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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【拒絶する者、されし者】 拒絶する刃

鮮血が舞い、鉄の塊が宙を凪ぐ。

血潮が築きあげていく水溜りが新たに形成される。

力の差が歴然だった。

新参者である男は、この光景に目を疑った。


(ありえるはずがねぇ!)


網膜が映し出す光景を否定し、悪夢から眼を逸らすことしか出来ない。

恐怖だけに覆い尽くされた男は、この場から逃避するしか頭になかった。

悲鳴と共に逃げ出した。

だが、何も無い空間で躰が跳ね飛ばされ、惨劇の間に戻されてしまう。


「なっ、なんだよこれ!」


起き上がり、再びそこを通ろうとするが、躰は又弾かれてしまう。


「どうなってるんだよ、これはっ!」


発狂しそうな思考。

悪夢に覆われた空間から脱出できない。

男は何度も逃げ出そうと、あらゆる方向に走る。

その度に見えない行き止まりに中り、このフィールドに戻されてしまう。

この空間だけが世界から拒絶され、孤立させられているようだ。

見えない壁に手を沿え、確かにそこに何かがあるのを確認する。


「チクショウっ!」


そこに拳を叩きつけるが、結果は変わらない。

岩を殴ったような衝撃が奔り、衝撃に負けた皮膚が裂けただけだった。

それでも何度も叩きつけ、このイかれた空間から逃れようと、もがていた。

両の拳から白い物体が出てくるまで叩きつけ、それを見てしまった男は絶望した。

この場から誰1人生きて出られないのだと。

そこで男は自我が1つの選択を導き出し、そして途絶えた。

狂う寸前まで引き上げられた意識が、保つことを拒否したのだ。

…男が眼を覚ますと、闇から解放され、眩しい光が世界に満ちていた。

惨劇の夜をやり過ごしていたのだ。

だが、辺りの光景を眼にした時、男は現実に起こったのだと知った。

勝手に声が高らかに上がる。

狂気を孕んだ笑いが、その惨劇の間に響き渡った。


「アハハハハハッハハハッハハハハハッハハッハッハッハ!!!!!!」


数人の生存者が哀れに、そして羨ましそうにその男を見ていた。

狂えたら、どれ程楽だろうと。

秋の寒空の下、1つの傭兵団がこの世から消えた。

生き残った団員は誰もが新参者で、古参の者は殆どが肉隗と化していた。

団員達が目撃したのは、この惨劇の主が1人の男だったことのみ。

それしかわからない。

漠然と訪れた、この状況を受け入れるしか術がなかった。




突然の呼び出し。

この血塗られた鉾(ミストルティン)で、名指しで呼び出しの放送をされるのを聞いたのは初めてかもしれない。

しかも、呼び出されたのはあたしだった。

放送の内容では、緊急の電話が入っているとか。

外部にいるあたしの知人と言えば、トイアムト傭兵団所属の人間だけだろう。

記憶にある人間は少ない。

相当の古株でなければ、私は気にも留めないので数は限られている。

それこそ両手で数えれる程度しか認識していない。

これがあたしの世界なのだ。

一応学園なんだと想わせる職員室。

その脇にある部屋。

仰々しく通信室を書かれた札が立てられていた。

そこへ入ると、結構広い空間に個室が何個か点在していた。

個人的に外部に通話(電話)をすることは許されているが、その記録が残るのであまり活用されていないのが、この学生専用の通信室だった。

この部屋を管理しているだろう()が、個室を指差す。

一応内容が外に漏れないように考慮されているのだろうが、あたしみたいな有名人の通話記録は逃れることはないだろう。

結局、これから話す内容は、上に報告されるのだ。

プライベートもあったものではない。

有名税だと割り切り個室に入ると、受話器を手にする。


「もしもし、お待たせ」


どうも上手く演技できない。

ティアにツクロうなと指摘されてから、仮面に亀裂が入ってしまったらしい。

声音が虚ろで、これまで演じてきた朗らかな声音が出せない。

その結果、存在の希薄。

それでも何とか人に認識される程度の存在感は維持できていた。

正確にはチームの皆にはだ。

ミガきぬかれた五感があたしの薄れた存在を認識してくれているのだ。

飾らなくても、このチームはあたしを証明してくれた。

これは意外だった。

その安心感から、あたしは演技が出来ないようになってしまっていた。

だから今吐いている言葉は、普通の人には消えてしまいそうな、薄い声に聞こえるだろう。


「ビィ、ビィーナ様でしょうか?」


聞き覚えのない音。

あたしのメモリーにこれに該当する音は記録されていなかった。


「そうだよ」


肯定する。

どこまでの希薄な声。

意識しなければ、この声すら世界から拒絶されてしまう。


「私はトイアムト傭兵団、ソノトと申します。

いえ、正確には、だったです」


ソノトと名乗る()が、奇妙な言い回しで紹介してくる。


「で、何か」


必要以上の話をするつもりは無い。

微かでもツクロわなければならない会話を、好き好んで続けたいとは想わないだろう。

だから、用件を聞いたら直ぐに切る予定だった。


「昨日持って、トイアムト傭兵団は壊滅しました」


壊滅。

そのイントネーションを頭でソシャクし、ギンミしてみる。

なんだ、その程度か。

これがあたしの結論だった。

壊滅というからには、親であり、団長であるグラムア トイアムトはこの世にはいまい。

主力となる者たちの現存も危ぶまれるだろう。

だが、それだけだ。

あたしには関係のない事柄だ。


「団長及び、先輩の方々は死亡。

生き残ったのは私を含め、6人程度です」

「そうなんだ。

それだけなら、切るけど」


受話器の向こうで戸惑いに満ちた音がする。


「お待ち下さい!

それだけとはどういう意味ですか?」

「そのまんまだよ。

それ以外に聞こえる?」


納得していないのだろうか、男が食い下がろうとするが、ツマらないので切ろうかと想った矢先に、男は苦悩を押し殺し、与えられていた用件を再生(・・)する。


「ノルト サーグ様からの遺言を伝えます」


その名称には覚えがあった。

トイアムト傭兵団創立からの、古参の()

老兵ながら、そこそこの実力者で、歳を感じさせない豪快な戦闘が売りの大男だった。


「ニアスが生きていたと。

そう伝えろと言い残し、息を引き取られました」


…後半部分は全く、頭に入らなかった。

あたしの脳は、前半部分に告げられた事で一杯だった。


「なんて言ったの」

「ニアスが生きていた、ですか?」


そんな筈はない。

あの落石の下敷きになって、生き残れる筈がないのだ。

それに現場で発見された、潰れた左腕。

そしてぶちまけられた大量の紅い血。

それらを目の当たりにした物達は口々にこう発音した。

生きてはいまいと。

そして長年戦場を駆けたあたしも同じ結論を描いた。

それなのに。


「…兄さんが生きている」


嬉しいはずに事実。

だが、フに落ちない。

この事実がトイアムト壊滅と共に伝えられたことだ。

それが意味するものは。


「兄さんが滅ぼしたの、トイアムトを」


その事実だけが、あたしには響いた。


「………」


受話器から何か雑音が木霊するが、あたしの鼓膜を震わせても、頭に入ってこない。

隔離された思考が、1つの結論を導き出すまで。

そうか、兄さんは戻ってきたんだ。

あたしたちにフクシュウするために。

それならツジツマが合う。

兄さんがあたしを殺しにくる。


ユエツに、カオが歪んでいく。

血塗られた鉾(ミストルティン)というオリも、何の障害にもならない。

もし、その者がニアス トイアムトなら。

あたしを認め、唯一感情を抱く者。

愛しさ、そして恐れ。

何もかもを孕ませる者が、あたしに逢いに来る。

絶対なるガイネンを突きつけに。

あたしは音を発する物を切り、その場から離れた。

しばらく、どこをどう歩いたのか記憶にない。

有るのは、もう直ぐ兄が会いにくるという、その事実のみ。

そこに声が掛けられた。


「ビィーナ?

どうした、泣きそうな貌をして?」


泣きそう?

何を言っているのだろう?

あたしは可笑しなことが聞こえる方を向くと、ティアが心配そうな表情でコチラを見ていた。

感情がそのまま顔に出るシンプルな造りの彼には、あたしが泣いているように見えるらしい。


「べつに」


その言葉と共に、零れて落ちていくものがあった。


「おっ、おい!

本当にどうしたんだ!?」


どうしてティアが焦っているのか、あたしにはわからない。

識ったのは、手の甲を濡らす滴が滴ってきていることでだった。

…泣いていたのだと。


「あたしは」


受け入れるべきなのだ。

兄の抱いているであろう想いを受け止め、その結果を迎えるべきなのだ。

それがあたしに課せられた断罪方法。

それは確定で揺るぎの無いはずなのに、ティアの声を聞いた途端にあたしに中で崩れるモノがあった。

どうしてだろう?

揺るぎの無いはずが波紋をたて、サザナミに化け、津波になってあたしをさらっていく。


「あたしは」


言葉が続かない。

この言葉を吐けば、後戻りが出来ない。

だから、吐く訳にはいかない。

ギリギリの線で踏み止まったあたしは、タハハと笑い、ゴマカす算段をしようとした。

だが、それはムダなことだ。

ティアにはあたしの芸が通じない。

不思議とあたしの本質ばかりを見抜く。

だから、ゴマカし方を変える。

事実を踏まえ、それから部品だけを引き抜いた、そんなゴマカし方を。


「ちょっと感傷にね。

演じてばかりだったから、本当の自分をどう出せばいいのか、わからなくなるの。

あんまり見せたくないから、少し1人になるよ」

「…あぁ」


ダメだった。

その声音からでも汲み取れる、ティアの感情にあたしは逃げ出していた。

ゴマカし切れない。

無感情、無機質で演技していた時には、ここまで自分が綻んだ存在だとは想わなかった。

しばらくはティアと距離を置いた方がいいだろう。

そうでなければ、彼はきっとあたしの気持ちに気が付く。

あたしを暴き、さらけ出させる。

そうすれば、巻き込んでしまう。

あたし1人の問題に、()を巻き込んでしまう。

それはならない。

だから、もう1度演じねば成らない。

それが演技だとバレない、演技を。

責めて、兄があたしの元に辿り着くまで。




それは痣名(あざな)だった。

それを肯定したのは主だった。

物心付いた頃、少年は現実に疑問を抱いた。

少年の周囲は火薬と血の匂いが充満し、死と隣り合わせだった。

疑問を抱いていてはそれが隙となり、簡単にそこら辺に転がっている肉塊と同列に並べられる。

正直それでもいいと少年は想った。

元来、争いごとが好きではない少年は、他人の命を奪ってまで生きている自分が浅ましく、卑下な人間だと思えてならなかった。

少年のそんな想いを踏み止まらせるものがあった。

丁度、物心付いた頃だ。

いつも廻りをチョコチョコと付いて、少年の袖を引っ張る小さな存在。

それはこの殺伐とした空間には余りに不似合いの、か弱く、脆い存在。

少年はそれを認識した瞬間、守るべき者を手にした。

だが、それは同時に守るべき力を欲することになる。

奪わなければ生き残れない。

そして守る為には、又奪わなければ成らない。

それが少年の居る場所だった。

そんな現実に少年は拒絶反応を起こしだす。

それは次第に心にも影響を及ぼし、守るべき存在以外を拒絶するようになっていった。

そして悲劇は起こった。

…そう、少年の拒絶する姿を見ていた者たちの危惧が爆発し、少年を罠へと貶めたのだ。

その事実を知った時、少年は自分が誤った道を歩んでいたことも知る。

だから、罠に嵌めた同僚には怨みの念は抱かなかった。

|拒絶する刃《ソード オブ リジェクト》。

これは痣名。

少年の痣。

供物は本人。

世界の全てを否定しようとし、もがき苦しむ者。

その結果、少年は自分すら否定していたのだ。

過ちだとそれらを否定しようとした少年に異変が起こる。

それがこの惨劇の勃発へと繋がる。

少年は(まなこ)を潰し、世界から眼を逸らした。

それでも世界はその姿を少年に投影し続けた。

矢張り、肯定するしかなかった。

この世界は病んでいると。

拒絶しなければ、とても生きていけないそんな…世界。

狂いそうな自我を繋ぎ止められるのは、守るべき存在がこの世界に取り残されているからだ。

この事実は誰も知らない。

大それた事は望まない。

唯、自分と縁を持ちし者だけでも、最低限の尊厳を守ってやりたい。

唯、それだけだった。

中二病レベル5継続中…。

だけど、内容は意外とまじめに作っていますよ(きっと)。

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