50円玉
例の小説「とある1日の二人」の3話を下書きしている途中に思わず書き上げた一品です。期待せずお楽しみください。
手に取った本を無造作に台に置く。店員は何も言わずにレジに通した。
350円。レジに出た数値である。
私は財布から銀色の4つの硬貨を取り出した。
店員はそれを確認すると、手のひらの上に乗せ一つうなづき……私に50円玉を返した。
これこそが私にとっての不満であり不幸であったのだ。私はあの4枚の中に50円玉があることを確信していたのである。
店員からそれを受け取り、すぐ傍で50円玉を財布に入れるフリをして、私は小銭入れを確認した。端の方に挟まったあの忌々しい銀の穴あき硬貨を見つけたのはそれからすぐのことである。
私は落胆しながら右手の硬貨を小銭入れにしまった。このどうにも落ち着かない店内の喧騒がますます私を不満がらせた。
幸いだったのはすぐ目の前に自販機があったことである。特に喉が渇いたわけでもなかったが、まるで砂漠の中で水を絶たれた亡者のごとく私はそれに食いついた。
ほんの数秒で、永遠のような苦痛を与えた2枚の悪魔は今ここで100円のりんごジュースに変貌するのである。この時の私はいつにも増した満面の笑みをしていたに違いない。
だが私を見守っていた神は、私を常日頃守り通してきた背後霊は私の平穏な日常の代償がこの程度であることをよしとしなかったのだ。足元の方から響く、小さな金属の塊が固いものにぶつかったような甲高い音が私の顔から色を強奪した。私は自分の不注意な性格をこの上なく恥じた。私が50円玉であると思っていた硬貨には穴が開いていなかったのである。
私は釣り銭口に手を突っ込み、50円玉を取り出した。太陽はすでに傾き、周りは皆帰途を急ぐ。この日、殊勝にもコンビニで何も買わず、募金箱に金を入れ立ち去る青年が存在しようなどと私以外の誰が想像し得ただろうか。




