プロローグ 後
いったい何が起きた?
ここはどこだ?
俺は飛行機に乗ってアメリカへ向かっていたはずだ。
この目に映るのは飛行機の内部のはずだ。それなのに目の前に広がるのは暗闇。暗闇なのに遠くまで見通せているという奇妙な感覚に目がおかしくなったのかと、目を一度強く瞑って目頭をマッサージしてみたが効果は無い。
さらに現状の不可解な点に気が付く。俺はおそらく空の上で事故にあったはずだ、こんな非常識な空間にいるというのは考えられない。どういうことかと思考が深くなり始めた時、突然背後から声が聞こえた。
『もしも~し?聞こえてるぅ?』
誰か居るのかと振り向くとそこには誰も居なかった。少年か少女か分からないが、無邪気な温かい声が聞こえた気がした。幻聴か、やっぱり頭がまずい事になったのかと頭を抱えそうになったが、また声が聞こえた。
『ねぇ~。振り向いたのなら聞こえているんでしょ~?聞こえてるなら返事してよぉ~』
「え?」
目の前から声が聞こえた。目を凝らそうが、手を伸ばそうが目の前には誰も居なければ何もないというのに。
『ん~。ちゃんと聞こえてるっぽいからいいかな?時間もないし説明しちゃうね』
「は?」
『貴方はこれから異世界に召還されるとこなんだ。だけど何の説明もなく別世界に召還されるのもかわいそうだからさ、こうしてボクが出てきたんだよ』
「え?」
いきなり何を言っているんだ?異世界に召還だぁ?
そんなのは漫画とかラノベとかゲームとかアニメとかファンタジーの中の話だろう?そういうのは好きだけれどさぁ……こっちは圧倒的に現実だってーの。神はいないし、魔法だって存在しない。幸せなんかは売り切れで、あるのは理不尽に不合理に、不愉快ばかりが棚に並んでる。それが世界で、現実じゃんか。
『う~ん、ボク達も頑張ってるんだけどねぇ~。貴方のような人が沢山いるっていうが実情かぁ…まぁともかく貴方はこれから異世界に行くことになるんだ。剣と魔法の世界だよ!』
「は?」
『えぇっと…貴方さっきから「え?」と「は?」しか言ってないけど大丈夫?ちゃんと着いてこれてる?それとも語彙が乏しいの?』
「あ?」
少年?少女?に煽られた…
『う~ん、やっぱり一方的に説明しちゃうね。質問があれば受け付けるから最後まで良く聞いてね。言ったと思うけど時間がないんだ』
「あ、はい」
時間がないってどういうことだ?
『大丈夫そうかな?続けるね。貴方はこれから剣と魔法のファンタジーな世界で生活貰います』
落ち着け俺、冷静になれ。完全に今は常識の外だ。夢なのかもしれないけれど、これが本当に現実だった場合適応しないとマズイ事になる。俺は飛行機事故?の所為で異世界に行くことになった。そこは剣と魔法の世界で、おそらく今まで生きてきた常識が通用しない。
OK、OKだ。ここまでは、飲み込んだ。さぁお次は?ドンと来い!
『以上でっす』
おいコラ俺の覚悟を返せ
『まぁこれ以上は異世界で説明して貰えるでしょう。ってことで行ってらっしゃ~い』
「ちょっと待て!待って!」
『えぇ?時間ないって言ってるじゃん』
「さっきまでこれから重要な事を話しますって空気作ってたじゃん!以上ってなんだよ!」
『いやぁ……説明すんの飽きちゃった』
「うわぁ……」
コ、コイツ声のイメージ通り子供かよ!
『失礼な!子供じゃないよ!ボクは貴方達の言うところの神様ですよ!』
「えぇ……」
それはそれで引くわ、ていうか思考を読むなよ。
『この説明するは貴方だけじゃなくってさ、許してよ。さっき言った通り質問にはできるだけ答えるから。でも、本当に時間はないからできるだけ早くお願いね』
「分かりました」
さっきから時間はないって言ってるし質問は多くはできなさそうだ。そうするとここは漫画やラノベのテンプレに沿った質問をしよう。下手に考えても時間が勿体無い。
「剣と魔法の世界って言ってましたけど、あれですか?魔王とかが居てそれを倒してこいって感じですか?」
『あぁ~居なくはないけど倒さなくても別にいいんじゃない?』
なんでコイツこんなにやる気ないんだ?
「ええっと、じゃあ次です。異世界に行く前に何か特別な能力とか装備を貰えたりってのは?」
『あぁ~なくはない』
何でそんなフワフワした物言いなの?
「じゃあそれを教えてください。どういった能力なんですか?選ばせてもらえるんですか?」
『あぁ選ぶ事はできないよ~。とりあえずボクから貴方へ与えられる物は【健康】と【言語理解】の2つ。【健康】は文字通り体を健康な状態にする事で、【言語理解】は異世界で最大勢力人族との意思疎通を可能にするやつだね。もう既に貴方には処置はしてあるから』
なんだそれ?異世界物って普通チート能力貰って異世界での暮らしを簡単にして楽しくするものじゃないの?
大〇憑きとかザ・〇ールドとかア〇キメデスと兎と〇の法則とかさぁ!?
【健康】と【言語理解】はテンプレに沿っていてありがたいけどそれだけなの?
しゃーない、切り替えていこ。
「ありがとうございます。でもどうして2つだけなんでしょうか?」
『順に説明するね~まず、異世界に転生や転移をするのがボクやボクの上司だったら、所謂チート能力なり装備でもバーゲンセールしちゃうんだけど。貴方達はボクら主導のものではないんだよ』
「は?」
また言っちゃったよ……
『これから貴方が召還される異世界の人間が貴方、厳密には貴方が乗っていた飛行機を貴方の世界から呼び寄せているんです。つまりここは貴方の居た世界と、これから召還される世界の狭間なんだぁ~。その狭間にいる時間を使って、貴方にご説明しているところなの』
つまり自分達とは管轄が違う転移だけど、情けを掛けてくれているってことか?だからそんなにやる気なかったのかよ…
『まぁ手当でるし、結構割が良いんだよこれ』
じゃあもうちょっとやる気出してもバチ当たらないんじゃないかな!?あぁダメか罰を与える側じゃんこのお方…つーか手当てって、俺は貰った事も無いのに!こっちもやる気なくなってきたよ。
「はぁ…分かりました。じゃあ次はですね」
『ごめんだけどもう時間来ちゃった。質問はここまで』
あぁ時間切れか仕方ない、そもそも管轄外の仕事だって言うし、多くを望むのも悪いか。
『これからしばらく休みなんだ。そんでカジノで豪遊するの』
「ふっざけんなぁぁ!神が休暇とってベガス行ってんじゃねぇよ!」
ていうか無邪気な少年?少女?の声でそんな台詞を吐くのやめてください。
『では貴方の異世界での暮らしが良き日々となりますように』
「うっきうきな声で言ってんじゃねぇ!腹立つだろうがぁぁ!」
その言葉を最後に俺の視界は黒く染まり、再び意識を失った。
誤字脱字等のご指摘が御座いましたら是非お願いいたします。