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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【熱冷めぬ間に】 育ち始める感情

では、次々に上げていきます。

修行編な為か、話が一気にスピードダウンします。

【熱冷めぬ間に】


この時期になると、朝方は起きるのが困難な寒さを在中させる。

その最中、一部の箇所だけが熱を篭らせていた。

熱源は虚ろな瞳をした男だった。

湯気が体中から立ち上り、全身の熱が空気中に分散していくのが視認できた。

それ程までに男は活性化し、熱と水分を排出していた。

じっくり観察すれば男の貌はこけ、肉体に蓄えられている栄養分、エネルギーが寸前まで使用されているのが窺えた。

それでも虚ろな瞳をした男は、ひたすらにある作業に勤しむ。

男の足の裏は枯葉の上。

軽く指で触るだけでも粉々になりそうな枯葉の上に男は直立不動していた。

その横で少女は、無力感に苛まれながら、その様子を微動だにしないで見つめていた。


「…なんともはや、一睡もせずか。

タフな男じゃな」


助け舟が来たと、少女は声にした方向へと振り向く。


「テリト先生っ!」

「どうした、泣きそうな顔などして」


テリトと呼ばれた老人は、さも不思議そうに訊ねてくる。

それが感に触ったのか、少女は声を荒立たせて非難する。


「どうしたもないでしょうっ!

この様子見て、なんとも想わないんですかっ!」


少女の指す方向に、ジッと立ったままの少年がいた。

1日前とは別人のように痩せこけ、病人のような青い顔をしている。


「うむ、後1時間もすれば死ねな」


縁起でもない言葉に、少女は激怒しそうになる。


「ワシを責めるなら、どうして止めぬ」


先手を打たれ、少女は沈黙してしまう。


「意地の悪い質問をしてしまったな。

許せ」


謝罪し、テリトは少年の下までいくと、そこへ拳を付きたてる。

それに反応し、少年は枯葉の上から跳躍して、身を翻す。

その様は木の葉が舞うみたいで、緩やかに大気を流れる。

そのまま地面に到達すると、やはり足の裏にある枯葉の群体は潰れず、少年の肉体を支えていた。


「軽氣功、見事」

「見事じゃないですよ。

こっちはへばってるっていうのに、不意打ちなんて」


限界に達したのか少年の下の木の葉が押し潰されて、地面へと足を付ける。


「うっ…動いたから、眩みが」


少年は顔を掌で覆い、膝を付く。


「ティアっ!」


心配そうに駆け寄る少女に大丈夫とだけ告げ、尻餅を付く。


「これでも放り込んでおけ」


テリトが投げ渡す丸薬をキャッチすると、露骨に厭そうな顔をする。


「げっ、…最近まともな味がするもの口にしてないぞ」

「ついでに水分も鱈腹補給できるように、持ってきてやったぞ」

「…嫌がらせですか、これは」

「親切心に決まっておろうが」


少年は「どうだか」と文句を言いつつ丸薬を飲み込み、水袋を受け取りそれを流し込む。


「ぶっ!」


あまりに予想外な味に、思わず噴出す。


「汚いのう」

「てっ、これ、なんですかっ!」

「糖水、砂糖水じゃ。

吸収しやすい果汁糖を使っておるから、躰には良いぞ」


少年は先入観から殆ど味のしない水と認識していたので、その異様な甘さに虚を突かれて、ぶちまけてしまった。


「…そういうことは先にいっておいて下さいよ」

「認識の誤差じゃな。

なんにせよ、ワシに落ち度はなかろう」


「迂闊な者が悪い」と後に続け、テリトはサッサとエネルギーの補充をするように促す。

渋々それに従い、どちらかというと苦い部類の丸薬と、糖分が水の許容量限界まで溶かされている液体とを肉体に放り込む。

…混合された味は、意識が白んでいくまで酷く、人が口にするものとしては不適格な味へと変貌を遂げていた。

少年はしかめっ面でそれを飲み干して、胃から込上げてくる吐き気にじっと耐える。

テリトはティアをサッと診察し、それから水分がとび過ぎてカサカサになってしまっている肌を掴む。


「…蛋白質と水分がまだまだ足りぬな。

1度食堂に赴くとしよう。

さて、ビィーナは早朝トレーニングに戻るがいい。

後、昼から護衛を保健室に寄越すように伝えておいてくれ」

「昼?」

「肉体の細部まで酷使しておるからな、流石に休めねばならぬ。

まぁ、ワシの予想が正しければ、昼までには回復を計れる筈じゃ」

「…これが昼までに」


人と称するよりも、ミイラに近い状態まで変貌してしまっているティアをみて、ビィーナは不安そうに尋ねる。


「考えた事はないか?

どうしてティアが、これ程までに体力を有したか。

それは恐ろしいまでに強化された反発能力にある。

人の肉体は痛めつければ痛めつけるほどに、それを上回る回復へと肉体を昇華させる。

良い例が、筋肉じゃな。

筋肉痛は筋肉を傷める事で生じる。

だが、傷が治ると前よりも一回り力を蓄えて回復する。

つまり、ティアの躰は驚愕すべ回復能力と、吸収能力を秘めておるのじゃ。

この程度なら、タップリと栄養を取らせて6時間も睡眠をさせれば、元の状態、いや、前よりも蓄積率の高い躰になるじゃろうて」

「便利な体だね」

「…褒めてないだろ、その発言」


「まぁいい」とティアは酷使した躰を起こす。

立ち眩みから、一瞬脳内がブラックアウトする。

よろけるティアを慌ててビィーナが支える。


「す、すまない。

まだ、栄養が行き渡らないみたいだ」

「べ、べつにいいよ」


本当に肉体が動かないらしく、グタ~としてビィーナに躰を預けてくる。

ティアは首を肩に預け、吐息がビィーナの耳を掠める位置にあった。

それを意識した途端にカーッと全身の温度が5度程あがる。


(うっ、あぁぁぁ)


朱に染まった顔でオタオタしながら、かといって放り出して逃げる訳にもいかないビィーナは身体を硬直させて、緊張のピークを耐えるのだった。

緊張が感覚を鋭敏にし、そしてティアの詳細を赤裸々に伝えてくる。

その途端にビィーナの顔が曇る。


「悪い、もう大丈夫だ」

「あっ」


想わず名残惜しい声をあげてしまっていた。

1番そのことに驚いているのは本人なのだが。


「んっ、どうした?」

「べ、べつになんれもないよ」


舌を殆ど使っていないのに、それすら呂律が廻らなく、たどたどしく答えるビィーナ。

追求されたら、対応のしようが無いほどガチガチになってしまっていた。


「顔が赤いぞ。大丈夫か?」

「追い込んでやるな、ティア」

「はい?」


ティアには、何をどうして追い込んでいるのか検討も付かない。

ボケた返事しか返せないで、訳がわからずにビィーナとテリトの間で視線を彷徨わせる。


「鈍感なのも、偶には良いかも知らんな。」

「…はぁ」

「軽い風邪じゃろうて。

昨日は寒かったからのう。

毛布の支給ぐらいはしておくべきじゃったな」


等とテリトは嘯き、硬直したままのビィーナの元にいくと、耳元で何かを呟く。

それにビクッと反応すると、ビィーナは一目散にこの場から去っていく。


「…風邪ですか、あれが」

「病には変わりあるまいな。

全く、此処を何処だと想っておるやら」

「学園じゃないですか?」

「世界最高の殺伐としたな」

「それとビィーナがどう関係するんですか?」

「極まっておるな、この朴念仁が」

「…???」


ティアを無視することに決め込み、テリトは足りない栄養が補給できる食材を脳裡であげていく。


「お主、食欲は」

「ありますよ。

ここに入学してから、3倍は食べるようになりましたね」

「なら、大丈夫じゃろう」

「………」


厭な予感がした。

こと食生活に関して、碌な展開がまっていない。

それに該当する予感が悪寒を奔らせる。


「お手柔らかに」

「善処しよう」


ティアは嘘だと叫んでしまいたかった。

テリトの細く微笑んでいる横顔が、日頃の鬱憤をどう晴らそうかと画策しているようにしか見えない。


(…日頃の鬱憤が堪ってるのって、1番は俺じゃないのか)


チーム内ではヒエラルキーの最下層。

いびられる毎日。


(半分くらいは自分が悪いんだけどな。

でも、あの的確で心を刺すような言葉の群は痛いんだよな)


ティアは嘆息をつく。

何処に居ても自分の立場が変化しないんだなと、朝焼けの空を虚ろな瞳で見上げるのだった。


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