第2球 特殊能力
お姉さんに無視されてから少しすると、あのおっさんが部屋から出てきた。
「最後は貴様だ。とっとと部屋へ入れ」
そそくさと部屋へと入る。また怒鳴られるのは面倒だからな。
「それで?貴様の特殊能力は?」
カリスマ?あぁなんだっけ確かあの自称神がくれたやつのことか?えーっと確か……
「確か【健康】と【言語理解】だったはずです」
「貴様ふざけているのか?そんな特殊能力聞いたことがない!」
「は?」
「やはり切り捨てた方が良いようだな」
ふざけている?こっちは真剣だよ!自称神が管轄外だって言ってお前が望む様な能力は貰えなかったんだよ!俺だって欲しかったんだぞ……。つーか自分が知らないからって全否定とかマジで老害だな。
騎士っぽいおっさんが青筋を浮かべて剣に手を伸ばした時、さっきまで俺を無視していた修道女のお姉さんが口を開いた。
「近衛騎士団長様申し訳ありません。この者は目覚めてすぐに謁見の間へ向かった為、一切の説明をしておりません」
「何?」
「ですので特殊能力や召喚の目的等も分からないはずです」
「そうかそうだったのか、ありがとう。……貴様それをさっさと言わんか!」
お前は何を言ってるんだ?俺は超能力者か何かか?何でそこまで察してやらなきゃなんねーんだよ!お前は俺の彼女か?……彼女なんて居たことないけど。しかも露骨にお姉さんに対しての態度と俺への態度を変えやがってこの野郎。
「仕方ない、私自ら説明してやろう。聞き逃さないように」
「分かりました」
そしておっさんは滔々と語り始めた。おっさんの話はだいたいこんな感じ。
曰く、召喚された者は自分が他人よりも優れていると自負している何かが1個と、他人よりも優れている何かが1個あるいは2個が、この世界で特殊能力として昇華されるらしい。つまり最大3個の特殊能力を得ることになるが、多くの人が2個であるらしい。
曰く、自身にどういった特殊能力が宿っているかは教会で簡単に教えてもらえるそうだ。今回は略式で特殊能力の判別だけをするために修道士や修道女を派遣してもらっていたらしい。
曰く、辺境伯の領土から少し離れた誰のものでもない土地に悪辣な魔女が住んでいてそいつを倒すために俺達は召喚されたみたいだ。なんでも魔女の心臓には大層な価値があるらしく、打ち取った者には地位や名誉が約束されているらしい。
他にもおっさんはべらべらと喋っていたが、大体が過去の自慢話だった。本人はさりげなく仄めかしているつもりなのかもしれないが、自慢話の時は声の色が全く違った。しかも不愉快なことに、必ず自分より劣った人の話を出してより自分を誇張してきたのだ。本当に俺の元クソ上司とそっくりで最悪だった。
「……とまぁこんなところだ。理解できたか?」
「はい、ありがとうございました」
顔に笑顔を張り付けてお礼を言う。ここであからさまな態度を取ると、さらに気分が害されるのは目に見えていたからな。おっさんは所々自慢話を大げさに驚いて見せたり、褒めたりしたお陰か機嫌を良くしていた。
「では修道女よ、【鑑定】をお願いする」
「畏まりました」
彼女は小さなナイフを取り出して俺に渡した。
「どこでもいいので軽く切ってください。そして、血をこちらの十字架の水晶へ吸わせてください」
「分かりました」
どこを切ろうか迷ったが、左手の薬指を軽く切った。一番使わなそうだしね。そして、水晶に血を吸わせてお姉さんに十字架を返す。
お姉さんは左手にパピルスっぽい紙、右手に十字架を持ち胸の前で握って唱えた。
「【鑑定】」
水晶から光が飛び出すとパピルスに文字が刻まれ始めた。おぉーすげーなファンタジー感をやっと実感できたな。これが魔法か。
「こちらが貴方の特殊能力になります」
手渡されたパピルスには知らない文字が刻まれていた。読めないと思ったが、なぜか理解できた。ちゃんとあの自称神は仕事してたんだな。
上原優悟
特殊能力 【超集中力】 Lv?
【観察眼】 Lv?
【超集中力】と【観察眼】?なんかすげー地味だな……。おっさんの話だと自分が他人よりも優れていると自負している何かと、他人よりも優れている何かが特殊能力になるんだったよな。確かに集中力には自信あったから自負してる何かのほうか。だとすると他人よりも優れている何かが【観察眼】か?パッと根拠が思い浮かばないな。
何が昇華されたんだろうな?虫とか生き物の観察が好きだったわけでもないしなぁ。趣味は人間観察ですとかそんな人間じゃなかったし。う~んと観察、かんさつ、カンサツ。他人よりも優れている何かなんだよな。嫌だぞもし無自覚に俺が人間観察に特化していた人間でしたとか……。
あとは?になっているLvは何なんだろう?
それに【健康】と【言語理解】は特殊能力扱いじゃないのか。
思考の沼に沈みかけていたら痺れを切らしたのかおっさんが口を開いた。
「で?貴様の特殊能力は何だったんだ?」
「【超集中力】と【観察眼】でした」
おっさんは俺からパピルスを奪い取って続けた。
「【超集中力】は他にも何人か居たな、過去にもチラホラいたようだ。だが【観察眼】は知らんな聞いたことがない」
【超集中力】はありふれてんのかぁ。まぁそーだよなぁ、自負する人も多そうだし、無自覚でも人より優れている人って多いだろうしな。でも【観察眼】は聞いたことがないと来たか!異世界ものだと聞いたことがない能力って超レアなのが鉄板じゃん!しょぼいのかと思ったけど、これは期待できそうだな!
「貴様は異界で人間観察が趣味だったのか?」
こいつぅぅ!腹立つけど言い返せる根拠がない。諦めよう。
「いやぁ、そんなつもりはないんですが……」
「【観察眼】なんて名から察するに大したことはないだろう。凄い観察ができたところで何の役に立つと?」
「そぉですね……」
「まぁどうでもいいか。精々他の召喚された者共の足を引っ張らないよう気を付けろよ。後は置いてある装備から適当に好きなのを選べ」
特殊能力の鑑定なんて異世界もの序盤で一番胸躍るイベントをぶち壊された俺は、軽く死んだ目で装備を物色した。
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