【熱冷めぬ間に】 タイムリミット
波紋が隅々まで充ち、一定のリズムを刻む。
それがある結論を導き出す。
有機と無機に彩られた世界。
そこに永遠を投影する事がないと。
頑強なる鉱物でも、何れは劣化し、錆、朽ちる。
有機だろうと、その結末は変わらない。
世界は有限であると。
それは世界の基準で計れば、刹那で、瞬きである。
ましてや、人ならば尚更のこと。
何れは必ず訪れる。
ならば、人は何の為に生きるのだろうか?
結末が絶対なら、その生きるという足掻きは、無為なのだろうか?
その問いを己に投げかけるは、愚か故だろうか?
一生という流れを静観できるなら、一度は問うべき疑問であろう。
だが、その疑問こそが落とし穴である。
人は人を識らない。
チープな言い方をすれば、可能性。
もっと厳密に言えば、過程。
どこまでも無数で、どこまでも直線。
それぞれに意味を求めても無駄で、無意味。
静観すれば自ずと見えてくる。
観察者がいるからこそ、世界なのだと。
ならば、意味を計るは人。
そして観察者が居る限り、意味しかないのだと。
結末は同じであれど、それは紡がれる糸。
ならば、人は何の為に生きる?
己という生き物すら制御できぬ未熟者。
だからこそ、人は己という生き物を服従させる為に生きるのではないか?
全てを周りに求めても、所詮は己が宿願。
自己を誇示し、証明する為に人は生きるのだろう。
観測者無き世界に意味はない。
他人が居て成立する意味。
意味を求めるが故、自己を強調する。
人とは、己という生き物を他の生き物に認めさせる為に生きる。
何処をどう取っても、自己責任の世界。
人の為なんてほざいても、その実は己が満足する為の手段で、言い訳に過ぎない。
矛盾。
他を認めなければ、意味を失い、他を求めても、自慰でしかないのだ。
(落とし穴っていうのは、答えが無限になってるってことだろうな。
結局、折り合いを付けて進むしかないんだろうな)
肉体が活性化し、それに伴い失われていく有限物に詰らない疑問を挟む。
こういった思考に出口がないことは重々承知しているが、どうしても見つめ返す為には必要な儀式のように思えた。
(望むと望まざると関係なく行き着くなら、してはならないのは後悔)
他を気にしすぎ、個を捨ててしまっては目的を見失ってしまう。
反省の積み重ねはあれど、慙愧の念に囚われてしまえば、進む先も、他を用いて個を紡ぐことすらままならなくなる。
そして世界に埋没してしまう。
決して埋没することが悪い訳ではないが、自我を持つものの性ともいうのだろうか、証を残したいと足掻くことを止めない。
止めた地点で、個は群に変わり、群体の一部として飲み込まれる。
個を維持するとは、世界に埋もれないという途方も無い荒波を生きる事かもしれない。
(シンプルに人生は闘いと割り切れれば良いんだが、それだけじゃ疲弊し、朽ちてしまう。
入れるところは入れ、抜くとところは抜くか。
…この理屈だと、長生きできないんだろうな、俺は。
そう考えると似たもの同士だな、俺と凛は。
だけど、性質なんてそうそう変えられるものでもない)
闘いに意味を持たせる事は、他を依存すること。
要素を蓄え、その中から選出されたものが答えとなる。
他に意味を持たせ、自で責任を持つ。
それは余りに険しい茨の道。
それでも引けない性が常に語りかける。
(結局のところ、俺は不器用だから、不器用に生きる方法を選出する。
…足りないと判っているなら、足すしかない。
俺はその方法を選ぶんだ。
何度でも)
蝋燭に例えるなら、その行為は纏っている蝋を剥ぎ取り、芯を剥き出しにしていく作業だった。
それを知りながら、一瞬輝く火花を散らす方法を選んでしまう自分の不器用さに、苦笑いを浮かべてしまう。
波紋が躰の隅々を網羅し、先端まで達して消える。
この行為1つとっても、細胞の寿命を縮めるものに他ならない。
頻度の高いものは劣化を推進させ、破局へと加速していく。
それは有機無機問わずにだ。
波紋を行き渡らせる事で、肉体の反応が自分の思い通りに可動することを確認した。
肌艶も良く、十分な栄養価を蓄えていることが窺える。
自分の躰をメンテナンスし、可能な限り万全であると答えを返してくる相棒。
(まったく、後2日に迫ってからこんなこと考えるなんて、俺はきっとネジが1、2本跳んでるんだろうな。
でも、今のままじゃ、多分駄目だ。
可能性を見出すには、この方法しかない)
冷気に誘われ、霜が降りてくる。
だが活性化し、熱を帯びた自分の躰に触れるものは露となり、肌を濡らす。
可能性なんて御託をならべても、自分でもその実が違うものだとわかっている。
これはカイルの時にも感じた、本能的なもの。
この1ヶ月半で厭という程知ってしまったからこそ、堪らなく飢えてしまったのだ。
攻撃衝動。
挑戦欲。
何よりも、確かめたいのだ。
己の立ち位置というものを。
僅かに揺れる気配を察し、臨戦態勢で振り返る。
「どうした。
お主には後2日、休息を申し渡した筈じゃが」
「それは、俺に首を斬れということですか?」
「お主は良くやった。
それで及ばぬなら、只時間が足り無かっただけ。
弛まぬ努力を強いてきたのじゃ。
誰も文句は言うまい」
「居ますよ。
文句を言う奴が」
「…お主」
「俺自身が許さない。
あの時口にした約束、違える気はありません。
先生はわかっている筈。
このままじゃ勝ち抜けない事を」
「………」
沈黙が肯定を促す。
「足りない。
確かに先生から受けた教授は、俺の躰に沁み込み、無我の状態でも行える自身がある。
でも、それだけじゃ勝てない」
「気が付いておったか。
済まぬな。
ワシが気が付いた時には、時間は遅かった。
それ故、このカリキュラムを省き、刻むことだけに専念した」
「…なら、簡単です。
足りなければ、足せばいい」
答えは決していた。
良くある認識のお話です。
中二病ですよね、こういうの…。




