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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
52/166

【神無き地に】 神無き地に

漆黒の闇とは違う。

これは多重の色が組み合わさって生み出された濁色なのだ。

1つだけ断言できるのは、これは穴だということだろう。


「…見えないな」

「…黒だからな」


直径5メートルはある穴がポッカリと口を開けて、空中に存在していた。

それしかないので2人は途方に暮れていた。


「情報を整理しよう。

この穴を推測できる材料を」

「だな。

フォーリジャーがこっちを埋め尽くしているから、この先の空間は指向(エペソ)だと思う」

「ほぉ、フォーリジャーって指向(エペソ)から来るのか」

「ティア、戻ったら勉強しろ。

頼むから」


これまでに確認されているのは、指向(エペソ)のフォーリジャー、代謝(スルミナ)のパラミネント、振動(ペルガモ)のスライブなる生物達だ。

それぞれが異様な空間で生息するために進化した形態をしている。

因みに2年前、オルトを襲ったスライブは、振動を司る振動(ペルガモ)で生き延びるために、全身の毛を振動させて周囲の振動を打ち消すことにより生を確保したいた。

こちらの空間に来れば、その毛の振動が摩擦を引き起こし、高熱が身を包む。

一瞬にしてオルトを火の海に変えたのは、それが原因だった。

フォーリジャーで言えば、その頑強さが売りだった。

指向を司る指向(エペソ)で、吹き荒れる指向力に耐えうる重さと甲殻が必要となっていた。

シルーセルは足元の残骸に手を伸ばす。

材質にリートル合金が使用されている。

間違いなく血塗られた鉾(ミストルティン)が持ち込んだ物だった。

ティアは小石を拾い、穴に放り込んでみる。

底無しの穴に放り込んだように、反応も音もしてこない。


「万事休すかよ!」


シルーセルは手にしていた残骸を穴に投げつける。

穴の表層に触れると闇に沈んで、そして見えなくなる。

濁色の穴に消えてなくなる。

ティアはそれを見つめながら、定まりかねている案を述べる。


「シルーセル、崩壊の兆し(バロックポイント)ってヤツはどうして、空間が不安定なんだ?」

「はあ?

それは、……判明してない」


沈黙後、シルーセルはその正体の不明さに愕然と呟いた。


「それが明確になれば、止める手立てが分かるんじゃないのか?」

「明確って、調べる機材なん…、これかっ!」


シルーセルは槍に蛇が絡み付いているデザインのペンダントを握る。

血塗られた鉾(ミストルティン)が誇る、情報管理送還システム、情報管理送還装置(ライブラ)

ティアの知識の無さにはほとほと呆れるが、閃きには驚かされる。

どうも論理的でないのは戴けないが。

シルーセルは濁色の穴を観察する。

先が煉獄(ゲヘナ)に通じていて、鬼哭が漏れてきそうな感じだ。

そして予感があった。

ここに混在するのは、生半可なものではないと。

覗くだけで、全てが引き込まれ、隋までも吸い尽くされそうだった。


「俺がやる」


ティアが情報管理送還装置(ライブラ)を起動させそうになり、シルーセルはティアのペンダントを握りこみ、中止させる。


「何をする、時間が無いんだぞ!」

「俺がやるから」


ティアはシルーセルの発言に眉を顰める。

声音から、自責の念を感じ取ったからだ。


「これは普通に情報管理送還装置(ライブラ)を掛けるのとは違う。

何が起きるか分からない、だから」

「だから、何だ。

危険だから、お前がやると?」

「そうだ」


それを聞いた途端、ティアはシルーセルの胸倉を掴み上げる。

襟が首を締め上げていく。


「ふざけるなよ」


ドスの効いた怒声が静かに響く。


「どこに責任を感じてるか知らんが、これは俺が選択し、決めた道だ。

巻き込んだなんて下らん自責、未だに抱えているなら殴るぞ」

「だが」

「凛もカイルもビィーナも俺も、この道を選んだ。

それぞれが目的も意味も違うんだ。

危険だから、俺がやるだ。

…ざけんなよ。

平等なんだよ、俺らはっ!」


ティアは本気で憤って、語尾は吼えていた。

そして突き飛ばすようにして胸倉を離す。


「責務で先行しようとするなら、お門違いだっ!

俺の意志を踏み躙るなっ!」


そしてティアは情報管理送還装置(ライブラ)を濁職の中核に当てようとする。

だが、シルーセルが又もペンダントを掴み、それを阻止する。


「それでも残るんだ、罪悪感が。

お前の意志を蔑ろにしている気はねぇ。

でも、割り切れねぇんだ。

それなら危険なことぐらいは背負いたいって。

ったく、キツイよお前。

どうしてそんなに優しいんだよ」

「勘違いだ。

俺は人に押し付けるんだよ、色々と」

「要領悪いよな、俺ら」

「…だな」


ティアの激昂はなりを顰めていた。


指向(エペソ)を行使する俺の方が外部情報処理能力に長けている。

だから、俺がやる」

「了解だ。警護は任せろ」


シルーセルは理由を明確にし、言い直した。

それで納得したティアはGOサインを出す。

シルーセルは情報管理送還装置(ライブラ)の標準を深淵なる穴にセットし、展開させる。

(これは…っ、ちっ)


シルーセルはこの空間を数値で表そうと、情報管理送還装置(ライブラ)で詮索する。

それが過ちだろ悟るには時間は然程必要ではなかった。

膨大な数字の羅列が脳内を埋め尽くし、パニック状態に陥る。

それでも羅列は肥大していき、シルーセルの意識すら数字に塗り替えようと物凄い勢いで犯していく。


「数、違うっ!」


シルーセルがそう叫ぶと、様子が激変する。

双眸を限界まで見開き、血走らせる。

そして意味不明な羅列が口から流れ出すと、痙攣を始める。


「なっ!」


明らかにヤバイ状況だった。

使用者が異変を起こしているのに、情報管理送還装置(ライブラ)は正常起動しており、際限なく情報を送り込んでいるのが、起動音から確認できた。


(ヤバイっ!)


ティアは咄嗟に情報管理送還装置(ライブラ)を掴むと、シルーセルから引き離すべく鎖を引き千切る。

それで情報管理送還装置(ライブラ)の起動音が次第に薄れていき、停止する。

シルーセルは情報の渦から開放されると、白目を剥いて、崩れ落ちていく。

それを抱き止め地面に寝かすと、瞳孔を見る。

知識が曖昧なのではっきりとしたことは言えないが、弛緩しきっていないので安心しておく。

脈も高まってはいたが、正常値に戻りつつある。

ティアはハァ~と息詰まっていた空気を吐き出す。


(安心してる場合でもないか、…どうする)


道が閉ざされた。

何の情報も引き出されないまま、シルーセルが堕ちてしまった。


(これ以上フォーリジャーが増え続ければ、全滅も遅くないな)


切羽も詰まっていた。


(何かないのかっ!

…駄目だ、落ち着け。

俺が感情的に判断して、ろくな結果を招いた覚えがない。

…掻き集めろ)


ティアは行動を起こす前に、見落としがないかを思惟する。


(数、違うか。

どういう意味だ。

情報管理送還システムで数字が送られてくるってことは、情報を数字に変換した状態で情報管理送還装置(ライブラ)を使用したことになる。

その結果がこれなら、この中には人の範疇では納められない情報の渦が巻いていることになる。

認識違い。

シルーセルはこう言いたかったのか?

変換方法を間違えたと言い残したかったのか)


確かに1つのモノでも、定義を置き換えるだけで情報量が大幅に違ってくる。

数字というイメージが膨大な情報を生み出すのなら、イメージと処理方法を弄ってやればと模索する。

その為のソフトは脳内に刻まれているのは、情報管理送還装置(ライブラ)の授業で先刻承知だった。


(もしこの推測が違えば、止める者のいない俺は情報で脳が圧迫死。

そして排出が止まれないフォーリジャーにより、カリオストは滅亡。

見事に一連托生だな。

責任重大だが、失敗すれば責任を取らされる心配もないし、気が楽だな。

後はリンク中にフォーリジャーが襲ってこない僥倖を祈って)


甲高い高周波の起動音がする。

そして、ティアの情報管理送還装置(ライブラ)が死の穴へとセットされた。

脳内にイメージが広がる。

ティアが起用した情報管理送還装置(ライブラ)の認識方法は、言うなれば抵抗値などを調べる数字的なものではなく、紙などから書かれているものを読み取る、画像的なイメージを題材とした認識方法だった。


(これは)


濁色で表面しか視認できなかった内部が、ティアの脳内に投影される。

千色は下らない色の奔流が全体を覆い、歪んだり刻まれたりと、まともな形体を保持していない。

渦、濁、刻が同時に混在し、法則的なものは存在しない。

数字でこんなものを表せば、10の68乗(無量大数)でも現せないだろう。

確かにシルーセルの選択は間違っていた。

見るという認識だけで、この光景を眺めているだけなのに脳内に痛みが奔る。

情報が無理やりに流されているのだろう。

シルーセルが意識を失っても情報が流れ込んできていた。

この地域の情報量を考えれば、それも在りうるだろう。

道が開いたら、そこへと雪崩れ込む。

ここはそれだけ圧迫として、混濁しているのだ。

その濁色の地域を抜け、標準を奥へと進めていくと、壁が存在した。

直感的に、この壁が同軸に空間を重ねる事を可能にした、障壁だとティアは理解した。

つまり、この先に並列空間、指向(エペソ)があるのだろう。


(壁がある?)


これに対して逆にティアは疑問を差し込む。

これがなければ、同軸に存在する空間は重なり、破滅的な事象に襲われるだろう。

だが、それならば今現在、実空間を歪ませている現象はなんなのだろうか?

壁が存在し、空間を隔てているというのにだ。


(奇妙だ。それに壁がここにあるなら、どうして実空間との間に混濁している情報の渦はなんだ?

まるで、(ゲート)を開いて感応原子(エーテル)に干渉したみたいじゃないか)


普通の空間よりも歪み、異空間との接触が頻繁に起こる場所、崩壊の兆し(バロックポイント)

壁が存在し、それでも歪みが生じる意味は?


(一部、亀裂が生じているのか)


ティアは単純に思考した。

壁の存在するのは事実。

そして実空間との間に展開されている混濁なる空間。

感応原子(エーテル)に反応した指向(エペソ)の指向そのものだと考えたら、辻褄が合う。


(流れを読め。

きっと、その先に)


確かに存在した。

開口された口は指向と言う牙を剥き出し、膨大なエネルギーを吐き出していた。

この隙間こそが、この地を崩壊の兆し(バロックポイント)に仕立て上げた元凶。

妙なことに指向力は流れ込んできているものの、空間は交わろうとしない。

同軸に存在するならば、交わろうとするのが普通だ。

壁も無く、塞ぐものがないこの穴から空間が起源に戻ろうと動き出すことも無く、溢れ出さん指向のみを奔流させていた。

並列空間のついて調べる為、脳内の刻んだ情報にアクセスしてみる。


『並列空間。

実空間と同軸に混在する、擬似空間。

同位、同時に存在し、素粒子を増殖させる為に生み出せし空間』


その記述に、ティアは少なからず驚きを胸に抱いた。


(生み出せし空間だと。

それじゃ、この(ゲート)の先にある空間は、血塗られた鉾(ミストルティン)が創り出した、エネルギー生成プラントだとでも…。

待て、奇妙だ。

…そうか、辻褄が合わないんだ。

自分達が創った空間なら、その所在や使用方を知っていてもおかしくはない。

なら、この有様はなんだ?

凛だってこの事実を知っている筈なのに、あいつはこう言ってんだ。

『ミストルティンがバロックポイントに固執しているわ。

で、今回の任務が適応されたの』と。

崩壊の兆し(バロックポイント)奪取が、この無茶な任務が適応された真実なら、崩壊の兆し(バロックポイント)について血塗られた鉾(ミストルティン)は把握しかねていると取れる。

繋がんねぇぞ。

創ったのが血塗られた鉾(ミストルティン)でなく、その手掛かりがこの崩壊の兆し(バロックポイント)なら…。

早計に判断するな。

未だ、ピースが足りない。

並列空間に生息する生き物がいることも、…それに矛盾点がある。

ゲシュタルトを鎮める為にオルトに派遣された血塗られた鉾(ミストルティン)

それはゲシュタルトを恐れてのことではないのか?

ゲシュタルトは何かの予兆なのか?

だが、今ミッションにはゲシュタルトを起こし、作戦を遂行しようとした。

…訳わかんねぇ!

今は、そんな事を思索してる場合ではなかった。

空間が重なり合おうとしているのでなければ、穴を塞ぐことができれば歪みは通常に戻ろうと働く。

…後はどうやって)


1度情報管理送還装置(ライブラ)を切り、ティアは視界を目に戻す。

濁色の穴が、煉獄(ゲヘナ)へと誘っているように開口してる。


「間違って飛び込めば、指向の渦に肉片は千切られて、塵芥まで分解されるな」

「なら、泣き寝入りしてみますか?」


気配は無かった。

ティアはビィーナすら違和感を覚えられる。

それなのに、誰も居ない筈の空間に1人の女が忽然と姿を現し、地に舞い降りる。

ブロンドの髪が風に流れているのが窺え、それが存在するものだと主張している。

切れ長い目元は見覚えがあった。

こんな場所なのに、スカートという異様ないでたち。

隙間を縫われたように、警戒心が少しも湧かない。

だが、胸を突くのはどうしようもない遣る瀬無さ。

そして驚愕。


「…ハーミーなのか」


千切れて宙に分散してしまいそうな声が、長年封印していた名を、ティアの口に付かせる。


「久しぶりですね、ティア」


在り得ない。

ティアは記憶を掘り出し、照らし合わせる。


(莫迦な…、あれから何年経っていると思っているんだ)


古い記憶そのままの少女が佇んでいた。

だからこそ、逡巡もしないで彼女だと分かったのだ。

ティアが留めている4歳の頃の記憶のまま、彼女はここにいた。

殺した筈に感情が、本人を前に息を吹き返す。

ドロドロと暗澹たる、(くら)い想いが。


「今更、どういうつもりだ。

俺の前によく姿を現すことが出来たな」


ティアは爆発しそうな自分を押し殺し、その瞳に闇を住まわし、睥睨する。


「私も2度と会うつもりはありませんでした。

貴方が私を怨んでいることを分かっている。

正直、その瞳に晒されるのは耐え難いです」

(さえず)るなっ!

ヌケヌケとそんな台詞、俺に吐けたなっ!」


激情が破裂した。

裂帛した声音が大気を震わす。


「ゴメンなさい。

私にはこれしか言えない。

ゴメンなさい」


顔を伏せ、ひたすらにゴメンなさいと少女は繰り返す。


「何なんだよっ!

あれから10年だぞ…。

4つだった餓鬼が、14になってるんだぞっ!

ふざけてるんのかっ!

俺はっ………」


最後は言葉にならなかった。

憎んでいる、どうしようもない程に。

それなのにこれ以上攻め立てる言葉が続かない。

暗い、(くら)い、(くら)い、貯蓄してきた鬱の塊が蠢く。

世界に放り出されるには幼く、無垢な4つの頃に刻まれた記憶。

誰も居ない。

あるのは建物と腐臭しているだけの肉塊。

そんな場所に置き去りにされた、無力な餓鬼。

残酷な現実に1人取り残された、無垢な魂。

その事実が、歎きを深淵に深々と降り積もらせ、拿捕して離さない。

それなのに言葉を棘にし、牙にし、刃にし、ズタズタに引き裂くことができない、詰れない。

その深い悲しみに暮れる女を目の前にしては。


「どんなに言葉を尽くしても、貴方に許して貰えるとは想わない」

「っ、なら俺の前から居なくなれっ!」


ティアは取り返しのつかない言葉を吐いたような気がした。

それが錯覚でなく現実になる。


「そうね。

…ゴメンなさい」


声がずれていく。

それは濁色の穴に向かって。


「なっ、止めっ!」


咄嗟に手を伸ばすが、虚空を掻くだけで、何も掴まない。

穴に吸い込まれていく影。

そして細く長い白い指が濁色の埋没し、消えた。


「ハーミーっ!」


憎んでいる。

憎悪をどれだけ重ねても足りないと想っていた。

想っていた。

想っていた。

想っていただけだと知らされた。

想いは器を突き動かし、躊躇なく穴に身を躍らせていた。


「往くなっ!」


無力な手を擦り抜けて行く感覚。

だからこそ、掴もうと足掻き、腕をどこまでも伸ばす。

視界に青、赤、緑、紫、黄、白、黒と節度のない彩の奔流が覆い、瞬間でバラバラにされそうな指向がティアに牙を剥く。

どうにか器が崩壊するのを、自分を抱き込むことで耐える。

生爪が剥げ飛んで行き、四肢が在らぬ方向に屈折し、捻じ曲がっていく。

それでもティアは虚空に手を伸ばす。

指が2本纏めて折れ切れて、指向の風に流されていく。


「煩いっ!」


指向の風に吼える。

耳が綺麗に切れ飛び、開いた口から歯が抜け落ちていく。


「邪魔だっ!」


こめかみが陥没しそうな衝撃を感じ、眼球が眼窩から零れて遥か彼方に消えていく。

生きているのが不思議な状態だが、ティアには関係無かった。

1人の女の姿を求めて、我武者羅に突き進む。

肉が凹み、肝臓が潰れる。

喉を灼熱の液体が駆け上がり、虚空に振り撒く。

頭、両腕、両足の5体は3体となり、利き腕、利き足だけで前を掻く。


「掴むんだっ!」


濁色の空間に赤が満たしだす。


「ハーミーっ!」


半減した視界の隅に、光が射した。

微かに残っていた冷静な思考が、その正体に教えてくれる。

光の射す場所、それが指向(エペソ)であり、亀裂だと。


「邪魔してるのはそこかぁああああああああ!!!!」


ティアは咆哮しながら、実空間を満たしている指向が噴出す穴に手を翳す。

伸ばした先から崩壊していく肉体。

それでもティアは拳を突き出す。

拳が吹き飛び、手首より上が指向に吹き飛ばされていく。


「煩いって言ってんだろうがっ!」


肘まで粉砕した腕が、穴に突き刺さる。

指向の噴出が、ティアに腕で栓された形で止まる。

肩から腕が引きちぎれ、ティアは虚空に投げ出される。


「ざま・・あ・・み・ろ」


空間を渦巻いていた指向も、色も薄れていく。

そしてティアの捜し求めていた少女が見えた気がした。


「は・・みぃ・・・」


そこまでだった。

正常な部分など、どこにも存在しない。

スクラップとも言える状態で、ティアは虚空を漂う。

ティアの意識は途絶え、身体が薄れていく。

それをソッと抱きしめる影があった。

堪えきれないものを瞳に宿して。


「こうなると識っていて、それでも貴方は貴方を辞めることをしない。

だからと言って、陥れるような真似を…。

どれだけ、貴方を苦しめなければならないのでしょうか」


希薄で次第に消えていくティアを抱きしめ、少女はゴメンなさいと何度も呟く。


「肉体を顕現させるなんて、…貴方はやはり神無(かんな)なのですね。

乾坤一擲、最後の一振り。

神に見捨てられしこの地の希望。

私とあの人の…」


少女は双眸に涙を湛えながら、ソッとその頬に唇を重ねるのだった。

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