【刹那の蓄積】 諸刃の選択
短めの回になります。
2章に入ってから、ビィーナが好きになってきました。
スポットを中てると、キャラが浮き彫りになって楽しく書けます。
ティアの敗戦から2時間が経過した。
目を覚まさないティアを担いで、ビィーナがテリトの元を訪れていた。
「お届けものです」
ビィーナはティアをぞんざいにベッドに横たえ、放置する。
「完全に物扱いじゃな。
未だ目を覚まさぬか?」
「一様には目を覚ましたんだけど、タイムオーバーによるチョウゼツなペナルティーの前に、ノックダウンしたの」
「…なにをしたのじゃ」
「訊きたい?」
「止めておく。
…カイルの方はどうじゃ?」
「生き延びたよ。
タイセイがあったみたいだね、あっちは」
苦笑いを浮かべるビィーナ。
それを見て、テリトは「ほぅ」と珍しいものでも拝んだような声を出す。
「どうしたの?」
「お主が1番変わったなと思ってな。
どちらかと言えば、ワシよりな人間じゃった筈なのに」
指摘され、顔を赤らめるビィーナ。
(人間変われば変わるものじゃな)
洞察力のある人間は、ビィーナが纏っていた仮面を関知できた。
その1人であったテリトは造られた笑いでなく、自然に生み出される愛嬌のある顔に驚きを覚えていた。
「それもティアがか」
「…うん。
凝り固まっていたあたしの心を解きほぐしちゃったんだ。
フシギだね、見た目は何処にでもいそうな少年なのに。
吸い込まれそうなんだ、この瞳に」
それが何であるか知らないビィーナは、瞳という単語で稚拙な説明をする。
「まぁ、お主の感性もわかる気がするわい。
こやつが持っておるのは無垢じゃからな」
「ムク?」
「無いのじゃよ。
柵に囚われた者達に持つ、天井がな」
「違うよ、それ。
それじゃ、人のために憤らないよ。
ティアは、自分のフガイナサと、人のことばかりでフンガイするんだ。
だから、あたしなんかのために傷ついて」
「なんかなんて、言うな。
悪い癖だぞ、それ」
保健室のベッドに寝かされていたティアが、突然声を挟んでくる。
天井を睨みつけるような体制で、ティアは続ける。
「お前のなんかは、罪に差し挟んでいて、聞いてると胸糞悪い」
ティアは吐き捨てるように言い放つ。
「…だって事実だし」
肯定するビィーナ。
それに反応して、天井からビィーナに睨みを移す。
ビィーナはその視線に僅かに体を震わせ、それでも自責から言葉が続く。
「罪には罰を。
今度はあたしの手で奪ったんだよ、許されるはず無い。
これまで肉親なんて概念なかったのに、それが突然生まれて、恐くなって、それで拠り所がなくて、苦しくて、巻き込んだティアは優しさしかむけなくて」
ボロボロと吐露していく。
最近情緒が不安定なビィーナ。
口にした肉親という認識が、ビィーナが人を殺した事より、重く、深く澱を積もらせているのだろう。
「優しい?
勘違いだ。
俺がしているのは、自分の緩和とお前の逃げ道を塞いでるだけだ」
(それこそ優しさじゃて。
お主のしている事は死と向き合わせて、1人の男の存在を無駄なものにしないようにした。
それがわかるからこそ、ビィーナは優しさしか覚えぬのだろう。
特に肉親と認識してしまったビィーナにとって、それが大切な拠り所になるように)
ティアにそこまでの配慮があったとは考えにくい。
だからこそ、尊いとテリトは思惟した。
「なら、預けるか、お前の意志を」
「預けるって、どういう」
「簡単だ。
俺の一存だけに、存在する。
考える必要もなにもない。
有ればいい」
ティアの提案は、意志を放棄しろというものだった。
確かにそれは苦しみから逃れられる、魅力的な提案である。
「………っ」
委ねてしまいたい。
そうすれば、一々悩み苦しむ作業から解放される。
だが、ビィーナは口にできない。
それをしてしまえば、肉親の死を無価値にしてしまう。
それだけは出来なかった。
ビィーナは泣き笑いのような表情を浮かべ、首を横に振っていた。
そんなビィーナを見て、ティアはフッと厳しい顔つきを緩める。
「それで良い。
お前は立派に人だ。
楽な道があると知っても、本当に大事な一線を引かなかったお前は、立派だ。
ビィーナ」
ティアは立ち上がり、ビィーナの正面に向かうと、躊躇後にその頭に手をかける。
「立派だった」
もう一度、刻み込むように言葉を送る。
(…自分で選択させたか。
それは諸刃でもあっただろう。
だが、それを乗り越えた者は与えられた答えの導きより、遥かに剛毅となろう。
…信じていたのだろうな)
此処は何処なのじゃろうなとぼやきながら、テリトはその光景を朗らかに観測する。
(殺伐とした環境でも、華は咲くものじゃな)
ビィーナの華は泣き笑いは転じて、笑い泣きになっていた。
その温か掌に包まれて、ビィーナは解されていくのだった。




