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第6球 傲慢な魔女

 翌朝近衛騎士団長のおっさんに文字通り叩き起こされて、修練場へ向かわされた。そこで、昨日選んだ装備を身に着けての訓練を行ったが予想以上にきつかった。午前中はひたすら走り回されて、午後は選んだ武器別に基本的な動きを教わった。へばっている人は多かったが、老若男女問わず全員が1日訓練をやりきった。これも神に与えられた能力【健康】の効果なのだろうか?


「あーしんど……」


 体は疲労していたが、今日もお飾りから情報を得なければならない。何とか頑張って部屋の前へたどり着くと、予め決めていたノック4回の合図で滞りなく部屋の中へ入った。


「一日訓練ご苦労様」

「えぇ、何とか」

「お疲れの中悪いが、今日も昨日と同じ形式で説明させてもらう」

「“はい”」


 体力的に厳しいし、ちょうど良かったな。でも、途中で寝ないように気を付けねば。


「今日は私と君の左手に付いているこの腕輪についてだ。これについて何か耳にしていることはあるかい?」

「“いいえ”」


 そうそうこっちの世界で目が覚めて気が付いたら腕にあったやつ。これ何なんだ?


「兵士たちは異界人であることを分かりやすくするための物だとか言っているが、これはそんなものじゃない」


 へ?


「これは形は普通と異なるが、奴隷の腕輪だ」


 は?奴隷の腕輪?冗談でしょ?


「奴隷を奴隷として扱うには本来なら奴隷の首輪、奴隷の腕輪、奴隷の足輪が必要になる。しかし、一時的な懲罰のように、対象に対して少しだけ強制力を使いたい場合には、首輪、腕輪、足輪の内1つ身に着けさせればいい。3つ全て身に着ける時は契約が必要で奴隷の同意が必要だが、内1つそれも、片側だけとなると契約も同意も要らないらしい」


 てことは俺は異世界に来て直ぐに奴隷になったってこと?ひでーよ!あんまりだよ!なんてこった!


「腕輪の効果によって私たちは主人に敵対する意思が起こりにくくなっているし、命令には強くはないが強制力がある。今のところあの近衛騎士団長が主人だな。」


 今日の訓練で誰も脱落しなかったのはその辺が原因っぽいな。文句や不平は皆あったけど、それを剥き出しにして逆らおうなんて雰囲気は一切なかったからな。


「他にも効果があるようなのだが私はこれ以上情報を持っていない。すまない」

「“いいえ”」


 なんかここに来て「“はい”」「“いいえ”」だけで話すのちょっと楽しくなってきたな。


「では、次に討伐の対象である魔女についてと魔女を狙う理由についてだ」

「“はい”」


 この間何か言ってたな?ビッグなんちゃらがどーとか。


「魔女は通称”Big Hex(ビッグ・ヘックス)”<傲慢な魔女>と呼ばれていてな。もう何百年も昔からずっとある森の中の城にいると言われている。兵士達曰く、とんでもない化け物らしい。触ったものは全て灰になるとか、口からは常に血が滴っているとか、目を見ただけで体が石になるとか色々と噂が絶えない」


 へー。何百年も生きる魔女ねぇ、大層な通り名まで付いちゃって異世界っぽいな。つーか噂の方怖いな。どんな化け物だよ。


「そして、この魔女を討伐する目的だがこの魔女の心臓が強力な武具防具の材料になるらしい上に、血も不老不死の薬の原料になるとかで辺境伯が熱心でな。王族に献上して更なる地位を狙っているみたいだ」


 あーそら躍起にもなるだろうなぁ。不老不死なんて王族からしたら喉から手が出るほど欲しいものだろうし、あの辺境伯も成金趣味を見るに権力欲もあるんだろう。


「だがもう何十年と兵や私達のような異界人等を派遣しているが、成果はほとんど皆無らしい。城の中からお宝の類を持ち帰った話はあるが、魔女の討伐に成功した話はないらしい」


 ん?それって魔女の心臓や血に確実な価値があるかは分からないじゃん。まぁ何十年もチャレンジしてるし引くに引けないってのもあるんだろうなぁ。それにそこまで期待してる訳じゃないだろう、きっと地位を得るために他の手段も講じてるだろうし、真実だったら儲けもんってくらいじゃないかな。


「私が3年前参加した討伐では大した戦果はなかった。最も我々のような異界人と呼ばれるような存在は、6人しか居なかったがね」


 6人?今回呼び出された人の1/3もいなかったのか。召喚される人はランダムなのかね?その辺のシステムどうなってるんだろうな。


「魔女についてはこんなところだ。最後に私がこの世界に来てからについて話してもいいかな?」

「“はい”」


 あまり興味がないが、最後って言うんだから聞いておこう。この時の俺はそんな軽い気持ちでこのお飾りのおじさんの話を聞こうとしていた。またくだらない自分語りだったら嫌だなぁとか、そろそろ自分からも質問がしたいとか余計なことで頭の処理能力を割きながら。 

 


 後で思い返すと俺はこの時、もう少し真剣におじさんの話を聞いてあげても良かった。だって、この話を最後に結局、このおじさんの話は永遠に聞けなくなってしまったのだから。

誤字脱字等御座いましたらお手数ですがご連絡いただけると幸いです。

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