【神無き地に】 BX-04の実力
研ぎ澄まされた感覚。
視覚、聴覚、嗅覚、感覚。
どれもが2ヶ月前とは比べものにならない程に鋭利になっている。
情報管理送還装置を使用しなくても、僅かな変動を目が、耳が、鼻が、皮膚が感知し、判断材料を掻き集めていく。
唯一、味覚だけが破滅的に破壊されたが…。
ティアのサイドを馬が駆ける。
前方から迫ろうとしているフォーリジャーの脇を擦り抜けながら、その眼球に大槍を突き立っていく。
少しでもフォーリジャーの激突を喰らえば即死は免れないのに、巨躯の横をスレスレで抜けながら、致命傷を負わせていく。
大した度胸と技だった。
フォーリジャーの皮膚は銃弾を跳ね返すほどの強度を誇っている。
その為、人の膂力で貫くのは至難の技となる。
結果、ダメージを与えられる部分は限られてくる。
穴だ。
体内に続く穴こそが、強固な鎧を持つフォーリジャーを打倒する急所。
巨躯とは思えない速度で走れるフォーリジャー相手に、限られた部分を狙う為には、同等以上の機動力と旋回性が必要となる。
これが草原の騎士の発端だった。
片目を奪われたフォーリジャーはバランスを崩しかける。
そこへ、横手から違う2人の騎士が飛び込む。
フォーリジャーの横腹に馬の前足が炸裂し、そのまま横に倒れてしまう。
打倒フォーリジャー。
そのもう一つが短足なため、1度転ぶと中々起き上がれないのだ。
転がってしまったフォーリジャーに、止めと騎士が残りの眼球に剣を刺す。
ブォォォォ!!
雄叫びと騎士の勝鬨があがる。
(情報は確かだな、草原の騎士。
敵に回していたなら、恐ろしい相手だった)
巧みに馬を操る様は、一心同体を想わす。
そして波状な連携。
いくら狭い場所だったとはいえ、組み伏せられたのはマグレではない。
敵に回していたらと考え、ティアはゾッとする。
血塗られた鉾が崩壊の予兆を起こさなければ誘導にならないと、作戦を立てた理由が理解できた。
今は頼もしい限りだった。
(敵は数えれない程いるんだ。
傍観してる場合じゃないぞ)
ティアも行動を開始する。
馬とフォーリジャーが跋扈する空間に踏み出す。
前方に巨大な敵影を確認した。
横手だったので、そのまま疾走して横につく。
フォーリジャーがこちらを察し、振りかぶる前に脇に掌を当てる。
ドンッ!
全速力を踏み込みを掌底収束させて放つ。
腰の回転も相成って、総合された力の奔流が生まれる。
10トンはくだらないフォーリジャーが2回転ほどして転がる。
(重!
ちっ、腕が軋むぞ)
反動で地面に足が埋まり、力の発射口にした腕が痺れる。
騎士の間からどよめきが起こる。
素手であの巨体を転がしたのだ。
そんな者が味方と知り、士気に反響した。
転がった敵を騎士に任せ、横手から迫ってくるフォーリジャーの気配から、素早く埋まった足を引き抜き、跳躍する。
フォーリジャーの頭上まで、軽く飛び上がったティアはそのまま眉間に乗ってしまう。
銃を引き抜き、眼球に向かって発砲する。
5発も叩き込むと、フォーリジャーの体か斜になり、転倒する。
「次」
転倒前に地に降り立ち、左手に銃を持ち換えると次なる標的に走る。
ティアに先導されるように、騎士もその勢いに続く。
騎士と奮闘している1体の元に辿り着く。
騎士は敵の廻りを素早く移動して翻弄している。
ティアにとって、動きの止めたフォーリジャーはものの数ではない。
走行中の馬に備え付けてある槍を奪い、そのままフォーリジャーに目掛けて全力投槍する。
バチッ!
火花を散らし槍が半ば近くまで突き刺さる。
これを見ていた騎士が唖然とする。
どれだけの膂力で投げれば、フォーリジャーの硬い装甲に刺さるのだろうかと。
騎士が携帯している剣はフォーリジャーの皮膚を加工して作られた特別性だが、槍の方は劣る鉄使用だった。
それで穴以外の部分からダメージを与えているのだ。
騎士の常識からして、無茶苦茶な光景だった。
長槍が半分近く刺さったフォーリジャーは内臓をヤられた苦しみから、暴れだそうとしている。
その前にティアは接近し、生えている槍を握りこむ。
「フンッ」
腕を回転させ、槍を全部捻じり込む。
一際大きな叫び声を上げ、横倒しになる。
ティアの槍から伝わってきた感触から、重要器官を潰したと判断して次に向かう。
槍を捻じ込まれたフォーリジャーは痙攣後に動かなくなる。
これまでの所要時間、僅か3分。
1分1殺の速さで敵を葬っていく。
「っ、下がれ!」
皮膚が微妙な空気の流れを上空から感じる。
ティアと共に先行していた騎士が、咄嗟に指示に従う。
予測通り、上空から新たな敵が出現する。
先程ティア達がいた場所の土煙をあげながら、落下してきた。
危うく出来損ないのセンベイになるところだった。
(嘘のように感覚が鋭い。
目を瞑っても、状況が掴めそうだ)
降り立ったばかりのフォーリジャー相手に、コンバットナイフを抜き放ち、ティアは素早く顎下に滑り込む。
そして全身を天に突き上げるような形で、顎下の柔らかい部分をコンバットナイフで突き上げる。
先端が突起した得物とティアの膂力が加わり、割と簡単に皮膚を突き破り顔の内部に刃物を割り込ませる。
ブチュ。
気色の悪い感触が腕を包み込む。
生暖かい内層から腕を引き抜き、そこに3発程銃弾を叩き込んでおく。
バックステップでその場から退避すると、顎下から大量の体液を流しながらフォーリジャーは顔から地面に臥す。
(未だ4匹か、先は長いぞ)
防衛ラインの辺りから、どんどんと死骸の山が築かれ、フォーリジャーはそれが邪魔をして想うように前進できなくなっている。
想わぬ堤防となっていた。
(この調子で囲むか)
そう考えたティアは崩壊の兆しの周りから責めることにするのだった。
※
異様としか言えない。
騎士達はうろたえていた。
こちらに体躯を向け、突撃してこようとするフォーリジャーが突如、四肢をもがれ、悲痛な叫び声をあげた。
次は隣にいたフォーリジャーに異変が。
ゴトッ。
重い物が落ちる音がする。
それはフォーリジャーの頭だった。
訳が分からない。
見えない鋭利な刃が次々にフォーリジャーを切り刻んでいく。
(デカイと解体も大変)
騎士は畏怖から、こちらに近づいてこない。
それが正解だとビィーナは想う。
どうせ、自分の姿を捉えれる者はいないのだ。
能力がそこそこの者では、ビィーナにとって足手まとい以外にしか成り得ない。
(ジャマされないだけマシ)
そう結論付け、ビィーナはフォーリジャーに斬りかかる。
フォーリジャーにすら、ビィーナを視認することができず、目の前で倒れていく仲間に本能が怯えを抱いていく。
ビィーナはフォーリジャーの関節など、繋ぎ目を瞬間で刃を通し、機動力及び、その生命活動を奪っていく。
どんなに強固な鎧を纏っていようとも、可動するために必要な駆動部分はある程度でしか固められない。
その僅かな隙間に圧倒的な速度の居合いを討ち込む。
ナイフでチーズを切るかのように、フォーリジャーを解体していく。
斬り口は、細胞が潰れておらず、くっ付ければ繋がりそうなほど綺麗だった。
高い技能と眼があればこそ成せる現象。
(適度に流すか)
ビィーナは30パーセントぐらいの能力で戦っていた。
先を見据え、持久戦なると踏んでいるのと、本気になる相手でないと思惟したからだ。
姿無き敵。
それがどれ程恐ろしいものか。
いくら国を脅かすものとはいえ、この一方的な殺戮を目撃していた騎士は、震えを禁じえなかった。
これは戦いではなく、狩りだと。
※
シルーセルが構えた銃から硝煙が発される。
3連続で吐かれた銃弾は、騎士に襲いかかろうとしていたフォーリジャーの足関節部分を的確に撃つ。
1発目が弾かれそうになる後ろ手から2発目、3発と立て続けに同じ箇所に命中していく。
2発目で皮膚を突き破り、3発目で内部に侵入し、足に穴を空けられたフォーリジャーは自分の体重を支えきれなくなり、転倒する。
その間に騎士は安全地区まで避難を完了させていた。
(脆い部分への連撃ならいける)
フォーリジャー相手に門の使用を禁止されて、正直不安だった。
ティアと違い圧倒的な身体能力があるでないし、ビィーナみたいに強くもない。
あるのは神業と持ち上げられている銃の腕前のみ。
銃弾では貫けない体を持つフォーリジャー相手ではこんな技能、役に立たないのではと。
(思い違いも甚だしいな。
俺は何を学んでいたんだ)
凛が説いていたのは、勝つ為に思考法。
手持ちのカードで勝算を捻り出し、限りなく100パーセントに近づけるものだ。
凛の理念に負けた時の思考は用意されていない。
翌々考えれば、自分達よりも能力が劣っている騎士が、今日までカリオストをフォーリジャーから守ってきたのだ。
手なら幾らでもある。
脳裡に投影される盤から、このポイントを囲むように移動する2つの人間を捉えた。
片方は右廻り、もう一つは左廻り。
それにより完成されていく防波堤。
(ティアとビィーナか。
状況を把握して、動いてやがるな。
なら、俺は中心部を目指すか)
シルーセルはフォーリジャーと騎士の間を擦りぬけ、中心部を目指す。
血塗られた鉾が持ちこんだ、空間をこれだけ歪ます何かがある筈だと。
直ぐに肉の壁が立ち塞がり、囲まれてしまう。
数は6。
(凛に感謝しないとな)
両手に銃を構える。
片方はシルーセルが持参したもの。
片方は凛がビィーナに持たせた非常用の武器だった。
それとシルーセルが肩に担いでいるバックには、山に様な銃弾が詰め込まれていた。
バックには伝言が挟まれていた。
『思慮の足りない貴方に貸し、ご利用は計画的に』と。
明らかにこの事態が陥ると想定して持参していたのだ。
(俺らのリーダーと認めるしかないよな)
6匹の獣が1人の獲物を料理しようと、舌なめずりをしながら迫ってくる。
馬並みの脚力で地を削り、突進してくる。
シルーセルは其方を見ずに人差し指をひたすらに曲げ、引鉄を引き続ける。
吐き出し終えると、素早くリロードし弾を装填し直す。
双銃に装填を終えると、この場に用は無いとシルーセルは駆け出して行ってしまう。
囲っていたフォーリジャーが次々に地を揺るがしながら倒れていく。
1匹は両眼球を撃ち抜かれ、あるものは自重に耐え切れなくなるまでに関節を破壊されたりと、まともに動けるものは1匹たりともいなかった。
凄まじいまでに射的能力が織り成す、ピンポイント攻撃。
(今なら分かる、凛の覚悟ってヤツが!)
鋼鉄の強固さ、それに反し柔軟な柳であれ。
凛は俺らにその矛盾を説いた。
鋼鉄の強固さは、現象としっかりと認識しこれに基づける、知識の理。
柔軟な柳は、常識が当てはまらない事象すら受け入れこれを考察する、知恵の理。
それを肉体に裏返すことこそが、戦いにおける覚悟なのだと。
(冷静に事象を判断し、沈着に行動を起こせ。
沈着に受け入れ、冷静に乗り越えよ。
これが凛の確立しようとしている、戦場の覚悟)
シルーセルの中に焦燥は無かった。
こんな殺伐した状況下で、風のそよぎすら感じられるほどに心中が充実していた。
シルーセルは、それが本当の郷愁の念だと気が付くことなく。




