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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【柱なる者達】 5本槍

本日は6話目です。

次回からは、どうにか毎日投稿していきたいと思っています。

今回は閑話が多かったですが、この話より本編に返り咲きです。

【柱なる者達】


それは単体と言う形をとっていた。

だが、それは見せかけのみ。

それの本性は群体による、総意に他ならない。

本人の意図とは関係なく選択を行い、そして生かされていく。

それは具現。

不条理なる世界において、誰もが成しえない理想系。

誰もが持つ正義。

されど世界という枠組みで貫くには、人の精神というものは脆弱に形成されている。

だが、それはそれを可能としていた。

別に強靭なる精神が宿っている訳ではない。

それは総意なのだ。

だから迷いを打ち立てられても、多数の理想により答えを導き出し、人が成しえない正義を構築し、貫こうとする。

その道は余りに嶮しく、命という代価を必要とする場面を主とする。

だが、それは群体なのだ。

1人であり、多数故に死角は殆どない。

そう、それは生かされている。

その本質に気が付いた時、人は絶望的な虚無感を覚えるだろう。

そして戦慄を。

もし、この背中を追いかける者がいるならば、心すると良い。

これは人が共に歩める道ではない。

決して、その背中を追うなと。




喧騒から離れた位置で陣取り、男は草むらに体を投げ出して寝転がっていた。

だらしない風体をした男は、のんびりと流れる散り散りとした雲を見上げる。


「…珍しい者がいます。

真逆(まさか)、隊長が時間を守るなんて。

折角晴れた空も、泣いてしまうかもしれませんね」

「……お前、ホンと俺のこと嫌いだろう?」


無気力染みた男はそれに輪をかけて、だらけた雰囲気を醸し出しながら瞼を一度閉じて、見開く。


「前も言いましたが、別に尊敬もしてなければ嫌悪もしてませんから、安心してください」


開かれた眼球には、精悍な顔付きの男が覗き込んでいる姿が映った。


「…前も言ったが、俺はお前が嫌いだ、テラドマイア」

「別に構いませんよ」


血塗られた鉾(ミストルティン)最強部隊執行者(フォチャード)を束ね、底無しの淵の破壊神(アバドン)の異名を持つ者、ガイラ ノーザン。

テラドマイアの相変わらずな態度に、憮然とし、そして嘆息をする。


「ったく!」


突然、ガイラは転がっていた体を折り、回転させて横手に置いてあった巨大な布に包まれた物体を掴み、地面に突き立てる。

その反動でその場から逃れ、布に包まれた物体で前方の空間を凪ぐ。

ギンッ!

虚空から金属がぶつかり合う音と火花がした。


「…ゲシュート、その登場の仕方は止めろよな」


虚空が揺らぎ、忽然と人の姿が顕になる。

早朝の日差しの中、黒装束を纏ったそれは異様さだけを顕現していた。


「ガイラ、今日も生き延びたか。

腕は鈍ってないようだな」


口元まで覆われている布。

全身を黒一色で固めた者が、そこには居た。

刃渡り50センチはある巨大な黒光りするナイフが、振り翳された布に覆われた物体を受け止めていた。

ガイラが振るっている布の一部が切れ、その隙間から刃が見え隠れしている。


「互いにな」


かなりの勢いで振り翳された1撃を、事も無げに受け止めている黒装束の者。

ガイラの腕が2倍近くに膨れ上がり、この1撃にどれ程の力を篭めたかが窺える。

だが黒装束の者は、別段力んでいる様子もなく、これを制していた。


「毎度毎度人の首を狙いやがって。

お前と組む時は、オチオチと小便もしてられん」


先程までガイラが寝転がっていた箇所に、穿たれた痕跡があった。

黒装束が持っている刃物がピッタリと納まる穴が。


「良く言う。

貴様のどこに隙などある。

呆けを装い、常備戦闘モードのキサマが」


ガイラの刃を押し返し、巨大なナイフを腰の鞘に収める。


「テラドマイアの言う通り、貴様が時間を厳守するとは。

異常気象にしたいのか?」


口元の布を下げ、ゲシュートは顔を見せる。


「ったく、こいつも可愛げのない。

ちっとは、女らしく出来んのか?」


ガイラは軽口を叩くと、顔を反らす。

丁度反らした跡地に、黒い閃光が煌く。


「この世に残す言葉は、それが最後か」


いつの間にか大型ナイフが握られ、ガイラの前髪を数本切り落としていた。

顔を反らしていなければ、両目が一文字されて失明していたことだろう。


「冗談の効かない奴だな。

見かけによらず、気性が荒い」


瞬間で一帯に、怖気のする殺意が満ちる。


「余計な事だ。

2度と、その話題に触れるな」

「はいはい」


やる気のない返答をしながら、ガイラはアッサリと背中を見せる。


「ムカつく男だ、相変わらず」


背中を見せられているというのに、まったく隙の欠片すら見当たらない。

これが逆に誘いであることは明白だった。


「後はライト、ギャザーだが、…どうやら、ご登場のようだな」


遠目から見ても確認できる、巨躯。

2メートル越す巨体が此方を目指して歩いてくるのが窺えた。

その横を、ヒョコヒョコと小柄な人物が付いてくる。

巨躯の男は歩幅を合わせるつもりがないようで、それについて行こうと小柄な男は早歩きで横手をついていた。


「隊長、…変な物でも食べたか?」


巨体の男は訝しい表情を浮かべ、ガイラが時間厳守している事実に驚嘆していた。


「お前もか、ライト」


「どいつもこいつも」とぼやき、ガイラは大げさに空を仰ぐ。


「と、ギャザー、久しぶりだな」

「どうもっス、隊長」

「並ぶと巨人と小人だな、お前ら」

「ライトさんがデカイだけですよ。

別に俺は」


反論しようとする小柄な男の頭を巨大な手が抑える。

その様は、押し潰されているような錯覚すら受ける。

伸長差が80センチもあると、横幅等を考慮すると2倍から3倍に面積の差を覚える。

まさに巨人と小人と言った感じだった。


「止めてくださいよ、ライトさん!」


ジタバタと手の下で暴れるギァザー。


「で、ギャザー。

少しは成長いたのか?」

「未だ、雛っ子だ。

柱としては2流以下だ」


淡々と事実だけを巨体のライトが答え、ギャザーは必死でその手から逃れようとしていた。


「別に俺だって、サボってるわけじゃないッスよ。

…隊長たちが、化け物過ぎるだけッス」

「ほぉ~、小僧っ子が。

一人前にも口答えするようになるとは」


ライトに手から逃れたばかりの処に、ガイラがその頭をかき混ぜるように、グシャグシャに撫ぜる。


「止めてくださいって!」


歓迎が終わった頃には髪の毛は乱れ、悲惨な状態になっていた。

半泣きで乱れた髪を撫でながら、ギャザーはガイラに視線を配らせる。


「で、どうしたッスか?

闘技大会なんて学生の遊戯に、隊長が招待するなんて珍しいッスね」


ギャザーの問いに、ガイラは獰猛な笑みを浮かべる。


「なぁに、久々に骨のある奴らを見つけてな。

お前らにも見せておこうかと」


面白い玩具を見つけた子供のように、ガイラは嬉々とした表情で言った。


「あの5人ですか?

確か、5人とも健在のままだとか」

「そうだ。

カリオストで血塗られた鉾(ミストルティン)を出し抜いた、あいつ等だよ」

血塗られた鉾(ミストルティン)を出し抜いたって!」


驚愕の発言に、ギァザーは身を乗り出していた。


「少し落ち着け。

で、隊長。

その興味深い連中とは、いったい」


ギャザーを諌めつつ、ライトは促す。

平坦を装っているが声音に起伏が微かにあり、興味をそそられているらしい。


「半年前に第2学年(ランデベヴェ)がミッションで、依頼を不履行にしやがったことがあるのさ」

「不履行とは。

だが、所詮は学生の領域」

「あの時、この作戦に起用されたのは破壊工作員(バルディッシュ)2名、特殊社員(ピルムムルス)2名、第3学年(ランカ)2名。

そして第2学年(ランデベヴェ)の監視に審査官(フリウリ)が1名。

それら全てを抹殺し、その上100を超えるフォーリジャーを殲滅しました。

血塗られた鉾(ミストルティン)を欺く寸前まで計画を遂行しました」


「っ!

社員が含まれている作戦をひっくり返したのか、第2学年(ランデベヴェ)が」

「驚くべきは、これが半年前の話。

第1学年(ランス)から第2学年(ランデベヴェ)に進級したばかりの面子が、それを遣って退けた事実。

向上心の旨としている(チーム)でしたから、今はどれ程に化けているか」


テラドマイアの説明にライト、ギャザーが言葉を失っていた。

唯一、ゲシュートだけが舌なめずりをしながら、話に聞き惚れていた。


「成程。

ガイラ、キサマが私たちを呼んだ意味が分かったよ。

第2学年(ランデベヴェ)にして、最強の槍(フォチャード)と同格の働きをした者。

それはキサマが目をつけた玩具だね。

キサマは昔から、策謀には鼻が利いたからね」

「そうだ。

あいつらは近い内に、行動を起こす。

その前に下見をさせておこうと思ってな」

「でも、高が知れてるでしょ。

柱たる俺たちが気にかける程でも」

「それを確かめに、今日赴いたんだろうが。

あの女が言うとおり、範疇に収まってくれて無ければいいが」

「範疇?」

「その(チーム)の頭が俺に挑発してきたんだよ。

『貴方の範疇に私たちが納まればいいけど』とな。

この俺様にだ」


それを聞いて、ギャザーは背筋に悪寒が奔った。


(この人の実力を知る者なら、そんな軽口叩けるものか)


「てな訳で、そいつらの成長を確認にな。

興味そそられないか?」


ガイラは腕を上げる。

その手に中に5枚のチケットが握られていた。


「プラチナチケットだ。

特等席で観戦出来るぜ」

「…隊長、ワザワザ購入したんスか。

俺らなら、管理室で見られたのに」

「情緒のない奴だな。

観客に混じって、雰囲気を楽しまんでどうする?

お祭りらしくな」

「くだらない」


ガイラを一瞥すると布で口元を覆い、ゲシュートは背を向ける。


「ゲシュート、摘み食いすんなよ」

「餓鬼如きに興味はない。

私の対象はキサマだ、ガイラ」


それだけ告げると、空間に溶け込むかのように黒い装束が朝の光の中に埋没していく。


「嫌われたものだな、随分と」

「ホントッスね。

人一人にあそこまで嫌われるなんて、やろうと思っても出来るもんじゃないスからね」

「ギァザ~、お前一言多いと良く言われないか?」

「あ、判ります?

そうなんッスよね、自覚はないんッスけど」


照れくさそうに頭をかくギァザー。

その脳天にガイラの踵落しが決まったのは、1秒後の事だった。

5本槍、最強の槍そろい踏みです。

実力の程は、追々です。

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