【証明すべき壁】 平行世界の反逆者
少年漫画でよくある、解説する脇役たち。
あんな感じになっている為、視点の移り変わりが激しくなります。
ご了承ください。
【証明すべき壁】
3日目。
先程3回戦が終了し、続けて準決勝が行われようとしていた。
誰もが固唾を呑んで、この2人の対戦を見守っていた。
流石に節穴な観客の目もこの2人の実力が跳び抜けていると、これまでの戦いから感じていた。
それもその筈。
両者とも、掠り傷すら1つ受けずに、ここまで勝ち残ってきた。
他の者の泥沼のような試合も、それなりに盛り上がった。
だが、この2人の戦いは異常なまでに盛り上がった。
理由は、圧倒的な差からだ。
ここに観戦に来る者は、憧れを抱いている。
血塗られた鉾という、人の範疇を越えた者たちの激戦。
その高い枠の中でも圧倒する、3人の試合に観客の目は釘付けになっていた。
準決勝となり、残り4人。
遂に、その内2人が対戦するカードが組まれた。
片方は全ての試合を1分以内に収め、血塗られた鉾の特徴である門を全く使用しないで、ここまで勝ち進んで来た者、シルーセル トルセ。
片方は、魅せる試合。
2試合目は瞬間で勝負がついたが、他は激戦ともいうべき興奮する内容だった。
それは相手の手の内を全て晒させ、その上で勝利を手中に収めているのだ。
どんなに相手が攻め立てようともアッサリとそれを看破し、実力差を見せ付けたし者、ティア 榊。
そんな両者が対戦するとなり、このカードは観客を沸かせた。
※
会場は静まり返っていた。
一声も上げずに、始まりの合図だけを待つ観客たち。
「良く考えれば俺らって、真っ向から全開で勝負なんてしたことないな」
「そうだな。
凛やビィーナはあるが、俺らはないな」
静寂が蔓延る中で、世間話をするように2人は会話していた。
「さて、これの勝者が挑戦権を有するワケだが、…手加減は一切しないぞ」
「…怖いな、それは。
負ける気はない」
「上等」
話を終え、互いに開始線まで下がる。
「どちらが勝ちますかね」
「それはやって見ないとわからないわ。
まぁ、付き合った身としてはシルーセルを贔屓するわね。
接近戦という過分にあった弱点も殆ど無くなった。
そして。
まぁ、本気で行くみたいだから、説明は不要ね。
百聞は一見にしかず。
あれが出た地点で、ティアに勝機は無くなる」
「随分と高い評価ですね。
それならば、付き合った身として私はティアを押しましょう。
それに気に掛かる事がありますから」
「……」
「まぁ、今日ぐらいは互いに解説しながら傍観しようじゃありませんか。
休戦という事で」
「いいわ」
「示現」
「示現?」
「どうしてビィーナが示現を使用出来るのか、少しばかり思惟したことがあります。
それで、ビィーナの嘘が浮かんできたのですよ」
「…身体能力でしょ」
「流石ですね。
ビィーナも血塗られた鉾へ入学する前から英雄と言うべき身体能力が備わっていた。
ティアと同じく3倍、正確には人が持ちえる最大の状態の在り方を。
ティアが初めから備わっていると皆で見解した時、ティアにはその最大の状態を通常として捉えるだけの意識容量が備わっているのではないのかと。
同じく、初めから備わっているビィーナ。
そしてこの2人が、これを扱えるとすれば」
「成程」
「気になって調べてみましたが、凛、神衣の名に覚えはありませんか?」
「…その名が何?」
「トイアムト、つまりあの血族には、代々この名が受け継がれているのですよ。
似ていませんか?
裏で名を受け継がれてきた、皇の血筋と。
そしてもう1つ、ウィルトも神衣の血族だという噂が」
「それって」
「こんな荒唐無稽な推理では証拠にはなりませんが、糸の解れに成り得ると想いませんか?」
「…それが事実ならこの勝負、私の範疇では収まらないわね」
※
「始めっ!」
スピーカーから大音量で開始の合図が木霊した。
それを境に、観客から割れんばかりの歓声が上がる。
しかしそれはこの光景の前に一瞬で留まり、人々の口からは未知のものに遭遇し、理解を超えてしまったかのように言葉が失われていた。
「……冗談は止めろよな」
ティアは即行で接近しようとした矢先、それが叶わぬものとして現実となった。
接近しようにもあの位置に居られては、とても人が行き着くことは叶わない。
「……飛ぶなよな、人間が」
上昇気流が巻き起こり、シルーセルの体は遥か高度へと押し上げていた。
その様は人に翼を与え、束縛を断ち切ったかのように見える。
幻想の1枚絵。
「幻でも冗談でもないぜ、ティア」
天井と同等の高さまで高度を取ったシルーセル。
足の裏で、吹き上げ続ける大気。
危なっかしい様子はなく安定しているところから、これが咄嗟ではなく訓練されて習得した技術だと測れる。
(…事象戦略盤か。
人の体を押し上げるだけの指向を常に操るなんて、情報管理送還装置の収集能力じゃ無理だ。
シルーセルだけが可能な、最悪な技だ)
見上げ、手の届かない標的に歯噛みする。
そんなティアを見下ろし、シルーセルはセルトナイズを両手に構える。
「ショウタイムだ。
…ティア、これを防げないヤツにはあの男と戦う資格はない。
お前の盟約、本物かどうか試してやる」
シルーセルの顔付きが変わる。
その瞳に宿る意図に、ティアは生唾を飲み込む。
(あの光は覚悟だ。
…殺す)
これまでシルーセルが犯さなかった罪。
それを今、被ろうとしている。
(……ここが、俺への手向けが、お前が決断を下した場面か)
「…馬鹿やろうが」
これまで染めずに来た手を、こんな身勝手な理屈を掲げているヤツの為に染めようとしている。
もしもの時は、その重い罪を背負う覚悟で。
ティアはシルーセルの想いに、小声で罵倒した。
「全力で来い、シルーセル トルセッ!」
ティアが吼え、それに応えシルーセルは引鉄を引き絞る。
銃身を飛び出した弾丸は、そこから見えない砲筒に包まれ、音速の域まで加速される。
シルーセルの音速の弾丸、音速弾。
自動拳銃が止め処なく凶弾を吐き出し、それが全て加速されていく。
圧縮砲ほど威力も速度もないが、それでも十分に1撃で人を撃ち殺すことが可能。
そんな凶弾が34発。
全て吐き出した上に、シルーセルは直ぐにリロードし、更に凶弾の数を増やしていく。
この光景に凛やカイル、そしてビィーナは凍りついた。
あれは弾丸ではなく、砲弾。
あれだけの数の砲弾がばら巻かれれば、下にいる人間は跡形もなく吹き飛んでしまう。
そして何よりも3人を凍りつかせたのは、このフィールド全体に歪みがあり、それを受けて加速された弾丸が、高速で蛇行しながらティアに迫っていることだ。
音速弾から蝙蝠への連携。
ビィーナの兄、ニアスの進撃を封じる為にシルーセルが行った攻撃だ。
大気が音速弾に掻き回され、恐ろしいまでの気流を場に発生していた。
このフィールドでは、まともに行動することすら危ういだろう。
最悪な攻撃、そして乱気流により、移動すら封じてしまった。
「ティアっ!」
ビィーナにはティアが無残に打ち抜かれ、血煙だけを残して消える図しか浮かばなかった。
ビィーナは門を開き、刀を携えると飛び出していた。
絶対に間に合わない。
それでも動かずには要られなかった。
そんなビィーナは背後から何者かから刀を押さえられ、つんのめる。
「ジャマしないでっ!」
半狂乱で、押し留めようとする者へ新たに変形させた刀で、斬りにいく。
感情が乱れ、刃筋すら立たずブレた刀は、その者にアッサリと留められてしまう。
そこでタイムリミット。
ティアへと凶弾の群れが殺到していた。
※
「…そんな、あれは」
私はその光景を見たことがあった。
それは遠い、千古とも言うべき悠久の彼方の光景。
それは可能性だった。
人は幾つもの可能性、選択を経て、一つの現実を手にする。
あの人は言った。
それはこの世界が決めた法則だと。
法則は絶対で、変えられぬもの。
だが、それでも人は法則、運命へと戦いを挑む。
それは可能性を譲らぬ者。
もしではなく、あるべき現実としてもう1つの現実を手にする。
それは伝説だった。
ある街で人々は、神の威光へと敬意を込め、少しでも近づこうと天をも突きそうな塔を建設した。
だが、神はそれを見、人の増長と、おこがましいと憤り、神罰を下し塔を崩壊させた。
故、それは実現不可能なものとして、名を残すことになる。
その言語から捩りと、量子力学の法則からこう名付けられた。
「平行世界の反逆者」
と。




