【拒絶する者、されし者】 逸脱した戦い
「っ、悪夢かよ、これは!」
シルーセルが遣える門、指向の指向を遣った音速弾。
銃身の前方に指向力で架空の砲身を生み出し、弾丸に2重、3重の加速を持たせるシルーセルのオリジナル技。
その威力は戦車の装甲すら貫き、その余りの速度に引きつけられて来る空気の群、ソニックブームは10トンもの重量すら引っくり返せる威力があった。
それを銀ダマとそよ風とでも勘違いしているように、受けた男はその場に立っていた。
「ティア、撤退しろ!
コイツはヤバイっ!」
これは先程までの弱気な態度でいたシルーセルとは違い、指揮官としての命令だった。
ティアは正直、この死を強要する男に背を向けたくなかった。
だが、状況がそれを許さない。
(ビィーナがこの様じゃ、ここに留まるのは拙い)
放心状態で、ニアスを虚ろに眺めているビィーナ。
僅かに灯りかけていた心が吹き消されたように、呆然と立ち竦んでいた。
幸いにも、ソニックブームに吹き飛ばされたお蔭?で、敵との間に距離が出来た。
瞬間の交戦で計ったニアスの身体能力から、逃走に専念すれば撤退は可能だと計算できた。
(問題は、このビィーナか)
殺される為にこの場に赴いたビィーナが、逃げるのに積極的に加わるとは思えない。
このままなら只の荷物だ。
ティアは出血で翳む視界でビィーナと捉え、ふら付く足に無理を利かせて近寄る。
ビィーナの意志を完全に無視して肩に担ぐ。
そんなことをされているにも関わらず、ビィーナに生気の通った反応が返ってこない。
「逃がさない」
距離は10メートルしかない。
この距離はニアスの攻撃範囲を微かに離脱しているに過ぎない。
ビィーナという荷物を抱えたまま交戦状態に入れば、間違いなく13段階段を上ることになる。
「させるかよっ!」
中間点に飛来してくる弾丸。
その全てが指向の影響を受け、加速された音速を超えた銃弾。
一直線に空間を駆け、そしていきなり軌道を変える。
10発もの弾丸が分散し、ニアスの足元を砕いていく。
アスファルトを穿ち、膨大な石版を宙に舞わせる。
音速弾で加速した弾丸に、ニアスの手前に歪みが発生させ、そこから吐き出される方向転換させる指向でいなす。
蝙蝠と呼ばれる、方向転換の技だ。
名の通り、蝙蝠を彷彿とさせる滑らかな曲線を描き、曲げられた弾丸はシルーセルが狙った箇所を寸分違わずに打ち抜き、地面を引っぺがした。
音速弾から蝙蝠の連携。
音速を超える弾丸に歪みをセットするなど、事象戦略盤という最高の情報収集能力を持つシルーセルにしか不可能な高等技巧だった。
(直接攻撃は無効。
だが、2本に足で大地に立っている以上、重力に引かれている人間。
ならば足場がなければ追ってこれないはず)
シルーセルはこの異様な現象を意外にも素直に認めた。
だからこそ、的確に逃げる為に手段を講じれたのだ。
踏み出そうとして足元が失われ、ニアスは進むことを断念せざる得なくなる。
爆心地で、追い掛けられない焦り以外の感情を浮かべていない化け物の様子を事象戦略盤が克明に送ってくる。
絶望的な感情に支配されそうになりながら、それを生唾を飲み込む事で払い落とす。
ティアはそのチャンスを生かし、急ぎ此方に走ってくる。
日頃の疾風を思わす走駆は微塵も窺えない、ヨロつく足取りで。
(傷が深いのか?)
敵を警戒しつつ、ティアに事象戦略盤で検索する。
(なっ、半ばまで腕が切断されてるじゃないか!
それに腹部の傷も浅くない!)
そして傷から止め処なく溢れる血液。
その量が半端でないことにシルーセルは気が付いた。
(どうなってるんだ。
変だぞ、この傷!?)
ティアは悲痛な面持ちで、切り裂かれ、ブラブラと揺れる腕でビィーナを固定し、そして空いた左手で腹部の穴を直接押さえ込んでいるが、穴の空いた袋から水が零れるように、ティアの肉体から血液が排出されていく。
ティアが此方に到達する前に、ニアスの動きが再開する。
シルーセルは残りの弾を銃口から吐き出させると、素早く弾を入れ替える。
放つ弾の全てが加速し、ニアスに直撃する。
音速の弾丸たちは、やはりニアスの眼前で何かにぶつかり、その自らに威力に砕け、四散していく。
(駄目だ、物理攻撃が完全に無効化されている。
何か寄せ付けない壁が存在している。
しかも、風すらその影響を受けている。
空気すら通らないのか?
だが、それでは酸素補給が出来ない。
なら、あの壁は常に展開してないのかもしれない)
シルーセルは思惟し、攻略法を見出そうとする。
事象戦略盤で敵の周囲を観察する。
その間にも足止めように弾丸を吐き出し続ける。
(っ!
事象戦略盤が拒否されたるだと!)
敵に全包囲網から事象戦略盤で検索した見た所、悲惨な現実だけが浮き彫りにされた。
シルーセル自身も、この事象戦略盤について明確な詳細を識らない。
大よその予想では、この能力は門と呼ばれる、血塗られた鉾が保有している力を媒介にしているのではないかと、推測していた。
門とは、この現実空間と同位置に存在する7つの空間にアクセスし、そこに存在する素粒子を此方の空間に引き込むことで発露する。
7つの空間に存在する素粒子は、それぞれ特有の効力を秘めており、現実空間の存在する感応原子に反応することで、その特有の効力を現実化させるというものだった。
そのアクセスシステムは、血塗られた鉾に所属する者たちの後ろ首に埋め込まれている、魔晶石で行われる。
これが空間を歪曲させて、別空間から素粒子を運ぶ事を可能としたのだ。
話しは逸れたが、事象戦略盤とは、その同位置に存在する空間、どの位置に在りながら、無い空間。
つまり、常に接触をしている空間の揺らぎを感知し、この空間の情報を手にすることを可能にした、感知感応なのではないかと推測していた。
人には感知できない、チャンネルが自分の中に形成されたおり、それに接続することでどの場所のどの位置の情報を詳細に受け取ることができるのではと。
半径2キロという範囲は、許容量なのだろう。
やろうと思えば、範囲を増大させることも可能だろうが、圧倒的な情報量に脳がヤラれてしまうのだろう。
つまり、事象戦略盤が拒絶されるということは、空間そのものを掌握し、支配下に置いているということになる。
揺らぎ程度では踏み込めない、強固な支配がフィールドとして形成されている。
シルーセルはニアスの周りだけポッカリと空いて流れてこない情報に、戦慄する。
どうにかしてティアを此方までこさせることに成功したが、敵の歩みは止まることがない。
(敵の行動力から、明らかに普通の人間のレベルを超えてやがる。
ティアと同格の、規格を超えたるタイプかよ、厄介な)
血塗られた鉾の所属する者は例外なく、その体躯に通常の人間の3倍の能力が開眼されている。
人間が耐え得る最大限の認識、3倍の定義を入学当時の受ける脳開発で植えつけられる。
ティアはこの認識を植えつけられる以前から、その肉体に3倍の能力を体現していた人間だ。
凛曰く、英雄や怪物と呼ばれ、歴史に刻まれた者は大概、自らの限界を克服して、この領域に辿り着くのだそうだ。
失速してしまっているティアと弾丸の嵐で足場を砕かれながらも進んでくる敵との速度は同等だった。
いや、微かに敵の方が速い。
時間が立つほどに失速するティアを庇いながらでは、何れ追いつかれるのは明白だった。
ティアがやっとの事でシルーセルの横を抜けていく。
顔は蒼白で、直ぐにでも止血を行わなければ拙い状態だった。
「ティアッ!
何とか食い止めるから、止血してから進め!
そのままじゃ、持たねぇぞ!」
(あぁ、無謀な発言しちまったよ、俺)
ティアはふらつきながらビィーナを下ろすと、息も絶え絶えにしながら、血に濡れた右袖を破り捨て、切断されかけた場所より上の部分をキツク結ぼうとする。
普段なら慣れているので、それ程苦もなくこなせる作業なのだが、出血の酷さで震えて定まらない片手で行うのは相当な労働だった。
そんなティアを尻目に、シルーセルは次々に吐き出される薬莢に焦りを覚えながら、敵の歩みを止める術を模索する。
(クッソッ、こんな化け物をどうやって止めるんだよっ!)
まるで浮んでこない。
シルーセルが出来ることは、これまで以上に加速した弾丸を地面に叩きつけて抉り、道を失わすくらいだった。
シルーセルが持てる全ての銃弾を使用して、稼ぎ出した時間は1分も満たなかった。
未だティアのろくに止血すら終えておらず、絶望的だった。
敵の間合いに入ったことを自覚したシルーセルは、己の接近戦の技量の無さ、無力さを怨んだ。
刀が煌き、斬撃がシルーセルに迫る。
ニアス自体の情報は掴むことができなかったが、その行動で動かされる空気は感じ取ることができた。
ギリギリの線で躱し、無駄と知りつつもコンバットナイフを抜き放ち、空いた喉元に突きつける。
コンバットナイフは、翻って来た斬撃に根元から刃が切り離され、柄だけがシルーセルの手に残る。
技量の差が圧倒的だった。
「っ!」
ニアスはコンバットナイフを切り落とした斬撃から流れるように身を引き、突きの構えをとる。
ティアを葬ろうとした、必殺の突きだ。
チーム内でも圧倒的な身体能力を誇り、そして加速してティアだからこそ致命傷を避けられた一撃。
とてもではないが、シルーセルにどうこうできる代物では無かった。
刃が虚空を凪ぐ。
シルーセルの回避が間に合った訳でも、ニアスが標準を誤った訳でもない。
容赦のない蹴りがシルーセルの足を刈り、その顔面に手が添えられ、地面に叩きつけられていた。
シルーセルは受身も取れず、呼吸も儘ならない程に背中を打ちつけた。
ギリギリの線で、後頭部だけを両手で覆い庇う事で、頭部のダメージは避けれたが、意識が瞬間的に跳び、次の行動へのタイムラグが生じる。
そんな刹那的な最中に、シルーセルの躰がヒンヤリとする液体に包まれると、遥か後方に流れていく。
(なっ、何だ!?)
状況が攫めない。
急いで事象戦略盤で空間に接続して、情報を集める。
「惜しいわね。
もう少しだけ逸脱した考えが持てたら、この男と相対出来たのにね」
いつも耳にする不敵な声。
そして事象戦略盤に投影される不敵な貌。
ニアスの突きから逃れる事が出来たのは、凛が足を刈り、顔面を掴み素早く地面に斃すことでのことだった。
そしてカイルが水を操り、シルーセルの躰を包み移動させたのだ。
よく確認すると、ティアとビィーナの退避もされていた。
「さて、時間稼ぎしてあげるから先に戻りなさい」
「止めろっ、そいつは!」
制止の言葉を紡ごうとして、カイルがそれを目の前に手を差し出すことで止める。
制止させられたのはシルーセルの方だった。
「凛にしか無理ですよ。
逆を言えば、凛なら可能なんです。
行きなさい」
静かにそう告げるカイル。
その言葉に反論を挟めない、威圧感があった。
カイルの言葉が事実であるように、あの化け物が攻撃の手を止めていた。
あれだけ無造作に攻撃を仕掛けていた筈のニアスが微動にしない。
凛を責めれないでいた。
互いに向かい合い、身動ぎ一つ取らない。
間に緊迫感だけが高まっていく。
「私は凛のサポートに廻らないといけません。
シルーセル、責任持って2人を学園に」
「あっ、あぁ」
事情が把握できないが、気持ちを切り替え、自分がなさねばなら無いことを理解する。
シルーセルはティアに駆け寄り、未だ終えていない応急処置を代わり行い、そしてビィーナを引き受けると、この場を離れる。
その後ろを足取りの怪しいティアが付いていく。
痺れを切らしたのはニアスの方だった。
鋭い斬撃が凛の首を切り落とそうと迫る。
凛はそれを見切り、僅か1ミリの区間を空けてその斬撃を躱す。
そして手にした薙刀で、ニアスが踏み込んで来た地面を凪ぐ。
ニアスに踏み足が乗っているアスファルトを地上から切り離し、素早くその足場を引き上げる。
それによりニアスは体制を崩した。
その引き上がった足に薙刀を引っ掛けると、旋回させる。
ニアスの躰が宙に舞い、そして派手な回転しながら地面に叩きつけられる。
(…予想よりは遅めかしら。
でも、これでも決定打に繋がらないのは痛いわね)
凛は石版を割って地面にめり込んでいるニアスに眼もくれず、カイルの所まで後退する。
「計れた」
「人間に意志伝達速度と同等ですね。
侵食速度は?」
「同じよ。
途中で、無効化されたわ。
私達では斃すのは無理ね、これは」
(ビィーナを見た時に直感はしてたけど、実在してるのを確認すると違うわね。
これが完成形なのね、第6位の)
「時間稼ぎが関の山ですか。
有言実行といきます」
「宜しく、カイル」
カイルは掌のカプセルを天空に放り投げる。
そして上肢をそれに突きつけると、脳裡に仮想世界を組み上げていく。
「さて、支配階級と対峙するのは初めてですが、倒せないまでもこの場に釘付けにしておきましょうかね」
スッと右腕が降りる。
指揮者が演奏開始の合図をするように。
合図は届き、カプセルが粉々に砕け散る。
カプセル内に圧縮されていた水が爆発と共に溢れて、空を覆い隠す。
爆発で広範囲に拡がった水は時が停止したように空中で静止し、そこから意思を通わせる一生命体のように収縮して、巨大な珠状に変形していく。
地面に叩きつけられたニアスが、ムクッと起き上がる。
下に敷き詰められた石版が砕ける程、強かに叩きつけられたのにも関わらず、ダメージが感じられない。
そこに水の珠から、一筋に線が奔り、ニアスを襲う。
水の筋はニアスに触れられず、霧となる。
だが、ニアスに命中しなかった筋が地面に接触すると、音も立てずに縦に線が入る。
深く、鋭利な刃物で斬ったような後が生まれる。
圧縮水刃。指向性を誇る門を遣い、超圧縮された水の刃。
その圧縮により吐き出された刃の速度は高速となり、そして強靭な刃と化して相手を切り裂く。
その威力は斬れぬもの無しと自負していたのだが、それを真っ向から受けても、ニアスに傷1つつけられなかった。
(成程、これが第6位。
凛から聞かされてはいましたが、現実に実現出来る者がいるとは。
シルーセルの音速弾を尽く無効化、いえ、拒絶した。
そして私の圧縮水刃すら。
門のように歪みが生じるでも無し、そもそも空間が支配されて、干渉を受け付けない独立したものにされている。
これが示現降臨)
戦慄を覚えつつ、冷静にカイルは対処方を講じていく。
(侵食速度が人に信号レベルなら、欠点は人であることでしょうか)
凛とニアスの対戦で情報管理送還装置を使い得た情報で計算していく。
血塗られた鉾の者が皆付けている証、槍に蛇が絡み付いたフォルムのペンダントは、門を使用する為に必要なツールだった。
このペンダントは情報管理送還装置と呼ばれる、情報管理送還システム。
空気中にペンダントが発する光、電気、振動などを使い、指定した空間情報をペンダントに取り込み電気信号を身体に送り、脳に情報を齎す、情報収集ツール。
本来は門を開くにあたり、的確な情報を元に平行空間との通路を開く為に使用する。
情報の誤差はそのまま脳にフィードバックしまう。
このツールを使わずに門を使用することは、自殺行為に近い。
それが出来るのは、異種能力である事象戦略盤を持つ、シルーセルぐらいなものだろう。
凛とニアスの対戦で得た情報は2点。
情報管理送還装置をニアスの周りに展開させた結果、情報管理送還装置がニアスの周りのスキャニングが拒否されてしまった。
拒否された範囲はニアスに肉体から僅か2センチ程度。
常に張り巡らされた無敵の壁は、それだけに範囲にしか及んでいなかった。
そして、もう1つは侵食。
シルーセルが地面を砕く事で進行速度の低下を図った。
シルーセルの思惑通り、これは意味を成した。
人は質量である以上、引力を有し、そして引力に引かれる。
巨大な質量である星の重力に引かれるのだ。
そう、人という形体をとっている以上、空は飛べない。
道具を使う道を選んだ人間が、進化の過程で得ることの出来なかった、翼がない限り。
シルーセルの選択は正しかった。
だが、その効力は初めの内だけだった。
これが意図するのが、侵食だった。
周りに張り巡らされた拒絶のバリアと他に、自在に操れる拒絶があったのだ。
侵食された地は、砕けることを止め、あらゆる物理的干渉を拒絶した。
その為に、シルーセルの音速の弾丸は、その役目を果たすことが不能となっていた。
カイルが操る門は属性水の指向。
シルーセルが空気に指向を与えるのに対し、カイルは液体に指向を与える。
カイルが生み出した水球体は、幾つもの螺旋を描き、帯がニアスを取り囲んでいく。
勿論物理的干渉を受けないニアスに、こんな虚仮脅しが通用するとは考えていない。
(ならば、干渉されていない部分で束縛すればいい)
帯から幾つもの線が迸る。
圧縮水刃だ。
帯により視界が狭められたニアスには、カイルの意図を把握することは出来なかった。
圧縮水刃が切り裂いたのは、シルーセルがやったことと同じで、地面だった。
だが、その規模が桁外れだった。
(侵食できる範囲は、精々2メートル程度。
そして人の反応レベルの速度。
なら、それ以上で相対すれば問題はない)
元々眼が見えていないニアスに視界問題は関係ない。
だが、周囲を取り巻く異様な水の気配に戸惑いを隠せないでいた。
そして異変は足元から起こる。
浮遊感。
確りと地に足を着いているのだが、胸の辺りと腹の辺りに生じる衝動。
これは躰が持ち上がった時とかに生じる、器官が揺さ振られた感触だった。
(地面が浮いているのか!?)
大規模に削られ、地上から切り離された大地。
それを水の帯が下から持ち上げて、宙へと運んでいた。
その上にニアスを乗せたまま。
誰がこんな大それた考えに至るだろう。
まさに逸脱した思考だった。
それ故にニアスには読めない行動だった。
浮遊した大地が急速で、学園から遠ざかっていく。
ニアスは咄嗟に反応し、この大地から飛び降りようと奔る。
だが、その方向に大地が傾き、想うように降りられないでいた。
干渉しようとしないところを見るに、予想通りこれだけの大質量全域をカバーできる程の侵食は不可能なようだ。
(一筋縄でいけるほど、甘くはなさそうですが)
次にニアスが取ったのは、己が刀をその大地に叩きつけるだった。
刀も侵食されて、拒絶の理力で覆われている為、軽々と大地にめり込んでいく。
そして最大限までに押し込まれた刀から迸る侵食。
それが大地を侵し、そして大地の下で操作していた指向の水まで達してしまった。
水は浸食されると、秘めていた指向ごと虚空に分散されてしまう。
支えていたものが無くなり、大地が地上へと落下していく。
その間、ニアスは大地から飛び降りていく。
(狂い咲く、幾億の粒子の華よ。
線と面に隔離し、闘なるうねりにて、華を開花させん。
エクス)
詩の載せてカイルは仮想世界を構築していく。
ニアスが落下する最中、高速移動する水が大地とニアスを水の囲いが覆う。
水の檻から幾つもの線が吐き出され、大地を切り刻んでいく。
瞬間で檻の中を埃で覆い尽くす。
(プロード)
そして振動が檻の中で摩擦を起こし、爆発を起こす。
密閉空間を満たした粒子の群が、着火に反応して粉塵爆発を起こしたのだ。
檻は破裂し、膨大な水が地上に降り注ぐ。
(人である以上、呼吸により生命活動を促している筈。
ならば、空気の失せた空間で生きていられますか?)
カイルが導き出した殲滅方法はこれだった。
爆発により周囲に酸素を消費させ、人の活動源を根こそぎ剥奪する。
だが、爆発の煙が晴れて来るにつれ、カイルは虚無感に襲われる。
「…これでもですか。
甘く見たつもりも、手加減したつもりもないのですが」
ニアスが爆心地から無傷で、佇んでいた。
だが、その後にふらつき方膝を付く。
これにはカイル自身が驚いた。
その疑問に答えるように凛が言葉を紡ぐ。
「音ね。
あの爆音が聴覚を壊したんだわ」
遠目で観察すると、鼓膜が破壊されたのか、ニアスの耳の辺りから紅い液体が零れていた。
(…棚ぼたですか。
酸素部門は効力を発揮しなったみたいですが、想いもよらない結果を招き入れましたね)
そして確信した。
敵は化け物ではなく、こちらと同じ構造をしている人間なのだと。
「連続で攻撃を仕掛けたい所ですが、…今のはちょっと反動がありましたね」
空間を広範囲で歪め、門を行使した為、その反動が脳内に激痛を走らせる。
凛も、カイルがこれ程の門の使い手に成長しているとは計れなかった。
もしかしたら、学園最強の部隊執行者と比較しても遜色ないのではと思えるほどに。
「ご苦労様、後は私がやり過ごすわ」
急成長を遂げた相棒に微笑を浮かべつつ、凛は破壊の爪痕が蹂躙した商店沿いに仁王立ちする。
「…そんな必要は無さそうね。
私達も撤退するわよ、時間稼ぎの壁が到着したわ」
凛はスッと気配を消し、物陰に隠れる。
それに従いカイルも隠れると、学園の方角から増援部隊が現われる。
(さしずめ、肉の壁ってところね。
少しでも時間を稼いで頂戴)
凛は容赦のない評価をすると、脇からその場を離れていくのだった。
到着した者達は、街に有様に眉を顰めながら、この破壊を齎したであろう敵に警告をしていた。
その言葉が耳にしながら、凛は苦笑してしまう。
(戦場での警告なんてものは、圧倒的に有利な者が行う行為よ。
それを判断できないなんて)
戦いの顛末が想定できる。
門の圧倒制だけに眼を奪われた輩では、ニアスの敵ではないと凛は判断した。
(これはたいした時間が設けられないわね)
「カイル、血塗られた鉾に亀裂がはいるわよ。
運悪く執行者が出払っているのは、天の采配かもしれないわよ、|拒絶する刃《ソード オブ リジェクト》」
「やはりあれが、トイアムトの凶刃。
ビィーナの兄にあたる男ですか」
「噂に偽り無しね。
なら、相対できるのは、今この血塗られた鉾に1つだけ。
同じ領域を踏み込みし者だけ」
「存在しない敵。
ですが、ビィーナは」
「動かない、いえ、動けないでしょうね。
あの様では。
扇動はかけてみるけど、無駄でしょうね。
それならそれで、血塗られた鉾は意外な伏兵により折れるかもしれないわ。
まぁ、そこまで行かなくとも、大打撃を蒙るわね」
「………」
激動する中、凛だけが不敵な笑みを湛え、学園への道のりを疾走していた。
あ~、いつの間にか異能力バトル化していますね。
でも、初めからですよ、この設定。
大丈夫、破綻してないから!




