歯ブラシで足の裏を撫でられた様な、何とも言えない気持ち悪さだった。

 今まで、皆私の髪を指差して罵ってきたのに! 私の髪が綺麗? そんな言葉信じられる訳ないし、自分だって大嫌いなこの髪を褒めてくるその子が許せなかった。

 もし貴方が私だったら、この髪の毛を綺麗って言える?

 ふつふつと湧き上がってくる感情を、幼い私は制御出来なかった。


「他人事だと思って、よく言えるよね」

 一瞬の間を置いて、その子はぱっと手を引っ込めた。

「羨ましいなら貴方も染めてよ!」

 艶やかな長い黒髪を持つその子が、羨ましくて堪らなかった。

「そ、それは出来ないよ、髪の毛染めるのにはお金が掛かるもん……」

 私は目を見開いた。あぁ。そりゃ「うん、染めてくるよ!」なんて答えが返ってくるなんて一ミリも思ってなかったけど。

 その後に続く言葉で、私の中で蓄積していた何かが崩れ落ちた。


「だから、蓮華ちゃんが羨ましい。染めさせてくれるなんて、優しいお母さんだね」


 え?

 ん?

 は?


 一瞬その子が何を言っているのか分からなくなった。

 でもそれを理解した瞬間、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる「今まで我慢してきた悲しみ」。

 私、今まで何を我慢してたの? 何も知らない人達が、勝手な想像で私やお母さんを傷付けて。どう考えてもあの人達が悪いのに、どうして私やお母さんが泣いて、我慢して、傷付かないといけないの???


 悔しくて悔しくて、笑いが込み上げてきた。

 でも笑わない。

 私、きーめた。


「は? 脳天気な事言ってんじゃねーよ」


 皆が私を「不良扱い」するんだったら、本当に不良になってやる。

 もう我慢なんてしない。皆が思った事を言って有る事無い事広めるんだったら、私だって思った事全部言ってやる。


 傷付く前に、相手を傷付ければ良いんだ。


 その日から今日まで、私は不良少女を演じている内に、本当に性格が悪くなってしまった。

 でも、これも全部周りのせいじゃない。

 そう、あんな人達を生み出したり、私をこんな風に生まれさせた『神様』が悪い。

 神様は、幼稚園児の頃神社の祠に行って、何度祈っても、何度願っても、私を救ってくれる事はなかった。


 だから、私は神様を信じない。


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