【柱なる者達】 憤怒の誓い
今日は早めの投稿です。
気がつけば45万文字超えてました。
結構な量投稿してたみたいです。
「浮かない顔ですね」
カイルの突っ込みに、ティアは渋い顔で答える。
訓練をする間もなく決着が付き、途方に暮れてしまっているのだ。
自然と顔も浮かなくなる。
「課題が遂行できなかった。
…拙いな。
後一回しか場がないのに」
「まぁ、圧縮砲を相殺して見せたんだから、良しとしようよ」
「…そうだな。
今日も含めば、未だ2日あるか。
なら…」
ティアは顎の手を当て、思案する。
(何も練習は、この場でなくても出来る。
良く考えれば、試合だけしかしない今日のいう日は、時間が余っているってことじゃないか)
「あ、イヤな顔した」
ビィーナは、ティアの表情が晴れていくのを見て、予感的に厭なものを覚える。
「今日はもう試合もないし、カイル」
「遠慮したいですね。
タフネスが取り柄の人間と、競った訓練はしたくないですね。
…ですが、口約もありますし、付き合わない訳にはいかないのでしょうね」
「そう言うな。
こっちも口約上、どうしても経験を補わなきゃならん。
と、先に第2グランドへ行っといてくれ」
ティアは2人を置いて、何処かへ行こうとする。
「こらぁ、警備員をおいて、どこへいく!」
ビィーナの呼びかけに、ティアは露骨に顔を歪める。
何処か急いている様子だった。
迷った挙句、ティアは渋々と小声で答える。
「……生理現象だ」
「っ、さっさと行っちゃえ!」
もろに赤面し、怒鳴ってくるビィーナ。
ティアは要求された質問に答えただけなのに、怒鳴られる理不尽に自分の立場が悲しくなる。。
「デリカシーの欠片もありませんね」
「…俺が悪いのか、今の」
カイルの非難に理不尽さを覚えつつ、ティアは急ぎ煌々と照らし出されている通路を、試合よりも真剣な眼差しで走るのだった。
※
付き纏う視線。
(ここまで微妙だと、向けられた本人以外は感知できないだろうな)
ティアは胸中でぼやきつつ、解消された生理現象にホッと一息つく。
(これは悪意だな、完全に)
向けられた視線。
そこに篭っている感情を量りつつ通路へと出、厳かな声音を纏う。
「いつまでそうしているつもりだ」
壁に反射し、声が通路の奥へと吸い込まれていく。
誰も居ない通路に歪みが派生する。
そして、そこから1人の男が姿を現した。
「成程、この程度の察知は可能か」
獅子の鬣のような髪。
そして全てを射すくめるような大柄な瞳。
それにマッチした均整のとれた顔立ちは文句のつけようがない。
それは人とするには、あまりに完璧だった。
空想。
人が摸索し、試行錯誤を繰り替えし、描いた芸術。
人でありながら芸術。
そんな二律背反を体現化しているような男だった。
「アレス リオネス」
ティアはその名を口にする。
第2学年ならば、いや、この学園にいる者ならば誰もが知っている。
去年、第1学年にしてこの闘技大会を制覇し、学園において最強を手にした男。
「……どういうつもりだ」
ティアには不明だった。
どうしてこのような男が自分を監視し、このような視線を投げかけてくるのかが。
「凛の相棒、カイルからは聞かされていないのか?」
「何をだ」
ティアの問いに対し、アレスは睥睨で答える。
態度そのものがティアを風刺している。
「それは惚けているのか。
それとも供物にされたか。
まぁ、私にとって、どうでもいいことだ」
話の歯車が噛み合わない。
正確には、噛み合わせようとしていないのだろう。
全身で嫌悪を示し、シニカルな表情しか浮かべてない。
人からここまで嫌悪されたのは、正直ティアには覚えが無かった。
「会話をする気がないのに、どうして前に姿を現した」
「…どこまでも物知らずな。
これに何を期待しているというのだ」
アレスは独語し、思考を錯綜させているようだ。
どちらにしろ、ティアは無視されていた。
「…ふっ」
その様に、ティアは思わず顔に笑いがついてしまう。
「何が可笑しい」
これに対し、やっとアレスの視点がティアに定まった。
「いや、なに。
外見のわりに、意外と許容の小さな男だと想ってね」
嘲り。
滑稽極まりないと、ティアは薄ら笑いになっていた。
「不快だ。
貴様如きに嘲笑されるとは」
刺すような気配が、肌を総毛立たせる。
それでも、胸襟で冷静さを失わず、この睥睨をティアは正面から受け止める。
「凛は生かしたが、貴様は生かしておく価値はない。
口約がある以上、ここでは手は出さんが、いい気になるなよ」
ティアの思考が一度止まった。
再開し、その事だけが脳裏を占拠した。
(生かしておいただと)
「…貴様、凛に何をした」
腹の底から湧き出す、そんな感覚だった。
ティアは本当に自分の声かも分からない程に、その声音は冷たく、その内に封じた想いはかけなしに重かった。
「なぁに、ここに来て、抱く女がいなかったからな、強要しただけだ。
女など、抱くだけの価値しかないと想っていたが、あれは違った。
あれ程、誇り高き女は見たことがない。
指1本でも動く限り、凛は歯向かう事を止めなかった。
強靭なる意志。
お陰で、彼女の腕を斬り落としてしまった」
パキッ!
ティアはそれが何の音か判別出来なかった。
「貴様かっ。
貴様があの地獄を凛に味合わせたのかっ」
ティアは怨嗟が昂進していくのが分かる。
あのレポートの根源とも言うべき、事件。
その発端、そしてあの道を歩ませた者がここにいる。
それを認識したら、拳はどこまでもキツク握り込まれ、そこから血が滴っていた。
そして足を踏み出していた。
一瞬、建物全体が揺れたのかと思わす、そんな1歩を。
歯噛みし過ぎて砕けた歯。
先程した音はそれだった。
「貴様の欲望を満たすだめだけにっ」
「中のリーダーの手を出してくれたワケか。
ったく、俺にはあんな女に手を出す自体、遠慮したいけどな。
マゾじゃないし」
立ち込めた剣呑さを、おちゃらけた空気が払拭していく。
「まぁ、1つ言えるとすれば、中のリーダーの手を出した事を後悔させてやる。
どうせなら、観客が居る前で」
「…シル」
「よっ」
久しぶりと合図し、通路の奥からゆっくりとシルーセルが歩んでくる。
「手を出すなよ、ティア。
そいつは、俺の獲物だ。
ここで手を出すのは違反だ。
もし、戦いたければ準決勝で、俺を破るのが条件だろ」
「ヌケヌケと、私が獲物だと」
「止めとけよ。
4人相手無茶やる程、愚かでもあるまい。
天才さん」
アレスの殺気が膨れ上がるのを感知し、シルーセルがそっと諌める。
「口約の筈です。
貴方がこの2人とやるのは、闘技大会の場。
でなければ、私も加担させて貰いますよ、アレス」
「……」
シルーセルとは逆の通路から、カイル、そして戦闘モードに入って沈黙しているビィーナがいた。
静かだが、2人とも怒気を孕んでいた。
「というワケだ。
引けよ、アレス リオネス。
次は決勝だ」
「…良かろう。
私もそこまで無謀ではない。
下がろう」
アレスの前方が歪むと、そこへと身を躍らせ気配が根絶する。
それを確認すると、ティアは握り込んでいた拳を開放する。
ベットリと血糊が掌を染め、憤怒を象っていた。
「…ティア」
ビィーナがゆっくりと近寄り、袖でティアの口元を拭ってくる。
どうやら歯が砕ける程噛み締めていた為か、歯茎に食い込み血が端から流れていたらしい。
そんなビィーナを他所に、ティアは真相を問う。
「カイル、ヤツの言ったことは」
「本当ですよ。
私が凛と協力関係になって、束の間のことでした。
私が駆けつけた時には、全てが終わっていました。
アレスの白刃が、凛の左肩を。
後は、貴方の知ってのとおりです」
「そうか」
ティアは納得したように踵を返すと、そのまま通路を進んでいく。
「シル」
「ん、なんだ?」
「あれは俺がやる。
譲らなねぇぞ」
「…実力で示せ。
それが俺らの流儀だろ」
「あぁ。
カイル」
「お供しましょう。
ビィーナ」
「警護だね、了解。
シルくんは?」
チームメイトは淡々と自分が成すべき事を復唱していく。
「あ、俺はとっとと戻らないと、隊長殿にどやされるからな。
済ますもん、済ましたら戻るよ。
なんもトイレの前で争わんでもいいだろうが」
シルーセルはそのままトイレへと入っていく。
「あれでいて、中々シルーセルも喰えなくなってきましたね」
カイルの言う通り、さっきまでの殺伐とした雰囲気は、半分くらいは拭い去られていた。
「ティア」
「分かっている。
あいつの気遣いを無駄にする程、冷静さを失っちゃいない」
(お節介が)
事象戦略盤があれば、この闘技場全体に勃発しているイベントを赤裸々に把握できる。
ここに来たのはあくまで建前で、駆けつけてくれたのだ。
「時間が許す限り付き合いますよ。
こっちも発散したい鬱憤がありますから」
「ねぇ、カイル。
交代で気長にやろ。
あたしも体を動かしたいし」
通常モードへと移行し、眉間に皺を寄せているビィーナ。
(憧れを踏み躙ったんだ。
当然の怒りだな)
ティアは頭が真っ白になるような憤怒も、この周りにいる仲間のお陰で和らいでいる。
隣で、同じ思いから怒りを覚えてくる者たち。
それがどれ程、暴走しそうだった感情を沈静化してくれたか。
(…とについてたな、俺は。
こんな奴らと班が組めて)
ティアは自然と口元が上がり、笑いがついていた。
口内だけで感謝を述べ、手に付いた血に誓いを立てるのだった。




