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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
93/166

【柱なる者達】 死と破滅を齎す魔剣

同化。

そう称える程に、それは見事なものだった。

故に誰も、その気配を探ることはできない。


(詰まらん。

…あの程度に、何を心躍らせているのだ)


無人の通路。

そこを足音も無しに通過していく。


(つまみ食いだと。

これは、キサマへの当て付けだ)


1回戦も無事終了し、目標は控え室へと戻った筈だった。


「ここから先は、関係者以外立ち入りキンシにさせてもらってるよ」


通路の先から、然も当たり前のようにそれは話しかけてきた。

気配は完全に同化させてあり、執行者(フォチャード)の面々以外には見抜かれた事がない。

それなのにこの先にいる者はアッサリと、こちらを探知していた。


「イラダち。

それがアナタをウキボリにしてる。

そんな答えでいいかな?」

「…ほ~。

こんな僅かな揺れが、キサマには感知できるのか。

しかも、浮き彫りとまで」

「こっちも、そこらへんの技術には長けているんでね。

そんな感情を押し殺していない状態じゃ、見つけてくれって言ってるようなもんだね。

で、この先に何か用かな?」


それを口にした女は、スッと世界から隔離される。

不気味な程に、存在感が消えていた。


「なぁに。

この先にいる者を気晴らしに殺したいだけだ」




片方の黒ずくめの女は腰に結わえた鞘から、二本のナイフを抜き出す。

それは黒い大型のナイフだった。

照明の光を反射させ、殺意そのままに存在感をアピールしている。


「じゃ、通すワケにはいかないね」


より一層に希薄になる存在感。


(…まさか、こんな技量を持つヤツが警護についてるとは。

同調領域(ゾーン)でなければ、捕捉できないとは)


床を滑り、ナイフが煌く。

両サイドから首、そして胴を凪ぐ。

刹那、空間が歪み、2本の刀がそのナイフの道筋を塞ぐ。


自在武(フリーウェポン)振動(ペルガモ)か。

学生が高価なものを」


そこから流れるように、黒き刃が揺らめく。

気ままに流しているように見えて、その速度は恐ろしいまでに鮮麗で疾い。

護衛の女は咄嗟に振動を切り替え、ナイフ状の小型の得物に自在武(フリーウェポン)を変形させる。

こんな狭い通路では、長めの得物はかえって邪魔になる。

なによりも、この速度に付き合うには、加速の区間が少ない短めの得物で対応しなければ間に合わないと踏んでだった。

両者の手に掴まれたナイフが宙を舞い、火花を散らす。


「ほぅ、私の制空圏を犯かす者が、生徒時分の者に居ようとは」


苛烈を極めていくナイフの煌き。

軽口を叩き、黒ずくめの女は暫し斬り結びを楽しんでいた。

だが、突然横手から得も言わぬ悪寒がする。

素早く、そこへナイフを翳し、歪みを生じさせる。

ギンッ!

金属のぶつかり合い音が響き、自分の判断が正しかった事に確信と驚愕する。


「私のナイフを掻い潜り、このような1撃を送り込んでくるとは。

キサマ、何者だ?」


いつの間には刀へと姿を変えた自在武(フリーウェポン)が、首を刈りに迫っていた。

一瞬、この通路を閃光が満たした。

それ程まで凄まじい火花が散っていた。


「空間固定、凍結(テアテラ)

「洞察も中々。

…舐めていた事を、詫びよう」


刀を押し返し、黒ずくめの女は間合いを取る。


「名は」

「ビィーナ トイアムト」

「そうか、キサマがあの」


(気晴らしがてらに狩りに来てみれば、想わぬ輩が)


「名乗らしておいて、こちらが名乗らぬワケにはいくまい。

執行者(フォチャード)のゲシュート」

執行者(フォチャード)がどうして、ティアを」

「言わなかったか。

気晴らし、憂さ晴らしさ。

暇つぶしも含むな」

「…そんなつまらないリクツで、ティアを」

「なに?

そんなにあのボウヤが大事なの?

こんな場所で女を象るなんて、気持ち悪い。

吐き気がする」


ゲシュートの目に(くら)い闇が灯る。

ビィーナはそれを何の感情も示さず、相対する。


「なら、私の憂さをキサマが拭ってみろ。

少しばかり本気でいかせてもらうか」


ゲシュートは腕に巻かれた(たい)を解き、床に垂らす。


「まぁ、キサマには私に傷1つつけることはすら叶わぬだろうがな」


床に垂れていた帯が歪みに触れ、凍結する。


「未完しか拝んだことのないキサマに、凍結(テアテラ)の真の遣い方を見せてやろう」


腕が跳ね上げり、硬質化された帯が刃物のように襲い掛かる。

ビィーナはそれを変質化させた自在武(フリーウェポン)の刀で受け止める。

凄まじいまでの衝突音。

次の瞬間、帯は元に戻り緩やかに刀へと纏わり付く。

咄嗟にビィーナは刀を引き、帯から逃れる。


「感の鋭い子。

いや、大した洞察力と言うべきだな。

積み重ねてきた重さを感じる。

だが」


ゲシュートは床を蹴り、間合いを詰めにくる。


「っ!」


走り、瞬間的にも躰が宙に踊っているゲシュート。

そんなゲシュートが空中で加速する。

これに対し、ビィーナは素早く目の前に刀を翳し、振動を送り込む。

そうすると刀は変貌し、扇状の盾になる。

盾越しに、硬質させた帯が叩きつけられる。

その衝突力に、靴が床を擦る。

未だ宙にある筈のゲシュートは再び宙を蹴り、天井へ。

そして天井を蹴ると真上から帯が穿ちにくる。

ビィーナはもう片手に握られた自在武(フリーウェポン)を槍状し、帯の隙間へと差し込む。

得物の長さでビィーナの方が上回り、槍が突き放たれた帯の元、拳へと命中する。


「ムダなことを」


拳を覆っている帯が槍の先端を弾く。

そこで掌を作り、空中でゲシュートの躰が停止する。

軽く腕を曲げ、その反動で宙を押し返してビィーナの後方へと流しながら、帯を刃状にして凪ぐ。

膝を折り、これを躱したビィーナ。

両手の自在武(フリーウェポン)をナイフに戻し、ゲシュートと反対側に跳ぶ。


「大したものだ。

ここ数年、私と5合以上斬り結んだ者はいなかった」


ビィーナは押し黙り、静かな息遣いで振り返る。

右肩に線が走り、衣服が斬られて赤い筋が肌に描かれていた。

ニアスとの死闘でも、結果その身に1撃を喰らうことすらなかった。


(これが結晶化し、完成された肉体からのモウコウ。

兄さんよりも、速い)


ビィーナは左手に握られていた自在武(フリーウェポン)を掌サイズの立方体へと戻し、ポシェットに仕舞う。


「どうした、諦めたのか?」


その問いの答えるように、ビィーナは残った自在武(フリーウェポン)を刀へと変化させ、ゲシュートの正面へと向かい合うと腰を落とし、鞘無しで居合いの型を取る。


(完全に存在感が失せた!?

この女、これまで本気ではなかったな。

ここからが本番と言うワケか)


ビィーナの型に臆することなく、ゲシュートは居合いの間合いへと踏み込んでいく。

デッドラインの一線を越え、ビィーナの神速の斬撃が(ほとばし)る。

胴を凪いだかに見えた刀は、残像だけを斬り、肝心のゲシュートは深く沈みこませた態勢から、両腕から垂れた帯を硬質化して突き殺しにくる。

居合いが発露された為、態勢が完全に流れている、そこへだ。

ビィーナに避ける手立てはない。


「っな!」


今度驚愕を示したのはゲシュートの方だった。

ビィーナの腰の辺りから、触手のようなものが飛び出し、ゲシュートの攻撃を絡め取る。

触手は1つだけでなく、2つ。

ゲシュートは腕に巻かれた帯に歪みを当て、強靭な盾とし、この触手を塞ぐ。

1つの触手はそのまま腕に絡みつく。

残りは姿を変え、網状へと。

それがゲシュートを完全に捉え、動きを制限する。


(マズイ!)


ビィーナの居合いの速度は確かに速かった。

だが、それは全速ではなかった。

避けられる速度で放つことで、相手に隙を見つけさせ、打ち込ませるのがビィーナの作戦だった。

自在武(フリーウェポン)は振動により、その姿を変貌させていく。

根元さえ固定しておけば、変形する時に派生する膨張や収縮で攻撃が出来ると、ビィーナはここ最近研究していた。

押さえつけるように固定しておき、鞭状へと変形させると、しなり、前方を打つ。

今はこの程度だが巧く扱えば、自在武(フリーウェポン)は手を離れても攻撃ができる、脅威的な代物となるだろう。

網に囚われたゲシュート。

ビィーナはその間に放たれた刃を戻し、再度居合いの型をとる。

今度はもっと腰を屈め、先程より前のめりな状態。

ゲシュートは腕に巻かれた帯を破り、網を押す。

本来ならば、網目が邪魔となり、上手くは脱出できない。

出来たとしても、それなりの時間を有する。

だが、押し出された網はその場で固定され、腕を違う場所へと移動させても落ちてくることはなかった。

良く見ると、押し出された箇所には千切った帯があり、それが空中で網を繋ぎ止めていた。

そして居合いが発動する僅かな時間に、人が3人収容出来るほどのスペースを網に中に確保していた。

シュッ!

音速を超えた斬撃が下る。

圧倒的な速力で放たれた居合い。

ビィーナ最速の剣技、閃靭(せんじん)

振動を送り、網がキューブへと戻り、その隙間に刃を滑り込ませる。

ゲシュートは虚空に手を付き、その勢いで仰け反り、蹴り上げた。

靴の先端から刃が飛び出しており、それがビィーナの顎へと吸い込まれていく。

ビィーナは居合いで躰が流されながらも、その刃を紙一重で躱す。

遅れた前髪が数本千切れ飛ぶ。

ゲシュートは倒れ込みながら宙を蹴り、そのままビィーナとの距離を置くことに成功する。

ビィーナは最大の速力で刀を振るった為に態勢が崩れ、追撃を為せないでいた。

ゆっくりと立ち上がり、ゲシュートは自分の腹部を見る。

そこには衣服を切り裂き、一文字の切り口が存在した。


「何をした、トイアムト」


ビィーナの確信に満ちた瞳。

これがゲシュートに回避行動を取らせた。

これだけの洞察力を見せた人間が、凍結(テアテラ)で硬質化している服の上から攻撃を仕掛けるとは考え難い。

人の膂力では貫けぬ防壁。

それに守られているシュートに対し、何の迷いもなくビィーナは斬撃を打ち込んできた。

恐ろしいまでに洗練された1撃だった。

加速場所を選ばぬこの(ゲート)でなければ、避け切れなかった。

そして凍結(テアテラ)の防壁を物ともせず、斬り裂いたこの技。

(ゲート)を過信していれば、胴体は真っ二つに切断されていたことだろう。


(カイヒされた。

兄さんすら避けれなかった、閃靭(せんじん)が)


無機質な表情を称えながら、ビィーナは少なからず動揺していた。

鞘が無く、加速が幾ばくか為されていないとは言え、それでも並の者にはその筋すら窺えない神速。

消去の概念を使用し、全てを無効化にしての1撃。

完全に捉えたと想った1撃は、執行者(フォチャード)の予想以上の身体能力と対応力に不発に終わってしまった。


(この人、強い)


これまで相対してきたどの相手よりも、頭一つ抜き出ている。

いや、2日前対峙したカイルクラスだと、脳内で訂正する。


「過大なる噂と思っていたけど、まんざらでもない。

…たぎるねぇ」


血が流失している腹部に指を這わせ、それを舐め取る。

そして懐から赤い球体を取り出す。

それは血塗られた鉾(ミストルティン)の者が首の後ろの埋め込んでいる魔晶石(デモノデバイス)に酷似していた。

唯、その大きさだけは2回りはあり、その輝きは巨大なルビーを彷彿とさせた。


真逆(まさか)、学生相手に本気を出せるとは想いもしなかった」


消去を操作した為、ビィーナは全体に軽い倦怠感を覚える。

この1撃で決まるものとしていたのだが、敵の予想を上回る能力に予定を狂わされていた。


(早期に決着をつけないと)


ビィーナは一片の焦りの浮かべず、唯事実を受け止めて策を講じる。

そんなビィーナにいたく感心したのか、ゲシュートは両手に携えたナイフを収め、その赤い球体を愛おしそうに掲げる。


「決める時間をやろう。

死を受け入れるな」


ビィーナは無表情でその言葉を受け止める。

虚勢ではないと、機械仕掛けの心の部分が告げていた。

直ぐにでも殺しを実行したいが、相手の未知数の能力を天秤にかけると、迂闊な行動は取れないでいた。

そんなビィーナの前で、奇妙(おか)しな現象が起きる。

突如空間に歪みが生まれた。

初めは敵が仕掛けてきたのかと警戒を強くした。

だが、相手もこの現象に怪訝そうな表情を浮かべているところから、これが攻撃への伏線でないと計れた。

そして歪みから突然腕が生え、そしてゲシュートの赤い宝玉が握られた腕を掴み取る。


「ゲシュート、幾らなんでもそれは反則よ。

それでは獅子と獅子の勝負を、獅子と兎に貶めるわ。

それは詰まらないし、大人気ないわ」


歪みから人を象ったものが、姿を現す。

ハッとするような大きな瞳に、少し上がり気味の眉。

東洋系の顔立ちをしたその者は、緑の黒髪が良く似合っていた。


(っえ!)


ビィーナは目を疑った。

確かに自分の勘違いではあったが、あまりに似ている。

特に、その瞳と流れる黒髪は、瓜二つと言っても過言ではない程に。


「ツバキさん」


さっきまで好戦的で、ギラついていたゲシュートの雰囲気がなりを潜める。


(リン、…違う)


そう、その立ち姿は凛を想わせた。

だが、雰囲気がまるで違っていた。

凛が抜き身に刀を彷彿とさせるならば、この女は鞘。

どんな凶悪なる刃すらも収めてしまえる、玲瓏なる鞘。

ゲシュートなる凶刃を、今まさに収めてしまった。


「どうして、ツバキさんが」

「ガイラに呼ばれてね」

「あの堕落者が」


怒気を含んだ声音。

ガイラなる者が、この女を呼び出した事にゲシュートが怒りを覚えている。

それだけこのツバキなる女を、この凶刃は慕っている事になる。


「まぁ、それはついで。

本当はアイスに呼ばれたのよ。

さて、確かトイアムト。

いえ、ビィーナと呼んだ方がいいわね」


トイアムトなる傭兵団が滅んだことを察してか、ツバキは訂正した。

もしくは、ビィーナなる一個人を尊重してかもしれない。


「こっちから仕掛けといて悪いけど、刀を引いて貰えるかしら。

貴女ほどの人が、私たち2人を相手にする愚行に及ぶとは考えにくいけど」


正直、このツバキなる女はゲシュートよりも威圧感はない。

それが実力に繋がるかと言えばそうではないが、それでもゲシュートに近い実力は有しているとして間違いないだろう。

1対1でも勝率が不明だったのに、2対1で相対するのは愚の骨頂と言える。

ビィーナは静かに振動(ペルガモ)を発露させ、刀をキューブ状に戻す。


「ありがとう」


ツバキと呼ばれた女性は、素直に引き下がったビィーナに礼を送ってくる。


「…何者」


ビィーナはその姿に問わずにはいられなかった。


「そうね。

(チーム)メイトだもの、疑問に想うのは仕方ないこと。

でも、貴女が私を知る資格はない。

いえ、貴女にもあるかもしれないわね、示現(ノルン)の遣い手、神衣(カムイ)よ」


全てを見透かしたように、ツバキなる女は自分の髪を梳きながら、ゆっくりとその名を告げる。


「…どうして、その名を」


動揺が渦巻く心中を押さえ込み、ビィーナは無機質を装う。


「…自覚はあるか。

なら、その問いと名だけ告げておくわ。

私は貴女と同じ託されし苗。

でもね、こんな(もの)は今更なんの役にもたたない。

救いなどを導き出せぬ、ガラクタ」


自嘲を口にし、その女は一拍置く。


「もう1つの約束。

私の名は椿(つばき) (さかき)

「サカキ!」

「後は想像にお任せするわ。

そうそう、ティアに伝言をお願い出来るかしら?」


椿は、無造作にビィーナへと歩んでくる。

そして耳元へと顔を寄せてくる。

これに対し、ビィーナは何故か警戒を抱けないでいた。

恐らく理由は2つ。

1つはこの女が凛と同じく、姑息なる手段を講じない、高き者だと感じ取ったから。

そしてもう1つは、用件がティアに対してのものだったからだ。


「来るべきではなかった。

貴方は、あのまま世界に埋没すべきだったと。

今からでも遅くはない、この赤き世界から去れと」


耳元でそう囁くと、椿はビィーナに背を向けゲシュートの元へと戻る。

ビィーナは一瞬だけ視認できた椿の横顔、それは母親が子供の安否を気遣い苦悶しているものだった。

だから、追求を挟めなかった。

その厳かなる背中を見送るしかビィーナには出来なかった。


「それと、凛にはこう言っておいて。

貴女の目的へと突き進むなら、私が壁となると。

貴女程度では、無駄な足掻きだとね」


椿は振り返り、不敵な笑みを浮かべた。

それは凛が浮かべているものと、良く似ていた。


「じゃ、行きましょう、ゲシュート」

「まっ!」


言葉を続ける前に椿の前方に歪みが生まれ、そこへ踏み込んでいく2人。

そして歪みに飲み込まれた2人に姿は忽然と場から失せていた。



(これは空間(ヒラデルヒア)

…アレスと同じ(ゲート)


「ビィーナ!

何かあったのか!」


争う音を聞きつけて来たのか、ティアとカイルが控え室の方角から急ぎ駆けつけてくる。

ティアの声で、ビィーナはやっと戦闘モードから通常へと切り替わっていく。

固まっていた精神が解きほぐされ、胸に溜まっていた張り詰めた空気を吐き出す。


「敵。

追い払った」


感情を押し殺し、淡々と一部の真実だけを告げる。


「追い払った?

お前が、斃し損ねたのか」

「うん。

…ホンキだったのに」

「なっ!!」


この事実に、ティアは驚愕を顕にする。


「あそこまでとは想わなかった。

執行者(フォチャード)の実力が」

「ちょっと、待ってください。

敵は執行者(フォチャード)だったのですか!?」


それまで話を聞いていたカイルが、その単語に待ったをかける。


「あ、カン違いしないで。

前の事件がロテイしたとかじゃなくて、ウさ晴らしだって言ってた」

「憂さ晴らし…、そんなもので命狙われたのかよ、お前」

「違う。

狙われたのはティア」

「はぁ、なんで俺が!」

「わかんない。

そうとしか言ってなかったし」

「憂さ晴らしですか。

どんな相手でしたか?」

「ゲシュートって名乗ってた、黒ずくめの女の人」

「ゲシュート ノイラ…」


カイルは思い当たる名を口にし、蒼白に顔色を染めていた。


「誰?」

執行者(フォチャード)の5本槍。

ガイラ ノーザンを筆頭に、構成されている最強の槍ですよ。

ガイラ ノーザン、テラドマイア コールド、ゲシュート ノイラ、ライト ライト、ギャザー インパス。

執行者(フォチャード)の中でも傑出(けっしゅつ)し、1国クラスの実力をそれぞれが備えていると噂されています」

「ふ~ん、そうなんだ。

メチャクチャ強いと想ったら、最強か。

全力で壊しソコねたのは、初めて」


(じゃ、あのツバキって女は、執行者(フォチャード)じゃないんだ)


5本槍とされる者を従えていた。

執行者(フォチャード)内の者とは考え難い。

それよりもサカキの名にビィーナは、意識を止めていた。


(リンとティアと同じ名。

そしてあの女は2人を知っている)


ビィーナは伝言を伝えようとして、逡巡が芽生える。

1つの疑問が先に立ち、口篭る。

そして口についてのは、こんな言葉だった。


「ねぇ、ティアはどうして血塗られた鉾(ミストルティン)に来たの?」


素朴であって、確信を付いたような質問。


「あ、いきなりな質問だな。

どうした?」

「なんとなくだよ」

「まぁ、いいが。

詰まらん理由だぞ。

探し人がいる、それだけだ」


ピースがカチリと嵌った感じがした。

その探し人が、あの女であると。

胸襟(きょうきん)の淵に茫漠(ぼうばく)でドロドロとしたものが膨らんでいく。


「そうなんだ」


フラットな口調。

自然と無感情に発せられた言葉は、赤い想いが先走った現れだった。


「どうした、どこかヤられたのか?」


感情を顕にしている時とも、押し殺している時とも違う。

見たことも無いビィーナの態度に、ティアは戸惑ってしまう。


「ダイジョウブ。

少しだけ皮を切られた程度。

毒もヌられてなかったし。

それより、この場をハナれよう。

2陣が来ないとも限らないし」


的確であり、誤魔化すようにビィーナは督促(とくそく)する。

胸を満たす感情に翻弄され、ビィーナは結局伝言を伝える事ができないでいた。

嫉妬という、初めての感情に。

サブタイトルは、死と破滅を齎す魔剣(テュルフング)です。

ガイラに通り名があるように、今回のも通り名があります。

まだ紹介してませんが、一先ずサブタイトルとして入れました。

近い内に、本編には書く予定です。

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