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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【柱なる者達】 準々決勝

(ゲート)同士の対決とは、突き詰めればどちらの掌握能力が優れているのか、そんなものになる。

情報を集め、それを処理し、展開させる。

ならば、同じ(ゲート)同士で、同じ箇所に(ゲート)を開こうとするならば、どうなるか。

より、情報を明確に把握し、処理し、捩じ伏せ掌握するかがポイントになってくる。


(先ず、同じ箇所にやろうって愚か者はいないだろうけど)


同箇所の(ゲート)を開くということは、それは狭間の再現。

この実空間と平行空間との狭間、干渉場を実空間に生み出すということだ。


(あの情報の群れはヤバイ。

死にかけたしな)


間違って(ゲート)なんて使用すれば、脳の神経が焼ききれて、ポックリと逝けることだろう。

同空間に(ゲート)を使用するということは、自殺行為に他ならない。


(狭間はともかく、実空間での混濁ならば、処理しきれる。

今の俺なら。

とすれば、この勝負は(ゲート)なんてものは初めから無いものとするか。

未だ、凛から(ゲート)使用の許可出てないし。

圧縮砲(ブレッドスプリッド)なんて撃たれた日には、(ゲート)無しで攻略できる自信ないしな。

これぐらいは許されるだろう)


シルーセルは腕を広げ、大気を感じる。


(全てが今、俺の盤の上にある)


傍から見れば滑稽な姿だが、凛には暴君が降臨したようにも見えた。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが発露し、この一帯が掌握されたのだと。


(今度は何をする気かしら)


条件はきつい。

ここまで勝ち抜いてきた者は、伊達ではない。

それを相手に(ゲート)無しで戦えというのは、計算上無謀の領域だった。

シルーセルはアッサリとその条件を飲み、舞台へと立っている。


(貴方が何を成すか、見届けさせて貰うわ)


ここ最近のシルーセルの上達は目覚しい。

これまでもそれなりだったが、あの1件以来、覚悟の度合いが違う。

取り組む姿勢が物語っている。


(自分を制御し、感情というむらがなくなった者にとって、努力とは血肉。

決して裏切らない、成果として必ず現れる。

だから、貴方が培ってきたものは貴方を裏切らない。

行きなさい、シルーセル)


やはりと言うべきか、第2学年(ランデベヴェ)は殆どが2回戦で敗退し、準々決勝に駒を進めたのはティアとシルーセルを除いて全てが第3学年(ランカ)だった。

2回戦で当たった第2学年(ランデベヴェ)とは比較にならない、(ゲート)を行使してくることだろう。


(それも意味のないことだけどな)


事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが映し出す世界。

裸にされた世界が、脳裏へと投影される。

相手は同じ風の指向(エペソ)遣い。

実力がハッキリとする1戦。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドの視点の中、開始の合図が下る。

敵は早速セルトナイズを抜き、瞬間でこちらの額にポイントを合わせた。

流石に自分の得意武器だけあるのか、標準のセット速度はかなり速い。

この距離では、避けてくれと言ってるようなものだから、いろいろと手を打ってくるだろう。


(俺の周囲に歪み(バロック)か。

蝙蝠(ショヴスリ)を仕掛けてくるつもりか。

なら、それごと掌握してやるよ)


シルーセルは事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドにより得た情報から、自分の周囲に張り巡らされた(ゲート)に、(ゲート)を重ねる。

それが何を引き起こすかを知りつつ。

咄嗟に第3学年(ランカ)は歪みを消し、流れの混濁が発生するのを防いだ。


「キサマ、正気か!」

「あぁ、正気だ。

怖くて、(ゲート)が遣えないか?」


焦った第3学年(ランカ)に、シルーセルは不敵に問う。

そして、第3学年(ランカ)は思い知る。

自分が完全に(ゲート)を封じられたことを。


「冗談のようね、これは」


フィールド一杯に、歪みが張り巡らされていた。

こんな場所で(ゲート)を使用すれば、絶対に誤差が生まれ、フィードバックの嵐が脳を潰す。

それ以前に、これだけの範囲に歪みを形成したシルーセルの情報収集能力には脱帽するべきだろう。


「勝負あったわね。

(ゲート)は完全に封じられた。

残るもので勝負するなら、シルーセルが負ける要素はないわね」


神業染みた射撃。

そして接近に合気を備えた。

第3学年(ランカ)のポイントセットからして、身体能力や技量は、シルーセルの足元にも及ばないだろう。


(こんな封じ方があるなんてね。

これも事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドで、衝突すら制御しきれるという自信からきているわね)


敵にとっては、この戦闘フィールドにいる限り、全方位から指向(エペソ)で狙われているというプレッシャーが圧し掛かる。

そのプレッシャーに負け(ゲート)を行使した瞬間、手を下すまでもなく勝負は決する。


(私でも、あんなフィールドでシルーセルと相対したくないわ)


勿論、条件がある為、シルーセルが(ゲート)自体を攻撃に置き換えることはない。

ここからは、己が技量だけがものを言う。

シルーセルはゆっくりと歩みだす。

1歩、1歩、確実に敵を追い込んでいく。

第3学年(ランカ)は額に冷や汗を貼り付け、セルトナイズに火を噴かせる。

それはピンポイントでシルーセルの脳天目掛けて飛んでいく。

だが、弾丸は途中で同等の指向力に弾かれ、逸らされてしまう。

第3学年(ランカ)は言葉を失っている。

恐らく、シルーセルが何時銃を抜き、そして撃ったかを視認できていないのだろう。

これでは銃口から狙いを計り、避けることが可能な身体能力があっても、抜き撃つという動作が視認できなければ、避けることは叶わない。

シルーセルは銃口から狙いを悟らせない為、撃つ時は抜く動作から入る。

構えなどはシルーセルに存在しない。

抜く、撃つの動作が略一で行われる。

それでいて狙いが正確無比とくるのだから、性質(たち)が悪い。

シルーセルが距離を詰める度に、銃の命中率が上がってく。

たった今、第3学年(ランカ)の手にしていたセルトナイズが弾き飛ばされた。

新たに構えようとした銃も悉く打ち抜かれ、地面へと弾き飛ばされていく。

誰の目から見ても、格の違いは一目瞭然だった。


「次から的は体になるが、良いのか?」


それを聞いた途端、敵は引き攣った表情の中に、勝機を見出していた。


(馬鹿ね。

その1言は不要だったわ)


凛には敵の思考が理解できた。


(試されるのはこれから。

自分で巻いた種は刈りなさいよ)


凛の考えは肯定された。

第3学年(ランカ)は両腕を広げ、無防備にシルーセルへと歩みだす。

凛は相手を評価してやりたい気分だった。

確証も何も無い。

それでいてこの作戦に出ようとした、この第3学年(ランカ)の精神的負担は相当なものだろう。


(シルーセル、その気遣いが貴方の弱点を暴露した。

そう、脅しではなく気遣いが)


「撃てば良い。

撃てるならばな」


恐怖を飲み込み、第3学年(ランカ)はそう宣言した。

これにより、シルーセルと第3学年(ランカ)の立場は逆転したと言っても過言ではない。


(危害を加えようとする躊躇。

それは人殺しができないという現われ。

敵は、シルーセルが撃たないのではなく、撃てないことに気付いた)


数歩歩み、第3学年(ランカ)は自分の推理を確信に変えた。


「どうやらこの勝負、俺の勝ちのようだな」

「…何を勘違いしているんだ、お前は?」


無造作に銃を握ったまま、グリップ部分で頭を掻きながら、シルーセルは不思議そうに訊ねる。


「多分、貴様の推理は正しいんだろうな。

だが、大きな勘違いをしている」

「撃てない心弱き者が、ほざくか」

「そこが勘違いだ。

躊躇を挟むだろうな、俺は。

だが、撃つこと自体には何も逡巡しない」


次の瞬間、第3学年(ランカ)の右肩から鮮血が噴出していた。

蹲り、肩を押さえ込む。


「死に至らない傷だろ、それは。

そして俺はその程度ならば、幾らでも負わせる」


銃声。

肩を押さえている左手の甲を穿ち、先ほど打ち抜いた箇所にホールインワンさせる。


「これで死に至るとすれば、やせ我慢をし、いつまでも止血しない己の判断ミスあたりだろうな。

俺はきっかけを創ったに過ぎない」


3度目。

硝煙が立ち昇り、又も同じ箇所を通す。

肩の骨で詰まっていた弾が押し出され、抜ける。


「さて、もう一度言おう。

俺は逡巡しない。

そしてきっかけを創り続ける。

死に至る穴をな」


(勝負あったわね。

所詮は、弁を弄したに過ぎないけど、この相手を屈服させるには十分。

勇気を無謀にし、勇者を蛮勇にしてしまった。

いつの間にか、精神面でも成長をしていたようね)


凛は微笑すると共に、第3学年(ランカ)の口から苦痛に歪んだ呻きを湛えたギブアップがされる。

そしてホール全体に、シルーセルの勝利が宣言された。




うねる刃。

硬質化されたマントが舞い、波状的な攻撃をしかけてくる。


(意外と厄介だな、これは)


闘牛士が操るマントの如く、それは波のように翻り、必殺の刃として押し寄せてくる。


準々決勝、第2試合。

第3学年(ランカ)の卓越した(ゲート)が、翻すマントを硬質化して、ティアへと襲い掛かっていた。

予想以上に、この翻る刃は曲者だった。

滑らかな動きを保ちながら、なにものにも侵食されない強靭なる刃。

波のように蠢くので、斬られた箇所は何重にも傷が付き、人間の回復能力では消えない傷となる。

運が悪ければ、傷が腐り落ちることもある。

普通の刃と違い軌道が読みにくく、寸分の見切りをすると、想わぬ痛手を蒙ることになる。

そして凍結(テアテラ)遣いの殆どが、全身を無機物で覆っている。

これを硬質化することにより、最強の鎧とする為だ。

攻防共に、優秀な(ゲート)と言えよう。

この勝負が始まって、早5分。

一方的な展開で、終始第3学年(ランカ)の生徒が攻めを続けていた。

接近ではマント、遠距離中距離は銃と、攻めのパターンは少ないものの、それなりに理に適った攻撃を方法で、ティアの攻勢を封じているようだった。

実際は余裕を持って回避を行っても、ティアには攻撃のチャンスがあった。

問題は、全身を覆っている軽くて空間に固定されている鎧だ。

昔、1度凍結(テアテラ)遣いと戦ったことがあるが、ティアのあらゆる攻撃は遮断され、あの鎧の上からは掠り傷一つすら与えることは叶わなかった。

噂によれば、固定された鎧は圧縮砲(ブレッドスプリッド)すら耐えうる耐久値があるらしい。


(確か、あれは原子の息吹すら凍結してしまうから、氣も通さないんだよな。

先生曰くだが。

さて、そろそろ攻勢に出るかな)


凍結(テアテラ)を破る方法は、今のティアにはない。

結局は、昔とった作戦を実行するだけだった。


(そう考えれば、あの爆弾魔の方が凍結(テアテラ)を有効利用していたな)


ティアは戦闘中に思い出し笑いを浮かべ、そこから後5分程、敵の攻勢を躱し続ける。

情報管理送還装置(ライブラ)で正確に流れを把握し、筋肉の張りや軌道から、マントの細部の動きまでを読みとる。

(ゲート)を遣い、斬撃の急停止や、軌道修正など、そんな咄嗟に執り行われる変化すら最早完全に掌握していた。

初めと比べ、随分の奥まで踏み込めるようになっていた。


(行くか)


敵の詳細なデータは揃った。

後は何手先も読み、それを現実化するだけ。

波紋が螺旋へとなり、一機に加速する。

横へと振るわれたマントを潜り、腹部へと軽くノックをする。

装着した手甲が硬質した服に当たり、鉱物同士がぶつかり合う音をさせる。

それで相手に懐に侵略されたことを認識させる。

素早くサイドステップで場を脱出し、そこから更に加速する。

相手がこちらを見失い、動揺しているのが伝わってくる。

顔を覆っているマスク。

そこへ、手甲で再びノックする。

カンッ!

出来る限り甲高い音をさせ、そして敵がその音に反応する前に移動と、違う箇所に音をさせる。

後頭部、側面、肩、背中、太もも。

音だけが木霊し、音がした場所に目を向けた時には敵は存在しない。

幽霊を相手にしているかのような錯覚に陥っているだろう。

完全に敵の5感では捉えられない速度で、掻き回し続ける。

情報管理送還装置(ライブラ)を使えば、ティアの動きを捉えることは可能だろう。

それは、最強の鎧を剥ぐと同義語だった。

目まぐるしく変化する情報を処理し、(ゲート)を行使する。

そこへ異常な速度で移動し、変化するものを捉えるのに情報管理送還装置(ライブラ)を使ってしまえば、(ゲート)を持続しておくだけの処理能力が得られなくなる。

(ゲート)を解けば、あの音がする箇所から次々の攻撃を受けてしまう。


(そして完全なる鎧故に、持続は不可能と。

この錯乱状態なら、良くて2分)


敵の心理状態は、早鐘のように鳴り響く心音が赤裸々に伝えてくる。

こんな状態では、息は然程続かない。

そう、この鎧は完全密閉型なのだ。

どこもかも固定し凍結している為に、空気穴すら確保できない。

普通の呼吸おろか、皮膚呼吸すら危うい。

呼吸する為に一箇所だけでも開放したとしても、情報管理送還装置(ライブラ)でずっと監視しているティアは見逃すことはない。

この速度を持続しつつ、相手が自滅するのを待てばいい。


(この作戦、凛辺りは馬鹿にするんだろうな。

能力任せで、作戦じゃないとか)


我武者羅にマントを振るい、どうにか音を止めようとするが、如何せん能力に差が有り過ぎる。

ここまで的確に読まれていては、どれだけ振るっても掠ることすらないだろう。

そこから決着まで、30秒も必要としなかった。

振るうという運動が余計に酸素を奪い、アッサリと酸欠で戸口を開いてしまう。

(ゲート)を維持出来なくなり、そこへ攻撃を仕掛けようとして、ティアは止めた。

相手は勝手にのた打ち回り、そして意識が断絶された。

どうやら、限界まで(ゲート)を遣い続けた為、フィードバックが酷かったらしい。


(こんな気持ちだったのかな、凛も)


勝手に自爆してしまった相手に対し、抱くのは虚無感。

とても勝利に酔えるものではない。


「馬鹿だな」


虚しさを軽減する為、昔自分が言われた事を言ってみる。

…結局は虚しさが増大しただけで、やるんじゃなかったと反省だけが残った。

遂に次回、あの男たちの激突です。

激戦必死、色々伏線回収話となる予定です。

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