第3球 メモ
俺は少し悩んだが、武器に片手剣、防具に皮の鎧を選んだ。動きづらいのは嫌だったし、痛いのはもっと嫌だったので、なるべく攻撃を避けるスタイルにしようと思ったからだ。
装備を選び終えると最初に目覚めた部屋に帰らされた。部屋に着くと食事は適当な机の上に固めのパンと温いスープが置いてあった。
あまり食事に拘るタイプではないが、異世界に来てずっと扱いが雑だったので、若干食事には期待してしまっていた分、またちょっと凹んだ。
だが風呂に入れたことはありがたかった。なんかもう心身共に疲れていたからすごい勢いで癒された気がする。異世界に来て早々に風呂に入れるとは得をした気分になれた。しかし、部屋別での入浴だったようで俺はまた同じ境遇の人と接する時間がなかったのは残念だった。
風呂を上がって部屋へ帰ろうとすると廊下の十字路で俺と同じような……いや、格好は似ているが大分くたびれたおじさんとぶつかってしまった。
「すみませんぶつかってしまって」
「こちらこそ大変失礼いたしました。どうかご容赦を!」
いきなりスゲー下から来られてしまった。土下座かよ。こっちはよろけただけで、おじさんには尻餅付かせてしまった手前、罪悪感がキツい。
「いえいえ自分は何ともありませんので、どうかお顔を上げてください」
「どうか、どうかお慈悲を!」
「いやいや、本当に自分は何でもないんで」
土下座を辞めようとしないおじさんの手を引っ張って強制的に立ち上がらせる。見た目より更に軽い。年齢は40歳後半だろうか?あまり健康状態が良くなさそうだ。あっ、やっと目が合った。
「あれ?もしかして貴方はここの兵士の方ではない?」
「あぁはい、そうなんですよ。信じてもらえないかもなんですけど他の世界から来まして」
おじさんの目の色が変わった。さっきまで恐怖一色だったのに、今度は目に憐れみが混じる。だが、それもすぐに変わった。今度は何かを決意したような目だ。
「君今一人かい?同室の方は?」
「えーっと、何故か自分だけあぶれちゃってまして、一人なんですよ」
「つまり、部屋でも一人だけと?」
「えぇそうなんです」
「君は日本人?」
「えぇ」
おじさんは今度はぶつぶつ独り言を言い始めた。他にも接触を試みるべきかだの、一人の方が都合が良いだの、今しかないだのと、どんどん自分の世界に入っていった。
俺は当たり障りないことを言ってその場を立ち去ろうかと思い出したところで、おじさんは紙に何か書きだし、書き終えると俺の手を握りながら、さっきとは打って変わって笑顔でしゃべりだした。
「いやぁ大変失礼しました。申し訳ない是非お詫びさせてほしい」
「いや、たかがぶつかっただけのことで」
「とんでもない!これからあの”Big Hex”を討伐に向かわれるお方に失礼をしたのです」
ん?ビック何だって?まぁいいやこの場を切り抜けよう。
「自分は何ともなかったですし、むしろそちらに怪我はありませんか?」
特に頭とか。
「全く問題ありません。是非に今夜自分の部屋で改めて謝罪させてください」
うわー怖くなってきた。
「あのちょっと困るんですけど……」
「私は部屋で準備しますので2時間もしたらこのメモの部屋までお越しください」
「ですからあの」
「では、お先に失礼させていただきます」
最初の印象は何だったんだって思うほどのマシンガントークだったな。人間の豹変ぶりって近くで見るのマジで怖いわ。
つーか2時間後って完全に夜じゃん。知らない建物の中を夜に歩くのって抵抗あるんだけど……今のうちにトイレの場所探しておかなきゃな。それに、時計もないから今から2時間後なんて言われてもなぁ。しかも、やばそうなおじさんってことを差し引いても、初対面の人と差しで個室で会話とか人見知りにはハードル高いよ。
よし!自分自身に対する言い訳完了!
おじさんには悪いけどもし次会ったら疲れて寝たことにしよう。このメモは部屋のゴミ箱にでも捨てよーっと。
「おっとっと」
ゴミを目の前に落としてしまった。イケナイイケナイ、ちゃんと拾ってゴミ箱に捨てなくてはダメだ。
某有名人が言っていたのだ『ゴミを跨ぐな』と。ちゃんとゴミだと認識しているから跨ぐのだから見て見ぬふりをするなという感じの理由だったと思う。
その言葉に感銘を受けて以来俺はゴミだと思ったものは拾うことにしているのだ。
「え?」
拾ったゴミ……いやメモを見て一瞬時が止まった。心臓の音がうるさい。脈が明らかに早くなったのが分かる。
メモには、あのおじさんの部屋の場所の説明がわざわざ異世界語で書かれていたのだが、それだけなら気にも留めなかっただろうし、逆に説明が日本語だけで書かれていても同様だっただろう。そのままメモはゴミ箱へ行き、燃えていたはずだ。
異世界の言語で書かれた説明とは別に、こんな言葉が日本語で書かれていなければ
[君達をこの世界に召喚したのは私だ]
ちまちま投稿を見直してるんですが、見るたびに粗が見つかって修正しています。申し訳ありません。
プロローグで主人公の名前最初と最後で異なっているのを見たときは頭を抱えました。
誤字脱字等御座いましたらお手数ですがご連絡いただけると幸いです。