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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
70/166

【価値観のあり方】 消去VS拒絶

前々回と前回、やたらと説明文が多く、分かり難いのではと危惧しております。

分かり易くは書いたつもりですが、浅学なのと自分の文章力の無さでどこまで伝わったか、不安を抱いてます…。

わかんねぇよ!と文句のある方、言って貰えれば修正しますので、遠慮なく言ってください。

では、決戦入ります!

足が想うように可動しない。

ビィーナを助け出した奴らの中いた女の薙刀が、ニアスの足に衝撃を与えていた。

ニアスは足首に変な違和感を覚えた。

歩くと、それがグシュと鳴り、そしてあらぬ角度に折れていく。


(砕かれた。

私の示現(ノルン)を超えて)


ニアスは折れていた足首を無理やりに動かし、迫る敵を迎撃した結果、祟って折れたらしい。

三半規管も暫く狂わされていて、まともに歩くことが儘ならなかった。


(構わない、目的さえ果たせれれば)


ニアスは折れた足首を無視して、血風が立ち込める中を歩む。

本当なら、意識が混濁しそうな傷みが脳内に鳴り響いているのだろうが、何も感じない。

痛みすら、拒絶に飲み込まれたらしい。

存在自体が加速的に侵食されているのが分かる。


(構わない、この世界から剥奪されても)


斬り捨てた者たちの屍を乗り越え、歩む。

街は瓦礫に埋もれていた。

これだけの乱戦を繰り広げたにも関わらず、ニアスには付けられた傷一つなかった。

侵食が増し、そして壁はより強固になっていく。

必要最低限のサイクルを確保し、それ以外通さない壁が今し方完成したのだ。

地面から掘り出された配水管が、破裂した部分から瓦礫の山に水を放っていた。

そして瓦礫を濡らしていた紅いペンキを薄め、流していく。

その飛沫すらニアスの衣服すら濡らすことなく、惨状を彩るだけのオブジェとして成り立っていた。


(何処にいる、何処にいるんだ!)


「ビィーナァー!」


ニアスの激昂が木霊した。

刻々と蝕まれていくものに耐える為に、己を保つ為に。


「…兄さん」


激昂に懐かしい声が反応した。

だが、その声はニアスの知らないものだった。


「ビィーナ……なのか」


ニアスは戸惑いながら、声の主を探す。

そこには確かに、血を分けた兄妹、ビィーナが居た。

だが、その眼には先程までの空虚な光を持っておらず、決意に満ちていた。


(これが、あのビィーナなのか)


ビィーナは全ての空気を肺から吐き出し、そして新鮮な空気を補充してから、断言した。


「ゴメン、兄さん。

あたし、イけない」

「………」

「生きてみたいの、ティアと一緒に。

…だから」


ビィーナは自然に腰を落とし、刀に手を添える。

ビィーナが得意とする居合いの構えだ。


「超えるよ、兄さん」


敵対を意志表示した。

現実から眼を背け、自分の世界の篭っていた少女の面影はない。

自らの扉をこじ開け、前を見る、戦士の貌だった。


(あの少年が、ビィーナをここまで変えたのか。

容認して、甘やかすだけの私と違い、現実を見据えることを、ビィーナに提示したのか)


それに応え、ビィーナが立ちはだかろうとしていた。

それは嬉しくあり、惨いものだとニアスは心底世界を呪った。


(何故、今更ビィーナに希望を与えたっ!

これも世界を見てしまった私へのあてつけかっ!

だが、これで罪悪感に迷走することなく、お前を)


「そうか。

なら、蟠りは無用だ。

殺し合いだ」


その一言にビィーナは、これから行われることに、2つしか結末が用意されていない事実を再認識する。

それが沁み込み、ビィーナの躰を硬直させていく。


(殺す、兄さんを…。

あたしの手で)


覚悟した筈の事項が、目の前に来てから迷いへと変換されていく。

人を手に掛けるのは、初めてのことだ。

膨れ上がる焦燥を振り払いたかったが、纏わり付き、蝕んでいく。

その迷いをニアスは見逃さない。

無造作に振り下ろされた斬撃は大気を切り裂き、ビィーナの脳天に差し掛かる。

ビィーナは咄嗟に反応をし、それを紙一重で躱して、腰を落とした状態のまま後方に退避する。

ニアスは間髪入れずに連撃の刃を飛来させていく。

膂力だけで振るっているように見える一撃一撃が、途方もなく速く、そして連続していた。

力の流れを熟知した者の斬撃だ。

振り切った瞬間に身が鎮まり、その反動から放たれる次なる刃。

微々たる動きで、肉体全部を操る。

各関節が少しずつ連動して、新たな攻撃を生み出す。

微かなる連動故に乱れもなく、そして増幅された一撃は、全速な一撃に見劣りしない。

ある意味で完璧な闘法とも言えた。

長年ニアスの剣術を見てきたビィーナだけあって、それらを何とか躱すに至れた。

それと片腕が無かったのが幸いだった。

連動が儘成らない瞬間が生まれる。

それが片腕を失ってのことで、連撃の隙間がコンマ何秒の世界で生れ落ちた。

ビィーナはその隙間に体制を立て直し、次々に躱しを成功させていく。

連撃に大きな隙間が生まれ、その隙にビィーナは一旦距離を置く。

ニアスの足元に異常があった。

足の平ら部分折れ、今現在、足首で立っている状態だった。

それは凛が加えたダメージ。

慣れぬ足首の踏み込みの所為で、ニアスの攻撃が止んだのだった。

バランスを崩し、ニアスは刀を振るった勢いで倒れこんでしまう。

千載一遇のチャンス。

だがビィーナは決めかねて、そのチャンスを棒に振ることしか出来ないでいた。

刀に添えている手がカタカタと震えていた。

どうしようもなく、殺しが恐い。

1度は覚悟した身。

だが直面すれば、その恐怖は2倍や3倍では効かない。

魂そのものを揺るがす位に、奥底から震えが発起してくる。


「恐いか、ビィーナ。

なら、それからも解放してやる」


刀を杖代わりにして、ニアスが歯を食い縛り起き上がる。

未だに脳内に鳴り響く音が、ニアスの三半規管を時より揺るがし、平衡感覚の消失を生まれさせる。

それでも尚、立ち、そして刀を振るえるニアス。

人間離れしたバランス感覚の持ち主と言えた。

これが、あの脅威の連撃を創り上げた基盤だった。


(コワい、コワい、コワいよ・・・)


物でなく、者。

ティアに斬れないと断言された呪縛に囚われたように、ビィーナは1度も抜刀できないでいた。


(こんなにコワいなんて…。

皆どうして、殺せるの!?)


自問自答できない。

ビィーナは自分を正当化する術を持ち合わせていないのだ。

唯、漠然と受け入れてきた今日までとは、意味が違う。

物を壊してきた日々には疑問すら至らなかったこと。


(あたしには)


無いと口に仕掛けた時、それを打ち消すものが脳裡を占める。

色づいた、1年半の想い出。

そこへ導いてくれた少年の面影がフラッシュバックする。


「っ!」


ビィーナは奥歯を砕けるほどに噛み締める。


(無いはず無いっ!

あたしは成したいことがあるんだっ!)


命を賭けた最中、本当の意味でビィーナの中に構築する想い。

信念というには曖昧。

だけど、それがビィーナの目的となって息づいた。

次第に荒かった呼吸が収まりを見せ、柄に掛けていた手の震えが失せていく。


「ごめんね、兄さん。

あたしは生きたいから」


今度は直面しても、揺るがない覚悟で言葉にした。


「兄さんがどんなにこの世界に絶望しても、あたしには希望があるの。

だから、それがわずかでもある限り、見て、そして感じていたい。

この罪悪からも逃げない。

だから」


鯉口を斬り、そして抜刀する。


「超えるよ、この縛りから」


それが決意へと昇華されてく。


「…そうか、純粋に羨ましいよビィーナ。

その結論に達することのできたお前が」


ニアスの苦渋なる呻き。

羨ましく、誇らしげな言葉に含まれる、譲れぬ誓い。

それがニアスの躰を突き動かす。


「人の心は脆い。

人であるが故に耐えられぬ罪業がある。

血が何れ、それをお前に見せるかもしれない。

それは死ぬことよりも、生きることよりも残酷な一幕となる。

それだけは避けねばならない。

どんなに疎まれようとも」


ニアスは己が足に刃を落とす。

多量の血を撒き散らしながら、折れた足の首から下を切断した。

暫く後に血が堰き止り、足の底を失った脚が地に降りる。

直立不動するニアス。

無い筈の足が健在しているように確りした状態で立っていた。


「これで誤差は消えた。

もう、外さない」


再び無造作に振るわれる刃。

その速度は先程と比較にならない。

一律した連動が相成って、放たれる斬撃。

指揮者がタクトを振るうように、激しく、しなやかに刃が空を斬り裂く。

だが、ビィーナはそれを尽く裁き、撃ち落していく。

ニアスの刃が柔なら、ビィーナの刃は鋭。

精密機械のように的確で無駄のない動作の連動。

次なる行動に移る為の動作を含み、そして発露される一動作。

刃が触れ、2人の周りに火花が咲き乱れる。

技術としてはニアスに分があったが、血塗られた鉾(ミストルティン)に来てから鍛え上げた身体能力が、ビィーナに勝機を見出させる。

一撃一撃が身体に響き、握力が減退する焦りの中、その勝機に反応したビィーナの刃がニアスの左足付け根に刺さる。

その直後、ニアスの首を刈ろうとする刃が横から迫るが、脚に食い込ませた刃を素早く横に引き、連動の連なりを断つことで、勢いを落とす。

ビィーナの首を竦めて刃が通り、ギリギリで躱すとその場から退避した。

ニアスの左脚が重力に引かれて、肉体から分離されていく。

そしてニアスもそれに釣れて、崩れていく。

ビィーナの刃は拒絶の壁を難なく越えて、ニアスの片脚を奪い去った。

技能では確かにニアスに旗が揚がっていた。

だが、それをビィーナは磨きぬいた身体能力。

なによりも、勝負所を見抜く眼力がこの撃ち合いを制した。

その眼力を培ったのは、自分の命を軽視し、常に戦場の中枢で物を壊してきた経緯からだった。

寸分の狂いが死に直結し、それを平然とこなしてきた日々の蓄積。

そんな自分の過ちに似た行為が、この勝利へと導いたとは皮肉以外のなにものでもないだろう。

そして、この眼力はニアスが居なくなり、そこから自暴自棄を繰り返した結果でもあることも、皮肉だろう。

その2点からニアスを凌駕したビィーナ。

これまでと比較にならないプレッシャーを撥ね退け、ビィーナの一刀がニアスの機動と連動を剥ぎ取った。

だが、ビィーナも最強の敵と合間見えた重圧から精神が疲労し、肉体も又異変を起こしていた。


(ここまで消費するものなの…)


手足が鉛のように重い。

これは極度の運動をこなした時に覚える感じではなく、躰からポッカリとエネルギーだけが殺ぎ落とされたような、異質な脱力感だった。

ビィーナがニアスの壁を越える為に、初めて消去をコントロールした。

その結果、膨大なエネルギーが躰から排出されていた。


(…それじゃ、兄さんは)


自分の状態を確認したビィーナは厭な予感がした。

高だか剣先に概念を集中させるだけで、疲労困憊な状態に陥ったのだ。

これは軽々しく扱えるものではない。

それにも関わらず、ニアスは無尽蔵にこの概念をコントロールしている。

予感は正しかった。

断たれた左脚が地面に転がっていた。

それなのにニアスは脚があるように、大地に立ち上がった。

右足首から下にも空間があり、完全に浮遊している。

ビィーナには概念の塊が形作り、右足首と左足になっているのが見えた。


「勝てないか。

強くなったな、ビィーナ。

実力は私を超えた。

それでも、超えられない壁がある」


何も無い左脚が大地を踏みしめる。

何も無い右足首が大地を踏みしめる。

切り裂いた筈の部分からは一滴の血すら流れていない。


「兄さん…」


(細胞が壊死していく。

死ぬ気なんだ)


ニアスの変化は皮膚から始まった。

茶色い斑点が体の至る処に現われ、そしてボロボロと肉体から剥がれて行く。

髪は色を失い、白髪へ様変わりしていく。

繋ぎ止めている細胞が死に絶え、爪が地面に転がる。


「…命を媒介にしていたんだ」

「血の許容限界は遥かの超えた以上、之しかない。

死をも覚悟した者と、生き延びる為に限界を超えられない者との壁。

この侵食により、この地が死を絶えようが連れて行くぞ」

湧き上がる鮮烈な恐怖がビィーナを責め喘ぐ。

ニアスの覚悟がビィーナの覚悟を打ち砕こうと、辛辣な姿で挑んでくる。

先程の激戦で、肉体の全てから極度の倦怠感が満ちているのにも関わらず、芯からくる衝動でビィーナの躰は小刻みに震えていた。


(コワイよ)


殺すこととは別モノの恐怖。

だが、ビィーナの内でそれを耐える抗体が生まれていた。

ビィーナ自身は気が付かなかったが、これまでに2度程、この恐怖に襲われた時があった。

幼い頃よりニアスが見せてきた、この顧みない静かなる激情。

雄一、人として認識していたニアスが見せる、ビィーナには理解不能なこのニアス激情に、昔から畏怖を抱いていた。

ビィーナにはそれが恐怖だと理解できるほど、感情に対して豊かな認識を持っていなかったが、小さなともし火は確実に灯っていた。

2度目も知らずの内だった。

不意にビィーナの脳裡にその少年の貌が浮かぶ。

それが抗体を活性化させて、歯を食い縛り、震えを体内から追い出す。


(ティア)


唇が微かに呟いた。

それを切欠に、ビィーナの震えが完全に失せた。


「…確かに、生き延びようとするあたしには、制限がある。

でも、あたしがこれまで1度として、血に頼ったことがないんだよ」

「!!」


ビィーナが宣言すると、ニアスの貌から一欠片の余裕すら消え失せる。

それを計るようにニアスがビィーナを貌と凝視した。


「…本当のようだな。

ここまで才溢れているとは」

「兄さんの発言を訊いて、初めて知った。

兄さんは血に頼って、示現(ノルン)を行使していたって。

でも、あたしは概念がまとわり付いているだけ。

長年チクセキされ、ウッセキにも似た、呪いの塊。

あたしは望んでなかったんだ、この力を」

「なら、どうして囚われたんだ」

「…兄さんに近づきたかった。

あたしには、兄さんしか人が居なかったから」


その告白を聞いて、ニアスは蒼白になっていく。


「ま、まさか」

「これは手段で目的ではなかったの。

兄さんがあたしの前から居なくなって、あたしには意味の無い手段だけが瓦礫のように残った」

「私がお前を孤独にしてしまっていたのか」

「違うよ。

どうせあたしは認識するに至らなかった。

でもね、ゆっくりでいいから現実を()ろって言ってくれた人がいるんだ。

だから必要なの、この血が」


ビィーナはこれまで1度として遣ったことのない筈の血の力。

だが初めから分かっていたように、血がざわめき、活性化されていく。

血が自然とあるべき流れの乗ったように、熱く滾り出す。


(血が教えてくれる。

これが本来のあるべき姿だと)


流れている血液が異変を起こす。

始まった異変は連鎖し、血を汚染していく。

その勢いは尋常なものではなく、僅か1秒にて全ての血液が変化を遂げる。

ビィーナの健康的な焼けた肌に血管が浮き出、一瞬だけ青白く全身が染まる。


「…これが、神衣(カムイ)の血」


自分の体の変化をビィーナは瞬時に把握していく。

そして、ビィーナは一撃を放つ為に刀を鞘に収める。

ビィーナ最速の一撃、抜刀術の型に。


(目覚めたばかりのあたしには、せいぜい一撃が限界。

それに小手先の技に頼って時間を消費しても、熟知している兄さんには勝てない)


「誰がこんな血を必要としたのだろうな。

人の世では、あまりに大き過ぎるというのに」


ビィーナの構えに応えるように、ニアスは半身を引き、突きの構えをとる。

完成されたフォルムからの一撃は、ティアを射抜いた時よりも最速の一撃が放たれるであろう。

ニアス得意の連動を全身で行い、その結果生まれる高速の突き。


閃穿(せんせん)、やっぱり、決め手はそれだね」


全身の力を抜き、始まりの発起を完全に消し去った型。

そしてこれまでと違い、二の手を思考に入れていないビィーナの一撃は、光の瞬きに見えるだろう。


閃靭(せんじん)、懐かしいな。

互いに最速の一撃か。

そして、この一撃はこれまでのとは比較にならない。

まさに閃光なる一撃に昇華されている。

之で最後だ」


互いに構えのまま、身動ぎ1つとらない。

理論的に考えれば、一拍子である突きに分がある。

足を運び、その動作と共に放たれる一撃は、多々ある剣を使った攻撃方法で、始まりと終わりまでの動作が一に集約された数少ないものだ。

それに比べ抜刀術、居合いは一拍子の見えるが、その実は二拍子、二動作が必要となる。

居合いとは本来、襲撃された際の対処法で、カウンターに近いもの。

それを(せん)の手で行えば、踏み込みという一動作が追加される。

足の付かない状態で抜刀すれば、腰の回転が上手く上半身に伝わらず、逆に鈍足の抜刀へと落ちてしまう。

つまり、踏み込み、そこから斬るという動作を行う必要がある。

ならば元来通り、カウンターとして扱えば良いように思えるが、それでは同じ一拍子である突きに出遅れてしまう形でしか発動できない。

この状態ではカウンターの方が勝機が薄いと言えた。

1分が経過しても、その緊迫した体制から変化は見られなかった。

その最中、瓦礫の一山から、バランスを失った石が音を立てて、崩れ落ちた。

その音を合図に互いの体制が前へと移動していく。

……………。


「…見事というしかないな。

ここまで完膚なきまでなら、納得もいく」


ニアスは踏み込んでいなかった。

否、踏み込めなかったのだ。

ビィーナは刀を抜き放った状態でニアスの横手まで腕を伸ばしていた。

始まりの場所を考えると、刃がニアスの居る中りを通過したことを告げていた。

ニアス躰に線が奔り、ズレていく。

胸を真横に一文字されていた。


「心臓を斬られては、流石に駄目だな。

ビィーナ、お前の勝ちだ」


振り抜いたままの状態で、ビィーナはその台詞を受けた。

それを切欠に、ビィーナの躰は糸の切れた人形のように、大地に引かれて横臥する。

意識が朦朧とする中、ビィーナは兄が述べる言葉に耳を傾けていた。


「血に目覚めた以上、この汚れきった世界を見るかもしれない。

それを後悔せぬなら、生きていくがいい。

之より先、お前に幸あらん事を、ビィーナ」


細胞の壊死が速度を速め、肉体の斬られた部分から加速していく。

腐った異臭を放ちながら、ニアスは最早まともな外装を残していない状態で、妹の幸福を願った。

これより守ってやることも、触れてやることも叶わぬなら、せめて願いだけでも残しておきたいと。


「・・に・い・・さん」


果たせぬ不甲斐無さ、それとこの結果に満足したような響きのある声がビィーナに届く。

指1本すら動かせない。

そんな状態でありながら、この声で又も涙だけが止め処なくビィーナの頬を濡らしていく。


「強く生きて見せろよ」


ニアスの言葉を最後耳にし、底無し沼のような疲労感がビィーナの意識を奪っていく。

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