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番外 不思議大国とかかわること。イタリアの彼の場合。


 今でもイタリアの図書館と言えば学ぶための施設が多い。

 俺の国では若者の失業率も高いし、書物そのものが贅沢品だ。それでも書架に扉を付けて鍵をかける国もあるのだから、まだましかもしれないが。

 そんな俺はアメリカ人の友人からとある人物を紹介された。

 つい癖で嫌味を言ってしまう俺はあまり友人がいない。全然ではないが、正直少ない。

 気づくと悪態をついてしまい、以前初対面の女の子に無言で殴られたこともあった。

それ以降は気を付けているけれど、気を抜くといつ暴言が飛び出すかわからないので、俺は極力落ち着いた物静かな男を演じている。

 しかし、紹介された彼女だけには、どうせ言葉がわからないだろうと気を抜いてしまった。最低限もわからない女が1人でこの国に来るはずはないのに、俺はバカみたいに油断してしまったのだ。

 そもそも、アメリカ人の彼が紹介してくる相手だからこそ、気を抜くべきじゃなかったんだ。だって彼は極度の人見知りなんだから、彼と対等に話が出来る人はそれなりに、いろんな意味で凄いはずなんだ。

 彼女は初対面の俺に、気の小さい男と罵った。

 あまりにも可愛い笑顔を浮かべているので、一瞬言われた言葉の意味が分からなかったが、どうやら怒らせたらしい。

 ここで帰られると、彼の方に嫌な思いをさせると気付いて言い返すのは我慢した。そもそも俺が失礼な態度を取ったのが原因なんだから仕方ない。

 場所を変えてピッツァを食べると、さっきまでの嫌な気持ちはどこかへ行ってしまった。

 冷静に考えると、彼女はたった一言だけ俺を罵ったけれど、それは事実だった。

 他人に嫌われるのが怖いくせに嫌な言葉しか言えない。どれだけ取り繕っても皮は剥がれてしまうものだ。

 それでも彼女はなんでもないという顔で俺のあとをついてきた。

 図書館に案内すれば熱心に話に耳を傾かせ、わからないことや疑問は質問してくれる。

 未だかつてこんな女性がいただろうか。

 楽しくデートするだけの女性ならいる。あまり考えることをしないで、ただ楽しければいいという子とは長続きしなかった。俺の悪い癖がすぐにばれてしまうから。

 でもきっと、この子ならそんな風にはならないだろう。

 エスコートはいつしか真剣なものになっていった。

 彼女はそんな俺に少しだけ首をかしげたが、あまり気にしていないようだった。

 どんな嫌味も水に流すように。

『Frommピッツァ食べたい:前から思っていたけど、blueって変だよね』

『Fromm blue:失礼ね、どこがよ』

『Frommピッツァ食べたい:全体的に?』

『Fromm blue:・・・そうかな?』

『Frommピッツァ食べたい:そうだよ。日本ではモテないでしょ』

 俺たちには人気だけど。

『Fromm blue:人のこと言えるの?』

 そうだ。言えない。だって俺は性格が悪いから。

『Frommピッツァ食べたい:デートの相手には困らないよ』

 毎回違う相手だけど。

『Fromm blue:・・・ほどほどにね』

 あ、バレてるっぽい。

『Frommピッツァ食べたい:ねえblue、今度また遊びにおいでよ』

『Fromm blue:そうね、仕事が落ち着けば行きたいわね』

『Frommお洒落は正義:Japaneseは働き過ぎだ。もっと人生を楽しんだらどうだ?』

 あ。フランス人きた。

 一見お洒落だけど仕事のことになったら暑苦しくて、きっとまわりの人間に煙たがられることだろう。そして自分で言うほどモテないだろうなと思う人。

 でも面倒見はいいんだ。だからきっと、イイ人で終わるタイプ。

『Frommピッツァ食べたい:そうだよ、働き過ぎだ。もっと楽しいことしなよ』

『Fromm blue:大丈夫。大分楽しい人生送ってるから』

 日本人は真面目で、そして少しつまらない。

『Frommお洒落は正義:楽しいと言えば、IZAKAYAは楽しかった。ああいうところは羨ましい国だ』

 IZAKAYA・・・確かに楽しかった。酒が入ると雰囲気が変わる彼女を、少しだけ怖いと思った。普段柔らかなヴェールに隠された冷たい氷が出てくるような。でも、どこかあたたかくてわけがわからなくなる。

『Fromm blue:また遊びにくればいいよ。今度はメイドがいるお店に行こうよ。私一人じゃ入りにくくて』

 何てことだ! 彼女が入りにくい店がこの世に存在するなんて信じられない!

『Frommお洒落は正義:そうだね。ぜひ一緒に』

 日本人と違って、俺たちは相手の顔色を窺って優しい嘘はつかない。

 本当に一緒に行きたいのだろう。でもそれは俺も同じだ。

『Frommピッツァ食べたい:仕方ないから行ってあげるよ』

 いつも、俺は言葉が足りない。

 ため息が止まらない。

『Fromm blue:よし、約束だよ』

 ああほら、そうやって俺を甘やかさないで。

 ため息なんてどこかへ行ってしまう。

『Frommお洒落は正義:ピッツァくん。いつにしようか』

『Frommピッツァ食べたい:次のバカンスに合わせよう。ホテルどうする?』

 一緒に行くことが前提で話が進むのが、これほどまでに嬉しいなんて。

 キーボードを打つ手が止まらないなんて。

『Frommお洒落は正義:前回使ったホステル、あそこはよかった』

『Frommピッツァ食べたい:じゃあ二人分予約するから日時決めたら教えて』

『Fromm blue:あ。バナナさんたちも誘ってあげてよ』

『Frommお洒落は正義:彼等は多分ホステルには止まらないよ。あそこは騒がしいからね』

『Fromm blue:そっか。あの二人なら静かなほうが良いよね。二人の仲を邪魔するのもアレだし』

 ・・・・・は?

『Frommピッツァ食べたい:どういう意味?』

『Fromm blue:あの二人自分の好きな本を紹介し合うのが楽しいって。誰にも邪魔されなかったらずっと語り合ってるみたい。この間日本に来た時は食料が無くなるまで部屋に籠って議論を交わしたって聞いたよ』

 変人だ。何が楽しくてヤロー二人で部屋に引きこもって議論なんてしているんだよ!?

『Frommお洒落は正義:日本なら治安も安全だし、何より便利なコンビニがあるからね。議論し合うなんてちょっと楽しそうだ』

 え?

『Frommお洒落は正義:次は俺達も参加させてもらうとしよう!』

 本気!?

 しかし彼は本気だったらしい。数か月後、せっかく取ったホステルにほとんど戻らず、二人のホテルに入り浸ってしまうのは、また別のお話。

 二日間議論し続けた俺達を心配してメガネが入ってくるまでそれは続き、そんな俺達を見て彼女が一言。せめて風呂には入れ。と冷めた目で言われた時のショックは計り知れなかった。

 そこが食事を取れ、ではなく風呂に入れと言うあたり、日本人はそこまで優しくない。そう言えば彼女がとても綺麗な笑顔を浮かべて「優しさは安売りするものじゃないのよ」と言われた。

 正論だった・・・・・



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