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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
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【神無き地に】 ルーツ

1発で、意識が跳びそうなほどの激痛が脳を激震する。

鈍器で頭を容赦なく潰されているかのようだ。

無意識に口が開き、汚物が吐き出されていく。

膝が崩れた。

地面が激しく揺れている。

違う、基本的な作業すら脳が対処しきれていないのだ。

揺れているのは自分だった。

毛穴が全開し、汗が吹き出る。

まともな呼吸すら儘ならなくなっていく。


(・・・・気を・・失・な・・)


揺れる認識の中で、銃のグリップを左手の甲に叩きつける。

痛みがしない。

何度も叩きつけていく。

骨が折れ、肉が裂けようとも。

10回も続けただろうか、やっと肉体の痛みが戻ってくる。

だが、それだけだった。

立つことも出来ない。

少しでも頭を揺り動かせば、頭痛がぶり返して来そうだった。

先行し過ぎたのが災いした。

フォーリジャーが周りを取り囲み、円陣を組んでいる。

虚ろな瞳が、あるものを探す。


(あ・・・、だめだった)


捉えたのは肉片と大地に広がる血痕。

フォーリジャー足元からはみ出し、血泥を生成していく。

覚悟はしていた。

犠牲無しに終結するほど、甘いものではないと。

目の辺りにして、胸を掻き毟るような苦しさが占める。

禁止されていた(ゲート)まで遣ったのに、助けられなかった。


(どこまでムシがいいんだ、このアマちゃんがっ!

ティアの身をもって忠告してくれたのに、未だどこかでっ!)


赤黒い体液が零れる左手が地を掻き毟る。

自分の甘さに、嫌悪感が募る。

この場なら大局を見て、見捨ててでも自制すべきだったのだ。

それが出来なかった地点で、こうなることは目に見えていた。


「糞ったれがぁ!」

「逆だな。

辛さから逃げて戦う者が、何を守ろうというんだ。

その辛酸、噛み締めていな」


突如、喧騒を跳ね除ける声が戦場を駆ける。

従順なペットが主人に従うように、フォーリジャー壁が割れていく。

そしてその割れ目から、何者かが歩いてくる。


「久しぶりだな、ウインド」


親しげに話しかけてくる者は、頭、両手、両足の5体+6体目の尻尾を携えていた。

爬虫類の瞳に、鰐のような大口。

茶色がかった全身は岩を彷彿とさせる。


「…フォーリジャーなのか」


小型のフォーリジャーだった。

2足歩行をして喋る。

それを除けば、それが適切な表現だった。

腰布をしているのが、妙な知的さを醸し出していた。

その背には2メートル優に超える長剣が背負われていた。

腕に抱えられているのは、先程助けようとした騎士だった。

敵か判断がつかない。


「ん?

…連絡が無いと想えば、そういうことか。

なら、手助けしてやるのはお門違いだな。

お前は同士ではなく、個人なのだろう。

この勝負、俺は管轄外だな」


何か1人で納得し、話を進めていく。

その内容から、過去が浮き張りになってくる。

孤児院に拾われるまでの、空白をこのフォーリジャーは知っている口振りだった。


「俺を知っているのかっ!」


声が振動させる分だけ、頭痛が反射してくる。

それでも叫ばずにはいられなかった。


「過去など関係ないだろう、この戦いには。

お前の名は」


逆らえない。

そんな漠然とした想いに駆られる。

響く声はプレッシャーとなり、全身を竦ませる。

ビィーナにすら感じたことのない概念が生まれてくる。

絶対に勝てないという、恐怖を。


「シルーセル トルセ」

「良い名だ。

いいか、こいつ等に知能は無いが、本能で悟っているのだろう。

故郷に未来は無いと。

だから、必死にこちらへの道を渡ってきているのだ。

つまり、これは生死を賭けた生戦なのだ!

貴様も1歩も引けまい!

そしてこいつ等もだ!

生を渇望するものに、権利などおこがましい定義は嵌めれまい!

命を賭けよ!

互いの道を貫くなら!」


轟する声が、戦場を巡る。

それに呼応したフォーリジャーが雄叫びを挙げる。


「我が名はセプト ゴノス。

もしお前が道を進むなら、重なる線の者。

生き延びていたら、又会おう」


そう告げると、手に抱えていた騎士を放り投げる。

放物線を描き、シルーセルはあわてて抱きとめる。

衝撃は脳を揺るがした。

顔を顰めながら、騎士の容態を確認する。

心音も呼吸もしている。

額から血が流れているが、出血量から大して深くないと診察できた。

気を失っているだけのようだ。

フォーリジャー達を縛っていたプレッシャーが消え、そして小型にフォーリジャーも又、消え失せていた。


(どうしてフォーリジャーが俺のことを)


これまで1度も過去に拘ったことはなかった。

無いものに執着するほど、毎日穏やかではなかったのも1つだ。

だがこうして見ず知らずの、しかも得体の知れない怪物に過去をちらつかされて、シルーセルは揺れた。


(穏やかじゃないって、今が一番そうだっ!)


そんな事に思考している場合ではなかった。

絶体絶命の危機。

負傷者は気絶中に付き、お荷物。

自分も(ゲート)の後遺症の為、脳が割れそうな痛みを抱えている。

こんな状態では正確な射撃など不可能だった。

そして敵の只中に孤立。


(今度こそ駄目かな。

なら責めて1匹でも多く)


銃口を正面に向け、アチラ側への繋がる道を銃の周りに形成していく。


(発狂死か、さえねぇな。

巻き込んで済まねぇ、ティア)


加速された銃弾が発射されると同時に、フィードバックしてきた衝撃が脳を直撃する。

意識が消し飛びそうな、そんな圧倒的な衝撃が。

………………………………………。




意識が跳んだ筈なのに、俺は現実を見ていた。

しかも遥か上空から。

肉体はフォーリジャーに囲まれている。

つまりこれが所謂幽体離脱というやつだろうか?

騎士を抱え、銃を構えたまま硬直している自分の姿がある。

銃口の先にいるフォーリジャーが脳天を撃ち抜かれ、裏返しになるのがスローモーションのように展開されていた。

どうしてこんな場所で俺は自分を見学しているのだろうか?

視点は上空なのだが、見ているものが違っている。

全体の情報が視点という形で、送り込まれてくる感じだ。

目が2つの視点から平面を立体に見せている。

そう立証するなら、この視界の視点は最低でも8はある。

そう、立体を捉えている。

この視界が事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドのそれなのだ。

それだけでなく、微妙な大気の流れが歪みの乱れすら伝えてくる。

俺は悟った。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドの正体に。

これは指向(エペソ)を媒介とした情報収集能力なのだと。

正体が分かったがその実、意味が分からない。

それが真実なら、俺は情報管理送還装置(ライブラ)無しに(ゲート)を使用していたことになる。

(ゲート)を使用するのに(ゲート)を使用していたなど、矛盾もいい所だ。

確かにこの能力が発動されるようになったのは、血塗られた鉾(ミストルティン)に入学してからだが、それは切欠に過ぎなかったのではないのか?

セプトと名乗ったフォーリジャー。

そしてフォーリジャーが吐き出される先は指向(エペソ)だと言われている。

何かが繋がりそうだった。

風を受け無い視点が、渦巻く大気をしっかりと感じ取る。

全ての流れが手の取るようにわかる。

フォーリジャーが凶悪な牙を晒し、肉体に迫ってくる。

そのフォーリジーの合間を縫って疾走する影が一陣。

フォーリジャーを追い越し、俺の肉体を掻っ攫う。


「この大馬鹿がぁ!

テメェには、忠告を受理する脳は備わってないのかっ!」


罵倒しながらも、2つの肉体を両脇に抱えて駆けていく。

いつもこの男は、誰かの為に憤っている。

俺の時も、ビィーナの時も。

荷物を二つも抱えて、失速してしまったティア。いくら卓抜した身体能力を宿していても、この状況下では脱出するのは難しいだろう。


「大馬鹿か、確かにそうだろうな。

さっきも再認識したところだ、それを」


肉体から意識が切り離されているものと想っていた。

だが、意外にいつも通りに喉を震わせ、声を発していた。

妙な感じだった。

視点はそのままで、肉体を制御しているのだ。

意識が飛んだのではなく、忘れていた能力、今の状態は事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドが確定したのだ。

事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールド指向(エペソ)の指向を媒介としているなら、フィードバックを起こしていたのは拒否反応。

忘れた過去が、それを認識させるのを拒否していたことになる。

だが、生死の狭間で認識せざる得ない状態に陥り、無意識に能力を確定したのが、この視点なのだと。

気絶していると想っていた者から突然声を掛けられ、驚くティア。

下ろしてくれと指示し、大地に足を着く。

激痛を発していた脳から痛みが引いていた。

元々、フィードバックからの痛みでなく、拒否反応からしていたのだ。

認識してしまった今、疼きぐらいしか残っていなかった。

軽く頭を振り、状態を確認する。

しこりみたいな痛みはあるが、酷くはない。

変な気分だ。

目を見開き、前を見ているのとは別の認識器官が、いろんな視角から世界を投影して盤を形成している。

ティアの呼吸、心音、分泌されている体液から、装備品の損傷や疲労感までもが手に取るように分かる。

外面に現われている情報が網羅されている。

それが事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドの半径2キロの範囲で行われているのだ。

視点が様々で足が地に付いていない気分だった。

爪先で地面を蹴りつけ、感覚で認識を取り戻していく。


「心配かけたか?」

「ヌケヌケとほざくな。

お前もビィーナと同じく折檻してやる」

「おお、怖ぁ。

折檻も説教も遠慮したいな。

この危機を回避したら、無しってのはどうだ?」

「そんな都合よくって、お前何を!」


俺に意図に気が付き、ティアは焦る。


「安心しな。

理由は知らんが、俺以上に(ゲート)を扱える人間はこの世にいない、そう推測したところだ」


自分でも意味不明な台詞だと苦笑しながら、全包囲網から襲い掛かってくるフォーリジャーを一瞥した。


「又やらかす気かっ、止めろ!」


この状況下でもティアは俺の身を気遣って、制止を訴えてくる。


「安心しろって!」


大声をあげながら、突破口を開こうと飛び出そうとするティアを首に腕を回しその行動を阻止する。

そして空いている左手に握られている銃口を早撃ちの要領で、全方位に銃弾を放つ。

その際、銃口の先には空間を覆っている歪みを直通にするように調整がなされ、指向力がこちらの空間に呼び出される。

放たれた弾は莫大な加速を得、大気を突き抜けていく。

音速弾(ショルブリッド)だ。

しかも、放たれた8発の銃弾全てに加速が成されていた。

膨大な情報を処理しきり、一片のフィードバックを受けることなく、それをこなした。

大気が濁流し、そして引き連れられて俺を中心に離れていく。

突撃中にフォーリジャーの顔面を半ばから剥ぎ取ったり、片足を奪ったり、胸に風穴を空けていく。

フォーリジャーの勢いは、俺の放った8発の弾丸により殺ぎ落とされた。

その光景にティアはギギギと音がしそうな感じで、俺の方に首を向け、唖然とした顔を見せる。


「なぁ、安心しろって言ったろ。

これで説教はともかく、折檻は勘弁な」


そう答えながら、完全に勢いを殺されたフォーリジャーに容赦なく弾丸の嵐を見舞う。

流石に立て続けに(ゲート)を遣えるほど熟知している訳ではないので、火薬に頼った普通の発砲だ。

少しでも確実性を上げる為に、接近戦闘に持ち込み、弾丸を内に叩き込んでいく。

呆然としたティアも正気に戻り、続く。

とても片手に人を抱えていると想えない傑出した素早さで翻弄しながら、剣を振るっていく。

ものの5分もしない内に、この辺りの敵を全滅させてしまう。

互いに肩で息をしながら、フォーリジャーの血で濡れた顔を見合う。


「…お前、どうやって」

「詳しく説明してやりたいのは山々だが、俺にも漠然としていてな。

生き延びたら話すわ」


俺は事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドでセプトと名乗ったフォーリジャーを探してみる。

2キロという広範囲での散策にも関わらず、姿を捉えることは出来なかった。

もうここら辺にはいないのだろう。


(セプト ゴノス…。

線が交わる者か)


「ティア様、ご無事ですか?」


轟音を掻き分け、ティアを呼ぶ声がする。


「様だってよ。

あの演説は効果覿面だったらしいな」

「うるせい」


確かハーシアと呼ばれていた騎士だ。

短髪の黒髪の青年が馬をまわしてくる。


「俺は無事だが、負傷者が一名いる。

そっちは?」

「勢いに乗っているものの、如何せん数が。

被害は増える一方です」


その後に続く言葉を飲み込むのが窺えた。

皆が次第に、抱いている暗い感情の濃さが増しているのを想像できた。

悔しげに唇を噛み締めるハーミア。

それに釣られ、俺にも不安が過ぎる。


「これ以上数が増えなければ勝てるか?」


ティアが1人、暗い感情に侵食されることなく騎士に問い質す。

問われている意味が理解できないで、ハーミアは当惑している。


「勝てるかと訊いているっ!」

「ハッ、勝ちますっ!」


ティアの一喝に、騎士は勝てるではなく、勝ちに行くと発言した。

その答えに満足したティアは、抱えている負傷者をハーミアに手渡す。


「なら止めてやる。

副団長にそう伝えとけ」


ティアは言い切った。

ハーミアの顔が歓喜に染まるのが見て取れた。

そして俺も。

知らずに俺も騎士もティアの自信に突き動かされていた。


「伝令と負傷者を頼むぞ」

「ハッ、必ず!」


負傷者を馬から落とさないように支えると、ハーミアは踵を反転させて、本陣の方角に馬を走らせていく。

俺が口を開こうとするのを防ぐように、ティアが先手で話しかけてくる。


「今更、どうするなんて訊かないだろうな」

「はぁ~、その様子だと行き当たりばったりだな。

弱音なんて吐き疲れたし、予定が未定なら歪みの中核を目指してみないか?

原因の痕跡があるかもしれない」


本当に何も考えていなかったのだろう。

それなのにあんな宣言をするあたり、大物かもしれない。

…こいつの場合、馬鹿か。


「その提案で行こう。

前は急げだ!」


無計画だとばらすような焦った声で、ティアは俺を促し、走り出す。

俺もそれに続きながら事象戦略盤フェノメノンタクティクスワールドの視点で、中核を偵察する。


(…あれはなんだ!)


どす黒い穴がポッカリと空いている。

それが中核にあった。

その下にフォーリジャーが潰したのか、残骸があった。

…考えたくはないが、あれが恐らくこのゲシュタルトを起こす為の装置の成れの果てなのだろう。

俺はその真実をティアの伝えるのが憚られ、沈黙してしまう。

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