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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
53/166

【神無き地に】 底無しの淵の破壊神

誰かが呼ぶ声がした。


「ティア」


芯はしっかりしているが、所々脆さを見せた少年の声。


「ティアくん、朝だよ」


過去に囚われ、進むことを恐れている少女の声。


「ティア、起きた方が身の為ですよ」


いまいち攫めないが、迷いのない瞳が印象的な男の声。


「声が聞こえたなら起きなさい、ティア」


恐怖の主、ヒエラルキーの頂点に立つ者の声がした。

逆らうと、倍返し。

あるいはトラウマまで刻まれる恐れがある。

ティアは体が恐れから、勝手に覚醒していく。

条件反射に近い。

内心、情けなさで涙がチョチョ切れそうだった。

瞼を抉じ開け、光明が眼孔に差し込んでくる。

眩しい。

暫くその眩しさに目を瞬かせ、ゆっくりと現実を認識していく。


(朝、もしくは昼か)


「どう、覚醒してる?」

「寝惚けてるよ、この顔は」


女同士の軽い会話を呆然と聞き流し、認識を高めていく。


(明けてるのかっ!)


やっと現状を思い出し、ティアは半身を起こす。

覗き込んでいたビィーナが慌てて、顔を下げる。


「危ないなぁ」

「どうなった!」


ティアは焦った。

一機に覚醒して意識が、1人の少女の姿を求めて視線を彷徨わせる。


「てっ、お前らがどうして此処に?」


カイルが落ち着いて下さいと、水を1杯差し出す。

カイル越しに、簡易ベッドに寝かされている凛の姿があった。

とりあえず水を受け取ろうとして、利き手からする激痛に眉を顰める。

確認すると、血染めのバンテージが巻かれた拳があった。

砕けた拳が、現実だと訴えかけていた。

ティアは左手で水を受け取り、カラカラな喉を潤す。

染み渡り、勝手に闊歩していく意識を呼び戻し、落ち着かせる。

ティアは周囲を見回し、情報を手にする。

黄土色の天幕に覆われており、テント内だと分かる。

外から射光している光量で、内部が黄土に染まっているところから、朝、又は昼ぐらいだと測れる。


(やっぱり、夜が明けてる)


そしてチームBX―04の面々が揃っていた。

これが一番不解だった。


「…で、お前らがどうして?」

「奇妙なことを言うわね。

手を離れ暴走した空間を正す為に、上官の独自の判断(・・・・・・・・)でカリオストと共同戦線を組んだ。

私は身体加速(モメンタムブースト)の多用で、この様。

先行して中央に向かった貴方とシルーセル。

6時間前に空間の歪みが正され、ビィーナに確認に往かせたところ、気絶していた貴方たちを回収してきた。

OKかしら?」


妙な言い回しだ。

納得して付き合えと、OKの台詞に含まれていた。

これは凛が、公然の場でリークできないことがあるときに用いる合図だった。

明らかに誤った情報。

裏が無いと考えるよりも、あると考えた方が無難だろう。


「そこまでは」


合図に気が付いたティアは、さも当然そうに頷いてみせる。

寝転がっている凛は満足げに微笑む。

ティアが気が付いたことを褒めているのだろう。


「で、血塗られた鉾(ミストルティン)のお偉いさんもそれを察知して、応援に駆けつけたのが5時間前。

崩壊の予兆(バロックゲシュタルト)を抑える為に、執行者(フォチャード)が派遣されてきたの」


納得だった。

ミッションは完了したのだ。

独自の判断をした上官及び、このカリオストに派遣された者はゲシュタルトに巻き込まれ戦死。

依頼主がいるメリュッテンスは、増水したレイクマウンテンの自然災害で崩壊。

筋書き通りなら、こうなっている筈だった。

外に気配があった。

ワザと聞こえるくらいの声で凛が俺に説明をする。

そこへテントの入り口を開いて、気だるそうな雰囲気を纏った男と、チームの顧問が入ってくる。


「おっ、報告通り。

目を覚ましたか、英雄」


見知らぬ男に英雄呼ばわりされ、ティアはいぶかしむ。


「誰だ?」

血塗られた鉾(ミストルティン)最高の槍、執行者(フォチャード)隊長、ガイラ ノーザン。

底無しの淵の破壊神(アバドン)の異名を持つ、最強を連ならす者よ」


その説明で、ティアは怪訝そうな視線を男に向けてしまう。

みすぼらしい、だらしない、ヤル気がない。

三拍子を兼ね備えてそうな男が、あの執行者(フォチャード)の隊長と言われても納得し難い。


「説明ご苦労。

さて、説明してくれっかな。

お前さんだろ、崩壊の兆し(バロックポイント)を消しちまったのは?」

「はぁ?」


ティアは意図が繋がらなかった。


(てっ言うか、なんで俺生きてるんだ!)


ティアは突然身体中を調べる。

左腕、左足が健在。

しかも疲労だけで、壊れた様子も無い。

右腕も指の先から粉砕した筈なのに、拳が砕け、骨を大気に晒しているぐらいで、失われてはいない。

ソッと右目に触れる。

フニフニする瞼の感触の下に、確かに眼球の存在を確認した。

見開いた先には両目から導き出される擬似立体の映像が脳の投影されている。

間違いなく、両目がある。


「ど、どうした?」

「…俺、生きてます?」


余りに意味不明な行動を起こすティアに、ガイラは珍獣に送るような視線を投げかけていた。


(そんなっ!)


指向の渦に晒され、引き千切れていく蝶の羽のように、捻じ切れて逝った左腕の感触。

両サイドから途方も無い指向を喰らい、ズタズタに切り刻まれていく左足。

耳は削げ、鼓膜が圧力耐え切れず貫通する音もした。

鍛え抜かれた腹筋を埋没させ、内臓を破壊されて血反吐を吐き散らした。

眼球が飛び出るほど穿たれたこめかみ。

指の先からシュレッダーに掛けられたように消えていく、右腕。

どれもティアは鮮明に覚えていた。


「お~い、生きてるから還って来~い」


無造作に頭を叩こうとしたガイラの拳をティアは反射的に掴んでいた。

その警戒行動にガイラは楽しそうに口笛を吹く。


(他は全滅なのに、このチームは欠けること無くってのは、案外必然的なかもしれないな)


「あっ」


検分するようにガイラの視線がティアにまとわり付く。


「テリトの教授か?」

「ワシがさせられているのは、スクラップ寸前まで壊した身体の修理だけじゃ」

「ほ~ぉ、行き届いてるじゃねぇか、肉体の隅々まで。

まあ、それは置いといてだ、どうやって崩壊の兆し(バロックポイント)を消滅させたんだ?

ゲシュタルトに狩り出された俺らの出番無しだ。

山のような機材を運んで、さあって時には終わってたって流れだ。

残ってるのは後始末だけ。

フォーリジャーの死骸の後片付け。

疫病でも流行ったら拙いから、これから延々に焼却作業よ。

上はお怒りだろうが、お前らにはお咎めはないだろう。

馬鹿の独断専行だから、そいつがこの失態全部被って失脚するだけで済むだろう。

学園長は御冠だろうがな。

数少ない崩壊の兆し(バロックポイント)の消失。

で、俺はお前さんのどえらい偉業伝を語って欲しんだが?

他の奴ら、口を揃えてお前に訊けってよ」


皆に視線を走らせると、満場一致で興味津々の視線をティアに注いだ。


(言われてもなぁ…)


「腕を突っ込んで塞いだ…、んなわけないな」


ティアは口に出して、余りに非現実的だと自嘲してしまった。


「はぁ?」

「夢と現実がごちゃごちゃで、どうも曖昧なんです。

中核にあった穴に飛び込んだまでは覚えているですけど」


慣れない敬語を使いながら、ティアは抽象的な説明をしてみる。

案の定、痛い視線が集中する。


「穴ね。

確かにゲシュタルトが発生すると、その中核には媒介たる穴が形成される。

だが、その中は干渉場と成っていて、飛び込んだが最後、肉片、塵すら残さずに(ゲート)の干渉を受けて消滅する。

…その穴にね」

「でしょうね。

情報管理送還装置(ライブラ)で覗いたら、指向の乱流でしたから」

「ほ~お、情報管理送還装置(ライブラ)でね。

オルトで迂闊に情報管理送還装置(ライブラ)を穴に当てた奴は、情報の大河に襲われて発狂死したぞ。

運が良かったのか、それとも…」


言葉を切り、ガイラは此処にいる全員を流し見る。


(…面白い。

現状に興味を抱かなかった死人を揺り動かす者達か。

潰すには惜しいな)


「なら、自然消滅で決定だな」


ガイラは立ち上がり、テントから退出しようとして振り返る。


「そうそう、大胆な作戦だったが、抜けているな。

お前たちみたいに柔軟且つ、植えつけるべき概念に囚われていない者は、血塗られた鉾(ミストルティン)には殆どいない。

それを踏まえて発案されていないこの作戦は、俺からすればバレバレだ」


ゆったりと流れていた時間が凍結する。

凛と状況に付いていってないテリト以外は、重い気配を表層近くまで浮かび上がらせて、臨戦体制に移行しようとしていた。


「止めなさいっ!」


凛が一喝し、4人は飛び出そうとした格好で、自分達を押し留める。


「賢明だな。

たとえ俺を打倒できても、此処には俺の部隊、血塗られた鉾(ミストルティン)最強の槍が集結している。

逃れる術はない。

まぁ、俺1人でも十分だがな」


テント内の温度が5度ぐらい上昇したような、灼熱の気配。

ガイラは気だるさ表情から豹変した。

兇暴な獣を狩るのを心待ちにしている、最高の槍と持つ狩人の貌へと。

だが、誰1人として怯む者はこの中には居なかった。

ティアは真摯な眼でそれを討ち、シルーセルは誇り高き志によりそれを拒む。

カイルは涼しい(かお)でいなし、ビィーナは受け付けない。


「どうかしら。

先が楽しみでしょう、私の部隊は」


玲瓏なる声が響き、凛は不敵な貌で嘲る。

それに毒気を抜かれた狩人は、気配を元の気の抜けたものに還す。


「お嬢ちゃんが頭か。

いやはやどうして、たいしたものだ。

血塗られた鉾(ミストルティン)でこれほど統率のとれたチームお目にかかったことはないな。

フッ、それに免じて不問にしてやる。

シナリオはさっき述べた通り。

作戦を立てた男が1人罪を被って失脚。

お前たちはお咎め無し、表向きはこれでいくつもりだ。

口合わせしておけよ。

辻褄合わせもしといてやる。

これは俺からのサービスだ」

「借りは嫌いなのよね」


凛はこの状況下で要求する。


「安心しな。

これに貸し借りは無い。

何故なら、お前たちが通る道は2つ。

俺の元に来るか、獲物になるか。

どちらにしろ、俺を愉悦させてくれるには変わりない。

だろ?」

「面白いわね、それ。

貴方の範疇に私達が納まればいいけど」

「それこそ望むところだ。

此処のところ枯渇した、俺の感性に緋を灯してくれればな。

最高の槍も、使う機会が無ければ飾りだからな。

話は終わりだ。

2日程滞在する予定だから、街にでも下りて養生してもいいぞ」


それだけ言い残して、ガイラは去っていく。

包んでいた緊張感が霧散した。


「お前ら、何を仕出かしたのじゃ。

アヤツの口ぶりだと、血塗られた鉾(ミストルティン)を敵に回したかのようだったぞ。

久々に浮かべておったわ、愉悦に歪んだ笑みを」


蚊帳の外にいたテリトが神妙な面持ちで尋ねてくる。


「冗談を。

自殺願望があるでもないし、そんな大それたことしてませんよ」


(今はね)


「さて、隊長さんの許しもあることだし、カリオストにでも行ってきなさい。

私はこの状態だから、治療に専念させて貰うわ。

専医も到着したことだし」


テリトが嘆息を付くと、ギラッと眸に光を宿らせる。

それを見た4人は、全身に悪寒を奔らせそそくさとテントから離脱していく。


「ご愁傷様」


最後尾のカイルが手を十字に切り、冥福を祈る。

4人はテントから離れるべく、疾駆した。

あの凛から想像も付かない悲鳴がテントから漏れたのは、キッカリ2秒後だった。




ガイラはテントを離れ、一面を羨望できる場所を求めて歩き出す。

そこへ、ガイラとは正反対の雰囲気、規律を体現したような男が並ぶ。


「お遊びが過ぎるのでは?」


無表情で爪先から頭の先までは整った男は、ガイラを諌めるように詰問する。


「テラドマイドよ、選択権を放棄した人間の楽しみを奪うな」

「どうせ私にも隠蔽を手伝わせる算段だったのでしょ。

尻拭いに駆られるこっちの身になって貰いたいものです」

「極上の獲物だ。

ここで消すには惜しい。

そっくりじゃないか、俺らに」

「そうですか?

あっちの方がリーダー格の尊厳が高い。

こっちは下劣で下種。

品はないし、怠け者。

軍配は向こうにあがるでしょう。

まぁ、手足は私達の方が上でしょうが」

「さり気無く人をどん底に貶めて、自分達に華を沿えてんじゃねぇよ。

誰が下劣で下種だ」

「貴方です」

「断言か」

「はい。

ライト、ゲシュート、ギャザーは隊長と同類ですから、賛同するでしょう。

アイス様に知れれば、殺され兼ねませんよ」

「そん時は、そん時。

意外にアイツ等は、その方が好みかもしれないぞ。

血塗られた鉾(ミストルティン)を相手にドンパチやる方がよ」

「冗談。

私達、罪人にそんな権限はありませんよ」

「副長殿は固いね。

だから、趣味の範囲で収めてやってんだろ」

「悪趣味この上なしですね。

狩る為に育てる。

まぁ、私達に与えられた玩具は、その程度のものですし」

「玩具ね。

俺は、お前の方がエグイ気がするが」

「改竄は通信記録だけで宜しいのですか?」

「それで大丈夫だろう。

辻褄が合わないのは、判断の部分だけだからな。

間違ってもカリオストと共闘するなんて自己で判断できねぇよ。

血塗られた鉾(ミストルティン)いう力の価値観に染まっちまった輩にはな。

一時的に回復した通信により、俺が判断を下したことにすれば丸く収まる」

「そうですね。

隊長程破綻した命令を下す人間はいませんから、それで通るでしょう。

1つ気がかりがあるとすれば」

「あの通信記録か。

場所はメリュッテンス、回線番号も一致した。

…メリュッテンスから壊滅を伝える連絡が来てるんだよな。

時間があわねぇ。

ここらで地震が計測された時間帯よりも先だったな」

「回線を乗っ取られたと考える方が妥当でしょうが」

血塗られた鉾(ミストルティン)の回線をか?」

「ですね。

この時代の科学では不可能。

彼女たちの持ち物には、其れらしい機材はありませんでした」

「協力者か」

「その線かと」

「フッ、面白過ぎるぞ奴ら。

休暇が潰されて苛立っていたが、思わぬ収穫だ。

嘘か誠か、第2学年(ランデベヴェ)の小僧っ子どもがミッションを覆し、上級者を皆殺しにしたなんてな。

報告書に書いても誰も信じないさ。

俺ら執行者(フォチャード)クラスの働きをしたなんてな」

「国潰しに、フォーリジャーに殲滅。

更に崩壊の兆し(バロックポイント)の修復」

「…どう思う、テラドマイド」

「あの少年がゲシュタルトを納めたかどうかですか?」

「あぁ」

「理論的には可能ですよ。

ですが、それは人1人には無理です。

感応原子(エーテル)の第2ランクまでの活用法を身につけていなければ」

示現降臨(ノルン)か。

確かに、人の領域じゃないしな。

それを成す為にこっちがどれだけの犠牲を払っているか。

子羊たる模型(イノセントパーツ)なんて生体部品(・・・・)が必要な程にな。

時限で消滅したとする方が妥当だろう。

やっぱ、人がどうこう出来るもんじゃないぜ、ゲシュタルトは」

「ですが、決壊したものが自然修復すると見解するのは、如何かと」

「頭固いね、お前。

自己修復されてもいいじゃんか。

その方が、仕事楽だし」

「抽象的過ぎて、報告書に纏められません。

私の立場を考慮してませんね」

「当然だ」

「断言しないでください」

「考えてみろよ。

血塗られた鉾(ミストルティン)犠牲無し(・・・・)に回避できない事態だぞ。

あの小僧が塞いだかもしれないと思案する方が、そもそも奇妙(おか)しいんだよ」

「無駄になりましたね。

まぁ、子羊たる模型(イノセントパーツ)をなんてもの、使用しない方が良いんですが」

「人身御供ね」


ガイラたちは一望できる場所で、惨劇の跡を確認する。

異臭が鼻を突き、泥濘と肉塊だけが埋め尽くした大地が網膜に飛び込んでくる。

フォーリジャーの死骸が一面を覆い尽くしていた。


原始的(プリミティブ)だな。

強者が勝ち、弱者は消え行く。

世の循環。

ならば、この物語の結末も又、循環なのだろう。

結局、正義だの悪だのではなく、征したものが残る。

はたまた」

「我らは罪人の子に権利など」

「そうだ。

我らの背には、生まれる以前から慟哭の十字架を担いでいる。

結末に何も残らなくても、それは下された罰なのだろうよ、副長殿」

「隊長には似合わない言葉ですね。

2度と吐かないで下さい、鳥肌が立ちます」

「……さあ、仕事するか」

「嬉しい限りです。

これから隊長がサボろうとすれば、この手で行きましょう」

「お前、性格最低」

「隊長には負けます」


ガイラは舌打ちをすると、目の前に転がっている肉塊に掌を突き出す。


「せめて、執行者(フォチャード)クラスにまで上がって来い。

そうでなければ、俺の乾きは潤わないからな」


フワッと、綿でも浮き上がるように超重量のフォーリジャーに死骸が宙に浮んでいく。


「第5ラッパ、星を鍵にし、地上に深淵を穿たん。

その深淵より黒煙が舞い上がり、蝗を罪人に嗾ける。

頭に金の冠、人ノ貌と女の髪、ライオンの牙を纏いて、罪人を狩る者。

其名を底無しの淵の破壊神(アバドン)と」


その様を羨望しながら、テラドマイアは聖書の一説を口にする。

10メートルも浮上すると、ギシギシと軋みをたてながら巨大な肉に変化が起こる。

フォーリジャーの強固な皮膚に亀裂が奔り、面積を縮めていく。

頭は胸元にへしゃげ、短い四肢も胴体にめり込んでいく。

膨大な質量を誇っていたフォーリジャーが凝縮されて、5センチの球体まで圧縮されてしまった。

それは急に浮力を失い、地面目掛けて疾駆した。

表層に叩きつけられた球体は轟音を撒き散らし、同時に破片と絵の具で大地を染めた。


「隊長、憂さ晴らしもいいですが、後始末はして貰いますよ」

「…締まらないな。

何なら、俺が全て始末してやろうか?」

「結構です。

隊長に任せると、辺りがクレーターに成ります。

そんな事されれば、契約を結んだばかりのカリオストとの友好関係に罅が生じます。

地道に燃やして下さい」

「めんどくさい」

「チャキチャキ働いて下さい、給料泥棒」

「お前、俺嫌いだろう」

「嫌いではありませんよ、その代わり尊敬もしてません」

「…俺はお前嫌い」


不貞腐れて、ガイラは本部としているテントに戻っていく。


「私達を結んでいるのは信頼と罪だけですよ」


其後ろ姿にテラドマイドは述べる。

片手を挙げ、「あぁ」とガイラは空虚な返事を返す。


(そうだ。

俺らには償うべきものしか残されていない)


ガイラは気だるい雰囲気を纏い、空虚な瞳が虚像の世界を写す。


「洗い流すには重すぎるんだよなぁ、俺らの罪業は」


何の感慨もなく、ガイラは独語する。

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