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行き倒れの青年とガーリックライス

開店時間になった。看板を出そうと外に出ると、男の人がうつ伏せに倒れていた。

「だっ!大丈夫ですか!?」

僕が急いで駆け寄ると彼は小さな声で呟いた。

「腹……へった……」

「へっ!?」

彼は気を失ってしまったようだ。僕は翼に手伝ってもらって彼を店内に連れてきた。


「行き倒れか……こんなところでか?」

「う~ん、確かにこの人腹へったって言ったんだよね」

行き倒れの男の人は今はソファに寝かせてある。

「まあ、なんか作ってくるわ。……そうだな。食欲の出るものの方がいいだろ?」

「うん、よろしく」

翼は調理室に入っていく。僕はこの人をほっとくわけにもいかないので、目が覚めたときのために水を用意して見守り体制に入る。硬そうな毛質だなー。ボサボサだし。なんかめんどくさいから自分で切りました感もあるし、めんどくさいからしばらく切ってません感もする髪だ。髪にも気を使ってあげないと将来ハゲるぞ。

それにしても……厨房からいい香りしてきた……。翼なに作ってるの……?ガーリックな香りする……。

「ん……」

香りに刺激を受けたのか、彼が目を覚ました。何度か瞬きしてもそもそと起き上がる。

「あ、だいじょうb」

「……お前、誰だ?」

目が覚めて早々にそれか。

「……あのさ、僕、これでも倒れてた君を介抱してあげた人なんだけどな」

「……そうか、悪い。で?お前は誰なんだ?」

「……」

僕はたぶん複雑な表情してたと思う。

「……ああ、自分から名乗るべきだったな。俺はトウヤ。介抱してくれたことには感謝する。ありがとう」

察してくれたのか、彼は素直に名乗ってくれた。

「あ、うん、いいよ。僕は村山秋人。この店のマスターだよ。で?どうして店の前に倒れてたの?『腹へった』って言ってたけど」

「その言葉の通りだ。旅をしてたら突然景色がかわって、困ったことに空腹で動けなくなった」

「へー。とりあえずもうちょっと待ってもらえればご飯出てくるからそれまで我慢してもらえる?」

「ああ。すまない」

旅か。一人旅かな。空腹で動けなくなるほどってことはお金持ってないのかな。


少し待っていると翼が料理を完成させて持ってきた。

「お待たせ。あ、起きたんだな。大丈夫か?」

翼はトウヤくんの前に料理を置きながら声を掛ける。

「ああ、ご心配をお掛けした。ありがとう」

彼の前に置かれたのはガーリックライスとミネストローネ風のスープだ。

「腹減ってるんだろ?おかわりも用意してあるから目一杯食えよ」

「いただきます」

目にも止まらぬ早さでスプーンが動く。そんなにお腹すいてたのか。そしてトウヤくんは左利きらしい。

「……うまかった。ごちそうさまでした」

「ああ、お粗末さま」

翼は満足そうに頷く。翼のご飯は美味しいからな。翼も自分の作った料理を美味しく食べてもらえて嬉しいだろう。


「……ところで、訪ねたいんだが、ここがどこなのか教えてもらえないだろうか」

「ん???」

なんかつい最近別の人にそんなこと聞かれた気がするぞ???

「気づいたらこの町の中にいたんだ。……場違い感がとてつもなかった」

「……そういえば景色が変わったって言ってたよね。変わる前との違いって何なの?」

「道が整備されているし、建物がきれいだ。あと、車が多い」

「……君の住んでいるところはここよりも田舎なのか……」

「田舎?いいや、都会の方だった。車もここを走っているのはカラフルだな」

「……なあ、秋人。こないだ真たちが来たときに別の世界うんぬんって話してただろ?」

「うん。えっ?!」

翼ももしかして察しているのではないだろうか……?トウヤくんの正体について……

「別の世界?……確かに、突然景色が変わったときに異世界に飛ばされたんだとしたら納得がいく……」

トウヤくんは翼の言葉に頷く。

「お前別の世界の人間なんだな?」

「今の状況を総合するとそうなるんじゃないか?」

「意外とすんなり受け入れるんだね」

「否定したってしょうがないじゃないか。ただ、別の世界だとすると帰り方がわからないな」

「翼、ハイネくんは?」

「今日は朝から猫集会だって言ってた」

「そっか……」

「……まあ、俺は元々ふらふら旅してるだけだからそのうち帰れればそれで良いさ」

トウヤくんはなんとも楽観的なことを言っている。君はそれでいいのか。

「さて、長居してもしょうがないからな、美味しい飯も食わせてもらったし。あ、飯代」

トウヤくんは立ち上がる。……ていうか、ほんとにいいの!?君この世界の人間じゃないだろ!?平気!?大丈夫なの!?

「いいよ。旅の途中なんだろ」

「そういうわけにはいかない」

トウヤくんはポケットをゴソゴソあさり、小銭を出す。

「お?」

700円出てきた。

「……おや……?」

トウヤくんはここに来てから一番のふしぎ顔で僕を見た。

「ん?どうしたの?」

「違う……」

「なにが?」

「俺の知ってる金じゃない……」

僕はもう一度テーブルの700円を見た。

「700円だけど」

「ななひゃくえん……」

トウヤくんは小さく呟いて急いで財布を取り出す。

「おおお!!違う!!」

「お前結構金持ってるな」

「……わかった、わかったぞ……」

さっきからトウヤくんは挙動不審だ。あんなに落ち着いてたのに、すごい時間差で衝撃が来てるみたいな感じになっちゃってる。

「この金はこの世界の金なんだな!?」

「うん……あっ、だからそんなにおどろいてたのか!」

トウヤくんの世界とはやっぱり通貨単位が違うのか。トウヤくんのお財布の中身が日本円になってるってことは……何て都合のいいシステム。

「はー……ビビった……。そういうことか……」

トウヤくんはため息をついて座る。そりゃ疲れるよね……いきなり財布の中身が変わってたら。

「よし、これならこの世界でもしばらく過ごせるな。お騒がせした。俺は本当にそろそろ出かける」

トウヤくんは素早く気持ちを切り替えて再度立ち上がった。

「この……ななひゃくえん、は受け取ってくれ。足りるかは分からんがお礼とお詫びだ」

「わ、わかった」

トウヤくんはそう言って店を出ていった。……なんか、いろんな意味で不安。


「翼、トウヤくんは大丈夫かな?」

「さあな、でもしっかりしてそうだったから平気じゃないか?」

「まあ……そうだね」

心配しても仕方がないか。


僕たちと変わらないようで少し違うお客様。今度はどんな人が来るんだろう。

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