プロローグ 前
ド素人の初投稿です。
宜しくお願い致します。
俺は上原優悟。現在24歳。某企業に勤めていた社畜だった。
そう社蓄「だった」
3ヶ月ほど前に辞めてやったのだ。
大学を出て業界トップの実績を持つ某企業に入社し、これから社会人として頑張ろうと意気込んでいた春。
俺は入社した会社で2度目の春を迎えはしたが桜が散るよりも早く会社から去った。
心も体も限界だったのだ。
3ヶ月の試用期間が終わって直ぐ、会社が謳った[みなし残業時間を超えた分の残業代は支給]という言葉は嘘だったと分かった。
6ヶ月後には、会社の寮へ帰るのが21時を過ぎるのが当たり前で、月の残業時間は60時間を優に越えた。
9ヶ月後には、月の残業時間は80時間を越えたし、辞める直近の2ヶ月は100時間を越えた。
職場で笑った記憶なんて試用期間以降全くない。愛想笑いと苦笑いでただ日々をやり過ごすことしかできなかった。
会社の寮に帰ってもとにかく胃に何か入れて、風呂に入ってちょこっと動画サイトを巡回して寝るだけ。珍しく平日早い時間(とはいっても20時は過ぎていた)に帰れても学生時代のめり込んだゲームに没頭できない。毎週日曜日に体を動かすことも楽しみの1つだったが、それすら億劫になるほどになった。
そんな俺が会社を辞めて1ヶ月後。俺はストレス発散に何かしようと思い立った。日曜日の運動は再開できるようになり、日曜は結構楽しく過ごせるのだが、平日ずっと引きこもっていると社蓄時代を急に思い出して嫌な気分になることが多かったのだ。
兎に角楽しい事がしたかった。できれば嫌なことが忘れることができるくらい強烈なやつ。
そう考えると必要なのはある程度の金と時間だ。
しかし、先月までの俺はただ生きているだけで必要以上に金を使わなかった為、1年しか勤めていないながらもそこそこの貯金があった。会社を辞めてから帰る実家があったこともあり、しばらくは生きていくことに問題は無い。
もちろん時間はたっぷりある。
となると俺のやりたいことは1つ
「そうだアメリカ、行こう」
京都ではない、自由の国だ。
ネズミさんの本拠地があって、女神の像がある国だ。
理由は俺が野球を好きだということに始まる。
社会人になったら仕事終わりに球場へ行って、お気に入りの選手の活躍を応援するのが俺の密かな、小さな夢の1つだった。それを実現させることなく会社を辞めたので、俺はそんな小さな夢を叶える事すらできなかった。
だったらより大きな夢を叶えよう。
大きな夢、それは……
[MLBでホームランボールをキャッチして、そのボールを近くの少年or少女に渡してクールに去ること]だ!
これはあまりにも大きな夢だ。荒唐無稽だ、無茶だと言う人も多かろう。指を刺して笑う人もいるかもしれない。だがチャレンジしたい!挑むくらいはいいじゃないか!
思い立ってから1ヶ月、体調と相談しながら準備をして、さらに1ヵ月後の小暑の平日の午前中に飛び立つことにした。その頃なら利用する便も空港も人で溢れていないだろうし、打者の調子も上がってホームランをキャッチできる確立も少しは上がるだろうと思ったからだ。
そして今、俺は空の上にいる。ここ1年ほど忘れていたワクワク、ドキドキといった感覚に口角は上がりっぱなしだ。幸いな事に、俺の選んだ席の周囲に人は少なく見咎められることもない。
(いやぁ~飛行機に乗るのなんて高校の修学旅行以来だなぁ……あの時は沖縄だったけど今回は海外、アメリカだからかなんか変に緊張するなぁ)
顔でニコニコしながら心の中では緊張気味。我ながら小心だなと苦笑いする。
だがこの苦笑いは悪くない。いい気分で苦笑いが出来るようになったなと良くなった気分をさらに良くしようとスマホを取り出して、動画サイトのアプリを立ち上げる。皆大好きY●utubeである。お世話になってマース。イヤホンを耳に着け、慣れた手つきで操作して望みの動画に行き着いた。
Hな動画ではありません。
MLB外野手のスーパープレー集である。
(いつ見ても良いわぁ~これからこれを生で見れるかも知れない、そう思うだけでテンション上がるわぁ~)
もうニコニコではない満面の笑みである。ガッツポーズのオマケ付だ。
(イ●ローがレーザービームで会社爆破してくれねぇかと思いながら床に就いた日々も遠い昔に感じるなぁ)
暗い過去を掘り返す前に次の動画へ移ろうとスマホを触る。しかし、電波が悪いのかスマホの反応が芳しくない
何度か画面をタップするが、今度は通信さえ繋がらなくなった。
「マジかよ」
思わず独り言が出てしまう。
まぁここは空の上だし電波が悪くなる事くらい仕方ないだろう。動画が見れない程度の事で一々イライラするだなんて、エネルギーの無駄遣いってもんよ。
ここは余裕を持って居住まいを正す事から始めよう。終えたら優雅に紅茶を飲んでから事に当たろうではないか。3ヶ月前の俺とは違うんだぜと鼻を鳴らしながら椅子に深く腰掛けて気が付いた。
――機内の電気が消えている。
「え?」
現状を認識した途端、悲鳴のようなものが聞こえた気がした。気のせいかと思ったが、イヤホンを着けていることを思い出し慌てて耳から引っこ抜く。
すると聞こえてきたのは女性の悲鳴、男性が怒鳴り声、機内に取り付けられたスピーカーから酸素マスクを付けろと機長からのアナウンスだった。
(と、とりあえず酸素マスク着けなくちゃ)
変に冷静な自分を自覚しながらぶら下がっている酸素マスクを装着しシートベルトを確認して席に座る。
(え?え?これ何だ?何が起こった?)
少しでも何か情報を得ようと周りを見渡すが周囲の照明は切れており、足元のスマホの光だけが煌々としている。
(あ?光源がスマホだけ?なんで外まで暗いんだ?)
俺が離陸したのは午前中だし、まだ離陸してから4時間も経ってない。
動画を見始める前は間違いなく窓から光が注いでいたし、窓から雲も海も見たのだ。
疑問に思って顔を窓に向けた瞬間、窓から光が差し込み、機内の悲鳴と怒号の一部が止まる。
そして大きな衝撃と轟音と共に、俺は意識を失った。
誤字脱字等のご指摘が御座いましたら是非お願いいたします。