第十八話 私が本当に欲しかったモノ
「まったく、我ながら嫌になるなぁ……」
私は独り言を呟きながらゴンの頭を掴む。
「え?おい、ちょっと……」
「真面目で健全な学校生活を目指していたのに」
そのまま振りかぶってぐるぐると回す。
「や、やめてほしいん、だ、ぜ……」
「この私が、あんなバカ二人を羨望する日がくるなんてさぁ!」
「おわーーっ!」
全力で投げ飛ばされたゴンは手前にいた水江のブラウンに衝突し、跳ね上がって落下した所で真白のブラウンの頭上に落下する。
「ぐええ」
そのまま仰向けに落下するゴン。
ブラウンにダメージはないが、急に不可解な行動を目の当りにしたショックで戸惑い、ただただ警戒に務めている。
「ど、どしたの……若菜っち?」
「ちょっと目が怖いんだけれど……」
私はちょっとどうかしているのかもしれない。その自覚はある。
「だから、あんたたちが、羨ましいんだって!!」
これだけ大声で叫ぶのは何年ぶりだろうか。もちろん人気がないからこそなのだが。
「私だって、余計な自尊心さえ捨てられれば……!」
水江と真白は、自分とは全く違うタイプの人間だと思っていた。あの話を聞くまでは。
あいつらだって、私と同じ、弱い存在だったんだ。
それでも二人は自分を曲げることはしなかった。それが私の欲しかった『強さ』だった……。
「もしそれがあれば……私にだってできるはずだった!」
その時、胸の奥から何かが、熱くこみあげてくるのを感じた。
「こ、これは……」
まるで、あの二人が変身する時の輝き。それが私の体を包んでいる。
もしかしたら……。
「ゴン!これって……!」
「ああ!間違いないぜ!」
私には無縁のものだと思っていたけど、それがこんなにも急に手にする
ことになるなんて。
「委員長の体から、あんなに強いカガヤケルが……」
「え、なに?皆さんなにが見えてるんですか~?」
二人も驚いているが、音無さんは状況が把握できていない様子だ。
「若菜!」
ゴンが叫ぶ。
「今こそ、ドレスアップだぜ!」
と言いながら、私の頭上に乗る。
「で、でも!確か変身には道具が必要なはずじゃ……」
「今のお前なら、何だっていけそうだぜ!」
何でもいい、と言われても……。
「じゃ、じゃあ、これ!」
私が指差したのおは、二人に勝手に使われたスクーターだった。倒れたまま雑に放置してある。今はそんなことで腹を立てている場合じゃない。
「ゴン、お願い!」
「わかったぜ!」
私はスクーターを起こし、ゴンに身を任せた。
「ど、ど、どれすあっぷ!」
ぎこちなくキーワードを口にしたその瞬間、私を包むカガヤケルの光が広がり始める。
私はそっと目を閉じる。
何だろう、この心地良さは。
自信がみなぎる。力が湧いてくる。
今までは後ろで見ているだけだったけど、実際に体験してみることで改めて驚かされる。
私は、ずっと自分に嘘をついたまま生きてきた。
自分を騙して、周囲に合わせることで大人になったと勘違いしていた。
だからあの二人が気に入らなかったんだ。
でも、今なら……。