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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
2章 突破する者達
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【渾身と当惑】 3度目のミッション

中性子というに火を灯すと、世界は灼熱に包まれる。

その威力は野を焼き、街を燃やし、国を灰燼に帰させる。

残り()は、大地を侵し、空気を汚染し、水を犯す。

悪魔に炎、そして息吹。

畏怖だけをこの世に知らしめた厄なるもの、核。


(冗談じゃないぞ、これは)


大型トラックに無造作に積まれたブツに、シルーセルは慄いた。

硬い甲羅に覆われた死の因子が揺れる度に生きた心地がしない。

灼熱の太陽に焼かれた大地を、トラックが疾駆していく。

草木などは開けた視界の殆ど無く、干乾びた大地だけが蔓延していた。


『核の運搬が今回の任務よ。

噂通りとんでもないものまで保有してるわね、血塗られた鉾(ミストルティン)は。

依頼主はこれを買い取り、その運搬を私達に依頼してきたわ。

沃地の少ない土地にありがちな紛争。

その抑止力として、この悪魔の兵器の登場となったらしいわ。

誰もが知り、誰もが恐れる遺恨の塊。

あの辺りで唯一沃地である大国からの依頼。

どこまで本気か分かったものじゃないけど。

人間なんてあるものは使ってみたいと緩む生き物だし、正直気の乗らない任務ね。

問題点は、核を扱うとして失敗を許されないわ。

万全を期す為に、この任務は2チームで当たることになってる』


シルーセルは脳内に凛の説明がリフレインさせながら、トラックを運転している者に視線を向ける。

卑下な笑いを湛えた男が、シルーセルに視線を返してくる。

不快な笑みだ。


「どうした坊や、ビビッテルのか?」


…これで挑発らしいが、シルーセルは冷めるだけで微塵も効果も現れなかった。

答える義理もないが、シルーセルは少し試して見たいことがあり、その挑発に乗るフリをしてみる。


「別に」


悚然した声音を微かに乗せ、強がっている雰囲気を工作してみる。

それを感じ取った男は、その忌避し見下した表情を表面に現した。


(力に魅了され、精神が嵩じたタイプだな。

こっちを下に見せると簡単に尊大な態度で手の内を晒すタイプだ。

俺は元からオチコボレのレッテルを貼られてるから、伏線を張る必要すらない。

…凛やカイルと駆け引きをしていると、歯ごたえのない気分だな)


「所詮テメェ等のチームは、あの暗殺者1人で成り立ってるようなものだしな。

オチコボレにはキツイよな」


シルーセルは暗殺者と聞いて内心カチンときた。

ビィーナを指しているだろう単語。

昔なら聞き流していた項目だが、その事に対してもがいている姿を一度見ているシルーセルには、口にしたこの男が無性に気に食わなかった。


(たくっ、暑くなる部分が違うだろうが。

普通ならオチコボレに反応すべきだろうが)


内部で直ぐ完結し、憮然とした顔を造る。

相手の思惑に乗ったように。


「こんな小胆なヤツが未だ残ってたなんて、坊や幸運もたいしたものだ。

そうか、それで特等席なワケだ。

テメェみてぇな小心者が、このトラックに乗るのは変だと想ってたんだ」


(変ね。

それは俺も同感だ)


この中核、護衛対象を運んでいるトラックに乗るのは、チームリーダーとなる。

咄嗟に判断を下し的確な指示を出す者が、此処から通信機で命令を下すのだ。


「無駄口を叩くな。

これは一様試験なのだぞ」


大型トラックの後部座席より、試験管が叱責を飛ばす。

こちらは隣の男と違い機械的で、無駄なことを一切しないタイプだ。


(両極端なのに挟まれたな)


「そんな事言わずにしゃべりましょうや。

心にゆとりとうるおいをってね」


(何がゆとりと潤いだか。

燻る対象がいるから、もう少し堪能したいだけだろうが)


「勝手にしろ、減点はつけておくからな」


機械的な声がそう宣言し、沈黙する。

これで公認された。


「でっ、どうなのよ、オチコボレ君」

「どうって?」


シルーセルは厭そうに振る舞い、小動物が怯えているような仕草で飾ってみる。

これに触発され、男は尊大な態度で話しかけてくる。


「お前のトコだけだぜ、欠員が出てないのは。

俺んトコでも、この前闇討ちにあったバカがいて欠けてんだ。

それなのに、殺人者を内包している筈のお前のトコは無欠員ときてる。

何かあるんだろ?

殺人者でもやっぱ女か、どんなテクで落としたんだ?」


下世話で、枯淡の欠片もない。

ネチネチと浅い思考でしか物事を見ていない。

はっきりいって不愉快でしかない。


(欠員ね。

確か現在が15だろ。

あの男を削除して、元が25として、俺らが5、残りが10とすると、5、5か。

1人欠けてこのチームが4。

欠員が全てのチームで出てるということは、チーム結成時に襲撃したチーム以外に1チームは解散して分散されてるな。

何処も苦戦してるようだな、統制と警戒に。

ここら辺は凛辺りに訊けば、詳細情報まで仕入れてそうだな。

…てっ、完全に凛の思惑に嵌まってるっ!)


シルーセルの思考回路が完全に司令官チックに染まっていた。

支配者()に踊らされている自分に気付き、シルーセルは愕然とする。

環境と性格、そして能力により遣らざる得ない状態に追い込まれていた。


「どうした坊や?

青い顔してよ」

従順に動かされる(・・・・・・・・)こと(・・)がな」

「はぁ?」


(ちっ、あのアマっ、いつか見返しちゃるっ!)


意味不明な事を口走るシルーセルに、下世話な男が疑問符を投げてくる。


(あんまりこの男から有効な情報は得られないだろうな。

なら、不快な会話を切るか。

んっ!)


先ほどまでの演技の怯えが消え、シルーセルは酷烈な顔つきに変貌する。

開けた視界が狭まり、崖と崖に囲まれた道。

此処を通らねば、依頼された場所に辿り着けない。

絶好の襲撃ポイント手前だった。


『尚、この任務、高い確率で襲撃されるわ。

見す見す核を持ち込まれ、泣き寝入りする者達が紛争地に居るとは想えない。

彼らは生きる為に、死に物狂いの特攻を掛けてくるでしょうね。

成功すれば悪魔を手にし、立場が逆転する。

最後の賭けよ』


凛が断言していた。


(その通りだよ、凛。

団体さんだ)


「止めろ、敵だ」

「はぁ、何言ってやがる?」


シルーセルの発言に、男は呆けたと言った感じで取り合わない。

それは当然だろう。

此処にいる誰も、敵の存在を感知できていない。

シルーセルの特殊能力が、2キロの広範囲の情報網に敵の存在を感知しただけなのだ。

肉眼を情報収集の最優先にしている者達に、シルーセルと同じように把握しろというのは無理な噺というものだ。


「さっさと止めろと言ってる」

「おいおい、イッまってるよ。

どうします、試験管さん?」


男は完全に馬鹿にした口調で、トラックを止める気配すら見せない。

試験管の方もいぶかしんだ顔をしている。

シルーセルは嘆息をつくと、男の足ごとブレーキを踏み抜く。

硬いブーツの底で、バキバキと砕ける音がするが全く気にしない。


「ぎいやぁぁぁぁぁぁ!!!」


奇声が車内を包み、そしてトラックは急停止を余儀なくされる。

シルーセルは腕で躰を固定し、急ブレーキの衝撃を堪える。

トラックの廻りを走らせていた護衛車も、対象物の急な停止に止まる。


「なぁに、がぁっ!」

「黙ってろ」


足を砕かれた男が痛みを堪えて、コンバットナイフを抜き放とうするが、その前にシルーセルは男の口内に銃口を差し込む。

殺気が車内を包み、少しでも抵抗する素振りを見せれば撃つと意思表示しておく。

これで男は身動ぎ一つ取れなくなる。

試験管は先程の衝撃と目の前の展開に戸惑い、逡巡していた。


(…この男も所詮機械か。

予定外な展開に隙作ってやがる)


冷静に分析しながらシルーセルは試験管に向き直り、敵意が無いことを示す。


「済みません。

強硬手段に及んだことを詫びます。

ですが、事実を嘲笑する莫迦の所為で、任務を失敗に終わらせたく無かっただけです」


シルーセルは頭を垂れた、謝罪しておく。

未だに展開に付いて来れない試験管を置き去りに、左人差し指側面に設置されている端末で通信機を操作して指示を飛ばす。

脳裡に展開された盤の中を、最高の手駒で制圧する方法を瞬時に計算する。


「ティア、北東の方角1.35の距離に16名。

主力武器はアサルトライフル。

身を隠す為に障害物の多い場所を選択している、それらを利用して掻き回して殲滅してやれ。

ビィーナ、南東の方角1.13の距離に17名。

武装は同じ。

敵が気付く前に殲滅を。

凛、道なりジャスト1に崖を利用した岩石トラップ。

撤去とその脇に潜んでいる20名の敵を。

カイルはもう直ぐ到着の別働隊の歓迎だ。

本来なら後ろからの追撃用の部隊だ。

数は14名だが、武装にランチャーを担いでやがる。

歓迎してやれ」


シルーセルは素早くそれらを告げる、一呼吸置いてから、


「散開っ」


と号令を飛ばす。

それに反応して、3人は散らばり、カイルはトラック手前で陣を構える。

指示を飛ばし終えると、シルーセルは蒼白な男の臭い口内から、銃口を引き抜く。

殺気も消し去り、何事も無かったようにシートに深く腰落とす。


「暫しお待ちを。

10分ぐらいで片付くでしょうから」


試験管にそう宣言すると、瞼を落とし、事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドの世界に浸る。

シルーセルは脳裡で展開される殲滅戦を観戦する。


(いや、アイツ等の能力からして、戦いとするのもおこがましいな。

これは一方的な狩りだな)


隣で憤慨している男が狭い車内でコンバットナイフを抜き去って、シルーセルに怒声を放ってくる。


「テメェッ、ふざけやがってっ!」

「そんな吼えてる暇があるなら、そっちも動いたらどうだ?

お前のチームは何事かとおたおたしてるぞ」


シルーセルの声に全く耳を貸さず、逆上した男がシルーセルの喉元を一突きにしてくる。

瞳を閉じていても、その男の遅い動きが手に取るように分かる。

ティアの卓越した敏捷性、ビィーナの神速の抜刀術を毎日のように目の当たりにしているシルーセルにとって、この男は亀みたいなトロさだった。


「小心者が」


ポツリと洩らし、コンバットナイフの先端を銃の底で軽くいなしてしまう。

逸れたナイフは深々とシートに突き刺さる。

その間に男の脳天に銃口を押し当てた。

額に跡が残るように強く押し当て、男に現状を理解させた。

そして、無機質な声音を生み出してから、警告する。


「任務をこなす気がないなら、俺のポイントになるか?」


ポイントと言う言葉に男はヒッと喉で悲鳴をあげた。


「2度目は無い、分かったな」


男の目が何度も頷いていた。

その一方的な展開に試験管は息を呑むのが聞こえた。


(何だ、この男は!

これ程の男が無名で埋没している筈が)


まるで大人と子供。

もしかしたら、獅子と兎ぐらいの差がこの2人の間にはあるかもしれない。

そして自分との間にもと、試験管は想像する。

学園を卒業する程の男が、そう感じずにはいられなかった。

シルーセルは銃口を下ろし、シートに埋まっているコンバットナイフを引き抜いて掌で弄ぶ。

いつ何時、気紛れでナイフが飛んでくるかと危惧した矮小な男は、捨て台詞も浮かべられないままに、砕かれた足を引き摺って、トラックから降りていく。


(逃げんでもいいのに。

さて、そろそろティアが接敵だな)


凛が前回のミッションで加算されたポイントを使い込み、用意した最新の通信器具。

左手の人差し指の側面に小さなボタンがあり、それで素早く回線を換えれる。

個人回線に切り替えたり、全員に繋げたりと簡単操作。

本体は耳を覆うイヤホンタイプで、襟元に集音マイクがセットされている。

全てがコードレスなので手ぶらな上、何処に付けても問題ない。

これにより、逸早くシルーセルの手にした情報を味方に伝えられる。

チェス盤を上から見下ろし、戦況を完全把握するゲームマスター状態だった。

脳内の盤でティアが疾走し、襲撃準備をして谷の下に目標物が通過するのを待ちわびる集団に接触した。




ティアは物陰の間を疾駆し、間合いを詰めていく。

敵がこちらの接近に感づいたのは、ティアが物陰から飛び出し、奇襲に取り掛かる際も出した地を蹴る音だった。

手刀が一線し、首に打ち込まれた襲撃者は昏倒してしまう。


「なっ!」


他の者がそれに反応した時には、ティアの姿は消え去っていた。

ドサッ、ドサッ。

次々に意識を失い(たお)れていく者達。

やっと銃を構えられたが、それまでに9人もの同胞が地に伏していた。

銃を構えれたからといって対抗できない。

敵の姿が視認できないのだ。

速過ぎて、影が像を残しているだけにしか分からなかった。


「うわああああぁぁぁぁ!!!」


余りの恐怖に、半狂乱した者たちが処構わずに発砲した。

アサルトライフルが岩を削り、刳り貫く。

ティアはシルーセルのアドバイスを活かし、障害物等を使用して銃弾の嵐をやり過す。

完全に理性を失っていた彼らは薬莢をばら撒きながら、引鉄を絞り続けた。

その結果、直ぐに収まっていた弾は切れ、襲撃者たちはその事に気が付くのに間を有した。

その刹那、ティアは物陰から疾走した。

残り7人が昏倒させるまで5秒も掛からなかった。

戦闘時間、1分半。

ティアは素手で16名の敵を鎮圧した。




こちらは南西の第2部隊。

未だ目標物が目下に来ていないのにも関わらず、銃声が北西の第3部隊の方から響いてくる。

隊長らしい男が、通信機を手にし問う。


「どうした、コンスター」


第3部隊の隊長の名を通信機に投げかけるが、応答が無い。


「速いよ、ティアくん。

あたしより離れてる場所なのに、先の攻撃しかけるんだもん」


ほのぼのした声音が、部隊の真ん中からしてくる。

この部隊に女はいないのに、可愛らしい声が聞こえてくる。

隊長らしい男は、脊髄に氷を差し込んだような寒気を感じた。

その場に視線を配らせようとした瞬間、男の意識は闇に覆われた。

ビィーナは抜刀した。

刃が高速で奔り、間合いにいた者達の首が宙に舞う。

古今東西、首と胴体を離されて生きている者はいない。

それを立証するかのように別れさせ、血の散華で舞台を飾る。

残りが3名程いたが、現実離れした光景に意識を奪われ、その華の同列に並ぶのに、刹那しか必要としなかった。

戦闘時間、5秒。

ビィーナの刀がトラシディーの舞台を又積み上げた。




凛の脅威的な視力が不自然な地形を瞳に収める。


(あれね)


『凛、落石で道を塞ぎ、奇襲する形の罠だ。

右の岩陰に爆破スイッチを構えてるヤツと6人の武装兵がいる。

そこから斜め23℃、0.12の場に6人。

両崖に4人ずつ。

右崖に乱雑した突起を足場にして、上へ行け。

今の地点から上に昇れば、敵の側面に出られる』


シルーセルから情報がイヤホンから流れてくる。


「了解」


小声で了承し、凛はシルーセルの情報通りの右崖に肉眼を走らせる。

足場を素早く選出し、情報管理送還システム、情報管理送還装置(ライブラ)をそこに展開させて強度を測る。

空気中に凛がしているペンダントが発する光、電気、振動が照射され、辺りの情報を脳に伝えてくる。

十分体重を支えられると判断した凛は、ガゼルのようにその崖を跳び、昇っていく。

突然疾走してきた女が、僅かな突起を使い崖を上っていく様に、今か今かと高まる興奮を押さえ込んでいた兵たちは虚を突かれ、呆然とさせた。

その隙に上り詰めた凛は、右崖の上に身を躍らせていつの間にか抜き放った銃から硝煙を吐き出させていた。

事前に崖の上に情報管理送還装置(ライブラ)を展開させて、敵の状況を把握していた凛に躊躇いは無かった。

銃声に振り向いた兵は、その鼓膜を震わす震源を確認しようとした瞬間、世界から隔離されていた。

硝煙と銃声をその場に残し、凛は駆ける。

先にチェックしていた落石用の爆薬の元に。

銃をフォルダーに戻すと、腰に結わい付けていた3本の棒を0.3秒で組み立て、その先端に取り出した刃物をセットする。

凛の専門武器、薙刀へと姿を変える。

凛は振り翳し、爆弾がセットされている地面を薙ぎ払う。

弾かれ、地から斬り離された爆弾は放物線を描き、そのまま下で待機している左の物陰に隠れている者たちの上に落ちていく。

それを確認しないで、凛は谷を跳んだ。

広さ10メートルもありそうな谷に躊躇無く身を躍らす。

凛は谷を舞いながら、再び抜いた銃を発砲する。

バンバンバンバンバンバン!

薬莢が谷の下に消えていく。

血煙が上がり4人の兵が斃れ、凛は無事に左の崖上に着地した。

そして薙刀を一閃。

又も地を斬り取り、今度は右の谷底に隠れている者たちの上に落ちて行く。


「自らの業火に焼かれなさい」


凛は崖から身を乗り出し、2発の弾丸を放つ。

それは落ちていた爆弾に命中し、大爆発を誘発させる。

轟音と地響きが谷を覆い、静まった時には血煙に覆われ、瓦礫と散らばった肉片、そして意味を成さなかったスイッチの残骸だけが残っていた。

戦闘時間、28秒。

凛は何事も無かったかのように、帰路に着く。




『カイル、トラックの乗車席に大きなプレゼントだ』


カイルは無言で了解すると、掌サイズのカプセルを取り出しそれに付いているスイッチを押す。

そうするとカプセル展開し、大量の水が溢れ出す。


(この携帯カプセル、10ポイントしたんですよね。

内包量は100リットルと豊富。

前みたいに水筒なんて持ち歩かなくても良くなりましたが、難点なのは…重い。

100リットルも入れたら、身動き取れませんね)


10リットル程の水が溢れ出し、それが重力に引かれることなく、宙で彷徨。

トラックの乗車席を守るように浮遊する。

そこへ大筒が飛び込んでくる。

火薬を詰め込んだミサイルと呼ばれる類のものだ。

浮遊する水がそれを包み込むと、爆発した。

だが、水はその爆発で霧散することなく、威力を完全に内部で殺した。

良く観察すると、水は円を描き物凄い勢いで回転していた。

しかも幾つもの回転が重なり、強固な壁となっているのだ。

指向力の塊。

それがこの水の正体だった。


(戯れし水の精よ。

その清浄なる魂を牙に変え、牙城を薙ぎ払え)


水の塊が線となり、宙を疾駆する。

その向かう先にランチャーを構えている敵兵がいたが、この異常な事態に対処できない。

線は斜めに回転しており、ドリルのように敵兵を貫いた。

水の塊から何本もの線が生え、辺りに散らばって行く。

その先々には矢張り敵兵が居り、線は急所を貫いていく。


『カイル』


シルーセルがカイルに呼びかけてくる。

それは苦い口調だった。


(苦しまずに逝かせますよ。

生かして擱いても、俟つのは拷問の果ての同じ道。

なら、ここで刺してあげるのが情けでしょう。

それで良いのですね、シルーセル)


カイルは元々心優しい少年の苦悩を受け取り、残酷にそして的確に敵を葬っていく。

最後の1人が逃走を試みようとしているのを、後ろから転鎖(てんさ)と呼んでいる水線が頭を貫く。

戦闘時間、2分。

カイルは水を操りって、カプセルに納めるとシルーセルを気遣う視線を送る。

互いの視線が交差し、シルーセルは険しい顔をしながらも、微かに微笑んでいた。


『済まない』


通信機から自分の我侭を聞いてくれたカイルに、シルーセルが謝罪の言葉を送る。


『病まないことです。

これは戦争なのですから』


カイルはフォローを入れる。

こう言う心遣いをされると、シルーセルは如何に自分が子供の理屈を通しているかを思い知らされる。

そしてそれに応えてくれるカイルが年上なのだと痛感する。

全戦闘時間(トータルタイム)、5分58秒。

片方のチームを蔑ろにした形でミッションの本編は終了を見るのだった。

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