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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【刹那の蓄積】 繰り返される習慣

朝。

いつもの習慣。

朝のランニングをするべく集まった4人の間に重い空気が立ち込めていた。

凛とカイルの間に見えない壁があり、そしてここに居ない人間のことが、全員の気持ちに尾を引いていた。


「…来れるはずないんだよな」


重い空気に拍車をかけるつもりは無かったのだが、シルーセルの1言がビィーナの雰囲気に鬱さを増加させた。


「あっ、済まねぇ」


敏感にそれを察したシルーセルは、口篭りながら謝罪していた。


「来れない者の事を気に欠けていても仕方ないわ。

そんな気遣い枷にしかならないわ」


冷徹に言い放ち、凛は行動するように促す。


「そんな言い方ないよ」


珍しい光景だった。

ビィーナが凛に噛み付かんばかりに睨み付けていた。

それを面白そうに微笑する凛。

煽られたビィーナは未発達で未熟な感情が爆発しそうになる。

だが、それは長年積み上げられてきた経験が押し留めてくれる。

何とか冷静さを失わずに済ませた。

朝露が葉を伝い、地面へと零れる。

静寂が場を支配し、重い空気は鋭く痛いものへと変貌していた。

その一瞬即発は雰囲気を沈めるべく、シルーセルは迂闊な話題を振ってしまう。


「そう言えば、闘技大会はどうする?

流石にティアを出すわけにはいかないだろうし、最低2名は選出しないと駄目だし」

「あたしが」

「変更は無いわ」


ビィーナが出場をすると言う発言を、凛が斬る。


「…どういうつもりだよ、リン」

「貴女こそ、如何いうつもりかしら?

罪悪感と同情かしら、それは?」


冷笑を浮かべる凛に、ビィーナは眉間に皺が寄るような形相で対峙した。


「今のティアには無理だよ。

それは誰にも一目リョウゼンじゃない。

ティアを殺したいの」

「くだらない同情ね、そんなの。

偽善過ぎて、笑えてくるわ。

それこそ、殺すつもりなのティアを」

「どういう意味」

「貴女の倫理じゃ、卒業するまでティアを守るってことなのかしら?

おんぶに抱っこ、まるで子供のお守ね。

進級すればチーム制は廃止、そんな事は無理なのはわかっている筈よ。

私たちがいる間にこの状況を打開しなければ、必然的に死が俟っていると言いたいのよ。

それこそ甘やかしている暇なんてないわ。

そんな瀬戸際で手を差し伸べて、生きる力を奪いたいのかしら、貴女は」


完全に言い負かされた。

凛の言う通り、このままならばティアに俟っているものは、死しかない。


「…それは追々と。

別に今じゃなくても」


せめて今回だけはと願いだった。

だが、それすら凛は否定した。


「追々?

又悠長な話ね。

この機に何もしなければ、ズルズルいくしかないわよ。

それに本人が、そんな状況に甘んじるかしら?

私が認識するティア 榊という男は、こんな事で潰れないわ。

そうじゃないかしら?」

「そんなの聞かされたら、気負うだろうが。

過大評価は止めてくれ」


全員の視線がその声に釣られて、集まる。


「中々馴染まなくて。

悪いな、遅刻した」

「ティ、ティア!?」


シルーセルが皆を代表するように素っ頓狂な声をあげる。

いつも通りに両足で歩いてくる。

不自然さがまるでない。

とても障害のある人間の歩みではない。


「んっ?

どうした、変な顔して」

「お前、足は?」

「凛、説明してなかったのか?」

「…私が聞きたいわ。

どうして」


一番驚いているのは話を振られた凛に他ならなった。


「お前が提示したんだろうが、この方法を」

「したわ、確かに」

「それなら、何も不思議じゃないだろうが」

「そうね。

不思議ではないのよ。

短期間という項目さえ、無視すれば。

もしかしなくても、貴方は備えたのかしら?」

「お蔭で寝てないぞ。

それよりもサッサと終わらせて、飯にしようぜ。

集中していた時はそれ程じゃなかったが、意識すると空腹は堪える。

先生から貰った丸薬以外口にしてないから、質量的に足りてない。

やっぱり、飯は質より量が欲しいな。

精神的に」

「文句の多い男とじゃな。

あれだけの高エネルギーを補充できるだけでも感謝せい。

一晩中、氣なんぞ放出していれば、疲労困憊で動けなくなるのを、それだけの余力を余しておれるのじゃぞ。

満腹中枢を弄れば、そんなもの苦にならんわい」

「先生、情緒がないぞ、それじゃ」


珍しい組み合わせだった。

ティアとテリト。

患者と医者という雰囲気ではない。

それに普段はテリト先生と呼んでいるティアが、先生と短縮している。

その内に篭っているものも意味も、含みから違う印象を受けた。


「珍しいですね。

テリト先生が顔を出すなんて」

「確認しに来ただけじゃ。

それと、お主らに話があってな」


チーム事に関して、一切干渉してこなかったテリトが何かを持ちかけてくる。


「闘技大会まで、ティアはワシが預かる。

それと、一切の関与を厳禁させて貰う。

よいな」

「ちょ、ちょっと、どういう意味だよ、それ!」


シルーセルは焦りながら、詰問する。

これまで必要最低限しか関わりを持たなかったテリトが、初めて命令をしてきた。


「そのままじゃ。

お主らは、お主らの訓練に励むがよい。

それと、毎日1人護衛を寄こしてくれ。

後、それ以外関与することは罷りならん」

「…それは命令ですか?」


後ろに顧問としてと、入れておくのを忘れず凛は質問する。


「個人的じゃが、それで納得するなら、それでよい」

「わかりました。

お任せします」

「おっ、おい、凛っ!」

「シルーセル、これはテリト先生の独断じゃないわよ。

ティア本人が望んだ、そうでしょ」

「あぁ」


迷いのない、ティアの通る声が応える。


「それを私達が口を挟むのは可笑しなことよ。

ビィーナ」

「…なによ」


先程までぶつかっていた相手から振られ、不機嫌な声音のビィーナ。

こんな風に感情を剥き出しにしているビィーナを見て、ティアは少しだけ安堵し、そして小首を傾げる。


「交代制で護衛をするわよ。

今日は貴女に任すわ。

異論はないわね」


ビィーナはその申し出に対しては異論を挟む余地はない。

ティアの為に何かできることは、願ったりだった。

だが、上手く感情がコントロールしきれていないビィーナは沈黙してしまう。

口を開けば、無様な自分を曝け出してしまいそうだからだ。

そっぽを向き、視線をティアの位置で止める。

そこには安心しろと微笑みを浮かべた男がいた。


(ど、どうしたんだろう!?

ドウキが激しくなってくる)


知らずに赤面し、今度はティアからそっぽを向く。

まともに顔を合わせられない。

それにティアは頭を掻きながら、どうしたものかと困り顔になってしまう。


「早朝ランニングの参加も、これが最後じゃ。

ティア、調整して、不確かな部分を削るのじゃ。

そして、肉体の細部まで氣という伝達の速度を沁みこませて来い」

「…了解」


テリトの言葉をティアは確りと咀嚼し、吟味してか答える。

瞼を閉じ、体内の共鳴をあげる。

ボリュームを回し、音が均一に上がっていく。

それを受け入れた器は、次第に伝達速度を加速させていく。

瞳を開き、右手を凝視してから指を開閉させる。

初めはゆっくりと。

そして2度目は目に留まらない程の速さで。

これまで神経からのパルスで行われていた一動作よりも明らかに伝達して、行動に移るまでのタイムラグが短縮されている。


(これまで遠かった壁に、一機に辿り着いたな。

これなら、イメージ通りに返してくれるかもしれない)


これまで何度も苛立ちを覚えていた、肉体の反応の遅さ(・・・・・・・・)

ティアはそれが解消されるかもしれない期待が胸を埋めていく。

誰もが勘違いしている事がある。

洞察し、あらゆる検証を試みている凛ですら見抜けないでいたこと。

ティアは思考して戦闘していない印象を受ける。

あれだけに身体能力を誇りながら、それ以下の者達圧倒される。

それは戦略を組まず、本能に任せた戦闘をしているからだと想われがちなのだが、その実は、思考に肉体が追いついていないだけなのだ。

ティアはこのチーム内の誰よりも瞬発的な思考力を有している。

確かに戦力面では、他の者よりも相当劣っているものの、瞬間的な閃きは、他を逸脱している。

問題なのは、その瞬発的な発想に、躰が付いて廻らないのだ。

唯、思考するだけ。

それ程までに圧倒的な速度で生み出される閃き。

このイメージに沿って動ければと、何度苦虫を噛み潰したような想いをしたのだが、それすらも可能になりそうな反応速度。


(イメージに近づけるんだ。

安定した波長を、激しい動きの中で実現する、これを心がけろ)


一定まで高まった音が、適度な位置で留まる。

最適なエネルギー分量、そして自分の理想が叶えられる伝達速度と思わしきボリュームに固定する。


「いつでも大丈夫だ。

でっ、今日のハント役は誰だ?」

「お前だ、お前」


シルーセルは失礼にも人の事を指差しながら返答する。


「うぇ、俺この前したばっかりだろうが」

「逆算してみろ。

お前が寝込んでいる間にも、順番は着実に廻ってたんだぞ」

「…まぁ、良いけど

今日こそビィーナ、お前にヘルソーマを飲ませてやるぞ」

「……」


(駄目か。

どうしんだ、ビィーナの奴。

前みたいに避けられてる感じじゃないんだが?)


鬱に固まっている様子でもないので、ティアはとりあえずはビィーナを傍観することに決め込む。

未だにビィーナそっぽを向いて、ティア側から逸らした顔。

顔色を滅多に変えないビィーナの朱に染めた耳が、妙な色気を醸し出していて、少しだけ鼓動が高鳴る。


(まったく、日頃と違う様相しやがって。

どうも、落ち着かないな)


だが、それがティアには微笑ましくもあった。

最早、偽りの仮面を付けた少女の面影は微塵も感じられなかったからだ。

ずっと続けられている習慣です。

もう、この設定書いたの何話前だろう。

忘れさられない内に、再度投下です。

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