表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

徒然チャット8


『Fromm友だちできました:一日中閉架書庫にこもっていたい』

 珍しい人物からの呟きに、私は思わず前のめりになってパソコンの画面を注視した。

『Fromm私:あなたはいつも図書館にこもっているじゃない。いったいどうしたの?』

 閉架書庫は利用者が侵入できない場所にある書庫の事で、ごくまれに入れてくれる図書館もあるが、一般的には職員以外を受け入れない場所だ。

 理由はいくつかあるが、狭く暗く埃っぽく、そして何より椅子がないからだ。閲覧スペースとして作られていないので受け入れられないとも言える。

『Fromm友だちできました:企画が展示されたよ』

 ああ、この間貸してあげた戦国武将展。そういえば先週からやっているようだと気付いて、それが今の会話とどうつながるのか不思議だ。

『Fromm友だちできました:地元のニュース番組に取り上げられた。利用者の増加も確実だ』

 おお、それはよかった。

『Fromm友だちできました:だから辛い』

 辛い? は?

『Fromm私:あなたは何がつらいの?』

『Fromm友だちできました:いろんな人に声をかけられるんだ』

 ああそうか、彼は引きこもりだった。そして極度の口下手だ。

『Fromm私:人気者になったのね』

『Frommお洒落は正義:ヒーローになれてよかったじゃないか』

 あ、お洒落の人来た。

『Fromm友だちできました:アメリカ人なら誰もがヒーローに憧れると思うな。僕は他人に関わりたくない。あいつらはいきなりフレンドリーなんだ。しかも僕が全く話さないとわかると怒ったり呆れたり文句を言って来たり変人扱いして大変なんだ』

 いや、君は立派に変人だよ。

『Frommお洒落は正義:ふーん。君はおとなしい子だからね』

 ちなみに二人の年齢は変人の彼の方が年上だ。

『Frommお洒落は正義:でも、たまには脚光を浴びたいとは思わないのかい? それに、彼女のおかげで人々が目を向けてくれたんだろう?』

『Fromm友だちできました:blueには本当に感謝している。ありがとう。でも、毎日20回はSAMURAIに会ったのか、あのswordは本物かとかうざい』

 うざいなんて言葉、きっと日本に来た影響だな。私はちょっと悲しくなった。

『Fromm友だちできました:swordに触りたいと言って泣き出す子どももいて迷惑だ。僕は博物館員にならなくて本当によかったよ』

 普段無口な彼がここまで饒舌になるほどなのか。大変だな、まわりの人がさぞ驚いただろう。

『Fromm私:大変ね。でもあなたが飾り付けた展示を見てみたいわ』

 ここで謝るのも変な気がして、そう返答する。

『Frommお洒落は正義:そうだね。写真をアップしてくれ』

『Fromm友だちできました:わかった。じゃあ閉館したら撮るよ』

 え、もしかして仕事中だったの?

『Frommお洒落は正義:楽しみだな』

『Fromm私:ありがとう』

 仕事中に愚痴るほど追いつめられているなんて、かわいそうに・・・

 彼は本当に引きこもっていたい人なんだなと思った。

 翌日ログを確認したら、彼が何枚も写真をアップしていた。同じ内容の展示でもここまで雰囲気を変えられるのかと驚くくらい、別物に仕上がっていて面白かった。

 でもSAMURAI Exhibitionと大々的にうたったあんたも悪いと突っ込まずにはいられなかった。

 その後彼は三日間有給を取って家に引きこもっていたらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ