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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【価値観のあり方】 求めていたもの

2話目です。

【価値観のあり方】


ビィーナの記憶には、登場人物は1人しか居なかった。

他のエキストラは、顔が無く、物とした登場していた。

初めからそうだった訳ではない。

ビィーナの瞳はいつも虚空に繋ぎ止められており、それを見る周囲の目が放つ奇異の眼差しが常にビィーナについて廻った。

ビィーナが虚空に浮遊する、光を観測していた。

それは誰も見ることのできない、情報の塊。

物質が加熱することで放つ、特有の電波、線スペクトルをビィーナの眼は捉えていた。

特に面白いのが、宇宙から飛来してくる電波の群だった。

ビィーナが始めて覚えた言葉は、この宇宙から飛来してきた電波から読み取った言語だった。

108の基本語から成り、1言で多くの意味を定義できる言語だった。

この画期的な言語を主軸として、ビィーナは世界を構成していった。

3歳の頃、自分の中で構築されていく世界と現実のギャップ。

ビィーナはやっと自分とこの世界の言語の差に気が付いた。

無駄に長々連ねる、羅列。

そして未熟で、融解しづらい言語。

それはビィーナにとって苦痛を強いられた。

何故、こんなに無駄なことを紡ぐのだろう?

何故、こんなに無為な行為を繰り返すのだろう?

自分が話す言葉と比べ、意志疎通が儘成らなく、溶け合わない言葉にビィーナの心は疲弊していった。

そんな中、ニアスだけがビィーナの言語を理解してくれた。

ニアスにもこの電波が見えるらしく、ビィーナは鬱憤を晴らすように、毎日ニアスと会話した。

だが現実に対応する為に、ビィーナは現地語をニアスに教えて貰った。

ビィーナにとってニアスだけが、存在を共有してくれる人間だった。

ビィーナの吐く言葉は無為の塊に成り下がり、無駄な羅列を増やしていく。

生きる為にそれを紡ぎ、そして物との情報交換を行う。

それは稚拙で、漠然とした情報。

最早、忘却してしまったが、この言語がビィーナのルーツだった。

大きくなるにつれ、ニアスもビィーナもこの言語を根底が見えなくなっていったからだ。

そして次第に現地語に頼る会話が増え、自然と脳内から削除されていた。

次第に生きる為に磨いた技術と可能性により、世界から隔離されていた。

そしてそれを認識してくれるのも、ニアス1人だけだった。

そうしてビィーナの中で1つの定義が定まっていく。

こうしてビィーナの中には、人はニアスだけとなっていった。

正確には、ビィーナの眼には元々、人と物の区別する点が見分けられなかったのだ。

特化したが故の、無慈悲なるリアル。

人の世界はモザイクだけで構成された、無為の集合体だとビィーナは定義してしまったのだった。




あたしは愛刀を手にすると、それを抜いてから刀身を見つめる。

日頃から丁寧に手入れをしているため、その刀身は光だけを反射させ、曇り1つ灯してなかった。

共に歩んできた愛刀。

これを送ってくれたのは兄さんだった。


(人を殺めることが嫌いだった、兄さん。

これを手渡した時、困った顔をしていた)


あたしは素直に、兄さんとお揃いだと喜んだ記憶があった。


(シコウしなかったんだ、殺し(・・)を。

あたしも出来なかった(・・・・・・)


その点は、似ていたのかもしれない。

あたしの中では、未だ人は3人だけだった。

これまでこなして来たのは作業で、殺しではない。

これからもこなしていく単調で、殺伐とした作業。

何の感慨も無く、対象を壊すだけ。

それがあたしの感想だった。


(兄さんは、この世界を見限った。

そしてせめてあたしだけでもと、望みもしない殺しに身を委ねた。

…兄さんにはこの世界がどう映っているだろう)


刀があたしの顔を反射していた。

泣き過ぎで、腫れた眼。

ブサイクだと想った。


(兄さんが見限ってしまった、この世界。

あたしは見てみたい、生きてみたい、だから)


刀がスッと鞘に納まる。

時間はそれほど残されていない。

しばらく歩みを進めていくと、門のもたれ掛かる影があった。

シルくんだった。

ブゼンとし、ニラみつけるようにこちらを見ている。


「シルくん」


印象の浅い人物。

それでもあたしの中で着々と人に近づきある少年の名を呼んでみる。

後はこうやってあたしの中で形が増えていくのだろう。


「北東に3キロ。

これしか俺には出来ない」


シルくん無力だと言わんばかりに、門に拳を叩きつけてウナダれた。


「いいよ、ありがとう」


あたしの頬が自然と変形していく。

言葉と共に、これまで無理だったことが出来た。

たぶんあたしは微笑んでいる。

それの虚を突かれたシルくんは、呆けた顔をしていた。

その横を通り過ぎ、あたしは北東に進路を取る。


「生きて帰って来いよ。

最低限でも」


この言葉に意味を考えた時、あたしは振り返っていた。


「行ってこいよ」


シルくんは苦笑して、片手を挙げて見送っていた。


「…うん」


満たされていく。

何度も、何度も。

15年間の間、まるで変動しなかったものが、僅か1年半で何度も満たされていく。

灰色だった彩が、少しずつ多彩に埋もれていく。

止め処なく降り積る雪のように。

疎外感も、不快感もない。

ただ、胸を満たすのみ。

自分の中にこんな彩があったことにキョウガクし、そして安心していく。


(戻りたいよ、ここに)


これより降り積るであろう想いが、恐かった。

それでも触れてみたい、感じてみたいと願う。

あたしは学園の門を潜り、決別すべき過去に向かって走り出すのだった。




「一人で行かせて良かったのですか?」

「これ以上私達に何が出来るの?

それこそ無粋よ。

それが分かるからシルーセルすら、この場に留まった。

そうでしょ」

「…そうですね。

しかしビィーナにニアスが殺せますか」

「方法は持っているけど、殺しが問題ね。

それが逡巡を生まなければいいけど」

「方法ですか。

何故、ビィーナなら可能だと?

ビィーナの存在しない敵(エネミーゼロ)が、どうして|拒絶する刃《ソード オブ リジェクト》を破るに至ったのですか?」

「|拒絶する刃《ソード オブ リジェクト》が拒絶を体現しているなら、存在しない敵(エネミーゼロ)は何を体現して行われてると想う?」

「…妥当な線なら、消去ですか」

「そう、それがビィーナ トイアムトを取り巻いていた、概念の正体。

自分すらも、その概念の影響下に置いた結果、存在しない敵エネミーゼロ)が生まれた。

これが示現降臨(ノルン)、第6位よ」

「人を超えし者。

否、人が範疇を外装したなら、これこそが人なのかもしれませんね。

だから、奴隷として第7位に堕ちたのかもしれません」

「世界の?」

「いえ、時間ですよ。

…消去ならば、確かに拒絶することすら、デリートしてしまうかもしれませんね」

「それともう1つ」

「ニアスにビィーナを拒絶する理由がない。

こう言いたいのでしょ」

「…生意気ね、カイル」

「一応、年上ですから」

「………。

ビィーナが示現(ノルン)について未熟な分を考慮して、勝敗の結末は3対7ね。

ビィーナには分が悪いわ。

|拒絶する刃《ソード オブ リジェクト》を使いこなす、ニアス相手では荷が重いかもしれない。

それでも私達よりは可能性がある」

「天命を待つのみですか」

「でもね、それはあくまで私たちに出会う前のビィーナ トイアムト。

信念を構築した者は、最後の一線を引かないわ。

それが拒絶のみを選んだ者には及ばない、と私は想うの」

「希望的観測ですね。

でも、そんな観測なら私も一票入れましょう。

チームメイトが帰還してくれることに」

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