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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
99/166

【証明すべき壁】 手にすべき選択

現在99話…、きりが悪い為、本日100話も投稿します!

弾丸へと飛翔する体。

だが、それはどこか希薄で現実感が乏しい。

そして弾丸に向かい掌を翳し、全身から氣を立ち昇らせる。

間もなくして、その体を弾丸が穿ち、貫通していく。

ビィーナはその様に脱力し、膝を床へとつけていた。

無数の弾丸に撃ち抜かれ、それでも起立している体。

それは薄くなり、霧散して消えていく。


「…えっ?」


ビィーナは目を疑う。

体を穿ち、そのまま飛翔を続ける弾丸。

その先に、もう1つの体があった。

その体は無造作に弾丸を掴み、その役目を休止させた。


「やはり、カラクリが存在しよったか」


先行した体を打ち抜いた弾丸は、急速にその速度を落とし、仕舞いには通常の発砲で行われる威力すらも下回るものへと軽減されていた。

それを然も当たり前のように受け入れ、ビィーナを止めた者が言葉を発していた。

ビィーナは少し空ろな瞳を横手に向け、その人物を眼球に捉える。


「…どうなってるの、テリト先生?」


問う間にも、次々に迫る凶弾の群れ。

進路を様々に変更させながら、そして恐るべき(はや)さを持って敵対者を撃ち抜く為に飛翔していく。

それに向かい、ティアは自らを晒す。

弄られた認識により、視認可能となった氣。

それを湛え、次々に拳を突き立てていく。

2回戦にティアが見せた遠当て。

音速弾(シェルブリッド)と氣が衝突し、加速された弾丸がその威力とかち合い失墜していく。

そんなティアへの後頭部へと音速の蝙蝠(ショヴスリ)が迫る。

それを振り向きもせずに躱す。

だがそれは180度の方位から迫る、50を軽く越す弾丸の群れに1つに過ぎない。

太ももへと突き刺さろうとした弾を、そのまま横へと流れたように体が移動し、虚空を通過させる。

躰が上下に揺れることもなく、それは移動したとするよりも流れたと称する方がシックリくる、そんな歩法だった。

重心のズレが欠片も見受けられない。

それも驚くべき事実なのだが、真に驚くべきは…。


(冗談はどっちだっ!

いつから双子になったんだよ、お前はっ!)


シルーセルの心の叫び。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが、観客たちの反応をサーチする。

それが示すは、この事態が他の者の目にも留まっているという事実だけ。

そして驚嘆するは、事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが2人のティアを、寸分違わぬものとしてサーチしていた。

それこそ心の叫びの通り、双子、もしくは分裂したとしか思えぬ程、同情報を携えた2人のティアがそこに存在した。

先程打ち抜かれて消えた分身。

そして再び分裂し、荒れ狂う弾丸の嵐に身を置いていた。

蝙蝠(ショヴスリ)で追尾型となった弾丸が気流を引き連れて、2人になったティアへ幾重にも襲い掛かる。


「2人って、どうなってるの」


焦点が戻ってきたビィーナは、その異常ともいうべき事態を見守ることしか出来なくなっていた。


「お主と同じじゃよ。

消去という概念を蓄積させ、生まれたのが存在しない敵(エネミーゼロ)

ならば、あれは可能性を顕現化したものじゃろう」

「…可能性?」

「あれは箱の中身じゃ」




「箱?」

「そうです。

シュレーディンガーの猫を知っていますか?」

「猫を箱の中に入れ、蓋をする。

そしてこの箱に毒ガスを満たすスイッチを入れる」

「それです。

さて、猫はどうなったか。

蓋を開け、中身を確認するまでは確定しない」

「中身は無限の可能性を秘めたことになる。

それよね」

「中身の猫は死んでいるのか、それとも生きているのか。

もしくは居ないという可能性もある」

「結果は蓋を開けるまで。

開けなければ、そこには想像しうる可能性が全て詰まっている」

「人は、無数に絡み合った選択肢の1つを生きているに過ぎません。

そう、蓋を開け事実を見たように。

ならば、ifと呼ばれる可能性があったかもしれない。

ティアは可能性というものを、もう1つだけ手にした」

「それが、あれなのね」




「ワシとて確証はなかった。

じゃが1度だけ腑に落ちないことを、アヤツが口走りよったのを思い出してな」

「フに落ちない、何があったんですか?」

「なぁに、ワシがあらゆる可能性を潰し殺しを行った。

それこそ、100%という数字を叩き出す程、完璧な殺しをな。

じゃが、アヤツはその魔手から逃れ、見事生還しよった。

在り得ぬ方法でな」

「どうしてあり得ないの?」

「世界というものは、法則が付き纏う。

決して抜けられぬ、枷がな。

氣にも法則があり、それは()げられぬ理。

奴は、それを覆す事を然も当然に言葉にしよったわ。

それが不可能という領域とも知らずに。

で、カラクリがあると睨めばこの様じゃな」




「可能性の追求。

ビィーナが自分すらも消し去ろうと、追及した消去。

確かに似ているわね」

「恐らくは、言霊でしょう」

「言霊?」

「口にする事というのは、術。

古来、術者と呼ばれた輩がいました。

まぁ、魔法使いと言えば、解り易いかもしれませんね。

魔法なり、術なり、その発露、もしくはより強力にする為に、言葉が必要とされていました。

それは人へと聴かせ、それが恰もあるかのように定着させる事から始まります。

口にする。

つまり、言葉にする事で人はより自分にも世界にもそれを宣言していると。

ですが」

「諸刃の剣ね、それは」

「そうです。

仮定ですが、もしあれがそんなものを元に可能性を具現化したものならば、それは1度でもその可能性に否定的な考えを及ぼせば」

「滅びる。

それは人格を形成する、根本から崩壊を及ぼす恐れすらあるわね」

「あれは、人が手にすべき示現(ノルン)ではありません。

確かに無限ともいうべき選択肢を手にし、この世界という枠組みの中ならば、最強とも言うべき力を有することが出来るかもしれません」

「でも、あれは余りにリスクが高い。

不器用ね、全く」

「私は知っています。

同じ示現(ノルン)を持った者を。

英雄にも悪魔にも、そもそも歴史と言うものにすら刻まれることがなかった、非業なる者を。

実現不可能な計画、そして可能性。

それ故にあの示現(ノルン)を、彼はこう言っていました。

平行世界の反逆者シュレーディンガーバベルと」

「…カイル、貴方」




「氣には分散、そして集約の2点が主とされ、それは始点から一定の運動しか行えない。

それをティアは、始点をズラし、息吹を虚空より生み出しおった。

根本的に在り得ぬことをな。

そのカラクリがこれじゃ。

自分を、可能性を具現化。

それはまさに自分の分身。

氣をも操り、本体を生かす算段をこなしよった。

あの時は未完だったのじゃろうが、こんどは誰の目にもハッキリと留まっておるようじゃ」

「…もう1人のティア」




傍を通過するだけで、大気が刃のように肌を裂いているかのような痛み。

それに数が半端ではない。

1つ躱したからといって、その後には何十倍にも及ぶ追跡弾が待ち構えている。

地面を滑る。

それが的確な表現だろう。

途方もない速度と数を誇る音速弾(シェルブリッド)を躱すことを可能としているのは、この歩法のお陰だろう。

単発ならば、この加速程度ならば氣で反応速度を増加させた状態ならば、然程問題なく回避は行える。

問題があるとすれば、これがシルーセルの意思で全て制御されていることだろう。

ティアがこの歩法を学ぶ前ならば、2発も躱している間に態勢が崩れ、アッサリと餌食となってしまっていただろう。

汪虎(おうこ)流奥義、歩挺(ほてい)

この流派の基本であり奥義、そして基盤となる技。

1歩目から最速へと加速し、そして停止する。

1本正中線に柱を立てている為、態勢は不変。

摺り足により移動が行われ、常に次への行動が可能な状態を保つ。

シルーセルは半ば、その歩法に度肝を抜かれていた。

突然全速で横にズレたと思いきや、そこで停止し、次へと流れる。

これだけの加速と停止を行えば、必ず人は態勢を維持できなくなる。

その常識をものの見事に覆し、音速弾(シェルブリッド)の雨あられを悉く躱してみせていた。

回避を行われ、虚空を貫く弾丸を蝙蝠(ショヴスリ)で転換させて撃つ。

それこそ真横で行われ、避ける事叶わない。

それをティアは察知し、転換される前に弾丸の横手をを手甲叩き、その運動にピリオドを打つ。

情報管理送還装置(ライブラ)を起動させてはいないのに、シルーセルの思惑が完全に読まれている。


(逆か。

情報管理送還装置(ライブラ)を使えば、このフィールド全体の歪みに惑わされ、この突然行われる操舵を感知できない。

それを可能としているのは、鍛え抜かれ、研ぎ澄まされた五感。

いや、これは第六感。

氣というファクターが可能とした、新たな感知能力。

いちだんと野生染みてきたな、こいつ。

そして)


その回避が2箇所で行われている。

同情報を持つ、2人のティア。


事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドじゃ、逆の惑わされそうだな。

俺としては、初回からこの逸脱した能力の片鱗を見れたことが優位に働く)


シルーセルは注意深く事象を眺めながら、弾丸をコントロールしていく。

今しがた、3つの弾丸が打ち落とされた。

だが、その間に大気がティアの頬を裂き、微量な鮮血が散った。


(俺の推理がこれで肯定されたな)


片方のティアが頬に傷を受けた途端、もう片方のティアの頬にも傷が生まれる。


(初めに分身で弾丸を受けて見せたのは、迂闊だったな)


数発の弾丸に撃ち抜かれても、平然と起立していた分身。

それは、どれだけ分身に被害を与えても、本体に被害が及ばない証拠。

そして、本体を傷付ければ分身が傷つくのが、今証明された。


(分身方面に弾丸を割かないで、本体のみを狙う)


分散されていた音速弾(シェルブリッド)が舵を切り、1人へと集中的に群れを成す。

これまでは辛うじて逃れているが、これだけの弾を一斉に受ければティアの反射神経や身体能力を持ってしても躱し切れるものでない。


身体加速(モメンタムブースト)をしない限り)


それを遣った地点で、勝敗は決する。

1度遣えば肉体疲労に苛まれ、まともな行動すら危ぶまれるように能力低下してしまう身体加速(モメンタムブースト)

その加速時間は短く、瞬間で勝負がつくならいざ知らず、相手が遥か手の届かない場所にいては、勝負を捨てていると同じだった。

シルーセルに浮かぶ迷い。

それを唇を噛み、振り切る。


(これはお前が決めた覚悟だっ!

俺はそれに応えてやるだけっ!)


端を伝う血を拭い、シルーセルは瞼を閉じる。

そこには事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドにより3次元に投影された世界があった。

飛び交う蝙蝠に指示を与え、向かうべき先を指し示す。

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