女の子と謎の生物と季節限定ケーキ
「ひ、ひえええ!!」
外で女の子の叫び声がした。
「な、なに!?」
混雑している店内で僕はお客さんに承諾を得て、外に出た。
「翼!ちょっとの間店よろしく!」
「おう!」
「どうしました!?」
外に出ると、ショートカットの女の子と三つ編みの女の子がおろおろしている。
「ち、小さい!小さいのおお!あわわわわ」
ショートカットの女の子が僕に泣きついてきた。腕には何かが抱かれている。
よく見れば、三つ編みの女の子も似たような何かを抱いている。
……爬虫類……?
「あ、あの、落ち着いて?何があったのかは僕が聞くから、一旦僕のお店においで」
「……お兄さん、お店やってるの?」
三つ編みの女の子はしばらく呆然としていたけど、僕の言葉には反応した。
「うん、とりあえず、そこのテラス席で待っててもらえる?」
僕は彼女たちをテラス席に案内して、一旦店内に戻る。
「秋人なんだった?」
「……よくわかんない。また話聞いてくるね」
僕はハチミツ入り紅茶を二人分入れて持っていった。
「ねえレニィどうしよう……ここ全然どこだかわかんないよ……?ジェイルもビオールさんも小さいし……」
「聞いてサニィ……私、今……魔法使えないのよ……」
「えっ!いつから!?」
「えっ!?魔法使えるの!?」
僕の声に二人は振り向いた。ははん、わかった、ていうか確定だ。この子達は別の世界の人だ。
「あ、ゴメンね。紅茶淹れてきたからよかったら飲んで」
「ありがとうございます……」
テーブルの上に紅茶を置く。爬虫類的な何かが2匹、赤いのと青いのがうつぶせの状態で寝ていた。
角、耳、コウモリ的な羽根、とかげ的な手足と尻尾。なんかどっかで見たことあるビジュアルだな……。
「早速だけど、何があったのか聞いてもいいかな」
「私たちもよくわかんないんですけど、気づいたらここにいて。町並みも空気感もちがくて、ビックリしてたら、さらにビックリすることがあって、思わず叫んじゃったんです」
ショートカットの女の子はそう言う。この子はたしかサニィちゃんだ。叫んでたのはサニィちゃんだったんだね。
「その、さらにビックリすることって?」
「あの、実は私たち同行者があと二人いて……」
「うんうん」
彼女の視線が少しずつテーブルの方に向かう。
「でも、姿が変わってしまって……」
「うん???」
視線の先には赤と青の爬虫類的ななにか。
「普段はちゃんとヒトの姿してるんですけど……」
「……」
あっ、なんか僕分かってきちゃったぞ。ていうかここ最近の出来事のせいで順応性が異常に高くなってる気がする。
「……もしかして、この、赤いのと青いのが、そうなの?」
「……!!そうです!!ビックリしちゃって!小さくて!!!」
本来はもっと大きいのか……。
「実際は、どんな姿なの?」
「えーと、今この大きさが大体30センチくらいなんで」
あ、大きさの単位が一緒だ。
「10~20倍くらい」
「デカっ!?」
んん?このビジュアルで、10~20倍の大きさ???
「ドラゴン!!!????」
あーマジかーそう言うパターンもあるのかー……ビックリだわー……
「き、君たちはドラゴン使いか何かなの?」
「え?違いますよ」
あ、そうか。同行者って言ってたな。あれ?そういえばこの子もう1個大切なこと言ってた。
「普段は人の姿ってことは、この姿……っていうか原寸大のサイズでは過ごしてないってこと?」
「はい。レニィ、何でだっけ?」
「本来の姿は魔力使うから、地上だと魔力が足りなくて姿を保てないの。ここはまた違うみたいだけど……」
「……だそうです」
「へぇ……」
とりあえず叫んでた理由もおろおろしてた理由もわかった。やっぱり迷い込んできてるみたいだし、ここは助っ人を呼ぶしかないかな。
「あの……ここって、どこなんですか……?」
三つ編みの女の子―レニィちゃんにおそるおそる訪ねられた。
「うーんとね、君たちが普段過ごしてる世界とは違う世界かな」
「ん??違う世界?天界……とも違うんでしょうか」
「てんかい?んー……違うんじゃないかな。君たちの世界は魔法が使えるんだよね?でもここは魔法なんて無いんだ。ドラゴンもいないし」
「私たちは帰れるんでしょうか?」
「その事なんだけどね、ちょっと今から助っ人を呼ぼうと思って。ちょっと待っててね、連絡してくるから」
僕が店内に戻ると、お客さんは大分はけていた。
「お、秋人。どうだった?」
「うん。また別の世界の人だった」
「マジか。多いな最近」
「……ドラゴン初めて見た」
「へ?」
「小さいけど、ドラゴンだった」
「え、俺もみたい」
翼は目をキラキラさせている。
「じゃあ、お客さんもはけてきたし、席移動してもらおうか。それで、お願いがあるんだけど」
「ハイネか?今の時間なら真もそろそろ帰ってきてるし、平気だと思うぞ」
「うん、じゃあ呼んでもらえる?」
「ちょっと待ってろ、すぐ呼ぶから」
僕がテラスに戻ると赤いのが起きて動いていた。
「動いてるー!!」
(えっ?あ、あの、あなたは……?)
赤いのが話しかけてきた。普段は人の姿をしていると言うだけある。ちゃんとしゃべってる。声の低さ的に男性のようだ。
「申し遅れました。僕はこの店のマスターをしております、村山と申します」
(あ、ご丁寧にありがとうございます。俺はビオールと言います。こんな姿で申し訳ない)
「あっ、そうだ。お店がすいてきたので中にどうぞ」
「ありがとうございます」
サニィちゃんはまだ寝ている青いのを抱いて、レニィちゃんがカップを持っていこうとする。
「あ、カップはそのままにしておいて。また、新しいのお出しするから」
「いいんですか?」
「うん、気にしないで」
ビオールさんはレニィちゃんの真横を飛んでいる。
「……はっ!?飛んでる……!?」
(えっ?俺ですか?そんなに珍しいですか??)
「あっ!すみません、お気になさらず」
飛べるのか……そうだよなドラゴンだものな……当たり前か……
僕が2杯目の紅茶を入れているうちに青い方も目を覚ましたようだ。
(サニィ、ここはどこなの?ていうか、ボクたち何でこの姿?)
「どうもね、違う世界みたい。今、紅茶入れてるムラヤマさんに教えてもらったの」
(違う世界……俺たちがこの姿なのも関係がありそうですね)
ビオールさんは小さな腕を組んでいる。……そうだ。こういうときに母さんが趣味で集めたあれが使えるんじゃないか?
ミニチュアのティーセットに紅茶を入れて、持っていく。若干大きさ合わないかもしれないけどそれは許してもらおう。
(えっ!?俺たちもいただいていいんですか!?)
(わあ、小さいティーカップだね!ボクたちにちょうどいいよ!)
青いのが喜んでいる。ドラゴン勝手に怖いものだと思ってたけど……小さいのはかわいいぞ。
「秋人ー、連絡ついたからしばらくしたら来ると思うぞ」
「うん、ありがとう」
「で?この人たちが今日のお客さんか」
翼が調理場から出てきた。
「……お前、こんなミニチュア集める趣味あったのか……」
「ち、違うよ!これは母さんの趣味!」
翼は小さなカップでお茶を飲む二人(?)を見つめている。が、突然何を思ったのか女の子二人に声を掛けた。
「お嬢さんたち、なにか甘いものが食べたいと思わないか??」
「えっ?」
「お兄さんが用意してやる。なにか食べたいものはないか?」
「え、えーと……」
(あの……俺、これが食べたいです)
答えたのはビオールさんだった。彼は選んだのは今月のおすすめである柿の和風クレープだ。
「……しゃべれたのか……!」
翼は驚いている。そういえば僕は動いてたことに驚いちゃったからしゃべってるのは全然驚かなかったな。
(……変ですか?支障があるならおとなしくしてますが……)
「いえ、すみません。ちょっと驚いただけで。で、あなたお目が高いですね!美味しそうでしょう!自信作なんですよ!!」
(このオレンジ色のフルーツはなんでしょうか?気になります。あとこの、黒っぽい、紫っぽいなにかはいったい……)
「それはですね……」
翼はビオールさんが気に入ったようだ。スイーツの説明を始めた。
「あっちのお兄さんがスイーツ作ってるのね。……どれも美味しそう。でも私たちお金持ってないわ……」
(そうだね……ボクたち見回りの帰りだったもんね……手ぶらだった……)
レニィちゃんと青いのがしゅんとしている。
「お金のことは気にしないで。好きなもの頼んでいいよ」
「でも、悪いです」
「うーん、じゃあひとつは柿のクレープを頼むとして……もうひとつなにか頼んでいいよ。ひとつなら、あんまり気にならないでしょ?」
「ムラヤマさんもこういってくれてることだし、3人でなにか決めて頼もうよ」
サニィちゃんがメニューを開く。3人は悩み始めた。
僕はその間、まこまことハイネくんを待つ。今店内にいるお客さんは別の世界のあの4人だけだ。
片付けをしながら窓の外を眺めていると、ふたりがやって来た。が、何やら様子がおかしい。
「ハイネー!!なんで、そこで止まるのー?!」
「やだー!恐いー!」
ハイネくんがお店の中に入りたがらないようだ。とりあえず僕は店の外に出る。
「どうしたの?なにか変?」
「あ、あきぽん!ハイネがここから動かないの!」
ハイネくんは扉の横にしゃがみこんで動かない。
「ハイネくん、どうしたの?」
「大きいのいるでしょ?食べられそうで恐い」
「大きいのって?」
「角が生えてて、つめが鋭くてバサバサ飛ぶの」
「……いないけど」
「えっ?」
たぶん、ドラゴンのことをいってるんじゃないだろうか。確かにあの二人には角も生えてるし、飛んでるところは見た。爪は見てないけど……でも、小さい。
「ハイネくんが言ってるのに限りなく近いのは確かにいる。でも、小さいよ?」
「え、え?」
「なんかおもしろそうなのがいるってことだよね!ハイネ!私先にいってるね!」
まこまこはハイネくんを置いて店の中に入っていった。
「ハイネくん、置いてかれちゃったけど、どうする?」
「……なんで?大きくないの?」
「うん、本来の姿は大きいって言ってたけどね。今30センチくらいだよ」
「……じゃあいく」
ハイネくんをつれて店内に戻ると、柿の和風クレープとチーズケーキがテーブルに運ばれていた。ビオールさんが小さく切ったクレープを幸せそうに食べている。
「ほんとだ、小さい……」
(あんまり小さいって言わないでよー。ボクたちだって好きで小さい訳じゃないんだよ?)
青いのはチーズケーキを食べながら、ハイネくんに文句を言っている。
「……そっか、俺が呼ばれた理由はこの人たちを帰してあげるってことだね?」
「うん、そういうことだ。ハイネ、頼むな」
「ビオールさん、クレープもらっていい?」
(どうぞ。かわりにチーズケーキを少しください)
4人はふたつのスイーツを少しずつ分け合っている。
「へー……ドラゴンか、初めて見たなぁ……」
まこまことハイネくんはカウンター席に座っている。
「普通ならドラゴンなんて見る機会一生ないと思うけど……」
「俺もそう思う」
そんな会話をする中、ハイネくんだけなんだか不思議そうな表情をしている。
「確かに大きい感じしたんだけどなあ?」
「気のせいじゃないのか?」
「違うもん」
ハイネくんが少しふてくされてしまった。
「おいしかった、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さま」
「かき?のクレープとても美味しかったです!!」
「そう言ってもらえると嬉しいな。なんてったって今月のおすすめで自信作だからな!!」
彼女たちの言葉に翼は満足そうに頷いている。
「早速なんだけど、帰るにあたって、ここに来る直前のことを俺に教えてほしいんだ」
(俺たちは彼女たちの仕事の手伝いで町の見回りをしてました)
(終わりの時間に近づいてたから、最後に裏路地の見回りをして帰ろうと思ったら、なぜかここにいたんだ)
「突然町並みが変わって驚いていたら、ジェイルとビオールさんが小さくなって転がってたんです」
「それで私が叫んでムラヤマさんがきた、という感じです」
ハイネくんの質問に4人は順番に答えてくれた。
「なるほど。入り口は裏路地だね。じゃあ、行こうか!」
「えっ、あの!もうっ!?」
(ボクたちの分までお茶出してくれてありがとう!美味しかったよ!)
(クレープも、チーズケーキも、とても美味しかったです)
「色々とありがとうございました!!」
ハイネくんは立ち上がり、4人を店から連れ出していった。
「……ドラゴンて、しゃべれるんだな」
「……最近、もうなんでもありなような気がしてきたよ」
僕と翼はテーブルを片付けながら、ハイネくんが戻るのを待つ。
まこまこは自分で頼んだ柿のクレープを食べている。
「別の世界かー。どんな感じなんだろうね」
「こことは確実に違うだろうな」
やがて、ハイネくんが帰ってきた。
「ただいまー!」
「ハイネお帰り!」
「あのね!イケメンだった!!」
「ん?」
ハイネくんの戻って早々のイケメン発言。どういうことだろう。
「赤い人と青い人!イケメンだった!!二人とも背が高くて!なんで俺あんなに怯えてたんだろう!!」
ハイネくんは普段の姿のあの二人を見たってことか。あ、そうだ。
「ハイネくん、ハイネくん自身の姿は?猫になった?」
「あー、うん、なったなった。ニルスの時もそうだったから変身状態保てないのかなー」
なんか法則分かってきたかもしれない。他の世界だともとの姿に戻っちゃうってことなんだ。あの二人もしかり、ハイネくんしかり。
まさかの、姿の違うお客さま。今度はどんな姿の人が訪れるのだろう。