【刹那の蓄積】 シルーセルの決意
申し訳ございません。
気がつけば、また寝落ちしてました。
本日4話上げるつもりです。
体がギシギシと悲鳴をあげる。
毎日が限界ギリギリな訓練に日々。
だが、それすらも生ぬるい気がしていた。
(駄目だ、このままじゃ、追い付けないっ!)
肉体は眠りを欲し、眠りへの誘惑を掻き立てる。
それを振り切り、自分の不甲斐無さに憤慨をぶつける。
(甘い位置に居ながら、これ以上甘えるなっ!
こんなもんじゃないだろうが、俺の身体よっ!)
ギリギリと歯軋りしながら、甘ったれた肉体に叱咤する。
「今日は此処まで。
解散していいわよ」
リーダーの号令で、今日の訓練の終了を告げられた。
そして男2人を置いて、立ち去ろうとする背中にシルーセルは呼びかける。
「待てよ、リーダー」
その声に覇気が篭らない。
「情けねぇ」とぼやき、ガクガクする足で起き上がり、膝に手を置いて躰を支える。
「なにかしら」
「なにも糞もないだろうが。
この後の訓練に付き合えよ」
「…その躰で、未だ遣るつもり?」
「この程度だろうが」
それがシルーセルの強がりだとわかるのだろう。
いつもの挑発的な角度からこちらを見下ろし、凛は侮蔑の毒を吐く。
「生憎と、これ以上は躰を壊すだけ。
それもわからない程耄碌したのかしら、若いのに」
「生憎だが正気だし、もうろくした訳でもねぇ。
俺は、要請しているだけだ」
「…死にたいの」
聞き分けの無い者に対し、冷淡な言葉を吐く。
「そこら辺の調整は心得ているんだろ。
こんな所で大事な駒を壊す程、アンタは莫迦じゃねぇ。
微か、ほんの僅かだが余力がある。
それを使い切るまで、付き合ってもらう。
後はテリト先生のトコでも放り込んで置いてくれ」
問題外だと、シルーセルの案を蹴つろうとする凛。
そこへ助け舟を出したのは、カイルだった。
「凛、これは貴女の言った事です。
私たちは闘技大会までサポートに廻る。
それが取り決めに筈です。
この要請は応えなければなりませんよ。
それとも違える気ですか?」
やんわりとした口調ながら、どこか逆撫でするような発言。
シルーセルでも、2人の間に何かがあったことを計ることが出来るほどに。
剣呑な雰囲気が2人の間に充満する。
「私はその間警護に勤しみますので、思う存分遣るといいですよ、シルーセル」
「席を外しますね」と残し、カイルは夕日が染めるグランドから影を置き去りにして離れていく。
カイルの後姿を眺めながら、凛は暫し辛酸なる険しい貌をする。
気持ちを切り替えるため、瞼を閉じて、ゆっくりと溜め込んでいた鬱を吐き出すように深呼吸する。
微かな乱れで弛んでいた気持ちを切り替え、自嘲気味な笑いを浮かべシルーセルに向かい合う。
「付き合えと言うからには、何を鍛えたいかは計画してきてるんでしょうね」
「あぁ」
これからの修練を考えて、少しでも肉体を回復に向かわせる為に、四肢を投げ出して、寝転がる。
大きな呼吸にし、体内に酸素を多く補給して、乳酸の蓄積されている肉に新鮮な酸素を取り込む。
「…本気みたいね」
一刻も早く肉体を動かせるように配慮するシルーセルを見て、その覚悟の程を知る。
「自慢じゃないが、俺と遠距離戦をして勝てる奴はこの学園でも指折り数える程度だと想う」
「謙遜しなくていいわよ。
確かに貴方とカイルを上回る門の遣い手は、学園内にはいないわ」
「だけど、それだけだ」
シルーセルは悔しさを噛み締め、澄んだ紅色の空を睨む。
そこに自分の姿を投影して、怒りを覚えていた。
「今じゃ、誰も相手にもならない。
少し接近されたら手も足もでない。
赤子扱いだ」
「………」
「甘えるのも大概にしやがれっ!」
空に映る自分の姿に、シルーセルは吼えていた。
(殺しすら免除され、その上おんぶに抱っこだとっ!
お前はそれだけ価値のある存在かっ!
ティアは苦しんで、そこから抜け出して突き進んでいるのに、俺は同じと所で足踏みして、どこまで甘ちゃんなんだよっ!)
シルーセルは知っている。
利き腕が動かなくなり、歩く事すら儘成らなくなったティアがどれ程苦しんでいたかを。
動かない手を握り締め、葛藤しているティアの姿がこびり付いて離れない。
そんなティアに声を掛ける勇気もなく事象戦略盤で様子だけ覗いていた、卑怯な自分を詰る。
(アイツは乗り越えたんだっ!
俺如きが、こんな処で甘えていて良い訳ねぇだろうがっ!)
凛は吼えるシルーセルを見詰めながら、どこか自分を見ているような気分になる。
(自分の不甲斐無さが一番許せないって貌よな、これは。
…憤りが、拭い去れない憎しみが己では押さえ込めない。
傾向としては良いのかもしれないけど、シルーセルという人材には不適格ね)
「落ち着くことね。
貴方の能力は冷静であればある程に効力を発揮するもの。
それを的確に遣う事こそが、不甲斐無い自分からの脱却になるわ。
…それで、貴方は私に何を求めているのかしら?」
最近なりを潜めていた不敵な笑みを浮かべ、凛はシルーセルの要求に耳を傾ける。
「事象戦略盤。
これを有効に使った接近戦を学びたい」
「…それは合気を覚えたいってことかしら」
「名は知らないけど、お前が使う敵の指向を利用する技術。
あれが俺の能力には一番合うと想う。
あらゆる情報を手にし、流れを掴める事象戦略盤なら」
凛は暫し思惟し、シルーセルの結論を吟味する。
(…自分の事を良く知った上での結論ね。
確かにシルーセル程、合気に合う者はいないわ。
情報処理に徹して欲しいのが正直なところなのだけど、やっと殻を破ろうとしている者を塞き止めて、成長を遅らせるのも間抜けな話よね)
「その案、乗ってあげるわ。その代わり」
一息だけ間を置き、機械的に、そして心理的にゾッとする声音を作り上げてから、凛は告げる。
「1日たりとも無事で済むと想わない事ね。
そして1度引き受けたからには、逃げ出そうが、泣き喚こうが容赦はしないわ。
それを承知するなら、この手を握りなさい」
凛は寝転がっているシルーセルに向かい、手を差し伸べる。
(地獄への導き手みたいだな、これは。
死ぬ事も、楽に成る事も許さない、酷烈なる試練への切符。
甘ちゃんの俺にはピッタリだ)
シルーセルは迷う事なく、その手を握り取る。
「いらっしゃい。
私の領域に」
背筋が凍りそうな笑みが、凛から零れる。
握った後に警鐘音が脳内に鳴り響き、迂闊な行動をしたのではと後悔が立った。
(後悔先に立たずか…。
ハハハ、死んだ方がマシな展開になりそうな)
シルーセルは乾いた笑いが貌にこびり付き、固定されてしまう。
こうしてティア、シルーセルの闘技大会までの日程が決定したのだった。




