徒然チャット4
『Frommピッツァ食べたい:俺、どうしてイタリア人なんだろう』
珍しい呟きについつい反応してしまった。片手にはビールの缶を握りしめたまま。
『Fromm私:どうしたの?』
『Frommピッツァ食べたい:俺の国の事情知ってるよね』
イタリアの事情?
ふむと頷いて考えつつビールを一口。
イタリアは南と北で状況が全然違う。それは昔統治していたのがフランスだったかオーストリアだったかが大きく関わっており、考え方や雰囲気も今でも微妙に違うのだ。
『Fromm私:大まかには。でもあなたの国の図書館協会は一生懸命頑張っているじゃない』
『Fromm友だち欲しいアメリカ人:いったいどうしたんだい?』
『Frommピッツァ食べたい:俺は若くて良い男だ』
『Fromm私:・・・えーっと?』
なんだって? 確かに顔は良かったけどさ、自分で言うか?
『Fromm友だち欲しいアメリカ人:うん?』
アメリカの彼も珍しく困惑しているようだ。
『Frommピッツァ食べたい:若い司書はとても珍しいうえに、エリートとしてみなされるんだ』
『Fromm私:エリート志向が高いのは聞いたことある。図書館によっては未だに一般人を受け入れなくて、本は諦める事のできる贅沢品って。でも、最近は変わってきたってレポートを読んだわ。違うのかしら?』
『Fromm友だち欲しいアメリカ人:なんだって? 本を諦める? じゃあ一日何をしているんだい? 信じられないよ!』
あんたはそうでしょうね。
『Frommピッツァ食べたい:確かに、ここ数年で大分変ってきたようだ。でもまだ保守的な人は多い。だって司書の殆どが高齢者と言っても間違いないんだぞ!?』
数年前に暇つぶしで読んだレポートには、司書の6割が50歳を超えていると書かれていた。定年後はボランティアとして関わり、新しい司書を採用することはほとんどない。また、北部は開かれた図書館が多い一方、南部ではいまだに利用者を学者に絞る図書館もあるとされていた。
そもそも、国内の図書館の数も把握できていないうえに、どれだけの人が関わっているのかも調査中。そのため統計すらとれない状況とくれば、彼が嘆くのは無理もない。
『Frommピッツァ食べたい:そんなところに真面目で誠実で心優しい美男子たる俺がいるということが、どういうことかわかるか?』
どこが心優しいって?
『Fromm友だち欲しいアメリカ人:君はそんなにハンサムだったんだな』
いや、ちょっと、騙されないで!?
『Fromm友だち欲しいアメリカ人:うらやましいな。僕は女性にもてたことがないし、友と呼べる存在もいないよ』
『Frommピッツァ食べたい:何を言ってるんだ。女にもてなくても、俺たちはもう仲間だ。お前は一人じゃない』
『Fromm友だち欲しいアメリカ人:!!!』
え、なにこの展開。飲み終わったビールの缶を片手で潰してしまった。
『Frommピッツァ食べたい:そんな当たり前のことよりも、俺の心配をしてくれ。俺は今大変な状況にある』
だからさっさと説明しろよ。
『Frommバナナは友だち:何かあったのか?』
あ、バナナの人来た。
『Frommピッツァ食べたい:俺のことをねたむ老害が仕事の妨害をするんだ!』
『Fromm私:それは大変ね。具体的に何があったの?』
『Frommピッツァ食べたい:仕事中にピッツァを何枚も焼いてきて俺に食わそうとす』
チャット画面を切ってしまった。まあ、あとは心優しい二人に任せよう。
翌日ログを確認すると、延々ピッツァの国の人の自慢話が続いていた。お洒落の国も人も同調したのか、うざいログが続いており、残っていた二人も私のように途中で消えていた。