【価値観のあり方】 凶刃が残した爪痕
俺、この投稿が終わったら、グラブ○の団イベやるんだ!
死亡フラグを建築しつつ、投稿します!
「………」
目覚める前だった。
いろいろと台詞が飛び交っている。
それを確りと認識できるほど意識が回復していない。
夢み心地で、その言葉達に意識を漂わせる。
「そう、人道的だと思うわよ。
あのまま放置しておけば、死体が辱められていたでしょうからね。
あの惨状で、今更小火の1つくらい誰も気にしないわよ」
「そうか。
正直放置しておこうかと思ったけど、あれでもビィーナの兄貴だろ。
身内が蔑ろにされるのは、好まないだろうからな。
で、ティアはどうなった?」
「命に別状はないわ…」
言葉を濁す女の声。
「どうしたんだ?」
「ワシが話そう」
「テリト先生」
「命に関しては保障しよう。
問題は腕だ。
切断部の細胞が押しつぶされるように斬られておった」
「…なんなんだよ。
ハッキリと言ってくれよ」
「神経が繋がらん。
2度と右手は動かんじゃろう」
「!?
それって!」
夢現が展開していく。
「ティアは最大の武器を失ったことになるわね」
覚醒しない意識では理解するまでに至らない。
唯、呆然と言葉の流れに身を任すだけ。
拒んでいた。
覚醒するのを。
どうも悲しいことがあり、避けるように、意識が目覚めてくれない。
倦怠感に満ちている躰は眠りを欲し、再び昏睡に堕ちこんでいく。
※
これまで意識したことは無かった。
そもそも、そういった概念が存在しなかった。
だが、失った瞬間に、過去形されたことで、胸のポッカリと穴が空いた。
埋めようのない、大きな穴。
それが肉親という概念だということに気が付いた時には、掌から零れ落ちた後だった。
それと引き換えに手に入れたモノはなんだったのだろう?
これより、この空洞を抱えて生きることが、罪の証なのだろうか?
ワカラナイ。
知識では届かない、深遠なる永久の世界。
罪という概念自体がナンセンスでチープな言葉。
それでも倫理を備えれる人は、罪を背負い生きるしかない。
悩み、苦しみ、そして抗えぬ渦に飲み込まれていく。
※
夢を見た。
だが、どんな夢だったか思い出せない。
ただ暗く、先の見えない闇だけが充満していたのは記憶している。
目覚めたが、闇が纏わり付いている感触がこびり付いたまま、蝕んでいるようだった。
それを払おうと、躰を動かそうとするが、鉛が括りつけられているように重く、動いてくれない。
「………」
眼を見開き、眼前に広がる暗闇を見つめる。
肌寒く、冬へと姿を変えていく気温が室内を満たし、澄んだ空気火照った体を癒すように冷却してくれていた。
「目が覚めたようね、ビィーナ」
纏まらない思考。
どうにか自分が呼ばれていることを思い出し、あたしは首を傾けて声の主を探す。
そこには綺麗な女の人がいた。
澄んだ空気すら寄せ付けない鋭利さ漂わせながら、且つ居心地によい気配を放つ者。
鋭利さは、自分以外を傷つけるのではなく、自分だけを切り裂く為に纏っているように感じた。
「……リン」
働き始めた思考が、やっと目の前の女性の名前を検索した。
読んでいた本を閉じ、リンはベッド脇まで歩み寄ってくる。
「気分はどう?」
「……たぶん悪いよ。
どうしようもなく」
「そう」
リンは短く受け応えすると、半身を起こしたあたしの頭を胸に抱きしめてきた。
「今日だけは、弱くてもいいわよ」
どうしてそんな事を言っているのか理解できなかった。
「どうして、弱くていいの?
意味ないよ、そんなの」
「弱くなければ、自分が見えないからよ。
そして、貴女はそれを口にした。
だから、弱さを知っているし、意味もその内に理解できるようになる」
口にしたと言われ、あたしは、無意識に言葉にした吐露に気が付く。
そして、その吐露を口にした経緯がヨミガエってくる。
「あたし、殺したんだ、兄さんを」
気分が悪い。
突然胸を突き、吐き気が込上げてくる。
吐こうとするが、オエツだけで何も吐き出されない。
ただ、何度もオウトを繰り返し、無理やりに自分の中から何かを吐き出そうとしていた。
涎がシーツを汚し、苦しさから涙が零れる。
そんなあたしの顔を肩に乗せ、リンは背中をサスってくれた。
「落ち着いて、落ち着いて」
あたしに沁み込ます様に、何度も同じ言葉を繰り返す。
それが効果を表してきたのか、あたしのオエツもなりをヒソめていく。
「あたしは」
「何も言わなくてもいい。
私が話しをしてあげるわ」
リンはあたしの自暴自棄になりそうな心をサエギり、ポツリと話を始める。
「人は人を殺すことで罪悪感を覚える生き物なの。
同族同士には、初めから備え付けられたように、同士を殺すことを抑止する制御盤が存在するの。
唯一、人だけが、その抑止を弱くするモノを持って生まれる。
感情と倫理。
それが導き出す正義と欲望が、人に壁を超えさせる。
人には人を殺せる才能を持っているの。
それを正当化する気はないし、罪には変わりない。
でもね、それを流せるものは何れ、人とは呼べないものになるの。
かつての貴女のように。
だから、忘れないで。
その辛さと傷みを。
それは人としての貴女の傷み。
そして、人として生きていく為の羅針盤になるから」
1度言葉を切り、リンはグシャグシャになっているあたしの顔をノゾき込み、続ける。
「罪悪感があるなら、それをどうして抱き、それに至ったかを確りと留めて置きなさい。
それが死者にしてあげられる、最後の意味よ。
…でも、今日だけはゆっくりとお休みなさい。
何も考えず、心を労わるように」
リンはタオルであたしの顔を拭うと、ゆっくりと横たえてくれた。
落ち着きを取り戻したあたしは、その行為に甘え、眠りに落ちていく。
※
(お見事です。
ですが、それが貴方の縛りですか)
物陰でその様子を眺めていたカイルは、大気の振るえを感知して、そっと気配を消したまま、この場から離れていく。
大気の揺れは、背後を付いて周り、こちらの歩く軌跡ピッタリと引っ付いてくる。
地図を思い浮かべ、人気の無い場所をピックアップしてそこへと向かう。
1分ほど歩くと、今は使われていない部屋に侵入する。
長い間放置された蓄積が、埃の塊を撒いており、足跡が確りと残るほどに塵が積もっていた。
「ここら辺でいいですか、アレス リオネス」
「成長してるみたいで嬉しいよ、護衛君」
大気の揺れが気配となり、具現化していく。
目立つ金髪にキレ長い眉毛、そして大柄な瞳。
高い鼻に均整のとれた顔立ち。
文句のつけようがない。
ある意味で完璧を形作ったような男。
前回の闘技大会の覇者、アレス リオネスが腕組みをして入り口の扉に凭れがかっていた。
「護衛が必要な程、凛は弱くはないですよ」
「そうだな。
護衛の方が弱いなんて、護衛にならないからね」
「皮肉を吐く為に私を誘ったなら、退場させて貰いますよ」
「久々に戻ってきたら街はあの有様。
それで凛の事が気になってね。
それで腰巾着殿に、説明を願おうかと」
「不必要な接触を試みた本当の目的は?」
「建前すら取り払えか。
会話を楽しむ心がないのかね、君には」
「生憎と、敵である貴方と長話に花咲かせる気は毛頭ありません。
私は貴方が凛に行ったことを決して許さない。
生涯敵ですよ、貴方とは」
カイルにしては珍しく、言葉の深みに怒気を含みアレスを睨みつける。
「だが、あれが切欠で開花したのも事実だろ」
「2度と動かない左腕。
それを引き換えにですか。
…腑ざけるなよ、小僧」
どす黒い気配が部屋を充満していく。
普段大人しいカイルには想像も付かない威圧的なプレッシャーが全身から発せられていた。
「2度と私の前で、凛に対する軽口を叩くな」
「NOと答えたら」
「その躰に消えない証を刻んでやろう。
命と引き換えにしてもな」
それが偽りではなく、次に侮蔑を吐けばカイルが本気でそれを成そうとするのが判る。
覇者は、この事態に少々気圧されていた。
これ程のプレッシャー放つ者と相対した覚えがなかったからだ。
実力的に超えている自信があっても、この男は有言を果たすと警報が脳内に鳴り響いていた。
「それは戴けないないな。
謝罪しておこう」
退いて置かなければ、この男は命を糧にして襲い掛かってくると判断したアレスは、負けを認めておく。
(誘い込まれたのは私の方だったか)
地形を把握して、カイルは有利になる場所に誘い込んでいた。
それを瞬時に理解したアレスは、此処で戦うことの危険性を考慮した結果、戦いを避ける事を選択した。
この男を一瞬でも引かせることが出来たのも、カイルという男が並の実力者でない証明になる。
「成程、凛が友人と称するだけはある。
腰巾着呼ばわりしたことも謝ろう」
「そんな上辺いりませんよ。
用件だけ、訊いておきましょう」
「可愛げのない男だな。
まぁいい、凛についてだ」
「………」
「いつからなんだ。
あんな凛は見たことがない。
あれでは」
「違いますよ。
云いたいことはわかりますが、あれも凛なのです。
恐らく、貴方が想像する通り」
(そう、あれに計算は含まれていない。
あれは身内を気遣う、凛 榊という女性の姿。
ひた隠しにしてきた甘さ、優しさが近頃表だって現われるようになってきた。
研ぎ澄まされて気配には微塵の曇りも無いままに)
「…乱す者」
「乱す者ですか。
言い得て妙ですが、合ってるかもしれませんね。
私では成しえなかったことを、いとも簡単に、そして自覚無しで遣って退けた。
悔しいですが、これが事実ですよ、アレス」
「あの凛が感化されたとでも言うのか」
「感化されたのは何も凛だけではありませんよ。
シルーセル、ビィーナ、多々挙げればきりが無いほどに、あの男は周りに影響を与えている」
(もしかしたら、私も)
「ティア サカキ」
アレスはその名を口にした途端、胸に波紋が起きるのを感じた。
(どうして、あの程度の男が気になる)
「気になりますか、貴方程の男でも」
見透かしたようなカイルの声に、アレスは思惟してから苦笑した。
「程度だよ、あの男は」
「そうですか。
なら、その程度の男が、貴方に食いつくところでも楽しみにしておきますよ」
「如何いう意味だ」
「1ヶ月半。
それが答えです」
「闘技大会か。
あの男が出るのか、凛やお前は?」
「出るのは私達のチーム切っての最低成績2人組み。
それは表向き。
正直、貴方よりもあの2人の方が恐いですよ、私は。
必ず、貴方の前に立ちはだかる」
カイルは断言した。
「未だ未熟だが、その大器は凡人である私では計れない。
そんな2人です。
1ヶ月半もあれば、貴方を超えるかもしれない」
「…超えるだと」
「恐いなら、暗殺してくれても構いませんよ。
その程度だったと諦めますから」
「良いだろう。
お前の挑発に乗ってやろう。
1ヶ月半。
無駄な足掻きをして、私を楽しませてくれ。
お前の言う大器とやらを粉々に砕いてやろう」
(挑発は上々ですかね。
時間は稼ぎ出しましたよ、凛)
危険性を考慮したなら、これが1番の策だった。
瀕死のティアが生き延びる可能性を見出すには、これしか方法が無かった。
釘を刺して置かなければ、ティアは暗殺ではなく、白昼堂々と殺されていただろう。
それを殺り兼ねない程、この男は凛に執着している。
妄執と言っても過言ではない。
(…判りますよ、貴方の心の動きが。
それは私の昏い部分でもあるのですから)
「棄権させれば、お前共々糧にしてやろう。
肝に銘じておけ」
そう告げると、アレスの周りに歪みが生じ、忽然と姿が消え失せる。
大気の揺れ、気配、体温全てがこの部屋から無くなっていた。
(釘を刺されてしまいましたね、此方も。
お蔭で逃げ道が又塞がれてしまいました。
なら、撃破しか残されていない)
「目の前で遣られると、疑う余地もありませんね。
あれが空間ですか」
未知数の門を目撃したカイルは、少し早まったかもしれないと嘆息を大げさについておく。
「余命幾許も無し。
まぁ、私は賭けの嫌いな人間ですし、勝機の無い闘いは望まないものですよ、アレス」
(まさか、凛と同じ状態に陥るとは、これも采配かもしれませんね。
試行錯誤した凛のノウハウを、見返り無しで得られるからには覚悟をして貰いますよ、ティア)
カイルは軽く袖口を虚空に振るうと、そこから水の線が飛び出て部屋に奔り出す。
物凄い速度で部屋中を嘗め回し、水がカイルの掌で球として収まった時には、塵一つない清潔な部屋に早代わりしていた。
部屋に存在する机やイスなどの凹凸、その緻密な表面すら沿って水が流れ全ての汚れを拭い去った。
その操作能力は神業に域だった。
「仕込みが無駄になりましたね」
床の転がっていたバケツがいつの間にか立て直され、その中に黒く染まった水が浮遊して納まる。
そして並々と満たされる。
掌程しかなかった水の弾がバケツを満たす程の量になっていた。
圧縮されていた分が、この場の気圧の大きさに戻ったのだった。
カイルはそれを確認もせずに、この部屋を後にする。
カイルが立っていた位置にすら埃は残っていなかった。




