【国を背負いし者達】 感銘せし想い
「お見事。
俺まで出番が回らなかったな」
ティアの後部で銃を構えていたシルーセルは、必要無くなった凶器をしまう。
ティアが万が一にも抜けられた時の為に。
「ここまでお膳立てされてればな。
俺の手柄じゃない」
謙遜ではなく真実だった。
この場所と利点と計略を立てたのはシルーセルだった。
ワザと捕まっていると噂を流し、先行して忍び込んでいる破壊工作員を誘い込み、打破する。
内に飼っている害虫駆除の一端に成功したのだ。
「予想通りに片割れだけだったな。
セオリーに則って。
さて、問題は残りだな」
「そうだな。
流石に同じ策に嵌めれんしな。
時間が経つと警戒されるかもしれんから、早く次の手を打たないと」
地下への階段を上がり、殺風景の通路まで出る。
その通路脇に乱雑に放置されている粗大ごみ。
それがティアとシルーセルが身を潜めていた場所だった。
「流石はビィーナ直伝の隠形術。
まるで勘付かれなかった」
「あぁ。
まあ、本人から言わせれば不細工だそうだが、それでも血塗られた鉾にも通用するレベルとはな。
…アイツが本気に成ったら、誰も感知出来ないんじゃないのか?」
そう言葉にして、ティアだけが大気に違和感を覚える。
「もしかしたら、隣にいたりしてな」
等と冗談吹いてみせるシルーセル。
だが、その冗談に反応する者がいた。
「うん、おホめの言葉をチョウダイしてるよ」
声をかけられて、2人は隣で平然と壁に寄り掛かっている存在に気が付く。
ショートカットの髪に、人を和ますような目元。
それに反して血生臭さを漂わせている。
観察すれば、髪に付着している着色は赤黒、乾燥した血だった。
…認識すると、その匂いが鼻腔を突く。
そうして、やっと人の居る大気の揺らぎを2人は感知した。
サイレントキリングを得意とし、存在しない敵の異名で戦場を震いあがらせし者。
ビィーナ トイアムトが散歩で偶然出くわしたような挨拶をしながら、この場にいた。
「あ、なるほど」
状況は最悪なわりに、ティアは妙に納得した。
違和感の正体が分かったからだ
シルーセルは言葉を失っている。
現在最強最悪の敵が、然として目の前に現われたのだ。
胸元まで込上げてきた悲鳴をグッと堪えた。
そこへ悪化の一途を辿る事態が生じる。
「何事か!」
ティアが壁を破壊する音を聞き付けて、カールが3名の騎士を率いて死神の前に現われたのだ。
謁見の間にいた騎士達だ。
「こいつが!」
作戦の内容から察したのだ。
この女こそ血塗られた鉾の刺客だと。
カールを含め4人は、腰の鞘からバスターソードを抜き放ち、電光がその凶器をヌラリと光らせる。
それを見たビィーナは戦闘モードに移行していく。
敵意を向けるものに対して、自動的に。
人としても温かみが失せ、冷酷、いや機械的な動作、つまり草を刈るように殺しを開始しようとしていた。
「やっ、止めろ!」
ビィーナの変貌を目の当たりにしたシルーセルは、この後に訪れるであろう惨劇を阻止すべく、ビィーナに銃口を向ける。
そんな中、客観的に物事を観察していたティアだけが、ここに居る者達の早合点を察した。
(ちっ、ビィーナの実力と移行に冷静さを失いやがって!)
パアッ!
銃声が響き、そして赤い滴が床を濡らす。
「落ち着け、ビィーナは誰も殺さない」
ティアはシルーセルの銃口を掌で押さえ、上方に逸らしていた。
お蔭で銃弾は掌を貫き、天井を打ち抜いていた。
行動を終えたビィーナ。
その体制は抜刀し終えたものだった。
「ティア!」
「落ち着けと言っている!
ビィーナが斬ったのは得物だ!」
その言葉が途中から、騎士たちが振り下ろしたバスタードソードが根元から別れ、カラーンと床に落ちていく。
ティアだけがビィーナの視線の先に気が付いた。
ビィーナが攻撃力を奪う為に、抜刀しようとしていることに。
冷静に考えれば、自分たちを始末しに来ただけなら、話しかけずに実行すればいいだけのことなのだ。
その瞬間は存在したのだから。
「ここにいるのは敵じゃない。
騎士も下がれ!」
ティアの声は響き、騎士たちは混乱しながらも下がる。
武器が奪われたことが闘争心をも奪い、沈静化させるのに一役買っていた。
その間にもシルーセルの手と銃を、ティアの湧き出る鮮血が染めていた。
「ビィーナも迂闊な行動を示すな。
唯でさえ、混乱を極めた状況なんだ。
自分から敵に成り下がる行動をしてどうする。
争うために態々来たのか!」
「ご、ごめん」
ティアはそこまで叱咤すると、激痛に呻き声をあげてしまう。
「す、すまねえ!」
冷静さを欠いていたシルーセルは、慌ててしまい銃を取り落としてしまう。
シルーセルとビィーナは済まなそうに顔を伏せてしまう。
ティアは貫通した手の状況チェックし、骨と骨の間を抜けていることに安堵する。
そして、情報管理送還装置を展開させ、歪みで手を覆う。
見る見る内に傷が消滅していく。
(何とか代謝増幅までは可能になったな)
ティアは自分の成長に満足しながら、周囲を見回す。
(…暗い、この暗さはなんだ)
ティアの方向に視線を定めたまま、それぞれが思い悩んでいる様子だった。
「大丈夫か?」
シルーセルはおずおずと訊いてくる。
「ああ、大した怪我じゃ無かったからな、気にするな。
それよりどうしたんだ、こいつ等?」
ビィーナを筆頭に、陰湿な雰囲気を漂わせている面々。
とりあえずビィーナを放って置いて、カールの方に歩み寄る。
そしてカールがポツリと洩らした言葉で、その蒼白な顔の意味を知る。
「これ程の力を血塗られた鉾は」
ティアに視線を固まっていたのは、その血塗られた鉾の力の片鱗を垣間見てしまった所為だった。
魔法を彷彿とさせる力。
そしてビィーナが簡単に遣って退けた武器斬り。
その人間離れした超技に、騎士達は絶望を抱いていることに。
「あのな、こいつは特別で、血塗られた鉾が全員こうって訳じゃ」
説明しようとしてもそれぞれが押し黙り、絶望的な不安を内で増幅させていく。
その光景にティアは沸々と苛立ちが募っていく。
(シルーセルは絶望的な勝機しかないと知りながら、加勢に戻って来たっていうのに、肝心の守りの要どもの反応はどうだ。
浮ばれなねぇぞ!)
「怖いなら逃げろよ」
ティアは、そう騎士に宣告した。
「ティ、ティア!?」
「シルーセルは黙ってろ!
戦う前から心が折れちまった腑抜けが軍団に居てもらったら困るんだよ!
怯えや不安は伝染して、全体の指揮を貶める!」
「なんだと!」
「打ち震える以外は、憤慨するだけか?
芸の無い。
役に立たないから消えろっていってんだよ。
未だ愛国心の無い俺の方が、この国に貢献できる」
「きさま!」
「ちょっと自分より強い者が目の前にいるだけで、怯え、挫かれた者が何を吼える!
この国から去って、子供に語りな。
私は国より家族を取ったってな。
全てはお前たちの為なんだと、擬似英雄譚でも語りながら余生を過ごせ!
滅びた国の面影に怯えながらな!」
理性が切れたのか、4人の騎士は雪崩れるようにティアに襲い掛かってくる。
武器がないので拳を握り、ティアの顔面目掛けて振るわれる。
ティアは殴られてやる義理はないと、それを尽く躱す。
だが、横を固められ、そこからタックルを食らう。
倒れずにそれに耐えたが、その後ろから2人目が圧し掛かって来て、ティアは床に仰向けに倒されてしまう。
そこに横を固めていた騎士が両手を押さえられる。
理性を失くし、雪崩れていたのではなく、連携して襲い掛かっていたのだ。
圧し掛かっていた1人が起き上がる。
カールだった。
「暴言許すまじ!
天誅!」
全体重を掛けたエルボードロップを腹部に叩き込む。
「ゴフッ!」
決まると騎士達は束縛を解いていく。
ティアは鳩尾に入った1撃にのた打ち回る。
ゲホ、ゲホと腹を抱えて起き上がると、そこにカールを先頭に膝を着いて頭を垂れていた。
「なっ、何の真似だ」
「ティア殿。
我ら恐怖に駆られ、本分を見失うところでした。
目が覚めた想いです。
取り乱して申し訳ない。
態々我らの誇りを煽り、本来の目的を思い出させて貰いました」
(…いや、怒りをぶちまけただけなんだが。
そこまで真っ直ぐな解釈をされるとは)
ティアにそこまでの意図は無かった。
あるのはシルーセルの憧れと、血塗られた鉾の恐怖を最も知りながらも祖国の為に離反した想い踏み躙ろうとしている、騎士の姿が許せなかっただけなのだ。
「我らはハーゲン様に忠義を誓いし者。
ですが、今回だけ貴方に膝を付くことを願いたい」
そこまで暴言を尊大に取られてしまうと戸惑ってしまう。
困って、助けを求めてシルーセルに視線を配らせると、感心した様子でこちらを見ていた。
とても助けてくれそうにない。
助け舟は以外なところから拍手と共に現れる。
「見事な演説だった。
カールが私以外に頭を垂れたのを初めて拝まして貰ったよ」
「ハッ、ハーゲン様!」
騎士達は焦った。
主以外に跪いているのを、その主に見られてしまったのだ。
慌てて、立ち上がり、言い訳も浮ばすに沈黙してしまう。
「良い。
それでお前達に忠義心が離れた訳ではあるまい」
「勿論です!」
「なら良かろう。
人生において、そういった場面は幾度か出くわす。
その時にその事柄を認め、先に進める者の方が私は好ましく想うよ。
一個人として彼に感銘することに、何を遠慮する必要がある。
違うか?」
「はっ!」
ティアはハーゲンの方が演説だと想った。
(食えねぇな、ホントに)
これにより、より一層騎士達の忠誠心は上昇しただろう。
場と時を弁え、掌握した行動と発言をする。
カリスマ及び、扇動術に長けている。
ティアの脳裡に皮肉屋の女の姿が浮んでくる。
「でビィーナ、お前を寄越したのは誰だ?
悪いがお前が個人的に離反して、この場にいるとは考えにくいんだが?」
未だに沈んでいるビィーナに成り行きを尋ねる。
誰が敵で味方かも分からない。
1度情報を整理して置かなければ、判断が付かなくなりそうだった。
ビィーナは、思い出したようにいつもの顔を見せるが、その表情から憑き物は落ちていなかった。
「正解。
そうだね、私が説明するより、この預かり物を聴いてもらった方が早いかな」
ビィーナはテープレコーダーを取り出す。
「再生させるよ」
ティアが頷くと、ビィーナが再生のスイッチを押す。
いつの間にか、シルーセル、ハーゲン、騎士の面々も廻りに集まり、レコーダーから流れる声に耳を傾ける。
『ガッ、……テス、テス、エッ、録音押してる?
早く言いなさい!
無駄な音吹き込んだじゃない!』
流れ出す凛とした声音。
出始めがマヌケだった。
『シルーセル、ティア、これを聴いてるって事は、最低でも生きてる証拠ね。
時間が無いから簡潔に説明するわ。
チームBXー04は、これより血塗られた鉾を騙しに掛かるわ。
一蓮托生、もう審査官を手にかけた時点で、私達には後戻りをする猶予を消したわ』
ティアとシルーセルは信じられない爆弾発言を聞いて、驚愕の余りに顔面が強直してしまう。
レコーダーを指しながら、ビィーナに視線を送ると頷いて返してくる。
『作戦内容は至ってシンプル。
ミッション履行の効力を無効にする』
ミッションを不履行にする方法がミストルティンには存在する。
それは依頼者が契約を切るか、依頼者が不幸な事故で亡くなるかだ。
血塗られた鉾が絶対的な存在であると豪語し、立てられ事項だった。
つまり、依頼者は事が終わるまで安全を保障するといったもの。
実際、これまで血塗られた鉾が任務を不履行にされたのは、ビィーナが敵として参戦したアテヌス戦線だけだ。
依頼者の安全率は99%以上となっている。
反対に考えれば、依頼者さえ亡き者にすればミッションは消滅するというものことだった。
『メリュッテンスの方は壊滅させておくわ。
詳細はビィーナから聞いて。
問題は崩壊の兆しの死守。
奇妙なことに休憩所の辺りからカリオストまで、異常な電磁場が生じていて通信が全く通じないわ。
過去、同じ現象が見られたのはオルトのゲシュタルト。
この意味が分かるわね。
急いで崩壊の兆しに向かい、空間を弄ろうと画策している者を仕留めなさい。
後はハーゲン王に直訴して、血塗られた鉾と契約を組むようになさい。
そうすれば血塗られた鉾は手が出せなくなる。
そうね、崩壊の兆しを手見上げにすれば、血塗られた鉾から喜んで契約を結んでくれるわ。
誇りなんてものは、国民の命に代えられないと脅しておきなさい。
そうすれば折れるでしょうから。
…ハッキリさせておくけど、これは貸しよ。
生き延びて、そして借金を返しなさい。
駒としてね』
最後にろくでもない台詞を残して、録音部分を終えたレコーダーから声が消える。
「…駒にしてやるから、生きて還ってこいって。
うちのリーダー様は発言がおっかないな」
「…そうだな。
本気だから性質が悪い」
シルーセルとティアは互いに尊大な態度で命令している凛の姿を思い浮かべ、そしてどちらとも無く笑い出す。
「聴いたかよ、俺達に貸しを作るために、血塗られた鉾を騙すってほざいてんだぜ、あの女!
クッ、ハハハハハハ!」
「これまた壮大な評価されちまったな!
期待に応えないとな!
ハッ、ハハハハハハハ!」
バンバンと互いの肩を叩きあい、そして声の限り笑う。
その様子を呆然と見るビィーナ。
「男って分かんない」
「それは残念だな。
結構愉快なものだよ、こういうのは」
ポツリと漏らしたビィーナにハーゲンが答える。
2人は涙眼になりながら、やっと笑いを収める。
「提案だが、こっちは了承だ。
だが、それにはメリュッテンスをどうにかする必要があるのだろ?
そのリーダー殿は、どういった作戦を立てたのだ」
ハーゲンは最もな質問をしてくる。
「私達を信用するんだ?」
「正確にはシルーセルの友人をだ。
その方が、そちらも納得できるだろ」
「ふ~ん。
ま、言葉より行動の方が絶大だよね。
これ、凛に言われて持ってきた手土産」
ビィーナは袋を2つ差し出す。
ビニール系の袋の下部には、液体が溜まっており、そして拒否反応を起こしそうな異臭がしてくる。
「ま、まさか」
シルーセルはハーゲンに差し出されている袋を奪い、床に置くと、紐を解いていく。
「うっ!」
途中で止め、紐を硬く結んでしまう。
「今作戦に参加した血塗られた鉾の人員の内2人の首。
1人はあたし達のチームに付いてきた審査官。
もう1人は敷地内にいた破壊工作員。
これで残りは、崩壊の兆しに派遣された2名と依頼者の護衛に2名。
計4名のみ」
淡々と事実を告げる。
シルーセルは口元を押さえ、吐き気を堪えていた。
首は審査官だったソイネ バイネスだった。
血の海に佇む首。
何よりも恐怖で歪みきっていた形相は見るに耐え難いものだった。
改めて、ビィーナという女が死神なのだと思い知らされる。
感慨もなく、首を持ち歩いてここまで来たのだろう。
感性が一部破損しているのは知っていたが、目の当たりにするとなんとも言いがたい気持ちで胸に詰る。
(戦場に置いては、この方が生き残れる。
分かってるけど、なんなんだよ、この女は!)
シルーセルには理解し難かった。
「そうか。
ハーミア、亡骸だ。
丁重に葬ってやれ」
ハーゲンは自らがシルーセル前に置かれている袋を手に取り、騎士の1人に渡す。
それを受け取ると敬礼し、この場を去っていく。
他の騎士達もシルーセルと同じく苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そこにハーゲンが拍手を打ち、気持ちを切り替えるように促す。
「さて、本題を話してくれ。
君達のリーダーの立てたシナリオを」
「そうだね、時間も無いし」
ビィーナは凛から預かった地図を床に広げる。
「リンが立てたのは、依頼主及び、メリュッテンスの進軍部隊の殲滅。
その為に地形を利用するの。
ここ、メリュッテンスの北西に位置するレイクマウンテン、トセイ山。
そしてメリュッテンスの水源となるセンチア川。
そして地の泥濘から、最近大雨で増水している、違いますか?」
察したハーゲンがビィーナの後を続ける。
「確かにここ3日程集中豪雨を食らったばかりだ。
…恐ろしい事を考えるな、リンという者は」
「話が通じんぞ。
もっと単語を増やして、説明してくれ。
2人で納得しないで」
ティアはもっと細かい説明を要求する。
「ここから察せれないなんて、リンが訊いたら毒舌で苛めて、カイルはあの渋い面持ちで沈黙を重圧にして呆れた視線を送ってくるよ」
「うっ!」
ヒントが揃っていながら答えがだせなかったら、きっと彼女たちは辛辣な言葉と行動を示してくる。
その想像をして、ティアはしかめっ面をした。
「増水、貯水湖、そして道か。
古典的だが、水攻めだな」
シルーセルが答えを導き出す。
トセイ山の麓から、メリュッテンスまで続く川。
これを伝い、湖山脈の大量の水を国にぶつける。
荒業中の荒業だ。
「正解!
それに乗じて護衛プラス依頼主を亡き者にするんだって」
「だが危険だぞ。
湖の下部に穴を空けて、決壊を起こそうとしてるんだろうが」
「カイルがやるんだから大丈夫…、じゃないかも」
ビィーナはポシェットからペンダントを2つ取り出す。
「お、おい、これ情報管理送還装置じゃないか」
ティアは厭な予感がしてくる。
「これってね、発信機が仕込まれてるんだって。
だから、持ち歩くわけには行かないって」
「…これが無いってことは、アイツ等、門無しに戦いに挑んでるのか」
「問題無いとは言ってたけど」
「なら問題無い、だろ」
ティアにはクソ生意気だが、言葉を曲げない芯の強さを持つ女が無様になる様など、思い付かなかった。
「凛が遣ると言ったんだ、信憑性しかないだろ。
あっちは任せておこう。
俺らは俺らの遣るべきことをなす。
獅子王、崩壊の兆しの位置は?」
「国を出て、南西5キロの地点一帯だ。
中核は判明していない。
我々は一帯と言うぐらいしか理解していない。
騎士の何名かは、君達の話を聞いてから、その一帯の見回りに向かわせた」
「何人」
「3名だ」
「…アンタは残れ。
一様、メリュッテンスの総攻撃に備えておいてくれ。
王が動かぬことこそ、国の安泰が示されるからな」
「…分かった。
カール!」
「ハッ!」
「草原の騎士全軍を引き連れ、崩壊の兆しまでこの者達と向かえ!」
「それでは!」
「草原の騎士だけがこの国の戦力ではあるまい。
この国には誇りある兵達がいる」
「御意。
ティア殿、お先に失礼します」
他の2人も一礼をして、カールに続く。
ハーゲンはポケットから金属片を取り出し、シルーセルに投げ渡す。
「裏庭に、この国1台限りの自動車がある。
乗っていけ」
鍵をキャッチする。
貴重品だから壊すなよと冗談を飛ばしながら、ハーゲンも己の成すべきことにする為に、動き出す。
足音が消え、残された3人。
「…凛が此方に3人を充てたのは、最悪の事態が起こっていると考えたからだ。
恐らく、ゲシュタルトは始動している。
獅子王もそれを思惟したからこそ、草原の騎士全軍を寄越したんだ」
ティアは断言した。
そして微かに震える肩を抱いて、深呼吸をしながら瞼を閉じる。
(判断ミスったな。
凛のように戦況を見通すことができれば、こんなことには成らなかったか。
悔いても仕方ない。
もう1度、あの地獄を体感する羽目になるとはな。
でも、今回は持ってるんだ、力も頭も。
遣れる、そうだろティア)
「行こう」
見開かれたティアの瞳に焔が灯る。
それを見たビィーナは、切なさが込上げてくる。
(…置いて行かれたんだ。
そうだよね、進むヨウソを持ち得てないあたしには、テイタイするしかないんだから。
…憧れるしかないんだから)
ミッション決行まで2時間13分。
完全に歯車が狂ってしまったこのミッション。
先は誰にも見渡せない、漆黒の闇に覆われていた。




