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真面目にクラスの自由曲をを考えたい僕は書記係りになり、なぜか一々確認される人になりました。

「ねぇ〜、クラス合唱どうするの〜?」


 蒸し暑い教室のせいか、だらしない仕切り役の声までも気だるい感じに聞こえる。いや、提案者も気だるさを感じているのか…。

 そもそも、音を出そうものなら、全てに蝉の声まで混じってくる。

 こんなにクソ暑い中何をやっているのかというと、一ヶ月後に控えた校内合唱コンクールに向けての自由曲を決めいている所だ。


 正直言って、クラス全員の思考が暑さで溶けて蒸発して、ここにはない状態だと思う。


 そして僕は黒板に向かい、提案された曲を黒板に書くという書記係りをやっていた。


「ねぇ、小鳥遊君、あなたはどう思う?」

「う〜ん、俺ら高校生じゃん?男子的には声変わりもしてるから、混声三部だときついと思いま〜す」


 なるほど、消去法か。確かに言っていることは理にかなっている。

 だらしない意見の出し方だが、ちゃんと意見にはなっているな。


「でも、バランス悪くならな〜い?」


 そういうことはどうして僕の方を見るんですかね〜?

 僕、別に意見出したわけじゃないんですけど…?


「書記君はどう思うの?」

「うーん、人数で考えれば四部の方がバランス取れてると思うよ」

「あっ、そ。じゃあ四部で」


 良いのかそれで!?

 僕が何かすごい決定権持ってるみたいになってるけど、良いのか!?


「混声四部で何か歌いたい曲ある人は意見出して〜?」


 ま、まぁ、良いか…。一応、進展はしているし。


「あ、はーい」

「はい、仙沼さん」

「あのー、えっと、ゴスペラーズの『言葉にすれば』とかどうですか〜?」

「えっと、松下耕さん編曲のですよね?」

「はい、そうです!」


 『言葉にすれば』かぁ〜、あれはやりがいのある曲だよなぁー。


「なるほど、書記君の意見的にも良さそうね」


 えっ!?今の聞かれてた!?なぜだ!?


 それとは関係なく事は進行する。


「他にありませんか?」

「はぁ〜い!」

「はい、大崎さん」

「私は、森山直太朗さんの『虹』がいいです!信長貴富さん編曲の!」

「でもあの曲は混声三部ではないですか?」

「混声四部版のものありますよ」


 つい、言葉を挟んでしまった…。


「ふ〜ん、それで書記君。『虹』はどうなの?」

「とてもメロディーが綺麗な曲ですよねー!」

「他にありますか?」


 なぜ、僕に聞いてきたんだろう…?


「他にありませんか?」

「はいはーい、森山至貴さん作曲の『旗』とか、いいと思います!」

「『旗』は、悠然さの中にも一つの決意のようなものを感じられるいい曲ですよねー!」

「聞いてもないのに答えないで!」


 えぇ〜…。今、確実にこっち振り向いてたし、絶対次に「書記君はどう思う?」って聞く流れだったのですが…?

 しかも、『旗』を推薦した人、当ててないのに曲名を出したのですが、それは…。


「他にありませんか?」

「はい!」

「はい、白石さん」

「『酒頌(しゅしょう)』がいいです!上田真樹さんの!」

「なるほど、書記君は…」

「いいですよね〜!合唱を歌うには『酒頌』ぐらいの楽しさがなければね!あ、未成年なので、お酒は飲めませんけどね!あはは!」

「コラッ!まだ、書記君までしか言ってないでしょ!」


 えぇー!書記君、って言った時点で僕の発言を求めているって、言っているようなものじゃないか!なんで僕ばっかり…。


「他にはいませんか?」

「んじゃー、は〜い」

「はい、陸町(りくまち)君」

「三善晃さん作曲の『やさしさは愛じゃない』はどうでしょうか?」

「どうなの?書記君?」


 どうなの?の時点ではまだ正面を向いていたから、完全に不意を疲れた!

 でも、話を振られるってわかってたし。


「いいですよねー!僕達みたいな若者がこういう曲を歌うことに意味があると思います!」

「他にはありませんか?」


 おーい、ちょっと!言わせといてスルーするんですね。


「じゃあ、俺も言う!」

「はい、聡目(さとめ)君」

「『栞』!『栞』が良い!」

「えっと、『栞』というのは、森山至貴さん作曲のですか?」

「そうです!」

「で、どう?」


 今度は二文字で意見を求めますか。

 もう、こちらから何かすることはほとんど諦めてますけど…。


「難易度的にも良いと思います!綺麗ですし!」

「他にはありませんか?」


 なんの確認で僕の意見を求めるのか…これがわかったらノーベル賞ですね。


「それじゃあ、私もー!」


 ちょっとちょっと!何か、言えば得するスーパーのセールでもやっているのか!?何この、良いことが続いているから自分も行くぜ的なノリの雰囲気は!?


「はい、どうぞ」


 あれー!?名前呼ぶこと諦めちゃったよー!そういえば、僕のことでも、「どう?」の二文字だけだったし、これは…面倒くさくなってきてますね!

 クラス内の雰囲気とは正反対だ!


「『なぎさの地球』で!」

「あぁー!あれ良いよねー!木下牧子さん作曲のでしょー!」

「そうです〜♪」


 初めて曲に対してリアクションした!!

 そうなると僕の意見がいらn…


「書記君は?」

「あ、良いですよねー!難しく感じる部分があるかもですけど、歌い上げられればとても綺麗になりますよ!」


 なぜだぁー!?なぜ、僕の意見を求めるのー!?

 っていうか、反射的に答えてしまった!自然に順応してきている!?!?


「はい、他にはありますか?じゃんじゃん出してね〜!」


 え〜!今、面倒くさそうにしてたじゃん!なんで急にノリノリに…そうか!自分の好きな曲を言われてテンションが戻ったのか!くぅ〜!なぜテンションを戻してしまったかっ!!


「じゃあ、次私!」

「はいどうぞ!」


 随分とノリノリになってきましたな!もはや、誰でも自由に提案して良い環境となりました!やったね!


「聡目くんと同じ、森山至貴さん作曲の『受付』が良いで〜す!」

「どういうのなの?」

「えっと、難しい部類に入ると思います。こう、独特の雰囲気がある曲ですね」

「ふ〜ん、面白そうね」


 反応した〜!!

 恐るべき、テンションの上がり方っ!


「はい、それじゃあ、他には?」

「じゃあ俺は、誰も想像のつかないようなところ行くぜ!」

「えっ、なになに!?」

「ダニエル・エルダーさん作曲、『Lullaby』だ!」

「うわ〜!まさかの英語の曲〜!」


 お、珍しく仕切り役を除いて、クラス内での話し合いになってる。

 まぁ、英語だもんな、議論にもなるか。


「どうなの?」

「へ?」

「だから、ダニエル・エルダーさんの『Lullaby』 のことよ!」


 だが、こうなる。どうしてこうなった…。


「えっと、すごく綺麗な曲ですよ。やっぱり、日本語の曲とは一味違いますし」

「はーい、他にはー?」


 もう良いです。好きにしてください。


「うーんと、じゃあ、同じく外国語の…」

「おぉー!なんだなんだ〜!?」


 やけに盛り上がってんね〜…。


「オラ・イェイロさん作曲、『Ave Generosa』なんてどうかな…?」

「え〜!?ラテン語かよ〜!」

「英語ならまだしもラテン語ってマジで言ってんの?」

「はいはーい!提案に関しては文句言わないの!」


 何か、ちゃんと仕切り役がちゃんと仕切っているところ、久々に見た気がする…。


「書記君はどう思う?」

「ラテン語の発音自体はそんなに難しくないですよ!基本ローマ字読みですし!後、スマホでも発音聞けますしね!曲自体も難しくなく、綺麗な宗教曲になってます!」


 そういえばそろそろ、時間が気になるところ…。


「あ、そろそろ時間ね」


 ちょうど、仕切り役の人も気付いたみたいだ。


「書記君、今何曲出たの?」

「えっと、今丁度10曲ですね」

「それじゃあ、この中から決めたいと思いますがいいですか?」

「はーい」


 やっと、決まるのか…。早く席に戻りたい…。


 そして、一曲ずつやりたいものに手を上げていく。要するに多数決だ。

 多数決は三回に渡って行われた。初めは一人の持ち票数が3票、次に2票、そして最後に1票、という勝ち残り方式だ。

 そして、多数決が終わった。




 そしてその放課後、ガラガラな教室の中で一人でいると、仕切り役の人が来た。


「あれ、まだ残ってるんだ?」

「仕切り役さんこそ」

「ちょっと、仕切り役っていうのやめてくれない?」

「え〜、散々僕の事「書記君」って呼んだくせに…」

「え、あれ嫌だったの…」

「そりゃ、僕だって名前がありますし!」

「ごめんなさい、悪かったわ…」

「僕の方こそ、すみませんでした…」


 しんみりとした空気。耐えられず、口を開く。


「「で、名前はなんていうの」ですか?」


 文言は違ったが綺麗にハモった。

 こんなハモり方をクラス全員で出来れば最優秀狙えr…って、えっ?


 お互いの名前、知らなかった、のか…。


「ごめん、私、知らなくて」

「いや、僕の方こそ…」

「私ね、フェリーカ・メデスン、っていうの!よろしくね!」

「僕は、キュラメル・ワイカー、よろしく」


 なんと!僕と同じ外国の名前!?

 偶然、というか、なんかすごい…。


 思えば、僕もメデスンさんもお互いに友達がいないから無理やり曲決めの司会やらされたんだっけ。

 友達がいないもの同士だし、知らないのも当然か。


「あと、曲決めてる時、何度も意見求めちゃってごめんね」

「あー、気付いてたんだ!なんか僕が確認するルールなのかと思ったよ〜」

「なんか、私、ほとんど知らない曲ばっかりだし、クラスの全員の前で正面向くのが怖くて、ついワイカー君の事頼っちゃった…」

「そうだったんだ、僕もびっくりしたよ〜!」


 なるほど、そうだったのか、もしかしてクラスの人はそれを面白がっていたのかもしれない。

 確実に僕に来る確認、「書記君」という呼び名、知ったかをしているメデスンさん、全く人付き合いがない二入はどうコミュニケーションをとるのか、等々で…。

 全ては暑さのせいではなくて、クラスの全員の悪巧みだったのかもしれない。

 そう考えれば、全て合点がいくような気がした。


 と、モヤモヤがスッキリしたところでメデスンさんが口を開く。


「ところで、ワイカー君は何の曲がいいと思ってたのかな…?」


 一瞬、どきりとした。

 ま、まさかね…。だって、多数決して、ちゃんと決めたし、これはメデスンさんの興味本位だよねー?

 うん、間違いない!


「僕は…」


 メデスンさんがじっとこちらを見ている。

 大丈夫、大丈夫だ…。


「千原英喜さん作曲の『手まり』とか、かな…」

「ふーん、そうなんだ〜」

「知ってるの?」

「知らないけど」

「日本風の曲なんだけど、ハモるところがとっても綺麗な曲なんだよねー!結構取り組みやすいし!」

「そうなんだ〜!意見出せばよかったのに!」

「いいよ!恥ずかしいし!」


 お互いに笑いあう。

 なぜだか、内心ホッとしている。

 当たり前の事じゃないか、何を恐れていたんだ、僕は。もう、曲は決まったんだぞ。しっかりしろ自分!


「それじゃあ、帰ろうか」


 メデスンさんの言葉で、僕たちは昇降口へ向かう。

 靴を履き替えようとした時、メデスンさんの動きが止まった。


「どうしたの?」

「…ごめん、やっぱり先帰って!」


 困り笑顔。何か用を思い出したのだろうか?


「私、クラス合唱の曲は千原英喜さんの『手まり』って、担任の先生に伝えてこなくちゃ!」


 えぇええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?

 なんでぇえええええええええあああああああああああああ!?!?!?!?


 こうして僕たちのクラス合唱は『大地讃頌』になった。(なぜだぁあああry)


 Fin.


以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました!


実験的に書いたものではありますが、良ければ評価やコメント等々、是非よろしくお願いします!


それでは、また別の作品にて…。



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