【国を背負いし者達】 三面思顔
「司令、メリュッテンスから緊急連絡が!
回線繋ぎます!」
指令系統が殆ど断ち切られ、そして最後の連絡網から緊急を要する連絡が入る。
(これ以上なにが崩れると言うんだ!)
絶望の足音が真後ろまで迫っているのを感じる。
そして回線が繋がれ、スピーカーから行き絶え絶えの声が毀れてくる。
『こ・ちら、ピル・ムムル・ス・・、いら・いしゃ・・のご・えいに・・んむまっと・うできず。
メ・リュッテ・ンスは・・・』
ガ・ガガピィ――・・・・。
それ以来通信機は声を紡ぐ出すことはかった。
「馬鹿な、それでは」
「ゲームオーバーだな、コメース殿」
司令部にその男は忽然と立っていた。
この場にいた全員が、男の出現を感知することがなく、その声で初めて男の存在を知ったのだった。
コメースはその声に覚えがあった。
後ろを向けば、ボリボリと頭を掻きながら予想通りの男がいた。
無精髭とボサボサで手入れの欠片すら窺えない髪形。
茶色いカッターシャツを半分だけズボンに入れ、残り半分はグシャグシャのまま、だらしなく外に出ている。
典型的な駄目男を模ったような男だった。
「ガ・イラ」
口にして、恐怖が表面化してきた。
風貌とは裏腹に、この男に恐れを抱かないものはこの血塗られた鉾の1人しかいない。
血塗られた鉾社長アイスのみ。
この男こそ、血塗られた鉾最強の部隊、執行者隊長、ガイラ ノーザン。
「コメース殿、僭越過ぎたな。
古参だからいって許される範囲じゃないぜ。
研究中のバロックホイールの持ち出し、そして崩壊の兆しに断りもなく手を出した。
正直、ここまでは容認してたんだが、これは頂けなねぇな」
ガイラは計器を指す。
空間歪曲率が80を突破していた。
「完全に崩壊の予兆だな、これは。
お蔭で休暇中だった俺が呼び出される事態だ。
お冠だぞ、執行者の気性の荒い隊員どもは。
おい、そこの通信兵」
「は、はい!」
「レベルSの警報を鳴らせ。
お遊びは御終いだと、執行者の隊員どもに教えて遣れ」
「まっ、待ってくれ、もう少しだけ!」
この計画を成功させる為に、生徒ながら最高の駒を手回しして用意したのだ。
未だ、終わった訳ではないと訴えた。
「条項第23条に則り、依頼主の死によりこのミッションは破棄された。
もう、待つ要素は無いんだよ」
ガイラはスッと右人差し指が動き、コメースの額に当てられる。
「カリカリしてんな。
カルシウム不足だ、休憩してな」
コメースが口から悲鳴が漏れる前に、その頭が微かに揺れる。
そして白目を向いたコメースは膝から崩れ落ち、そのまま床に転がる。
「このゴミを牢に放り込んでおけ。
処罰はアイス様が下すからな。
ここに居る者は指示があるまで、各自のバカンスを楽しんでくれ。
…俺の分まで」
休暇をふいされたと、泣く泣くこの場を去っていく。
司令室を出ると、老人が然と立ち塞がっていた。
「誰かと想えば、汪虎か」
「その名と国を奪った男が口にするか」
「そうだな、失礼に値するな。
で、何の用だ、テリト殿」
チームBX―04の顧問にして、学園の保険医であるテリトだった。
「頼みがあって来た」
「頼み、アンタがか?」
可笑しな話だった。
世を捨てた男が、今更何かに干渉しようとしている。
頼みとは、廻りに影響を与えると言うことだからだ。
「話は概ね聞いた。
ゲシュタルトが発生したなら、お主ら執行者が出動するのだろう。
…ワシも連れて行って欲しい」
「…確かにその通りだ。
だが、何故に」
「この作戦に関わっているチームは、ワシが顧問なんじゃよ。
ちょっとした感慨じゃ」
「ちょっとしたね。
…良いぜ、アンタには借りがあるしな」
「借りじゃと。
覚えがないな」
「だろうな。
人って存在はそこにいるだけで、何かしら周りに影響を及ぼしているものだ。
そしてアンタは俺にとってその存在だった。
覚えが無くて当たり前だ」
「押し売りか。
まあ、良い」
「1時間後だ。
準備を済ませて、執行者の詰め所に来な」
「分かった」
テリトは了承すると、スタスタと去っていく。
その様を見ていたガイラは狂喜した。
足音等欠片もさせず、そして上下左右のブレすらさせないで、テリトは当たり前のように走って見せたのだ。
その技巧の高さ、ガイラが知る限りテリト以上の者は存在しない。
(戻ってきたか!
汪虎の名を持つ戦士が!)
去った通路を歓喜の眼差しが貫く。
久しく忘れていた血の滾りが、だらしなかった顔を引き締め、狂気に彩らせていく。
その煌々とした表情は獲物を見つけた、獣のそれだった。
※
(回線クラッキング、…偽装成功か)
(尻拭いはお気に召しませんか?)
(はんっ!
黄は赤に甘いだよ)
(これぐらい構いません。
それよりも、このまま赤を行かせては、機構が崩壊してしまうでしょう。
赤は形を変容させた為、能力が大幅に削減されている)
(…基盤になる気か)
(構築し直す余裕はありません。
それに元は1つ、大丈夫でしょう)
(そんなことをすれば、お前は!)
(青、私はこの10年、傍観者として徹してきましたが、赤の喜怒哀楽を通して、色々なものを受けれて良かったと想っています。
もう、私も赤なのだと)
(違う!
それは徹して、そう想わざる得ない状態だったからだ!
それは錯覚に過ぎない!)
(そうでしょうね。
でも、私はそれで良い。
だから、赤の目的に達する為に必要なら、私が基盤と成りましょう)
(…止めても無駄なんだな、どうして)
(赤が1人の人間として生き、そして思い出を積み重ねる。
それを止めたくないんです。
想像できましたか?
私たちの1人が人を好きになってしまうなんて)
(醜い感情だ)
(そして羨ましい)
(…好きにしろ。
尻拭いはこれからもしてやる)
(あの方に伝えておいてください、下車してしまい済みませんと)
(気にするお方かよ、…あばよ)
(さようなら、青、そして赤)




