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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【柱なる者達】 課題(ティア編)

課題は尽きない。

前回は、人がどのように誘いに乗るかという項目を当てはめて、実践した。

次なる課題は


「抜き差しじゃな」

「抜き差し?」


又、不透明な問いをしてくる老人に、いつものように疑問符を浮かべる。


「あからさまな誘い、それは情報管理送還装置(ライブラ)を行使する輩には大した効力を見せない。

肉の使い方で余力が見抜かれ、意味はなくなるからのう。

なら、敵を誘いに乗せるにはどうすればよいか?」

「…誘いでなければいい、とか?」


ティアは自分が又、間抜けな発言をしていると自覚しつつ、そんな答えを吐く。


「…自滅するつもりか?」

「なら、どうしろと…」


恨めしそうにティアは睨み、それをテリトは呆れの眼差しで返す。


「誘いに乗らねば、攻撃すればよい」

「はぁ?」

「思い出してみよ。

ワシとの対戦を。

誘いに乗らぬお主にワシはどうした?」


テリトとの攻防を、脳裏に投影する。


(確か、こっちが仕掛けなければ、先生が攻撃を仕掛けてきて、受け、避け、そして攻撃を防御としてな。

で、その尽くを隙にされて、危うく致命傷を喰らう場面が多々…、それが先生の言う差しか。

なら抜きは、俺が攻撃を防御の一環とした時、一歩加減して、瞬間を生み出していたのか!)


「どうやら思い当たったらしいのう。

…もう少し賢いとワシとしては、捗って楽なんじゃがな」

「済みませんね。

出来の悪い弟子で」

「全くじゃ」

「……1つ良いですか?」

「何じゃ?」

「どうして、俺の周りには忌憚ない台詞しか口に出来ない輩しかいないんでしょうか?」


その忌憚ない台詞の集中砲火を受けている者は、悲しいかな、その台詞を口にしてしまっていた。


「偽るのが面倒じゃからだろう」

「……聞くんじゃなかった」


今日も1つ教訓が刻まれた。

どんな涙でも、目じりは熱くなるのだと…。




狂気に犯されたような、熱狂。

そこに入り混じる、視線の数々。


(見られてるな。

嬉々としたこの感じ。

それにこの威圧(プレッシャー)


開始の合図が始まる僅かの間に、威圧(プレッシャー)の矛先に頭を擡げる。

そして、ゆっくりとその者の名を口にする。


底無しの淵の破壊神(アバドン)、ガイラ ノーザン」


殺意を抱いていない状態であっても、この男からは得も言えぬものを感じる。

執行者(フォチャード)を束ねる、血塗られた鉾(ミストルティン)最強の5本槍の一角。


(厄介なヤツに目を付けられたものだ。

で、あれが他の槍か)


軽薄そうな底無しの淵の破壊神(アバドン)の隣に、厳格な風格をした者がいた。

一見規律を重んじそうなタイプなのだが、ティアには全身から棘のようなオーラを纏っているように思えた。


(偽っているな、あれは。

本質はもっとエグい、そんな気がする)


次は大男だった。

座高からして他と違い、後ろの観客が迷惑している。

大柄な瞳は緋色、そして髪も緋色をしており、どこか太陽を彷彿とさせる。


(なんて静かな瞳だ。

身震いする程に澄んでいるやがる)


次は打って変わって、小男だった。

こっちはさっきまでの3人と違い、研鑽された感じを受けない。

この中では1番若く、発展途上と言った印象を受ける。

挑戦的な視線が、投げ掛けられていた。


(どいつもこいつも…)


そして場所が変わり、観客席の隅に強烈な殺意が篭っている。

問題はそれが、自分にではなく、入場口に待機しているビィーナへと向けられていた。

全身が刃のような殺気で武装されており、触れた者から次々に刻みそうな雰囲気を湛えている。


(ビィーナに向けた殺気。

あれがゲシュートか。

まともな感性を持った人間なら、この底冷えしそうな殺気は耐えれないな)


溢れるのではなく、精密に針の穴を通すように殺気がビィーナだけに突き刺さっていた。

ビィーナもこれを感じ取り、隣に居るカイルに話を振る。


「ねぇ、凍結(テアテラ)で空中移動ってどうすればいいか、わかる?」


前触れもなく始まった会話。

それに臆せず、カイルも感じた殺気に矛先を持っていき、思案してから語る。


「…恐らくは固定による、足場の確保でしょう。

凍結なんて表現をしていますが、凍結(テアテラ)の本質は空間固定、これにあります。

簡単に説明するならば」


カイルは自分の手を胸の位置まで持っていき、そこで停止させる。


「今、私の手が凍結(テアテラ)で凍結したとします。

まぁ、本来は有機体である、肉体は凍結できないのですが。

さて置いて、手は凍結(テアテラ)の凍結により、空間に瞬間的にも縫い止められたことになります。

これが固定。

凍結(テアテラ)が最強の盾であり、槍であるのは、この固定によりあらゆる衝撃を流さない事にあります。

攻撃を受けた際の威力、攻撃の際の反動、それらを完全に無効化することが凍結(テアテラ)にはできます。

教材に乗っているのは所詮、この程度です。

此処から先は、幅です。

凍結(テアテラ)の可能性を考えれば、たどり着く活用法」

「…そうか、一度空間にヌい止め、それを蹴り固定をカイジョすれば、空中でも移動可能か。

だから、全身を物でオオっていたのは、タダのヨロイじゃなくて、そのヨウソが大きかったのか」

「でしょうね。

ですが、それは考えているよりも、高度な情報処理能力とタイミングが必要となります。

それこそ、1000分の1秒の時間に介入し、見極めることが出来なければ」

「ムリか」


(その時間を意識できるってことは、あたしの居合いを避けたのはマグレじゃないってことか。

まぁ、こっちも奥の手まで見せてなかったけど、それは相手も同じか)


ビィーナは突き刺さる殺気をいなし、これから始まる試合の意識を向ける。




1回戦を見る限り、相手は大したことは無い。

だが、慎重に行かねばならない。

なにせ最近もっぱら噂になっている(チーム)だ。

第2学年(ランデベヴェ)に成り立ての頃、他の(チーム)を1組葬りさったという噂は流れた。

その噂は曖昧なものだったが、存在しない敵(エネミーゼロ)と呼ばれ、学年を脅かした女が所属している(チーム)だけに、信憑性はあった。

それであの(チーム)に手を出すものは消え、8ヶ月。

ミッションでは好成績をあげ、ノリに乗っているらしい。

恐れることは無い。

相手は、そんな(チーム)において最も成績が低く、一般人相手に危ない試合を見せたヤツだ。

冷静に試合を進めれば、負ける要因はないはず。

先ずは、先制を打つ。

間合いを取り、こちらの距離(レンジ)を確保しだい、(ゲート)で仕掛ける。

このフィールドでは俺の(ゲート)が発動して避けることは、卒業した者でも難しい。

高だか学生程度がどうこうできる代物ではない。

確か相手の(ゲート)代謝(スルミナ)

問題はこっちが距離(レンジ)を確保する前に、それで攻撃を仕掛けられることだ。

牽制し、どうにかするしかないだろう。

悩む間に、戦いの鐘は打ち鳴らされる。

両手に携えたセルトナイズを構え、乱射し牽制とする。

狙いなどは付けていない。

唯、弾幕として活用し、距離(レンジ)を稼ぐ為だ。

相手は、その場を動かずに上肢を掲げ、見据えていた。

どういうつもりだ?

思考を少し挟む間にも、弾丸は相手目掛け疾走する。

僅かに敵の目が細まり、気配の質が変化する。


「なぁっ!」


知らず、声が漏れていた。

血塗られた鉾(ミストルティン)の者が、銃口から発せられた弾丸を避けることは大した技術ではない。

銃口から狙いを予測し、そこから身を逸らす。

発砲されてからでも、5メートルも距離があれば難なく避ける動作へと移っても間に合う程の身体能力がこの学園にいる者ならば備わっている。

逆を言えば、それ以下の距離は危険が付きまとう。

敵が動きを見せたのは、眼前だった。

こんなにもアッサリと決着が付いたことに、内心喝采をあげていた。

だが、それは一種の絶望へと叩き落される。

忽然と弾が宙から消えた。

敵が一瞬ブレ、そして次々の乱射した弾丸が姿を消していく。

思わず足を止め、その光景を(つぶさ)に観察する。

ありえない。

敵は当たり前のように、手甲で弾丸を弾いていた。

まるでハエでも叩くように。

いったいどうすれば、これだけの動きが可能なのかと。

(ゲート)の可能性も考慮した。

だが、歪み(バロック)は検出されず、この行動が身体能力そのままに行われているという、最悪な事実だけを露呈させる。

弾幕が尽き、1歩すら動いていない敵。

怖気がはしる。

この地点で、自分が相手をしている者が、大した相手であることを悟る。

昨日の1戦、あれは演技だったのかもしれない。

…だが、勝機は掴んだ。

恐らくは慢心。

己が能力を過大、もしくはこっちを過小評価したに違いない。

距離(レンジ)は確保した。

今から、距離を詰めても間に合わない。

圧縮砲(ブレッドスプリッド)

この技は、第2学年(ランデベヴェ)でも遣える者は殆どいない。

まさか相手も、この技をこっちが習得しているとは想わないだろう。

これで決まりだ。




(実験その1)


相手が圧縮砲(ブレッドスプリッド)の態勢を取った。

ティアは何度もシルーセルからこの技を見せて貰ってい、人の身で受ければ跡形もなく吹き飛ぶこと実感している。

銃口は砲門になり、弾丸は砲弾へとなる。

最悪無比の加速を弾丸に促し、威力と速度を得る。

だからと言って、この技は無敵ではない。

この技は、ティア以外の(チーム)メイトは全員破っている。

ビィーナは神速の居合いで大気をも切り裂き、加速された弾丸を意図も簡単に斬って捨てる。

凛は神業の見切りでこれを撃ち、反転させて見せた。

カイルは水の幕を張り、それに指向力を織り込んで、圧縮砲(ブレッドスプリッド)を完全に潰して見せた。

どれも、ティアには不可能な芸当だ。


(だからと言って、破る方法が無いわけじゃない)


ティアは肩幅に足を開き、拳を引く。

そして呼吸をあるものへと切り替え、共鳴を開始する。

直ぐに全身に波紋が広がり、万全な状態に持っていく。


(来たっ!)


引き金が絞られ、音速を超えた弾丸がティアへと飛来してくる。

普段なら眼球では捉えられない加速。

だが、今は確りと向かってくる弾丸の様子が捉えられた。

息吹が氣を増徴させ、それに合わせて拳を突き出す。

大気に波紋が奔る。

波紋は圧縮砲(ブレッドスプリッド)よりも早く大気を進行し、弾丸にぶつかる。

鼓膜が痺れるような、ヘルツの高い音が場を満たす。

波紋の壁を抜け、弾丸が未だこちらへと向かってくる。

だが、それは最早音速を超えた面影は無く、普通に火薬で発砲されてものと比べても失速していた。

それをティアは無造作に掴んだ。

加速、そして衝突の影響か、弾丸は高温を持っていた。


「あちっ!」


ティアは弾丸を取りこぼし、思わず手を振ってしまう。

見てみれば、掌の皮が剥げて身を晒していた。

落ちた弾丸には溶けた皮が厭な匂いをさせて引っ付いていた。


(…締まらないな、俺って)


ティアの後方から、出入り口の辺りから冷たい視線を感じる。

カイルとビィーナの呆れの視線だろう。

…気を取り直し、ティアは実験の成功を実感する。


(大気を蹴れた時から活用法はあると想っていたが、これは予想以上に色々使える)


伝達として手にした氣だったが、想わぬ収穫と言えた。

場への伝達。

これを応用すれば、さっきのように離れた場にも威力を展開させる事ができる。

テリト曰く、これは遠当てという技術だった。

そして集約と分散。

硬氣功と軽氣功。

硬氣功を展開させれば、火薬による加速ぐらいの弾丸ならば身で受けても、跳ね返せるだろう。


(幅がグッと広がったな。

問題は、それらの幅を試している暇がないということだろう)


ぶっつけ本番で一々試していたら、身が持たない。

必殺の1撃を正面から破られ、相手の気配の殆どが殺がれた。


(…しまったなぁ。

抜き差しをする前に戦意喪失させてしまったか)


ティアにとって、風の指向(エペソ)遣いは誰しもが圧縮砲(ブレッドスプリッド)ぐらい制御しうるという間違った認識をしている。

この技は、指向(エペソ)の中でも高等技に属する一品。

第2学年(ランデベヴェ)では遣う者はいるが、実践で投与できるほど卓越した者は少ない。

その点で考えれば、相手は決して弱い部類ではない。

問題があるとすれば、ティアの認識が自分の(チーム)を基準にしていることだろう。

誤認しているティアは、敵の必殺とも言うべき1撃を正面から破って見せ、さぁ、今からと戦意を漲らせていた。

打って変わり相手は戦意を喪失し、恐々としてしまっていた。

この後、接近するティアに脅え、命乞いをするように対戦相手はギブアップを宣言した。

その様に、自分の迂闊さを呪うしかティアには出来なかった。

あ~、生徒がモブのようだ…。

…モブですね。

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