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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【柱なる者達】 課題(シルーセル編)

闘技大会2戦目です。

横槍が1回とは限らないので、決勝まで行けるか…。

作者の性格が悪いので、何か起こしそうです。

「シルーセル。

準備はいい」


毅然とした声音が、全ての緩みを絞り込みギアを最速へと繋いでいく。


(なんだかなぁ。

すっかりこの女の思惑通りに改造されちまったな)


戦闘への心構えから、その在り方まで。

教え込まれ、そして反復した結果が直ぐに躰へと複写させる。

感情やその場のテンションにより左右されるもの一切を手中に収める。

それが我等がリーダー、凛が常日頃から課していた議題。

格闘家等が、試合前に己がテンションを上げる為にウォームアップし、体と心を仕上げる。

それを瞬時に完成され、いつ何時戦闘が開始されようが、全力へと切り替える、これこそ凛が提唱した在り方だった。

自分の意志で、肉体と心を最速のギアへと跳ね上げる。

凛が掛けた言葉それをきっかけに、シルーセルは意志で肉体を作用させ、熱を蓄え、解き解す。

サーモグラフでシルーセルに肉体を観察すれば、一機に体温が5度近く上昇したのが窺えるだろう。

心は最早、戦場へと飛び立っていた。

通常モードから戦闘モードへ、僅か2秒程で移行を終了する。


「あぁ、いつでも」


シルーセルはコンバットナイフを抜き放ち、翳す。

そこへ、組み上げられた薙刀が振り下ろされていた。

威力の負けないように左手を峯に添え、この威力を殺す。

完全に凛の行動を先読みし、シルーセルが先に行動していた。


「即行で速攻するなよ」

「あら、偽りがないか試しただけじゃない。

非難の言われはないわ」


(…言葉のカイル、行動のリン。

迂闊さを見せられんよな、たくっ)


凛は薙刀を引くと、分解して腰に結わいつける。

その鮮やかさと速度は、シルーセルがナイフを抜くという一の行動と大差はない。

それだけ、この動きを反復されて馴染ませているのが受け取れる。


「2回戦、1回戦の相手とは比較にならないわよ。

さて、今回は一切の(ゲート)の使用を禁止する。

それで己が力を誇示しなさい」

「…おい、1回戦とは比較にならないと説明しつつ、俺に(ゲート)を禁止させるか。

わかってるのか?

相手は一般参加じゃなくて、血塗られた鉾(ミストルティン)の者だぞ。

これからは(ゲート)は遣いたい放題。

それを相手に、(ゲート)を封じて戦うって」

「別に事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドを使用するなとは言ってないわよ。

いい、この戦いは貴方の真価を問うものよ」


(どうしてこの女は、人の隙間を突くのが巧いんだ。

たくっこれを言われちゃ、実行せざる得ないじゃないかよ)


シルーセルは嘆息を禁じえないでいた。

どうせ、もう1つの控え室でも、同じように無茶な要求を突きつけられて、嘆息している人物がいるだろうから、そこが救いだった。


「了解。

せめて、相手の学年ぐらい教えてくれ。

どうせ(ゲート)とか、その類の情報は教えてくれる気ないんだろ?」

「当然ね。

戦場で、一々相手の事を把握して始めれるなんてゲームぐらいのもの。

それらを瞬間的に見抜くのも重要なスキル。

自分でサーチしなさい。

まぁ、そうね、相手は同学年とだけ言っておいてあげるわ」


(…これだよ)


傲慢、そして高圧。

それでいて正論だけを述べてくる。

可愛げは元々欠片も無いが、この態度が余計にそれを損ねている。


(まぁ、だからこそ、信用が置けるんだがな)


「その枠組みでガンバってみますか」


シルーセルは椅子から腰を浮かし、そして歓声が轟音のように流れてくる先を目指す。

顔の微苦笑を浮かべながら。


事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが敵の詳細を伝えてくる。

それを受け取り、シルーセルは想わず頭を掻く。

「…ダメだな、こりゃ」


傍から聞けば、諦めを口にしているように聞こえる。


(全く、鍛え込まれてないな)


敵の細部までのデータを初めの合図前に収集し、吟味していた。

一般に比べれば、強靭かつ鋼のような肉体。

だが、事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが集めた情報は、常日頃から接している自分の肉体と比べても見劣りする。


(ったくよ。

これでも俺は、(チーム)で一番身体能力が低いのにな)


地獄を彷彿とさせる日々。

潰しの効かない肉体と折り合いをつけながら、可能な限りに強化した自分の肉。

それは芸術と称する程に、無駄なく精緻(せいち)


(舌を巻くな、正直)


改めて他の(チーム)と比較すれば、その差が明確になる。

回復する比率、それを精密に計算し尽し、そこから弾き出されるギリギリの運動量を訓練とする。

毎日、限界と隣り合わせ。

凛が組み立てた訓練は、紙一重で肉体を生かし、殺し切った。

此処まで人一人の肉体を把握して、訓練を課させていた事実に、シルーセルは驚きや尊敬を通り越し、呆れが入る。


(適わなねぇな。

結局のとこ、俺の独り相撲だったワケか)


必死に追いつこうと、凛に新たな訓練を要求した。

暫くは組み手と称して、散々投げ飛ばされ、その力学を学んだ。

これを半月。

後は、それを媒介に学習を組む。

毎日行われる訓練補強以外は、何も行っていない。


『急遽、付加したところで、肉体は崩壊へとしか進まない。

それは筋肉を痩せ細らせ、負担に耐えれない駄作に作り変えてしまう。

これ以上の肉体に対する訓練は無意味どころか、逆効果を生むわ。

それに貴方の持ち味は、強靭な肉体や回復能力ではないわ。

誰にも真似できない、最強の情報収集能力。

ならば、それを生かすこと。

その点では、合気とは中々の着眼だわ。

これから半月、力の流れを躰に叩き込む。

それを覚えなさい。

後、残りの月日でイメージトレーニングと、トレースの仕方を教えるわ。

貴方の場合は、ティアとは正反対、律動による透写(とうしゃ)ではなく、理論による描写を行いなさい』


そんな講釈を垂れていた女が見送る中、シルーセルはこの祭りの中核へと立っていた。

対戦相手は身構え、開始の合図を今か今かと待っていた。


「始めっ!」


鼓膜を震わす、空気の振動。

それを境に、目の前の男がシルーセルへと接近してくる。

観客には、残像しか残っていないだろう。

その動きは肉体を加速させ、唯でさえ3倍に定義された身体能力を更に引き上げる。

(ゲート)が1つ、代謝(スルミナ)

これにより加速された能力が、未だ動きを見せていないシルーセルへと猛威を振るう。

両手持ちの両刃斧(ハルバード)を片手で振り翳し、脳天から唐竹割りで振り下ろされる。


(トロいな)


脳内で検索をする。

これまでで見た、最も早い動きを。

それはビィーナがニアスを葬り去った、まさに閃光のような居合い。

あれに比べれば、加速されているにも拘らず、欠伸を噛み殺す暇があるくらいに遅い。

そして常にシルーセルがイメージし、看破しようとしている動きがこれである。


(未だ、及ばない。

でも)


刃を振り上げ振り下ろす、僅かな間。

その間に、シルーセルは半身にし刃筋から逃れていた。

相手の筋肉の動きから、推測される先読み。

人をボロ屑のようにしてしまう威力を秘めた1撃。

それが逆に1本の筋を立ててしまう。

これでは1度斬る場所を決めてしまったら、方向転換が叶わない。

それを読み取り、シルーセルは先に動く。

加速した相手と比較すれば、当然のように遅い。

それを補うだけの読みが、今のシルーセルには備わっていた。

(チーム)結成時、圧倒的身体能力を誇ったティアの攻撃を、劣っている凛が悉く躱してみせたのと同じだ。

刃は用意された大気を裂き、落とされる。

地面に到達する前に、手ごたえの無さから相手が両刃斧(ハルバード)を止めようと、筋を引き絞る。

それは限界(リミット)


(綿を摘むように、軽く)


丁度、急制動で腕が止まり、次の行動に移る瞬間、シルーセルはその腕を上から押さえ込む。


「ギィアァァァァァ!!」


腕を押さえ込み、のた打ち回る対戦相手。

両刃斧(ハルバード)を取り落とし、腕に奔った激痛にもがいている。

人は無意識の中に、肉体を壊さぬように抑制が掛かる。

それは加速が行われている状態でも同義。

例えば、拳を突き出した時、筋を痛めないように手加減が無我で行われる。

肉体は知っているのだ。

これ以上の威力で放てば、壊れてしまうと。

加速はより、その壊さぬようにする抑制を希薄にし、それこそギリギリのラインで元々行使されている。

そこへ、止めた瞬間のところへ僅かなだけでも予想しない力が加わると、簡単に筋は切れてしまう。

シルーセルが行ったのは、そんなちょっとした事だった。

始発や終点、力点や作用点、そして小数点第2まで下げた時間の中、それらを踏まえて実行する。

自分と相手の能力をミリ単位で把握していなければ、こんな芸当はとてもではないが無理だろう。

それを、実践で描いた通りに清書してしまったシルーセルの読みは、神懸りと言ってもいいかもしれない。

シルーセルは相手の腕を押した時、筋が切れる感触が掌に伝わってきた。

手加減はした。

もし本気ならば、今頃片腕がこの闘技場に転がっていることだろう。

痛む腕を押さえ込み、砂に塗れて、怒れる視線を携えた表情で睨んでくる。

戦意というよりは、痛みの余りに我を忘れていると言った様子だ。

痛みが邪魔をして、恐らく(ゲート)はもう遣えないだろう。

そもそも、それだけの理性が残っているかも怪しい。


「コロすゥゥ!!」


今度は輪をかけてトロい。

加速した状態でもそう感じていたのに、(ゲート)は解除され、代謝(スルミナ)を使用したことで肉体は蝕まれ、目も当てられない程に鈍足となっていた。

掴みかかろうと、突き出されてくる壊れていない腕。

シルーセルはそれを正面から受け、四つ手の態勢へと持っていく。

だが、力と力のぶつかり合いにはならない。

シルーセルは相手の押すままに引き、それを上空へと運んでいく。

そのまま相手の後ろに回り、関節を決める。

決まった間接に痛みから、相手は逃れようと躰をより押し、その勢いを利用して投げる。

重い音が響き、対戦相手は後頭部から地面へと投げ出されていた。

白目を剥くのを確認し、シルーセルは決めていた間接を解く。


(これで、課題はクリアーかな)


そっと、入場口の方角へと目をやる。

そこに待機している指導者が、微笑し合格点をくれた事に、胸を撫で下ろす。


(…浮かんだのは安堵かよ。

喜びが微塵も沸かねぇな)


シルーセルは天井を仰ぎ、自分の立場を再認識してしまう。


(うつ)だ。

勝利の余韻すら浸れねぇ)


沸き立つ歓声を前に、勝者である筈のシルーセルだけが沈んでいた。

「安息が欲しい」と呟き、しかめっ面を浮かべて闘技場を後にするのだった。

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