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蒼刻の彼方に  作者: ドグウサン
1章 胎動する者達
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【神無き地に】 BX-04の実力

研ぎ澄まされた感覚。

視覚、聴覚、嗅覚、感覚。

どれもが2ヶ月前とは比べものにならない程に鋭利になっている。

情報管理送還装置(ライブラ)を使用しなくても、僅かな変動を目が、耳が、鼻が、皮膚が感知し、判断材料を掻き集めていく。

唯一、味覚だけが破滅的に破壊されたが…。

ティアのサイドを馬が駆ける。

前方から迫ろうとしているフォーリジャーの脇を擦り抜けながら、その眼球に大槍を突き立っていく。

少しでもフォーリジャーの激突を喰らえば即死は免れないのに、巨躯の横をスレスレで抜けながら、致命傷を負わせていく。

大した度胸と技だった。

フォーリジャーの皮膚は銃弾を跳ね返すほどの強度を誇っている。

その為、人の膂力で貫くのは至難の技となる。

結果、ダメージを与えられる部分は限られてくる。

穴だ。

体内に続く穴こそが、強固な鎧を持つフォーリジャーを打倒する急所。

巨躯とは思えない速度で走れるフォーリジャー相手に、限られた部分を狙う為には、同等以上の機動力と旋回性が必要となる。

これが草原の騎士の発端だった。

片目を奪われたフォーリジャーはバランスを崩しかける。

そこへ、横手から違う2人の騎士が飛び込む。

フォーリジャーの横腹に馬の前足が炸裂し、そのまま横に倒れてしまう。

打倒フォーリジャー。

そのもう一つが短足なため、1度転ぶと中々起き上がれないのだ。

転がってしまったフォーリジャーに、止めと騎士が残りの眼球に剣を刺す。

ブォォォォ!!

雄叫びと騎士の勝鬨があがる。


(情報は確かだな、草原の騎士。

敵に回していたなら、恐ろしい相手だった)


巧みに馬を操る様は、一心同体を想わす。

そして波状な連携。

いくら狭い場所だったとはいえ、組み伏せられたのはマグレではない。

敵に回していたらと考え、ティアはゾッとする。

血塗られた鉾(ミストルティン)崩壊の予兆(バロックゲシュタルト)を起こさなければ誘導にならないと、作戦を立てた理由が理解できた。

今は頼もしい限りだった。


(敵は数えれない程いるんだ。

傍観してる場合じゃないぞ)


ティアも行動を開始する。

馬とフォーリジャーが跋扈する空間に踏み出す。

前方に巨大な敵影を確認した。

横手だったので、そのまま疾走して横につく。

フォーリジャーがこちらを察し、振りかぶる前に脇に掌を当てる。

ドンッ!

全速力を踏み込みを掌底収束させて放つ。

腰の回転も相成って、総合された力の奔流が生まれる。

10トンはくだらないフォーリジャーが2回転ほどして転がる。


(重!

ちっ、腕が軋むぞ)


反動で地面に足が埋まり、力の発射口にした腕が痺れる。

騎士の間からどよめきが起こる。

素手であの巨体を転がしたのだ。

そんな者が味方と知り、士気に反響した。

転がった敵を騎士に任せ、横手から迫ってくるフォーリジャーの気配から、素早く埋まった足を引き抜き、跳躍する。

フォーリジャーの頭上まで、軽く飛び上がったティアはそのまま眉間に乗ってしまう。

銃を引き抜き、眼球に向かって発砲する。

5発も叩き込むと、フォーリジャーの体か斜になり、転倒する。


「次」


転倒前に地に降り立ち、左手に銃を持ち換えると次なる標的に走る。

ティアに先導されるように、騎士もその勢いに続く。

騎士と奮闘している1体の元に辿り着く。

騎士は敵の廻りを素早く移動して翻弄している。

ティアにとって、動きの止めたフォーリジャーはものの数ではない。

走行中の馬に備え付けてある槍を奪い、そのままフォーリジャーに目掛けて全力投槍する。

バチッ!

火花を散らし槍が半ば近くまで突き刺さる。

これを見ていた騎士が唖然とする。

どれだけの膂力で投げれば、フォーリジャーの硬い装甲に刺さるのだろうかと。

騎士が携帯している剣はフォーリジャーの皮膚を加工して作られた特別性だが、槍の方は劣る鉄使用だった。

それで穴以外の部分からダメージを与えているのだ。

騎士の常識からして、無茶苦茶な光景だった。

長槍が半分近く刺さったフォーリジャーは内臓をヤられた苦しみから、暴れだそうとしている。

その前にティアは接近し、生えている槍を握りこむ。


「フンッ」


腕を回転させ、槍を全部捻じり込む。

一際大きな叫び声を上げ、横倒しになる。

ティアの槍から伝わってきた感触から、重要器官を潰したと判断して次に向かう。

槍を捻じ込まれたフォーリジャーは痙攣後に動かなくなる。

これまでの所要時間、僅か3分。

1分1殺の速さで敵を葬っていく。


「っ、下がれ!」


皮膚が微妙な空気の流れを上空から感じる。

ティアと共に先行していた騎士が、咄嗟に指示に従う。

予測通り、上空から新たな敵が出現する。

先程ティア達がいた場所の土煙をあげながら、落下してきた。

危うく出来損ないのセンベイになるところだった。


(嘘のように感覚が鋭い。

目を瞑っても、状況が掴めそうだ)


降り立ったばかりのフォーリジャー相手に、コンバットナイフを抜き放ち、ティアは素早く顎下に滑り込む。

そして全身を天に突き上げるような形で、顎下の柔らかい部分をコンバットナイフで突き上げる。

先端が突起した得物とティアの膂力が加わり、割と簡単に皮膚を突き破り顔の内部に刃物を割り込ませる。

ブチュ。

気色の悪い感触が腕を包み込む。

生暖かい内層から腕を引き抜き、そこに3発程銃弾を叩き込んでおく。

バックステップでその場から退避すると、顎下から大量の体液を流しながらフォーリジャーは顔から地面に臥す。


(未だ4匹か、先は長いぞ)


防衛ラインの辺りから、どんどんと死骸の山が築かれ、フォーリジャーはそれが邪魔をして想うように前進できなくなっている。

想わぬ堤防となっていた。


(この調子で囲むか)


そう考えたティアは崩壊の兆し(バロックポイント)の周りから責めることにするのだった。




異様としか言えない。

騎士達はうろたえていた。

こちらに体躯を向け、突撃してこようとするフォーリジャーが突如、四肢をもがれ、悲痛な叫び声をあげた。

次は隣にいたフォーリジャーに異変が。

ゴトッ。

重い物が落ちる音がする。

それはフォーリジャーの頭だった。

訳が分からない。

見えない鋭利な刃が次々にフォーリジャーを切り刻んでいく。


(デカイと解体も大変)


騎士は畏怖から、こちらに近づいてこない。

それが正解だとビィーナは想う。

どうせ、自分の姿を捉えれる者はいないのだ。

能力がそこそこの者では、ビィーナにとって足手まとい以外にしか成り得ない。


(ジャマされないだけマシ)


そう結論付け、ビィーナはフォーリジャーに斬りかかる。

フォーリジャーにすら、ビィーナを視認することができず、目の前で倒れていく仲間に本能が怯えを抱いていく。

ビィーナはフォーリジャーの関節など、繋ぎ目を瞬間で刃を通し、機動力及び、その生命活動を奪っていく。

どんなに強固な鎧を纏っていようとも、可動するために必要な駆動部分はある程度でしか固められない。

その僅かな隙間に圧倒的な速度の居合いを討ち込む。

ナイフでチーズを切るかのように、フォーリジャーを解体していく。

斬り口は、細胞が潰れておらず、くっ付ければ繋がりそうなほど綺麗だった。

高い技能と眼があればこそ成せる現象。


(適度に流すか)


ビィーナは30パーセントぐらいの能力で戦っていた。

先を見据え、持久戦なると踏んでいるのと、本気になる相手でないと思惟したからだ。

姿無き敵。

それがどれ程恐ろしいものか。

いくら国を脅かすものとはいえ、この一方的な殺戮を目撃していた騎士は、震えを禁じえなかった。

これは戦いではなく、狩りだと。




シルーセルが構えた銃から硝煙が発される。

3連続で吐かれた銃弾は、騎士に襲いかかろうとしていたフォーリジャーの足関節部分を的確に撃つ。

1発目が弾かれそうになる後ろ手から2発目、3発と立て続けに同じ箇所に命中していく。

2発目で皮膚を突き破り、3発目で内部に侵入し、足に穴を空けられたフォーリジャーは自分の体重を支えきれなくなり、転倒する。

その間に騎士は安全地区まで避難を完了させていた。


(脆い部分への連撃ならいける)


フォーリジャー相手に(ゲート)の使用を禁止されて、正直不安だった。

ティアと違い圧倒的な身体能力があるでないし、ビィーナみたいに強くもない。

あるのは神業と持ち上げられている銃の腕前のみ。

銃弾では貫けない体を持つフォーリジャー相手ではこんな技能、役に立たないのではと。


(思い違いも甚だしいな。

俺は何を学んでいたんだ)


凛が説いていたのは、勝つ為に思考法。

手持ちのカードで勝算を捻り出し、限りなく100パーセントに近づけるものだ。

凛の理念に負けた時の思考は用意されていない。

翌々考えれば、自分達よりも能力が劣っている騎士が、今日までカリオストをフォーリジャーから守ってきたのだ。

手なら幾らでもある。

脳裡に投影される盤から、このポイントを囲むように移動する2つの人間を捉えた。

片方は右廻り、もう一つは左廻り。

それにより完成されていく防波堤。


(ティアとビィーナか。

状況を把握して、動いてやがるな。

なら、俺は中心部を目指すか)


シルーセルはフォーリジャーと騎士の間を擦りぬけ、中心部を目指す。

血塗られた鉾(ミストルティン)が持ちこんだ、空間をこれだけ歪ます何かがある筈だと。

直ぐに肉の壁が立ち塞がり、囲まれてしまう。

数は6。


(凛に感謝しないとな)


両手に銃を構える。

片方はシルーセルが持参したもの。

片方は凛がビィーナに持たせた非常用の武器だった。

それとシルーセルが肩に担いでいるバックには、山に様な銃弾が詰め込まれていた。

バックには伝言が挟まれていた。

『思慮の足りない貴方に貸し、ご利用は計画的に』と。

明らかにこの事態が陥ると想定して持参していたのだ。


(俺らのリーダーと認めるしかないよな)


6匹の獣が1人の獲物を料理しようと、舌なめずりをしながら迫ってくる。

馬並みの脚力で地を削り、突進してくる。

シルーセルは其方を見ずに人差し指をひたすらに曲げ、引鉄を引き続ける。

吐き出し終えると、素早くリロードし弾を装填し直す。

双銃に装填を終えると、この場に用は無いとシルーセルは駆け出して行ってしまう。

囲っていたフォーリジャーが次々に地を揺るがしながら倒れていく。

1匹は両眼球を撃ち抜かれ、あるものは自重に耐え切れなくなるまでに関節を破壊されたりと、まともに動けるものは1匹たりともいなかった。

凄まじいまでに射的能力が織り成す、ピンポイント攻撃。


(今なら分かる、凛の覚悟ってヤツが!)


鋼鉄の強固さ、それに反し柔軟な柳であれ。

凛は俺らにその矛盾を説いた。

鋼鉄の強固さは、現象としっかりと認識しこれに基づける、知識の理。

柔軟な柳は、常識が当てはまらない事象すら受け入れこれを考察する、知恵の理。

それを肉体に裏返すことこそが、戦いにおける覚悟なのだと。


(冷静に事象を判断し、沈着に行動を起こせ。

沈着に受け入れ、冷静に乗り越えよ。

これが凛の確立しようとしている、戦場の覚悟)


シルーセルの中に焦燥は無かった。

こんな殺伐した状況下で、風のそよぎすら感じられるほどに心中が充実していた。

シルーセルは、それが本当の郷愁の念だと気が付くことなく。

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