【拒絶する者、されし者】 市街訓練
此処はアスガルドと名付けられた島。
血塗られた鉾が所有する土地で、この島の8割に学園が建設されていた。
残り2割は港街として、活気に溢れた場所だった。
その理由は、この島が丁度大陸と大陸を結ぶ地点にあり、貿易の流通場として適していた為だ。
お蔭でこの港街は大概の物が揃っており、それを目当てに商人や観光客が絶えない観光地にも成っていた。
衣料店や娯楽施設、そして宿泊施設にも事欠かない。
年に1度行われる血塗られた鉾の闘技大会には観客でこの港は満員になる。
そんな港街にチームBX―04は降り立っていた。
「ティア、お前幾ら換金してきた?」
「俺は最下位を独走していた男だぞ。
そんな余裕あるか。
そう言うお前はどうなんだ?」
「プレハブの隅に築き上げられた燃えないゴミの山。
あれが、俺のポイントを根こそぎ奪っていった。
換金できるほど裕福な状態じゃないぞ」
「それはお前の使い方が悪いからだろうが」
「人の事言えるか。
お前こそ支給品で間に合わないほど、破壊してるじゃないか。
コンバットナイフ、今月で何本目だ」
「…慣れるにはそれなりの犠牲がつきものだ」
「俺は探求だ。
新たな門の遣い方を思考して、試す。
結果、暴発しておしゃか。
その積み重ねが、ゴミの山。
まさに夢の残骸だな」
「どちらにしろ、俺たちには無縁な気がするな、この場所は」
「…そうだな」
「ヒクツだね、2人共」
ビィーナが街の隅で項垂れている2人組みの声を掛ける。
「ねぇ、あそこのクレープ、おいしいよ」
「そうでござんすか。
ようござんしたね」
「ねぇ、みんなで食べようよ」
「それは俺らに対しての挑戦状か?」
語尾が跳ね上がる。
シルーセルはこれでも自制している。
休火山だ、俺はと言い聞かせながら。
「挑戦状、何で?」
「無粋な質問しちゃ駄目よ、ビィーナ。
このひもじくも、命を繋いでいる哀れな存在を、畜生以下に貶めるつもりなの?
可哀想じゃない」
「お前の言い方の方が、ド頭にくるわっ!」
所詮火山は噴火するのだ。
それを思い知らされ、シルーセルは凛が持っているアイスを奪いに手を伸ばす。
「卑しいわね。
そんなに欲しいの?」
「んな訳あるか!
必要以上のものを買ってきて、俺らに見せびらかすな!」
「ふ~、懐が寂しいと、心まで寂しくなるのね。
比例算のよう」
「うがぁぁぁ!!!」
「落ち着け、シル!
どうしてお前は、こんな挑発には乗るんだぁ!」
ティアに後ろから羽交い絞めにされ、シルーセルはバタバタと呪いの言葉を吐く。
その台詞を聞き流し、凛はペパーミントのアイスをパクつく。
その横でビィーナがチョコクレープをほうばる。
無表情だが、どこか嬉しそうな雰囲気が漂っている。
女達は久々の甘い物を満喫しながら、人の溢れる街並みに視線を走らせる。
「ビィーナ、あそこにデザインのいいジャケットがあるわよ」
「ホンとだ。
でも、あれだと躰が束縛されそうだな。
もっとユッタリした方が、戦闘向きだよ」
「でも、ユッタリしたものはダブついた部分が計算を少し狂わすのよね。
私は少しくらいピッチリした方が好みね」
「なら、あれは?」
「う~ん、彩がどうも。
これじゃ夜間行動に向かないわね。
目立ち過ぎだわ」
「なら、蒼は?
これなら闇夜に紛れれるよ。
どうかな?」
「悪くないわね。
この渋めの蒼は好きだわ。
1着貰おうかしら」
男どもを置き去りにして買い物に勤しみだす。
端から見れば、女2人が楽しく買い物しているように見えるのだが、会話の内容を聞いているとおかしな単語が飛び交っている。
機能や色合い、仕舞いには強度なんてものまで語り出す2人。
「恐い会話だな」
「だな。
買い物が悲惨な行事に想えるわ」
「俺らには本当に関係ないな、金ないし」
「だな。
…ホンとで貧しいな、俺ら」
嘆息を同時に付くティアとシルーセル。
成績を表すポイント。
使い道は物品交換ともう1つ、こうして街に降りてきた時の為に換金し、使用することができた。
換金レートは1ポイントに、100ラグ。
因みに10000ラグもあれば、どの車種の車を買ってもお釣りがくるぐらいの価値がある。
2ヶ月前まで最下位を独走していたティアとシルーセルには換金している余分なポイントは無く、泣く泣く街に降りてきていた。
「こう見ていると、2人とも普通の女性のようですね」
「それ、無理してないか、カイル?」
「…さて、長引きそうですから、そこでお茶でもしながら待ちましょう。
奢りますよ」
誤魔化すカイル。
「ホンとかぁ!」
「カイル、お前ってヤツは」
喜びまくる2人。
こんなことで誤魔化せるとは思っていなかったのだが、よほど飢えていたのだろう。
一般的な雰囲気に。
「…貴方達も見えませんね、普通には」
カイルは聞こえないように零す。
それから2時間後、女性陣が大荷物を持って喫茶店に現われるまで、カイルはこの獰猛な猛獣達に食い散らかされ、財布の中身を失っていた。
因みにカイルの換金してきたのは10ポイント。
それを無くすまでたかった2人は満足げだった。
カイルは初めて、この2人に殺意を覚えたのは言うまでも無い。
※
荷物だけを血塗られた鉾に送り、本来の目的を実行すべく凛が宣言する。
「さて、市街戦を開始するわよ」
「折角街まで降りてきて、それかよ」
「馬鹿ね、折角だからよ。
1つでも経験を積んで、見解と観測の幅を広げる。
どんな任務に就くかわからない以上、それなりの場が必要なる。
なら、この市街というステージを見逃す手はないわ」
シルーセルの不満に、懇切丁寧に説明する凛。
久々のショッピングなどを満喫して、緩んでいる気持ちを戻す為に、説明をして自身に言い聞かせているのだろう。
「中々盛況ぶり、結構だわ。
これだけ人が居れば、戦略の基準も変わるわね。
気配が多く点在するこの場だからこそ、面白い訓練になるわ。
能力をフルに発揮して、的を討つのよ」
今回の訓練の趣旨はこうだ。
この人が溢れかえる場所での銃撃戦。
それぞれチリジリとなり、そこから敵を見付け、ペイント弾を躰に付着させるというものだ。
この訓練は瞬時に地理を理解し、それを利用しての戦略を組むことができるかで勝敗に大きく繋がる。
そして索敵能力。
この人の溢れかえる場所で、敵となる4人だけを探すとなると大変な作業となる。
「だがな、それじゃ俺が有利過ぎるんだが」
「それとあたし」
シルーセルが誇る、最高の情報収集能力、事象戦略盤。
そして気配を完全に消し去るビィーナの存在しない敵。
この能力を駆使されれば、間違いなく他の3人は不利になる。
「関係ないわ。
それは独自の能力よ、使えばいいわ。
それだけで市街戦を勝ち抜けるなんて想わないことね」
凛の不敵な笑みが、皆に流される。
こういう台詞を吐く凛は大概にして、逸脱した方法を持ってして他を出し抜く。
それを知っている4人の緊張が走る。
「今が13時5分。
開始は14時から。
それまで確りと情報を確保して、戦術を練ることね。
それじゃ、解散」
それぞれが違う方向に歩み出す。
ティアを残して。
「ビィーナ、ちょっと待てよ」
ティアはビィーナに呼びかける。
それを聞こえないフリをして、行こうとするビィーナ。
嘆息を付きながら、ティアはその進行方向に素早く廻る。
「あのなぁ、最近避けやがって。
俺が何かしたのか?」
「別に」
ビィーナは視線を逸らしながら、淡々と答える。
本人は自覚が無いが、最近こういう子供染みた行動をビィーナはとる。
嘘だと露呈しながら。
此処数日避けるように行動するビィーナ。
皆といる時はそれ程ではないのだが、ティアとはワザと距離をあけていた。
最初は心の整理がまだ付かなくて、接し方がわからないのだろうと楽観視していたのだが、見え隠れする悲壮な感じが、別件であるとティアに気付かせた。
「別に避けるなとは言わないさ。
俺は結構無神経な処あるし、気に触った事をしたかもしれない。
でも違うだろ、お前の場合。
何があったんだ?」
「ティアには関係無い」
「…やっぱ、なんかあったんだな」
突き放すように放った言葉から、ティアはビィーナが問題を内包していることを確信する。
それは誰にも洩らせない個人的なことで、それが原因で鬱な枷になっているようだ。
「話すのは駄目か?
少しは楽になるかもしれないぞ」
「関係無いって言ってるでしょ!」
ビィーナは叫んでいた。
(どうしてこんなに揺さぶるの、ティアの声はっ!)
優しさが掛けられる度に、ビィーナは自分が抱えている結論が逃げに想えてならなくなる。
実際、逃げなのだが、それでもこれは仕方無いことだと目をつぶる。
ティアの優しさは、それらを否定してくる。
そしてその感情が口から漏れてしまいそうだった。
(あたしはどうしちゃったのっ!)
ティアは驚いていた。
こんな感情を露にしたビィーナを見たことがなかったからだ。
自分を表に出すことがわからず、偽りしか持ち合わせていなかったビィーナがぶちまけるような声でティアを拒絶した。
憤慨しているようだが、ティアには悲鳴に聞こえた。
ティアが瞳に湛えているモノを見取ってしまったビィーナは、胸から感情が生まれてくるのを覚えた。
恐怖から彷彿させられるモノではなく、奥底を覗かれ、曝け出さされ引き込まれるような、そんな怯えが。
ビィーナの足が勝手に人ごみへ走り出し、その場から逃げていた。
ティアは呆然とその後ろ姿を見送るしか出来ないでいた。
いや~、女の人の買い物って長いですよね。
それでも、こんな殺伐として会話の買い物よりマシと思っていただければ、女性の方の買い物も可愛いものと思ってくれるかも…、そんな訳ないですね。




