【柱なる者達】 5本槍
本日は6話目です。
次回からは、どうにか毎日投稿していきたいと思っています。
今回は閑話が多かったですが、この話より本編に返り咲きです。
【柱なる者達】
それは単体と言う形をとっていた。
だが、それは見せかけのみ。
それの本性は群体による、総意に他ならない。
本人の意図とは関係なく選択を行い、そして生かされていく。
それは具現。
不条理なる世界において、誰もが成しえない理想系。
誰もが持つ正義。
されど世界という枠組みで貫くには、人の精神というものは脆弱に形成されている。
だが、それはそれを可能としていた。
別に強靭なる精神が宿っている訳ではない。
それは総意なのだ。
だから迷いを打ち立てられても、多数の理想により答えを導き出し、人が成しえない正義を構築し、貫こうとする。
その道は余りに嶮しく、命という代価を必要とする場面を主とする。
だが、それは群体なのだ。
1人であり、多数故に死角は殆どない。
そう、それは生かされている。
その本質に気が付いた時、人は絶望的な虚無感を覚えるだろう。
そして戦慄を。
もし、この背中を追いかける者がいるならば、心すると良い。
これは人が共に歩める道ではない。
決して、その背中を追うなと。
※
喧騒から離れた位置で陣取り、男は草むらに体を投げ出して寝転がっていた。
だらしない風体をした男は、のんびりと流れる散り散りとした雲を見上げる。
「…珍しい者がいます。
真逆、隊長が時間を守るなんて。
折角晴れた空も、泣いてしまうかもしれませんね」
「……お前、ホンと俺のこと嫌いだろう?」
無気力染みた男はそれに輪をかけて、だらけた雰囲気を醸し出しながら瞼を一度閉じて、見開く。
「前も言いましたが、別に尊敬もしてなければ嫌悪もしてませんから、安心してください」
開かれた眼球には、精悍な顔付きの男が覗き込んでいる姿が映った。
「…前も言ったが、俺はお前が嫌いだ、テラドマイア」
「別に構いませんよ」
血塗られた鉾最強部隊執行者を束ね、底無しの淵の破壊神の異名を持つ者、ガイラ ノーザン。
テラドマイアの相変わらずな態度に、憮然とし、そして嘆息をする。
「ったく!」
突然、ガイラは転がっていた体を折り、回転させて横手に置いてあった巨大な布に包まれた物体を掴み、地面に突き立てる。
その反動でその場から逃れ、布に包まれた物体で前方の空間を凪ぐ。
ギンッ!
虚空から金属がぶつかり合う音と火花がした。
「…ゲシュート、その登場の仕方は止めろよな」
虚空が揺らぎ、忽然と人の姿が顕になる。
早朝の日差しの中、黒装束を纏ったそれは異様さだけを顕現していた。
「ガイラ、今日も生き延びたか。
腕は鈍ってないようだな」
口元まで覆われている布。
全身を黒一色で固めた者が、そこには居た。
刃渡り50センチはある巨大な黒光りするナイフが、振り翳された布に覆われた物体を受け止めていた。
ガイラが振るっている布の一部が切れ、その隙間から刃が見え隠れしている。
「互いにな」
かなりの勢いで振り翳された1撃を、事も無げに受け止めている黒装束の者。
ガイラの腕が2倍近くに膨れ上がり、この1撃にどれ程の力を篭めたかが窺える。
だが黒装束の者は、別段力んでいる様子もなく、これを制していた。
「毎度毎度人の首を狙いやがって。
お前と組む時は、オチオチと小便もしてられん」
先程までガイラが寝転がっていた箇所に、穿たれた痕跡があった。
黒装束が持っている刃物がピッタリと納まる穴が。
「良く言う。
貴様のどこに隙などある。
呆けを装い、常備戦闘モードのキサマが」
ガイラの刃を押し返し、巨大なナイフを腰の鞘に収める。
「テラドマイアの言う通り、貴様が時間を厳守するとは。
異常気象にしたいのか?」
口元の布を下げ、ゲシュートは顔を見せる。
「ったく、こいつも可愛げのない。
ちっとは、女らしく出来んのか?」
ガイラは軽口を叩くと、顔を反らす。
丁度反らした跡地に、黒い閃光が煌く。
「この世に残す言葉は、それが最後か」
いつの間にか大型ナイフが握られ、ガイラの前髪を数本切り落としていた。
顔を反らしていなければ、両目が一文字されて失明していたことだろう。
「冗談の効かない奴だな。
見かけによらず、気性が荒い」
瞬間で一帯に、怖気のする殺意が満ちる。
「余計な事だ。
2度と、その話題に触れるな」
「はいはい」
やる気のない返答をしながら、ガイラはアッサリと背中を見せる。
「ムカつく男だ、相変わらず」
背中を見せられているというのに、まったく隙の欠片すら見当たらない。
これが逆に誘いであることは明白だった。
「後はライト、ギャザーだが、…どうやら、ご登場のようだな」
遠目から見ても確認できる、巨躯。
2メートル越す巨体が此方を目指して歩いてくるのが窺えた。
その横を、ヒョコヒョコと小柄な人物が付いてくる。
巨躯の男は歩幅を合わせるつもりがないようで、それについて行こうと小柄な男は早歩きで横手をついていた。
「隊長、…変な物でも食べたか?」
巨体の男は訝しい表情を浮かべ、ガイラが時間厳守している事実に驚嘆していた。
「お前もか、ライト」
「どいつもこいつも」とぼやき、ガイラは大げさに空を仰ぐ。
「と、ギャザー、久しぶりだな」
「どうもっス、隊長」
「並ぶと巨人と小人だな、お前ら」
「ライトさんがデカイだけですよ。
別に俺は」
反論しようとする小柄な男の頭を巨大な手が抑える。
その様は、押し潰されているような錯覚すら受ける。
伸長差が80センチもあると、横幅等を考慮すると2倍から3倍に面積の差を覚える。
まさに巨人と小人と言った感じだった。
「止めてくださいよ、ライトさん!」
ジタバタと手の下で暴れるギァザー。
「で、ギャザー。
少しは成長いたのか?」
「未だ、雛っ子だ。
柱としては2流以下だ」
淡々と事実だけを巨体のライトが答え、ギャザーは必死でその手から逃れようとしていた。
「別に俺だって、サボってるわけじゃないッスよ。
…隊長たちが、化け物過ぎるだけッス」
「ほぉ~、小僧っ子が。
一人前にも口答えするようになるとは」
ライトに手から逃れたばかりの処に、ガイラがその頭をかき混ぜるように、グシャグシャに撫ぜる。
「止めてくださいって!」
歓迎が終わった頃には髪の毛は乱れ、悲惨な状態になっていた。
半泣きで乱れた髪を撫でながら、ギャザーはガイラに視線を配らせる。
「で、どうしたッスか?
闘技大会なんて学生の遊戯に、隊長が招待するなんて珍しいッスね」
ギャザーの問いに、ガイラは獰猛な笑みを浮かべる。
「なぁに、久々に骨のある奴らを見つけてな。
お前らにも見せておこうかと」
面白い玩具を見つけた子供のように、ガイラは嬉々とした表情で言った。
「あの5人ですか?
確か、5人とも健在のままだとか」
「そうだ。
カリオストで血塗られた鉾を出し抜いた、あいつ等だよ」
「血塗られた鉾を出し抜いたって!」
驚愕の発言に、ギァザーは身を乗り出していた。
「少し落ち着け。
で、隊長。
その興味深い連中とは、いったい」
ギャザーを諌めつつ、ライトは促す。
平坦を装っているが声音に起伏が微かにあり、興味をそそられているらしい。
「半年前に第2学年がミッションで、依頼を不履行にしやがったことがあるのさ」
「不履行とは。
だが、所詮は学生の領域」
「あの時、この作戦に起用されたのは破壊工作員2名、特殊社員2名、第3学年2名。
そして第2学年の監視に審査官が1名。
それら全てを抹殺し、その上100を超えるフォーリジャーを殲滅しました。
血塗られた鉾を欺く寸前まで計画を遂行しました」
「っ!
社員が含まれている作戦をひっくり返したのか、第2学年が」
「驚くべきは、これが半年前の話。
第1学年から第2学年に進級したばかりの面子が、それを遣って退けた事実。
向上心の旨としている班でしたから、今はどれ程に化けているか」
テラドマイアの説明にライト、ギャザーが言葉を失っていた。
唯一、ゲシュートだけが舌なめずりをしながら、話に聞き惚れていた。
「成程。
ガイラ、キサマが私たちを呼んだ意味が分かったよ。
第2学年にして、最強の槍と同格の働きをした者。
それはキサマが目をつけた玩具だね。
キサマは昔から、策謀には鼻が利いたからね」
「そうだ。
あいつらは近い内に、行動を起こす。
その前に下見をさせておこうと思ってな」
「でも、高が知れてるでしょ。
柱たる俺たちが気にかける程でも」
「それを確かめに、今日赴いたんだろうが。
あの女が言うとおり、範疇に収まってくれて無ければいいが」
「範疇?」
「その班の頭が俺に挑発してきたんだよ。
『貴方の範疇に私たちが納まればいいけど』とな。
この俺様にだ」
それを聞いて、ギャザーは背筋に悪寒が奔った。
(この人の実力を知る者なら、そんな軽口叩けるものか)
「てな訳で、そいつらの成長を確認にな。
興味そそられないか?」
ガイラは腕を上げる。
その手に中に5枚のチケットが握られていた。
「プラチナチケットだ。
特等席で観戦出来るぜ」
「…隊長、ワザワザ購入したんスか。
俺らなら、管理室で見られたのに」
「情緒のない奴だな。
観客に混じって、雰囲気を楽しまんでどうする?
お祭りらしくな」
「くだらない」
ガイラを一瞥すると布で口元を覆い、ゲシュートは背を向ける。
「ゲシュート、摘み食いすんなよ」
「餓鬼如きに興味はない。
私の対象はキサマだ、ガイラ」
それだけ告げると、空間に溶け込むかのように黒い装束が朝の光の中に埋没していく。
「嫌われたものだな、随分と」
「ホントッスね。
人一人にあそこまで嫌われるなんて、やろうと思っても出来るもんじゃないスからね」
「ギァザ~、お前一言多いと良く言われないか?」
「あ、判ります?
そうなんッスよね、自覚はないんッスけど」
照れくさそうに頭をかくギァザー。
その脳天にガイラの踵落しが決まったのは、1秒後の事だった。
5本槍、最強の槍そろい踏みです。
実力の程は、追々です。




