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番外 他人とかかわること。アメリカな彼の場合

『Fromm blue:ひま』

『Frommバナナは友だち:珍しいな。Japaneseはいつも忙しい印象だが』

『Frommお洒落は正義:お兄さんとお話しようか』

『Frommピッツァ食べたい:ひまな時って何をするんだ? 俺は美味しいもの探す。あと女の子』

 突然の呟きに戸惑ったのは僕だけのようだった。

 彼女のchat nameはblue・・・名前にblueという字があるらしく、適当に決めたと前に聞いた。自分の名前でも悩む僕には羨ましい、そして素敵だと思える名前だ。

『Fromm blue:なにかな。時々外を散歩して気分転換したり、普段行かない街の本屋に行ってみたり。でも今夜は嵐だから外に出られなくて退屈。ちなみに停電しているから今はケータイからアクセスしているの』

 日本にはたくさんの書店があって、一冊の本も子どものお小遣いで買えるほど安い。そしてたくさんの出版社と作家。日本人にとって書物は我慢する必要すらないものなのだ。イタリアではいまだに我慢できる贅沢と言われるし、アメリカでも識字率は日本ほど高くないことを考えると、本当にうらやましい限りだ。

 彼女は普段どんな風に本を選ぶのだろう。きっと、穏やかな顔で目を細めていることだろう。彼女は本当に本が好きな人だから。

それにしても停電!

『Fromm友だちできました:停電大丈夫かい?』

『Fromm blue:ありがとう、もらい物のキャンドルが残っていたから大丈夫よ。でもこっちは冬だから寒くて・・・今毛布をかぶっているわ』

『Frommお洒落は正義:俺が温めてあげようか?』

『Fromm blue:no thank you』

 瞬く間に返答が入力され、本気でいらないんだと思った。

『Fromm友だちできました:一人なのか? 怖くないかい?』

 彼女は子供ではないが、日本人だからか小さくてか弱いイメージがある。

『Fromm blue:暗いところは嫌いじゃないから平気よ。雷も綺麗で好きなの』

『Frommピッツァ食べたい:雷が好きなんて君はどうかしている。一度イギリスに行って雷を見てみるといい。神の怒りがみえるよ』

 なんの話だろうか?

『Frommバナナは友だち:そういえば2014年にすごい雷が落ちたのはイギリスだったか。あれは俺も驚いたぞ』

『Fromm blue:雷って、日本では昔神様が鳴らすからカムナリって呼ばれていたのよ。それが雷になったの』

『Frommピッツァ食べたい:さすが日本! よくわからないけど凄いな!』

 たしかに、日本人はいろんなものを信じて受け入れていてすごいと思う。

 彼女は僕が全然話さなくても気にしなかった。静かな時間を共有してくれた。

 年の近い女性がそんなふうに僕を許してくれることなんてなかったから嬉しかった。しかも彼女は本を眺めるだけで幸せそうな顔をしているし、真剣に本を読む姿も好感が持てた。

 すごい人だ。同志だと思った。

 恋ではない。でも好ましかった。知れば知るほど人として好きになった。

 小さな体に似合わない気の強さも、なんだか危なっかしい妹のような存在に思える。

『Frommお洒落は正義:日本にはたくさんの神が存在するんだろう? なんだか理解できないけど、嫌いな考え方ではないよ』

『Fromm blue:・・・どうも?』

『Frommバナナは友だち:それより停電はいつまで続くんだろうな。女性一人というのはやはり心配だ』

『Fromm blue:大丈夫。長くてもあと数時間でしょ。もう復旧作業に入っているみたいだから』

 驚いた。日本人はいつでも迅速に物事に着手する。自分のためではなく人のためというものが大きくて、どんな事態に陥っても助け合う。停電になって女性一人でも怖くないのは、助けてもらえると知っているからなのだろうか。

『Fromm友だちできました:よかった。そういえば以前頼んだことなんだけど、君が企画したSENNGOKU BUSYOUに関する展示を行いたいんだ。同僚に話したら驚かれたけどすぐに展示室を抑えることが出来たよ。でも日本人の知り合いがいるって言ったら、侍には会ったかとか、忍者は街中で会えるのかって聞かれた』

『Frommバナナは友だち:実は俺も実際日本に行って忍者に会えなかったから残念だった』

『Fromm blue:忍者って忍ものだから実際残っていても出てこないと思う。忍者に会いたいのなら今度日本に来たときは忍者村に行ってみるといいよ』

『Frommお洒落は正義:よし、決定。じゃあ次は忍者村とやらに案内してもらうから』

 わぁ、嬉しいな。今から楽しみだ。

『Frommお洒落は正義:みんな、いつにするかスケジュール調整しておくように』

『Fromm blue:展示の件、わかったわ。荷物も送らなきゃだし、後で個人的にメール頂戴。あとお洒落さん。あんた何言ってんのよ。2か月前に来たばかりでしょう!』

『Frommお洒落は正義:楽しいことはBETUBARA』

 あれ? そういう使い方だったかな。まあ、彼が言うならそうなんだろう。

 僕はこれからのことを考えて楽しくなってきた。

 その後さっそく彼女にメールを送った。

 いついつまでに荷物を送ってほしい。説明文もつけてもらいたい。君が実際やった時の写真か動画が欲しい。その展示を行うことでどれだけの来館数増加につながったのか知りたい。世間の反応も知りたい。

 メールは常に必要事項だけ送る僕に、彼女はすぐに返信してくれた。

 わかりました。荷物は送るので飾りつけはそちらで。説明文は送りますが文章が可笑しかったら勝手に構成し直して下さい。それから、統計のデータは明日以降になります。世間の反応は新聞記事とかでもいいですか? 停電なおりました。心配してくれてありがとう。怖くなかったよ。

 ホッとした。

 明日以降と言っていた。日本とは時差がかなりあるので、そう待つこともないだろう。彼女はやると言ったらやる人だから。

 僕はそのままパソコンの電源を落とした。きっとこれからも彼らの会話は続くのだろう。そろそろ仕事に戻らなくては。

 休憩時間を利用したり、時には帰ってもパソコンに向かうようになったのは、彼女と出会ったからだった。それまでは本にばかり顔を向けていた僕が急に変わったと、同僚たちは驚いている。

 他人と関わることが全て良いこととは限らないけれど、僕にとっては良い方向へ働いたようだ。思えばこの一年、様々なことがあった。彼女と出会って友人の輪が広がり、それは今や世界中へと連なる。

 この出会いに感謝しよう。

 そして可愛い彼女にも。

 本を楽しげに、優しげに眺める彼女の横顔を思い浮かべながら仕事をしよう。






―おまけ―

『Frommバナナは友だち:しまった、彼に出遅れた。先に俺が使わせてもらうはずだったのに!』

『Frommお洒落は正義:意外と行動が早いよね、俺も負けていられないな』

『Frommピッツァ食べたい:くそ、羨ましくなんてないよ。うん、全然!』

『Frommバナナは友だち:俺は羨ましい』

『Fromm blue:はいはい、みんなはまたの機会ね。あ、でも日本刀ってどうやって送ればいいんだっけ。明日調べなくちゃ』

『Frommバナナは友だち:なあ、本当は侍と忍者がまだいるんだろう? な?』

『Fromm blue:・・・・・最後に見たのはIGAだったかな』

『Frommバナナは友だち:!!!』

『Frommお洒落は正義:え!?』

『Frommピッツァ食べたい:え、ちょっと、どこまで本当? さいごって? IGAってどこ!?』

『Fromm blue:秘密はバレたら大変だからね。じゃあさよなら』

 帰宅後、こんなログが残されていた。

 残された三人はいつまでもやり取りを続けていて、正直いつ仕事をしているのか心配になった。

 彼女の可愛いイタズラに思わず苦笑してしまう。忍者って、いくら日本でも今時・・・


 そう思っていた僕が数か月後、忍者村を訪れたさい弟子入りを本気で志願しまって彼女を困らせたのは、また別の話。



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