【拒絶する者、されし者】 導きし答え
本日、投稿できない可能性があるので、こんな時間にアップします。
今回も2話投稿です。
途中でティアは意識を失い、シルーセルは2人の人間を担いで、何とか学園の門を潜るところまで帰路していた。
慌しく動き回る内部から、教員達が武装して街へと降りていく。
シルーセルはそれに構わず、ティアを保健室へと運んでいく。
保健室と侮る無かれ。
殺伐とした中に存在する保健室。
ありとあらゆる治療器具があり、そして最高の名医がこの保健室を仕切っていた。
「テリト先生っ!」
息も絶え絶えに保健室の駆け込むと、女教員に言い寄られて困り果てている老人がいた。
老人は此方を一瞥すると、神妙な面持ちへと変貌させる。
そして言い寄っていた女教員も脱ぎかけていた服を素早く正し、老人と同じく瞳に真剣な光が宿る。
この老人がリー テリト。
この保健室の主にして、最高の名医。
隣にいる女は助手で、キアヌ メイリア。
この巨大な学園の病人から怪我人までも2人だけで賄う、凄腕の医師達だった。
一目で状況を確認すると、テリトは指示をキアヌに飛ばす。
「カルテを。
輸血バック、血液はAだ。
シルーセル、何をボやっとしておる、早くベッドに患者を移せ!」
うめき声を発し、意識を失せているティアを指示通りにベッドに移し、そこへ純度99.8パーセントのアルコールを運んでくる。
「キアヌ、縫合の用意」
「はいっ、直ぐに」
テキパキと動く様は、普段から不良教員と名を馳せている者達の面影はない。
1つの生命を救う為に最善を尽くす医者の姿だった。
テリトはアルコールを自分手に吹きかけ、ティアの傷口に流し込もうとする。
その様子を観察しながら、ティアが受けるであろう想像を絶する傷みに、シルーセルは身震いする。
だが、発せられたのはティアのうめき声ではなく、テリトの奇怪な台詞だった。
「シルーセル、事を話せ。
この傷はどうやってついた」
「はぁ?
それより」
「いいから話せっ!」
滅多に見せない激昂するテリト。
それに押されるように、顛末を話していく。
テリトはその間に、右腕の脇の辺りをキツク縛り直す、止血をする。
そして腹の傷に清潔なタオルを当てるだけで、シルーセルの話しを終えるのを俟つ。
キアヌは輸血パックを追ってくるとティアの左腕に針を刺して輸血をしている。
シルーセルは早口に説明を終えた。
「…シルーセル、これを視よ」
テリトはタオルを外し、腹の傷口に無造作に指を突っ込もうとする。
眼を背けたくなる生々しい光景だったが、その後の異様さに生理的な嫌悪感は吹き飛んでいた。
「なっ!」
テリトの指が傷口に入らず、寸前で止まってしまう。
最初は何の冗談だと勘ぐったが、テリトは今度は素早く腕を上げ、そして貫く勢いで貫き手を傷口に放つ。
だが、結果は変わらず、傷口の手前で指が壁にぶつかったように停止していた。
テリトの腕は震え、鍛え抜かれた指に力が連動されているのを物語っていた。
「この通りじゃ。
物理的干渉を受けない壁が此処にも貼られておるのじゃ。
与太話として流せなんだな、これでは」
血だけが、止め処なく流れ続けていた。
ティアの顔色は赤みを無くし、全身が熱を失っていく。
「腕の方は手前で止血すればよいが、この穴ばかりはそうはいかん。
このままなら」
「どっ、どうにかならないのか!
テリト先生は名医なんだろ!?」
「無茶言っちゃ駄目よ。
明らかに、医者の管轄から著しく離れているわ」
キアヌは冷めた口調で告げる。
死に慣れ親しみ、日常茶飯事の為に感情が抜け落ちた者の含みだった。
「傷口を抜き取る手もあるが、もしこの現状が傷ではなく、空間に干渉しているなら、無為に終わってしまう上に、死への時間を短縮してしまう。
それに傷は既に内臓に微かに達しておる。
この方法をとれば間違いなく、器官を抜き取ることになる。
この弱っておるティアに耐えられるとは思えない」
「なんだよ、それ。
八方塞がりだって言うのかよっ!」
沈痛な面持ちで、テリトはそれを肯定する。
シルーセルは混乱していく思考、暴走していく感情が、捌け口を求めていた。
そして矛先を、未だ呆然と現実から切り離された場所で漂っている者に向けられる。
「お前が連れてきたのかっ!」
入り口の壁に凭れ掛かり、色の無い瞳で現実を映していたビィーナの胸倉をシルーセルは掴んでいた。
「あれは、お前の知り合いだろうっ!」
ティアがあの場に到着する前に敵である男とビィーナが話していたのを、事象戦略盤が捉えていた。
そして、ビィーナに固執するあの男を。
だから、シルーセルは全ての責任がビィーナにあると導き出した。
シルーセルの怒声が部屋を満たすが、それを向けられたビィーナは何の反応も見せない。
揺さ振られ、壁に叩きつけられても。
「止めなさい、怪我人のいる部屋で見苦しいわよ、シルーセル」
この部屋を支配するように、凛とした声がシルーセルの行動を止める。
それに反応し、シルーセルが入り口に視線を走らせる。
そこには時間稼ぎに残った筈に凛とカイルがいた。
「元々は自閉症なその子が篭るには充分。
酷なのよ、この状況は」
「自閉症だと?」
「その話しは後。
テリト先生、ティアの容態は?」
「最悪だな。
持って後10分も満たないだろう」
「生かす方法が僅かながらありますが?」
「っ、どうするんだ!」
シルーセルが掴みかからん勢いで凛に問い質す。
それを軽くあしらいながら、凛はベッドに近づいていく。
「実技を踏まえて来ましたから、確かですよ。
ですが、これはテリト先生しかこなせない技巧です」
「ワシだけだと」
「そう、私が扱えるのは所詮付け焼刃。
初心者の児戯です。
ですが、嘗て名を馳せたテリト先生なら、その実と術を知っている。
これは意志を通します」
「意志?
意志と生かす方法とどう繋がる」
「氣ですよ」
「氣じゃと」
「この拒絶の壁は、意志を妨げられない。
実際、児戯に等しい私の氣でも十分に指向と、足を砕く事で、迎撃に成功しています。
人の体はタンパク質の塊。
それを体内ドラッグで正常化して、神経バイパスで運営している。
今ティアが失った部分が修繕不能ときているなら、そのバイパスだけでも確保できれば、その進行だけでも抑えられます」
「バイパスか、成程な。
ワシならばか」
テリトはティアを横たえたベッドに向かい合い、両手を合掌させる。
そうするとシルーセルの視界には、テリトの合掌部分に妙な靄を視認する。
「あれは」
淡白に成った声音で、搾り出すようにシルーセルが言葉を吐く。
「さて、何でしょうね。
未知なるエネルギー、生命そのもの、はたまたイオンが生み出す、電気解離。
人それぞれ解釈はあるけど、呼び方は1つだけ、氣と呼ばれているものよ」
テリトはその靄をティアの腹部の傷に当てる。
そうすると、出血がピタリと止まり、ティアの顔色の悪化が静止した。
奇跡でも目撃したようにシルーセルは驚愕の眼差しで、この現状を凝視していた。
「私も少しは噛んでる身ですからわかりますが、正直どれ程稼げますか?」
「持って1時間じゃな」
「どういう意味だ!?」
「鈍いわね。
こんな超状染みた芸当、長々と続けられると想ってるの?
テリト先生だから、1時間も持たせられるのよ。
私なら2秒が関の山ね。
いえ、それ以前に血管のバイパスを作り上げる程緻密に氣をコントロールすること自体、私には無理だわ」
「畜生、それじゃ意味ないじゃないか!」
「シルーセル、私が意味の無い事を提示すると想ってるの?」
「有るのか!
ティアを救う方法が!」
「簡単よ。
あの男を殺し、この呪縛を消せばいい。
それだけよ」
簡単そうに凛が述べた事実。
それがどれ程危険なことか、相対した者なら想像は難くない。
いくらか逡巡後、シルーセルは扉を潜ろうとした。
だが、カイルが扉の前を占拠して、塞いでいた。
「どけよ」
「生憎と、勝ち目の無い戦いを容認して失くすほど、貴方の価値は低くありません。
今死に掛けの役立たずよりは」
「カイル、テメェ!」
シルーセルの拳がカイルの顔面に飛ぶ。
ゴッ!
痛々しい音を立て、拳がカイルの頬を抉るが、微動にしない。
切れた口内から血が滴るが、まるで気に留めないで2人は睨み合う。
「今1度言いましょう。
勝ち目の無い戦いは容認しません。
勝ち目の無いのはね」
平然と言い放つ。
だが、含まれた意味に気付けない程、シルーセルも愚か者ではなかった。
それ故に、拳を下げ、項垂れるようにして部屋をでるのは止める。
「あるのか、あの化け物に勝てる方法が」
「勝てる可能性は80パーセント。
ですが、戦いが終焉を迎えた時には、どれ程時間が経過していることか」
「どうして?」
「私達には、あの者にダメージを与える術が限りなく0に近いのですよ。
幸いにして、音を感知していることが判明しましたから、超音波系で対処すれば」
「カイル、もうそれは通用しないわ。
恐らくね」
カイルの提案をバッサリと斬る、凛。
「なんでだよ」
「貴方達はあの能力について、何を知っているの?
通さない壁。
それだけでしょ」
突っ込まれ、2人は沈黙してしまう。
「よく思い出してみなさい。
あの男の目に覆われた布。
目隠しなんてナンセンスなことをする為にあるではないのは一目瞭然。
なら、あれは周りへの畏怖感を少しでも和らげる為に装着している。
つまり、あの下に眼球が無いと考えるのが妥当。
それにも関わらず、あの男は全てを感知し察知した。
それは何故か?」
「それがどうしたってんだ」
「シルーセル、氣は見えたかしら?」
「氣って、あの靄だよな」
「そう、靄。
私達の眼でそう見える。
普通の、発達していない網膜では感知できないものよ、あれは」
「…どうして俺達には見えたんだ?」
「発達したからよ、強制的に概念と認識を植えつけられてね」
そこでやっと2人には凛の言いたいことの輪郭が見えてきた。
「人が視認できる光は、波長約400ナノメートルから800ナノメートルの電磁波。
シルーセル、どうして私達の眼が歪みを視認できるか考えた事あるかしら?」
「考えたことはないが、恐らく脳開発により、認識が改善されたからだろ。
それこそ歪みが生まれる時に生じる僅かな電磁波すら視覚できるように」
「歪みが生じる時に発せられる電磁は、0.2ミリから0.5ミリと微弱なもの。
ここまでいくと、電磁波というより電波ね。
あらゆる電波が目視できるようになれば、それは流石に拙いから、歪みが生じる時に発する特有の信号を察知できるようにもされている。
だから、歪みだけが目視できるようになっているの。
その恩恵で、氣なんてものまで見えてしまうけど」
カイルは熟考してから、凛が出そうとしている解を自分なりの解釈を踏まえて答える。
「あの男が世界を認識しているのは、第6感と言いたいのですね」
「はぁ、第6感だって?」
「驚く事もないでしょう。
私達だって、日頃から研ぎ澄ました感性から、5感だけでは読み取れないものを直感的に識る術を心得ています。
それの延長上に、あの男が立っていると私は考えています。
シルーセルの持つ事象戦略盤に似た感じで、情報を得ることが可能なんだと想います。
そして凛が言いたいのは、それは視覚、聴覚を使わずに世界を感知できるということ」
そこでやっと、凛が通用しないと言って意味がシルーセルの中で形になる。
「まさか、あの壁は拒絶を肥大化させているのか。
でも、その可能性は」
「無いことにしたいわ。
でもね、それは希望的観測。
ビィーナが自閉症だと知った時に、考慮しとくべきだったわ」
「…イディオ・サヴァン症候群だと言いたいのですか?」
「おいおい、頼むから2人で完結していかないで、俺に情報をくれ」
「シルーセル、ビィーナと話していて噛み合わない事は無かった?」
「…あぁ、まあ話しだけじゃなく、感性もかな。
何か見てるものが根本的に違う気がした」
「それが自閉症。
己で完結して一個の世界観。
シルーセルの言うとおり、見てるものが違うのよ。
その原因は、発達した感なの」
「発達した感?
それで見てるものが変わるのか?」
「少し弄られただけで、私たちと一般人は電磁波から電波という微量の世界を観察できるようになった。
ビィーナは生まれながらにして、そういう発達した感が世界を変えて見せていた」
「ちょっと、ちょっと待て。
襲撃者の話から、ビィーナの話しにすり替わってるが、まさか」
「言ってなかったわね。
あの男は、ニアス トイアムト。
ビィーナの血を分けた兄妹よ」
「!?」
「どういう経緯かは知らないけど、あの男の目的はビィーナを殺すこと。
此処までで質問は」
「続けてくれ」
「ビィーナが人を物として認識していたのは知っているかしら?」
「何となくは」
「つまり、ビィーナの眼には、そういう映り方をしていたのよ。
世界を区別する基準が私達と外れた部分があった。
だから、会話の端々に噛み合わない違和感が混じる。
ビィーナの場合、然程違和感を感じさせなかった。
それは恐らく、普通に人として演技していたからでしょうね。
さて、自閉症の話しは切るわ。
で、イディオ・サヴァン症候群っていうのは、知的障害を持つ天才を指すの」
「知的障害、ビィーナが?」
「正直、この言い方は的確ではないわ。
特に自閉症には当てはまらないと私は考えているわ。
彼らは、それぞれの認識を持っているだけで、それが世間一般に受け入れられないだけ。
私たちが想像も付かない高等なことを、彼らは認識してのではないかと推測しているわ。
話が逸れたわね。
私に指すイディオ・サヴァンとは特化し、恐るべき学習能力を秘めた人類の事を指しているの。
そして、ニアスは世界に干渉を掛けられ、そして拒絶する事に特化し、学習していく」
「なっ!」
「彼は音すら拒絶した筈よ。
もう、あの壁は振動すら越えられない。
そして拒絶を肥大化させた者の終末だけは確定している」
「「………」」
2人は沈黙に埋もれた。
想像に難くない、その結末に言葉が出なかった。
「制限時間が限られた状況で、私達がニアス トイアムト、|拒絶する刃《ソード オブ リジェクト》を折る事は不可能に等しいわ」
断言するように、凛が残酷な台詞をシルーセルに吐く。
「っ、このまま見殺しにしろって言うのかよっ!」
「私が言ったのは、私たちの話しよ。
唯一、斬れる者がいるわ」
この話しの流れから、シルーセルはハッとして壁に凭れ掛かっている女に視線をやる。
「同じく世界に干渉出来る者。
ティアを助けられるのは存在しない敵だけよ」
だが、肝心のビィーナは自失したままで、反応しない。
壊れてしまった人形のように。
先程まで怒りを抱いていたシルーセルは、その様に苦しみを覚える。
実の兄に命を狙われる女。
どんな気持ちで、あの刃を受けようとしていたのだろうか。
「なっ、何をしておる!
お主は危険な状態なのだぞ!」
突如響く、テリトの声が皆の視線を集める。
そこには意識が回復したティアがベッドから降りようとするシーンだった。
「・・っ、いい・・、おれ・が・・かた・・をつけ・・にいく」
ティアは言葉を吐き終えると、口から大量の血が吹き出る。
起き上がった所為で、テリトの氣が途絶えてしまった為だ。
「莫迦野郎がっ!
お前は重症なんだぞ!」
「これ・は・・、おれ・の・・もん・だ・いだ」
ティアをベッドに押し戻すシルーセルに、ティアはたどたどしい口調で告げる。
「何がお前の問題だっ!」
「そうだよ。
どうしてティアが被るんだよ」
シルーセルの台詞に続いて、か細く、そして今にも壊れそうな声がしてくる。
シルーセルはその声に驚き、肩越しに振り返る。
そこには微かな彩を宿した瞳をした、ビィーナがいた。
ティアの搾り出す声に反応したように。
「どうして関わるんだよ」
「だか・らだ・・よ。
そ・んなこと・・もわか・らない、じ・ぶんの・ほんねに・もめをつぶる。
・・・そんなな・めたやつ・に・・・、おれがみて・るせかい・・をおしえるためだ」
途切れ途切れに紡がれるティアの言葉。
それだけ告げるだけでも、呼吸が大幅に高まり、排出されていく血液分体温が落ちていく。
立ち上がろうとするティアの後ろ首にテリトの掌が当てられる。
「悪いが行かせる訳には往かぬ」
歪みがテリトの掌を覆うと、ティアは電撃を受けたように痙攣する。
だが、ティアはそれに耐え切り、意識を保つ。
「ぐっ、・・み・せ・・てやる・・・」
歯を食い縛り、朦朧とする意識を構築しようとする。
それをさせまいと、テリトが今度は心臓部に掌を当てた。
衝撃がティアの全身を包むと、暗闇に意識が囚われて、沈んでいく。
「世話のかかる子ね。
でも、女の為に頑張る子はステキだわ」
崩れ落ちたティアを、いつの間にか回り込んだキアヌが支え、ベッドに戻す。
そして右腕の切り口に氷袋を敷き詰めて、細胞の活動を低下させる。
これで、切断部の細胞が死ぬのを遅らせる。
テリトもそれに習い、再び腹部の管を氣で形成する。
その様子を、凍りついたように凝視しているビィーナ。
「どうして」
何もかも理解できないと言わんばかりに、ビィーナはポツリと言葉を洩らす。
シルーセルはそれが許せなかった。
だが、ビィーナも苦しんでいることを知っている為に、その憤慨をぶつけることも出来ず、部屋から出て行く。
凛は眼を配らせると、カイルは得たように頷き、シルーセルの後を追う。
(さて、ほんとに如何したものかしら)
保健室に静寂に沈み、その間に凛は思惟していく。
(いくら言葉を費やしても無駄なら、用件だけ確り伝えるべきね。
後はビィーナ次第)
「わからない?
そんな筈はないわよね。
これは貴女が求めたものの一端でしょう」
凛は声が届いているとして話を続ける。
「仲間。
ティアなら臆面もなく、そう言うんでしょうね。
ティアは貴女も守る対象として見ていたのよ」
「なかま」
その響きが虚しくビィーナの胸に木霊した。
※
(誰もあたしを必要として無かった。
カリオストの時も誰もあたしだけを誘わなかった。
ウソだ、ウソだ、ウソだ、そんなの)
「ウソだ」
心の声が口から零れていた。
「それは貴女の視線でしょ。
勝手に独りよがりして、一人で完結した、貴方の視線での話しでしょう。
ティアの視線は、貴女を捉えていた。
それがこの結果を招いた。
…貴女が見ているのは、何」
「あたしがみているもの」
誰も映らない。
これまではそうだったのに、視界に1つだけ温かみを宿す人が居た。
今にもその温かみを失い、この世界から決別してしまいそうな存在。
それなのに自分の中だけ大きく、そして消せない者として刻まれた人が。
(そ・んなこと・・もわか・らない、じ・ぶんの・ほんねに・もめをつぶる)
楽しかったのだ。
自分を認めて貰い、そして本当の自分を見て貰える安心感。
そんな日々が、これまでの彩をつけていなかった人生と比べて、煌びやかだった。
それは自分が求めていたものだったから。
それに気が付いた時、あたしは死を拒んだ。
拒んでしまったのだ。
ティアの言うとおり、眼をツムったのだ。
ショクザイのために、兄の断罪を受けることがあたしの存在意義だと想いこんで。
本音では、生きたいと願いながら。
(・・・そんなな・めたやつ・に・・・、おれがみて・るせかい・・をおしえるためだ)
彼の目には、世界はどう映っているのだろうか。
あたしはどう映っているのだろうか。
知りたい。
そして、生きたい。
彼と共に。
「あっ、あああ…あ…ああ……」
答えを見付けてしまった。
後戻りが出来ないくらいに、ハッキリと。
「……ご…め……ん」
(ごめん、兄さん)
※
溢れる感情が、現実に実体化して、ボロボロと零れていく。
何らかの答えを出した事を悟った凛は、年下の揺れる少女を優しく抱きしめるのだった。
(この子は心が幼い。
それでも現実のスピードは、その甘さを許されないで迫ってくる。
でも大丈夫。
この子は自分で答えが出せる程に強い。
あんな絶望しか招かない者に、成りはしない。
私よりずっと、強い子だから)
年の離れた妹をあやすように抱きしめる。
凛はビィーナの感情が決意に変わるまで。




