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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
74/166

【刹那の蓄積】 見定めるべき導

3話目です。

本日もう1話投稿します。

【刹那の蓄積】


「面倒な事は御免じゃぞ」


ワシの予感は的中率が半端ではない。

特に悪い事に関してはだ。

最近では、押し掛けキアヌが半径2キロ以内にいる事すら悪寒を覚える程にまでに、予感が敏感に発達してしまった。

そして今回も、ろくな予感がしない。

無関心、無関与、一言なら隠居がワシの信条なのだが、それを周りが許してくれぬ。


「俺の現状を識っているなら、面倒事以外なにがあるっていうんですか?」


確かにだ。

ティア 榊。

ワシが受け持つチームの一員。

卓越した身体能力以外に目を見張るもののない、血塗られた鉾(ミストルティン)という環境では非凡な少年。

味はあるようだ。

元々の性格が関知せずというワシでは余り知らないが、他のチームメイトからは一目を置かれている。

スルメのように、長々と噛み続け無ければ深みを味わうことは叶わないらしい。

ある意味で奥底の知れないタイプかもしれぬ。

だから、余計に厭な予感がするのだ。

唯でさえ、自分の信条に反してこのチームはワシを表舞台に引き戻していく。

それを公にされてしまいそうな、後悔を浮き彫りにされてしまいそうな、そんな予感が生まれていた。


「俺を氣で生かしてくれたと、カイルから説明を受けている。

なら、先生は扱えるんだよな、氣を」

「それがどうした?」


そこでワシはティアの手にしている紙の束の題名と、その筆跡に答えが脳内に構築される音を聞いた気がした。


「俺に教えてくれ」


レポートの束にはシンプルに氣と記されていた。


「凛の差し金か?」

「…意図はしてはあると」


思案してから、ティアは思い当たる節があるのか、渋りながらそう答えた。

どうやら、あの女はワシを完全に表に立たせたいらしい。


(厄介な奴の顧問になってしまったらしいのう)


「それとは別に、俺にも意図がある。

だから、引けない」

「意図じゃと?

凛の掌の上なら、お主も神経バイパスの換わりになるものの構築が目的で氣を覚えたいのじゃろ。

それ以外に何かあるのか?」

「1ヶ月半。

この間に、この学園内の誰よりも強くなる必要がある」

「なんじゃと!?

お主、自分が」

「無茶で、可能性が限りなく低い事は承知だっ!」


真摯な眼差しが曇りなく、ワシに向けられていた。

なんと澄んだ瞳だろうか。

殺伐とした環境で汚される事なく、純粋だけが結晶化したようなそんな瞳の彩だった。

ティアは感情を制御し、落ち着いてから言葉を紡ぐ。


「それでも、遣らなければならない。

この無謀な試みには協力者が必要なんだ。

弱くて、どうしようもなく弱い俺だから、自分の弱さを知っているから、手が必要なんだ」


ここには居ない誰かに訴えるように、ティアは独白していく。


「それは背負えないからか。

責任を負えれないから、必要なのか?」


口に付いていた。

どうしてこんな質問をしてしまったのだろうか?

本当はわかっている。

こんな馬鹿げた質問、答えなど…。


「背負えない」


意外な答えをティアは断言した。


「今の俺じゃ背負えないんだ、どう足掻いても。

知るべきなんだ、自分の成せる事の限界を。

1人で成せるものなんて、高が知れてるって。

俺が助けを必要なのは、自分がどれぐらい未熟で、情けないかを痛感しているからだ。

逃げれない。

進む為に、今1番重要なことがなんだかわかるから、必要なんだ。

背負えるとわからさないと、ドイツもコイツも馬鹿な考えに縛られて、その部分で蒙昧に生きようとしやがる!

俺はそれが許せないっ!

だから、背負える強さが欲しいっ!

…だから今は、俺の弱さを少しだけ肩代わりして下さい。

お願いします」


ベッドに頭をこすり付けるようにして、頭を垂れる。

なんと潔い男だろうか。

自分の弱さを受け入れ、そして前進だけを、想いの実現の為に協力を必要としていた。

偽りのない、真摯な心が苛烈な衝撃をワシに奔らせる。


(この男の一欠けらでも、ワシにこの発想を持てたら、悔いだけの今は無くせたのかもしれぬな。

羨ましい男よのう。

皆が一目置くのもわかる。

この男には芯なる強さがある。

取り残されるだけの存在ではないか。

…遅いと決め付けて、関心を薄めていく。

ワシは愚の連鎖に乗ってしまっただけなのではないのか?

未だ、この男のように進む道を模索できるのではないのか?

年を取ると、どうも弱気がこびり付いてしまっていかんのう。

なら、見定めてみるかのう。

先を見つめる者の進化を。

済まぬが、試金石になって貰うぞ。

替わりに主の願い、しかと受け賜った)


「良かろう。

じゃが、時期が悪かろうに。

普通であれば、お主にも可能性は大いにあろうが、今年は拙い。

あの神童が座中では、限りなく0に近いぞ」

「だから、テリト先生にお願いしています。

この学園で1番の実力者は、貴方なのだから」

「買い被りじゃな、それは。

ワシでは及ばない者は山のようにおるわい」

「俺は言っているのは学園です。

血塗られた鉾(ミストルティン)という枠なら話は別だろうが、貴方はガイラ ノーザンに匹敵する。

人を見る目は確かなつもりですよ、俺は」

「…過大評価じゃのう。

まぁ、良いわ」


(ホンに、過大評価よのう。

それが真実なら、ワシは此処に燻っておらなんだわ)


大切なタイミングでの一度の敗北。

未だに蔓延る恐怖が、胸を諦めという網で捉えていた。


{強くなれ、俺と闘う為にっ!

俺はお前にそれだけの業を刻んでやるっ!

逃れれぬ、(しるべ)としてな!}


血塗られた鉾(ミストルティン)最強の矛。

奴がその言葉と共に、ワシに生きる事を強要した。

そして奴の思惑通りにワシはもがき、辿り着く場所を求めた。

だが、それは人ならざる者の領域だった。


(折られた芯は二度と戻らぬ、戻らぬのよ)


心すら敗北へと堕ちた。

ワシはそれ以来、償いのように矛盾だらけの循環を繰り返す事にした。

そう、命を奪う死神の製造工場で、命を救う職についたのだ。


(これがワシ自身に課した罰。

導がワシを捕らえて、放さぬかぎりな。

自分の命すら無碍にして散らす事すら許されぬ。

脳に刻み込まれた導が、それを許さぬ。

ワシに残された償いは、この矛盾の地獄に心を焼き殺すか、それとも)


奴はそれを期待して、ワシを生かしたのだ。

今更、只死ぬ事など許されぬ。


(…この男なら、どの選択を選んだのだろうか。

誇り高く散るか、それとも僅かな光明を求めて、死に物狂いでもがくのだろうか。

ある意味で、この状況はそれに近いかもしれぬ。

差異はあれど)


だからこそ、試金石にしようとしたのだろう。

この男が成そうとしているのは、蛮勇の玉砕に他ならない。

それを知りつつも、真摯な瞳が訴える意志の強固さに期待しているのかもしれない。


「…もし、1ヶ月半で辿り着けぬ時はどうするつもりだ?」


覚悟の質量を測る質問。

否、これは応えて欲しくてしたのかもしれない。


「もしは無い。

それだけだ」


戦慄した。

こんな自分の半分も生きていない者から、こんな恐ろしい覚悟を聞くとは想わなかった。

逃げ道など1つもない。

それが当たり前だと、この男はハッキリと述べたのだ。

そして逃げる気も更々にないのだ。

域まで辿り着くか、その過程で生き絶えるかの2点しか初めから持ち合わせていないのだ。


(厭味なぐらい応えよったわ。

なら、提示してやるわ、志を貫ける場所への道をのう)


「良かろう。

その言葉偽りなら、ワシが介錯してくれる。

それでも、良いのだな」

「元より覚悟の上。

それにそんな事には成らない。

そんな微温湯に浸かる為に、貴方を起用したのではないからな」

「小生意気な。

乗ってやろう。

見事突破してみせよ。

天を突かんばかりの壁を、伸展して乗り越えてみせよ。

2点を成し遂げてみせよ」

「安直に突破するだけでなく、乗り越えろか。

力と技。

知識と知恵。

蓄積と昇華、共にか…。

望むところだ」


これがワシとティアの奇妙な師弟関係の始まりだった。


「で、この風穴はなんじゃ。

肌寒くなった風がふきこんでくるのじゃが。

それと、その軟体動物みたいに骨を失っている左腕は」

「まぁ、洗礼かな。

心の靄まで吹き飛ばす、強力なものだった。

どれ程感謝しても足りねぇよ、あの女には」

「タフじゃのう。

先ずは、その躰を万全にすることから始めるかの」


そっと砕けた左腕を触ってみる。

複雑骨折だと一触りでわかるほどに粉々に砕けていた。

難儀なことに、肘の部分までその粉骨は達しており、下手に代謝(スルミナ)で代謝を引き上げて治療すれば歪な形に成ってしまう。

ギブスか何かで正常な形に固定しなければ大変な事になる。

思案している内に、ティアは自分の腕にバロックを宛がう。


「待ってっ!

そのままでは、歪に成ってしまうぞ!」


ワシの制止を聞かずに、ティアは大丈夫ですよと苦笑いを浮かべて(ゲート)を行使する。

…代謝能力を引き上げるだけで、躰に蓄積されたエネルギーだけで治療するこの代謝(スルミナ)

ティアの骨折が復元していく代わりに、奪われていく大量のエネルギーで、頬がこけていく。

治療が完了してしまった。

ワシは恐る恐るティアの復元した左腕を確認する。

…骨の形成は違和感もなく、歪な感じは何処にもなかった。


「どうしてじゃ?」


呆然と呟くワシに、ティアは意外そうな貌をしていた。


「どうしてって、元の形を覚えているからそれに順ずるように再構築し直しただけだけど」

「…筋肉で固体したのか、骨を。

元の形に沿えるように」


侮っていた。

意外に頭の回転も悪くない。

そして発想も。

体中のエネルギーが枯渇してしまったかのような状態のティア。

これでは修練には入れない。

そこで直伝の丸薬をティアに手渡す。


「これは?」

「百種の薬草を煎じて固めたものじゃ。

飲んで、水を大量に流し込むが良い。

それだけ疲弊した躰なら、良く効くじゃろうて」


ティアは丸薬からする匂いに眉を顰める。


「…なんかヘルソーマを彷彿とするな、この匂い」


ブツクサと言いながら保健室に備え付けの流し台までいくと、丸薬を飲み込み、蛇口を捻り水を喉に流し込んでいく。

ワシの忠告通りに水を鱈腹流し込むと、物凄く厭そうな貌をして、此方を振り返る。


「味が滲み込んだかな、体中に」

「…水に溶けやすいだろ、これ。

味が広がったぞ」

「元々は兵糧丸として製作したものじゃからな。

即効で無ければ意味がないからの」

「兵糧丸?」

「一般的なのは、これ1粒で1日持つ栄養丸じゃな。

まぁ、ワシが創りたかったのは戦場で3日3晩動ける程の精力的絶倫体制を生み出すこと。

そこから考案したのが、この仙丸じゃ。

正直、これに含まれている栄養を吸収できる人間は実在しないからのう。

夢幻となってしまったわい。

それでも一般的な兵糧丸程度には、役には立つ代物じゃよ」

「…そうか?

これは、やばいぞ」

「何がじゃ?」

「飲んだばかりなのに躰が熱い。

発散しないとおかしくなりそうだぞ、これ」


(…実在したのか。

こんなに吸収率の良い人間が)


「安心せい。

どうせ、その絶倫も枯渇するほどに躰を動かさせてやる。

それよりもじゃ、問題はその手足じゃな」


動かない右指。

反応の鈍い右足。

致命的な欠陥。

これが動かねば、修練以前の問題となる。


「先生は俺の体に氣でバイパスを形成したんだよな。

それは伝達、つまり神経にも可能なのか?」

「伝達は無理じゃな。

氣自体が、伝達の意志みたいなものじゃ。

繋ぐ事は可能でも、お主の意志をその動かぬ指に伝える事は叶わぬ」

「…十分だ」

「十分とな」

「そうだ、先生は俺の中に氣とやらで、バイパスを造ってくれ。

そうしたら、俺は体の中の変化を情報管理送還装置(ライブラ)でスキャンして、どう作用して繋がっているかを覚える」

「成程、百聞は一見に如かずか。

確かに、その方が手っ取り早いかもしれぬ。

だが、そんなに甘いものではないぞ」

「情報が少ないんだ。

後、氣を発生させている先生もスキャンさせてくれ。

そうすれば、発生方法の輪郭が掴めるかもしれない」

「発想は悪くないのう。

良かろう、では、腕を出すがよい」

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